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日曜日(1)
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体育館では、部活をする生徒の声が絶え間なく聞こえる。複数の部が使用していて、何かしらの大会が近づくと優勝経験があり部員数も多い活気のある部が優先的に体育館を使える。
弱小に分類されるバスケ部は優先順位が低く、毎日練習があるわけではない。だからこそ直史は、部活を続けられるのだと思う。
この日は準備運動を済ませた後、四チームに分け、コートの半分を使って試合をすることになった。出番待ちで腰を下ろした直史は、他の部員と話すでもなく試合を見ていた。
無意識にコートの中の紡に目がいく。
先輩たちに混ざっても、紡はボール運びが上手いと思う。ドリブルで相手を鮮やかに抜くと素早くシュートする。ただ、その成功率は低い。
同じチームなら、あの位置に移動してパスを貰えばシュートにもっていけたな、とか思うが、誰もそこには居ないのがもどかしい。
試合に気を取られ、横にマネージャーの西野が来ても、声をかけられるまで気が付かなかった。
「井坂君」
名前を呼ばれ、一瞬空耳かと思う。しかし、側に西野がしゃがみこんでいた。
部活のときだけする西野のゆるい三つ編みが、直史は好きだった。
返事もせずに、ただ西野を見てる自分に気づき、目をそらす。心臓が飛び出しそうなくらい、ドキドキしていた。
「コーチがね、いつも言ってるの。試合の時の井坂君ね、すっごくいいポジションにいるんだって。でも、それに気が付くの芹沢君だけなんだって」
少し間が開いたので、思わず直史は西野を見る。すると、やわらかな笑顔で口を開いた。
「声、もう少し出してみたらどうかなって、思うの」
「う、うぃっす……」
平静を装い、直史は二度頷いた。
試合が始まると、直史はいつもより声を出すように心がけた。
確かに、ボールが回ってくる。シュートも二回入って、ちょっと気持ちが上がる。
西野は、嬉しそうに手を叩いていた。
部活後、着替えて部室から出ると紡の姿がない。
先に出たのは確かだ。さっと着替えて、直史の肩を叩いて合図をして扉へ向かった。
てっきりいつも通りすぐ近くで待っているのだと思ったが居ない。どこにいるのか検討もつかず、壁にもたれて少し待つことにした。
しばらくすると、体育館の方から駆けて来る紡の姿が見えたが、わざとそっぽを向いて待つ。
「直史、いい事聞いてきたっ」
弾んだ紡の声を聞いて、今気が付いたように眉を上げ辺りをキョロキョロと見回す。
「ちょっ……聞いてるかな? おーい」
紡が直史の目の前で手を振る。
「あぁ、ここか。小さくて見えなかった」
直史は、目こすり紡を凝視する。
「何だよ、人の身長ばかりからかってさっ」
眉を寄せ、口をへの字にする紡の表情に満足して笑うと、直史は歩き出した。
紡もすぐに横へ並ぶ。
「西野さん、休日はスポーツ観戦とかウォーキングしてるらしい。アクティブだよね」
「何、急に?」
突如として西野の事を語り始める紡に違和感を感じ、今度は直史の眉間に少しシワが寄る。
「バスケだけじゃなくて、格闘技なんかも見るらしいよ」
得意気に話す紡。
「リサーチしてんのか?」
「俺、西野さんと中学一緒でさ、同じ中学出身の女子に話聞いてみた」
「変なヤツ」
直史は、なんだか嫌な気分が沸きあがってくるのを感じていたが、興味なさそうに言う。
「いろいろ知っていたら、誘いやすいっしょ?」
直史とは対照的にすごく嬉しそうに話す紡。
「誘う? 何に?」
「デート」
その言葉に直史は立ち止まる。
「お前、西野に気があるの?」
一瞬、桃の効果が切れたのかと思い、紡を見た。
「何言ってるんだよ、直史だろ。さっき、練習試合の合間に楽しそうに話してたじゃん。シュートが決まったときも西野さんに目で合図してたしさ。ついに、直史も行動に出たかーっ! て」
――楽しそうに、見えた?
