幻魅桃~げんみとう~

秋月みゅんと

文字の大きさ
6 / 18

土曜日(2)

しおりを挟む
 食事を終え、通りに並ぶウィンドウを眺めたり、ゲームセンターへ足を運ぶ。
 その後、公園へ寄った。
 テニスやバスケのコート、ウォーキングコースがあり、数台の自動販売機や軽食の売店まであるかなり広い公園だ。

 紡はすぐにバスケのコートへ向かう。
 小学生くらいの少年たちが利用していたが、紡は中に入って一緒にバスケを始めた。
――紡よりデカイのが二人もいるよ……
 直史はそれを見ながら、缶ジュースを飲んでいた。
「直史もやろう。俺一人じゃ負ける」
 ボールを持つとゴール下まで鮮やかに駆け抜けるが、シュートが決まらない紡。あまり乗り気じゃないが、直史はのそりと立ち上がり、コートへ入った。
 紡の運んだボールをゴールへ軽く入れていく。


 直史はしばらく動いたら、しんどくなってきてコートを抜ける。紡もそのうち「降参~」といってコートから出てきた。息を切らして直史の側へ座る。
 ハンカチで汗を拭う紡に、直史は先に買っていたジュースを渡した。
「ありがと」
 紡は、それを飲むと、満足げに空を見上げた。
 呼吸が落ち着くと紡は立ち上がり、「少し歩かない?」とウォーキングコースへと足を向けた。


 歩きながら、話題は映画の内容になっていた。
 心地よい風が緑を揺らし、池ではカモが寛いでいる。生い茂る木々の間へと道が続き、ひんやりとした空気が気持ちいい。一番長いウォーキングコースへ進む。利用する人はほとんどなく、自分たちのゆっくりしたペースで歩いていても邪魔にはならない。
 不意に紡の言葉が途切れ、歩く速度も落ちた。
「どうした?」
 振り向くと、ためらいがちに紡が口を開く。
「直史、無理してる?」
 質問の意味が解らない。
「無理? 何を?」
「俺と居るの」
「は? 何で?」
 突拍子もない質問に、直史は笑った。
 紡は少し辺りを見渡し、人が居ない事を確認する。
 ちっとも直史のほうを見ようとはせず、少し赤くなった顔で呼吸を整えた。
「まったく、言うつもりはなかったし……たぶんそうかなって、思ってたくらいだったけど……えっと……一昨日のことなんだけど」
――これは、やはりそういう話か!? やっぱり効果切れてねぇじゃんか……
 直史は指先をきゅっと握る。

「……何でだろ、直史に桃をもらったら、急に……言ってしまった」
 下を向いたまま、ははっと紡が小さく笑う。
――あぁ、そういう状況で告ったことになってるのか……
 実際にはなかった記憶がそこに入っているのかと、自分の記憶と照らし合わせる直史。
「でも、言ったらそうなんだって、気付かされた」
――違うぞっ。それはあの桃の"ほれ薬"効果なんだよっ!!
 否定したかったが、暗示にかかっている以上、本人にとっては本当の恋心なのだろう。
 自分のせいでこうなった紡を傷つけるのは、あまりにも酷だと思い直史は言葉を飲み込んだ。

 何も言えない直史に、少し明るい声で紡が聞く。
「直史はさ、西野さんが好きなんだよね」
「そんな話、した覚えはない」
 まさかの発言に直史は感情のない少し低い声を出す。
「見てたら分かるよ」
 無表情で答えた直史を、紡は笑った。
「その、直史はさ……好きな人いるのに、俺……今まで通り側にいていいのかなって」
「なんだそれ? 俺に意識してお前に接しろと?」
「ち、違っ……違うって、そんなんじゃない」
 紡は赤くなり、慌てて否定した。
「……登下校もクラスも部活まで一緒だしさ、嫌にならないかなって」
「何で?」
「だ、だから、俺……そういう目で直史見てるわけだし……」
 可哀そうなくらい赤くなった紡はわたわたと無意味に手を動かしている。
「別に、いいんじゃね」
 紡の動きがぴたりと止まり、直史を見た。
「お前こそ、無理してんじゃねぇの? いつもとなんら変わんねぇし……俺の側にいるとずっと力入りぱなしで窮屈じゃね?」
「全然、ちっともそんなことない!」
 紡は、首を横に振る。そして、嬉しそうに笑うとまた歩き出した。

