幻魅桃~げんみとう~

秋月みゅんと

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土曜日(1)

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 休みの日だけはいつも早起きだと母親が笑う。
「今日は約束があるんだよっ」
 何かを見抜かれた様でつい強めの声を出してしまう。
「にしては早過ぎない? 時間あるなら玄関の掃除でもしてくれたら助かるんだけど」
 朝ごはんを準備してもらう間、玄関を掃いて、鉢植えに水をやる。
――なんか……寝た気がしねぇ……
 ぼーっと水やりをしながら思う。
 紡と普段は何の話をしていたのかさえ思い出せず、二人でどうやって一日過ごせばいいのか悩んで眠れずにいた。悩みすぎだと自分でつっこんでは、また悩みを繰り返し、結局寝つくまで一人悶々としていた。


 早めに家を出て、ゆっくりと紡の家に向かう。
 いつもの角を越えた辺りで、歩きながら紡の電話を鳴らした。
 家の前に着く頃には外に出て紡が待っていた。直史に気づくと満面の笑みをこぼす。
 他愛もない会話をしながら二人は歩き出した。


 映画館の前には、同じクラスの小野寺亮おのでらりょう津路健人つじけんとが待っていた。
「早いね」
 紡の言葉に、待ち合わせていたのだと気づく。内心ほっとして、健人に目をやる。
「お前らも一緒か……」
「なんだよ、その嫌そうな声」
 口を尖らせる健人。
「館内では静かにしろよ」
 授業中、声の大きさで注意される健人をからかうと、紡と亮も無言で頷いた。
「当たり前だ、それくらいわかるぞっ!」
「ばか、声デカイっ!」
 亮は、慌てて健人の口をふさぐ。
 振り返る通行人に、三人は小さく謝りながら、健人を引きずるように映画館へと入る。
 中は、思った通り空いていた。席の半分程しかうまってなく、周りを気にせず映画に集中して観る事が出来た。


「思っていたより内容も良かったし、迫力があったな」
「紡、サンキュな」
 亮と健人は映画館を出た眩しさで目を細めながら、口を開いた。
「飯いく?」
 直史は、カレーの美味しい店を提案した。
「俺はパス。この後予定がある」
「俺も」
 亮と健人はすぐに断った。
「は? 飯は?」
「適当に食べるさ。じゃあな」
「さらばじゃ~」
 健人の不思議な動きに笑って手を振る紡。
 亮と健人は人ごみに消えていった。
「どっち?」
「……何が?」
 今日一日、四人で行動すると思い込んでいた直史は、呆気にとられ紡の言葉がすぐに理解できずにいた。
「カレーの美味しい店」


「朝は、ごめん」
 注文したカレーがテーブルに並ぶと、ふいに紡が謝る。
「何が?」
 スプーンを手にしたまま直史が聞き返す。
「四人で行くとは言ってなかったから……」
 ちょっと間を置き、紡は言う。
「実はさ……直史を誘ったの、健人に聞かれててさ。『どーしても見たい映画だから、俺と行こう』って……」
「……あ、それ気になってた。チケット当たったの二枚だろ? 二人分はワリカンしてんのか?」
 紡は首を横に振る。
「亮も当たってたんだよ。で、俺誘われてさ……」
「人気者だな。……小野寺も健人もお前と行きたかったわけか?」
 「ちょっと違う」と紡は笑う。
「亮は健人にタダ券あげたくなかっただけ。健人は見たかった映画。……で、四人で行く事になった」
 スプーンを口に運びながら、直史は「なるほど」と頷いた。
「……で、あいつらが素早く帰った理由は?」
「亮は塾で、健人はデートだって」
――小野寺はともかく……健人はウソだな
「じゃあ日を改めて二人で行けば? って言ったら二人とも午前中なら行くって言い出した」
「なんなんだよ、あいつらは……」
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