直史は、話している間、始終緊張していたし、心臓もばくばくしていた。自分なりに平静を装ったつもりだったし、誰も何も言わなかった。どうやら紡には、積極的に西野にアピールしていたと映った様だ。
「試合で声出せってコーチの言葉を伝えに来たんだよ、西野が」
「はいはい」
紡の返事は全然信じている感じがない。
「夏川君は映画、沢村君は遊園地に誘ったけど断られたらしい」
「当たり前だろ、佐々本先輩がいるんだから。つか、勇気あるなあいつら……」
「直史はどこ誘う?」
「いらん世話だ」
なんだか、今は紡と話しても面白くない。昨日とは大違いだ。無意識に直史の足は速くなる。
角を曲がると校舎脇の水のみ場に西野と佐々本先輩を見つけ、直史は足を止めた。
紡は、急に立ち止まった直史の視線の先を追う。もう一度直史の顔を見ると、だいぶ距離のある二人に向かって、いきなり大きな声を出した。
「佐々本先輩ーっ! 西野さーん! お疲れ様で~すっ!!」
声の大きさに直史はぎょっとする。
振り向いた二人に、紡はおもいっきり手を振る。二人も笑顔で手を振り返している。
二人の方を向いたまま笑みを浮かべ、肘で直史をつついて小声でささやいた。
「ほら、直史も笑顔、笑顔」
いわれるまま小さく頭を下げると、直史はすぐに歩き出した。
もう一度振り返ると、幸せそうな笑顔で佐々本と話す西野が見えた。
「こういうとこからアピールしていこう。笑顔で好感度アップ作戦っ!」
紡は、いい作戦だと言わんばかりの表情をしている。
「心臓に悪い事すんな。マジでビビッた、アホかお前」
小突きあいながら歩く。紡は笑っていた。
――だけど、気づいた……かも
直史は自分の気持ちが、西野に向いていないんだと思った。
弱小に分類されるバスケ部は優先順位が低く、毎日練習があるわけではない。だからこそ直史は、部活を続けられるのだと思う。
この日は準備運動を済ませた後、四チームに分け、コートの半分を使って試合をすることになった。出番待ちで腰を下ろした直史は、他の部員と話すでもなく試合を見ていた。
無意識にコートの中の紡に目がいく。
先輩たちに混ざっても、紡はボール運びが上手いと思う。ドリブルで相手を鮮やかに抜くと素早くシュートする。ただ、その成功率は低い。
同じチームなら、あの位置に移動してパスを貰えばシュートにもっていけたな、とか思うが、誰もそこには居ないのがもどかしい。
試合に気を取られ、横にマネージャーの西野が来ても、声をかけられるまで気が付かなかった。
「井坂君」
名前を呼ばれ、一瞬空耳かと思う。しかし、側に西野がしゃがみこんでいた。
部活のときだけする西野のゆるい三つ編みが、直史は好きだった。
返事もせずに、ただ西野を見てる自分に気づき、目をそらす。心臓が飛び出しそうなくらい、ドキドキしていた。
「コーチがね、いつも言ってるの。試合の時の井坂君ね、すっごくいいポジションにいるんだって。でも、それに気が付くの芹沢君だけなんだって」
少し間が開いたので、思わず直史は西野を見る。すると、やわらかな笑顔で口を開いた。
「声、もう少し出してみたらどうかなって、思うの」
「う、うぃっす……」
平静を装い、直史は二度頷いた。
試合が始まると、直史はいつもより声を出すように心がけた。
確かに、ボールが回ってくる。シュートも二回入って、ちょっと気持ちが上がる。
西野は、嬉しそうに手を叩いていた。
部活後、着替えて部室から出ると紡の姿がない。
先に出たのは確かだ。さっと着替えて、直史の肩を叩いて合図をして扉へ向かった。