 なんだかご機嫌になった紡はうんと意を決して頷く。
「お、俺さ、直史の応援する! 西野さんとのこと」
 何故紡の気持ちが上がったのかわからない、直史はいつもと変わらない声で答える。
「しなくていい。だいたい西野にはさわやかイケメンの佐々本先輩がいるだろうが。相思相愛、どっからどう見てもお似合い。俺には出番ねぇよ」
「そんなのわからないよ! 直史は、バスケのセンスあるし、数学は学年トップでしょ!」
「数学だけ、な。……バスケも別に上手かねぇよ」
「シュート率すごくいいよ。それに身長だってあるし、視力もいいよね」
 直史は可笑しくなって噴出した。
「佐々本先輩のが背ぇ高いし、視力いいってのは、俺の長所か?」
「そうだよ。俺、視力0.8しかないもん。りっぱな長所だよ」
 そう言う紡を見て、意地悪く直史が笑う。
「お前、褒めるの上手いな。もっと褒めてみろよ、いい気分だ」
「な、何その上からな物言い!?」
 直史はお腹をかかえて笑ってしまう。
「何でそんなに笑うんだ! なにも変な事言ってないだろっ!」
「俺も、お前のいいとこ見つけた」
「何?」
 目を輝かせて紡は直史を見る。
「小さい、バスケ上手い、素直、褒め上手」
「ちょっ、"小さい"は短所だろ!」
 ムッとした紡をみて、また笑い出す直史。完全にツボに入ってしまっていた。
「わかったよ。小さいけどバスケが上手いって、訂正する」
「……もういいよ」
 すねた顔が面白くて、直史はつい紡の頬をつねる。
 サルのようにムキーっと怒りだした紡に追われ、ウォーキングコースを駆け抜けることになる。


 上機嫌で家に帰った直史。
 夕飯と風呂も済ませ、部屋に入ると電話を確認する。
 紡から、"明日は部活あるから"と簡潔なメッセージが入っていた。
 "了解。いつもの時間な"と打ち、少し考えて"愛のこもった言葉とかはくれないのか?"なんて付け足してみた。
 すぐに"バーカ"とだけの返信が届く。
 なんとなく、赤い顔の紡の様子が目に浮かび、ニヤリとしてしまう。
「ご機嫌な様子じゃな」
「うおっ!」
 窓際に置かれた机の上に、小さな老人がいつの間にか腰を下ろしていた。
 実に心臓に悪い出没の仕方だ。
「直ー? どうしたの、大きい声だしてぇ」
 リビングから母の声が届く。
「なんでもないっ」
 言って戸を閉め、大きく息を吐く。
「来るなら来るでもう少し考えてくれないか?」
 すまんなと悪気なく老人は笑う。
「桃の効果、楽しんでおるようじゃな」
 満足気な表情で嬉しそうにあご髭をなでつける。
「冗談じゃない。俺はそんな気ねぇって……」
 そう言いつつ、紡の仕草が面白くて思い出すと笑いそうになる。それを、咳払いでごまかす。
――このままじゃ紡が可哀想だしな……
「あいつ、元に戻せないか?」
「桃の効果は一週間……長くても十日じゃ。それを過ぎれば元に戻る」
「は? 一週間もこのままなのか!?」
 言ってから自分の声の大きさに口をおさえ、戸口を見る。母親が戸を開けないかと不安になったのだ。
「きっとあっという間じゃ、少年。なにか困ったら呼ぶがいい」
「あ、待てって……」
 立ち上がった老人を捕まえようと手を伸ばしたが、窓枠を軽く飛び越したかと思うと、その姿はかき消えていた。
――一週間から十日か……今困ってるのに、助ける気ゼロじゃねぇか……
 とにかく効果に期限があるなら、その間紡を見ててやらねばと思った。
――人に言いふらすことはないだろうけど……はずみで"直史が好き"なんて人前で言ってみろ。あいつの人生終わるだろ……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...