てっきりいつも通りすぐ近くで待っているのだと思ったが居ない。どこにいるのか検討もつかず、壁にもたれて少し待つことにした。
しばらくすると、体育館の方から駆けて来る紡の姿が見えたが、わざとそっぽを向いて待つ。
「直史、いい事聞いてきたっ」
弾んだ紡の声を聞いて、今気が付いたように眉を上げ辺りをキョロキョロと見回す。
「ちょっ……聞いてるかな? おーい」
紡が直史の目の前で手を振る。
「あぁ、ここか。小さくて見えなかった」
直史は、目こすり紡を凝視する。
「何だよ、人の身長ばかりからかってさっ」
眉を寄せ、口をへの字にする紡の表情に満足して笑うと、直史は歩き出した。
紡もすぐに横へ並ぶ。
「西野さん、休日はスポーツ観戦とかウォーキングしてるらしい。アクティブだよね」
「何、急に?」
突如として西野の事を語り始める紡に違和感を感じ、今度は直史の眉間に少しシワが寄る。
「バスケだけじゃなくて、格闘技なんかも見るらしいよ」
得意気に話す紡。
「リサーチしてんのか?」
「俺、西野さんと中学一緒でさ、同じ中学出身の女子に話聞いてみた」
「変なヤツ」
直史は、なんだか嫌な気分が沸きあがってくるのを感じていたが、興味なさそうに言う。
「いろいろ知っていたら、誘いやすいっしょ?」
直史とは対照的にすごく嬉しそうに話す紡。
「誘う? 何に?」
「デート」
その言葉に直史は立ち止まる。
「お前、西野に気があるの?」
一瞬、桃の効果が切れたのかと思い、紡を見た。
「何言ってるんだよ、直史だろ。さっき、練習試合の合間に楽しそうに話してたじゃん。シュートが決まったときも西野さんに目で合図してたしさ。ついに、直史も行動に出たかーっ! て」
――楽しそうに、見えた?
直史は、話している間、始終緊張していたし、心臓もばくばくしていた。自分なりに平静を装ったつもりだったし、誰も何も言わなかった。どうやら紡には、積極的に西野にアピールしていたと映った様だ。
「試合で声出せってコーチの言葉を伝えに来たんだよ、西野が」
「はいはい」
紡の返事は全然信じている感じがない。
「夏川君は映画、沢村君は遊園地に誘ったけど断られたらしい」
「当たり前だろ、佐々本先輩がいるんだから。つか、勇気あるなあいつら……」
「直史はどこ誘う?」
「いらん世話だ」
なんだか、今は紡と話しても面白くない。昨日とは大違いだ。無意識に直史の足は速くなる。
角を曲がると校舎脇の水のみ場に西野と佐々本先輩を見つけ、直史は足を止めた。
紡は、急に立ち止まった直史の視線の先を追う。もう一度直史の顔を見ると、だいぶ距離のある二人に向かって、いきなり大きな声を出した。
「佐々本先輩ーっ! 西野さーん! お疲れ様で~すっ!!」
声の大きさに直史はぎょっとする。
振り向いた二人に、紡はおもいっきり手を振る。二人も笑顔で手を振り返している。
二人の方を向いたまま笑みを浮かべ、肘で直史をつついて小声でささやいた。
「ほら、直史も笑顔、笑顔」
いわれるまま小さく頭を下げると、直史はすぐに歩き出した。
もう一度振り返ると、幸せそうな笑顔で佐々本と話す西野が見えた。
「こういうとこからアピールしていこう。笑顔で好感度アップ作戦っ!」
紡は、いい作戦だと言わんばかりの表情をしている。
「心臓に悪い事すんな。マジでビビッた、アホかお前」
小突きあいながら歩く。紡は笑っていた。
――だけど、気づいた……かも
直史は自分の気持ちが、西野に向いていないんだと思った。
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