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日曜日(2)
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帰宅途中、時々寄るコンビニでホットドッグを買った後、直史は時計を見た。
「ちょっと、時間ある?」
「何、どっか行くの?」
紡は、明るい声を出した。
「……少し、ウチ来て話さね? 帰りは自転車で送るからさ」
紡が頷いたので、二人で直史の家に向かった。
玄関に入ると、紡は中に向かって元気に「お邪魔しまーすっ!」と声をかけた。
「あら紡くん、久しぶりね」
台所から手を拭きながら直史の母が顔を出す。
「母さん、紡と話あるから、飯後で」
「二人分、用意出来るわよ?」
「お構いなく。すぐ、帰りますから」
ぺこりと紡が頭を下げた。
部屋に入ってカバンを置き、直史は制服のネクタイを緩める。
紡がガラス張りのテーブルの側に腰を下ろすとすぐに、戸をノックして、直史の母親が紅茶を運んできた。
「ありがとうございます」
姿勢を正して紡がお礼を言う。
「ありがとう母さん」
直史は直ぐにそれを受け取り、やんわりと母が部屋に入るのを阻止し、鍵をかけた。
そして、外に声が漏れにくいよう、音楽をかける。
紡の向かいに腰をおろして、すぐ本題に入った。
「西野の事は、もういいから気にすんな」
「何で?」
甘い紅茶の入ったグラスを口に持っていきかけた紡は、きょとんとした表情で首をかしげる。
「何でも……。お前が気にする事じゃあないだろ」
直史もグラスを口に運ぶ。
「だって……気になるよ。いつも見てるだけの直史が、せっかく西野さんと話せたんだしさ」
直史は、ため息をもらす。
「頼むから、放っておいてくれ。俺は現状で満足してるから」
直史の言葉に紡は不満気に口を開く。
「そんなのウソだぁ。ちょっと話しただけだよ? あとは見てるだけ? 満足なんて……それじゃ何もはじまらない」
「いいんだよ」
「意外とお笑い芸人にも詳しくて、テレビも結構見るみたいだよ。バスケの話も真剣に聞いてくれるから、もう少し話しかけてみなよ」
「変なヤツだな。何でお前が気にすんの?」
直史はまた少し、嫌な気分が浮上してきたが、紡の頬は少し赤くなる。
「俺は……そうなりたいって思うから。好きな人と沢山話して、いろんな事知って、発見して……それが嬉しいから」
――へー……そんな事思うのか
「それで?」
「それで、いっぱい理解して、もっと好きが増える。側に居て、手とかつないだりしてさ……」
空想の中に居るのか、紡は天井を見つめている。
――その相手って……俺?
直史は、男二人で手をつなぎ歩く姿を想像しかけ、かき消した。そして、ふと思いつく。
「紡、ここに手置いてみろ」
二人の間にあるテーブルを直史が指差す。
「手のひら上な」というと素直に手を返す。直史は、その手を握った。
「うれしい?」
紡は驚き、顔を更に赤くしてうんうんと頷く。そして、幸せそうな笑顔を直史に向けた。
直史はじっと紡を見て口を開いた。
「同じ顔してた」
「えっ?」
「佐々本先輩と居る時の西野」
「……」
「俺さ、お前が西野の話するの嫌でさ」
「ご、ごめ……」
紡は謝り、手を引き戻そうとした。直史は握った手を放さず、言葉を続ける。
「さっきの西野見て思った。俺にとって西野は、アイドルと一緒」
「い、意味がわからない」
「……俺が手に入れたいんじゃあない。まぁ……確かに、佐々本先輩と付き合ってるって知ってヘコんだけど……。見てると幸せ、それでいいって思えるんだ。それだけの感情。アイドルに憧れるのと変わんない感じなんだよ。だから、俺の中の西野像を壊して欲しくないわけ、以上」
そう言って紡の手を放してやる。
「……ウソだぁ」
疑いの眼差しで、直史を見ている。
「ホント。そして、俺はまだわかんねぇ……。恋するお前や、西野の気持ち」
紡の体から力が抜けてゆく。
「そう……そうなんだ」
沈黙が続き、直史は紅茶を飲んでホットドックの包み紙を開く。
「ごめんな。なんか、俺のためにしてもらったのに……ひどい言い方してるよな」
「気にすることじゃないよ。俺が勝手にした事だからさ」
紡もホットドックの包みを開きかぶりついた。その表情は、明るかった。
「ちょっと、時間ある?」
「何、どっか行くの?」
紡は、明るい声を出した。
「……少し、ウチ来て話さね? 帰りは自転車で送るからさ」
紡が頷いたので、二人で直史の家に向かった。
玄関に入ると、紡は中に向かって元気に「お邪魔しまーすっ!」と声をかけた。
「あら紡くん、久しぶりね」
台所から手を拭きながら直史の母が顔を出す。
「母さん、紡と話あるから、飯後で」
「二人分、用意出来るわよ?」
「お構いなく。すぐ、帰りますから」
ぺこりと紡が頭を下げた。
部屋に入ってカバンを置き、直史は制服のネクタイを緩める。
紡がガラス張りのテーブルの側に腰を下ろすとすぐに、戸をノックして、直史の母親が紅茶を運んできた。
「ありがとうございます」
姿勢を正して紡がお礼を言う。
「ありがとう母さん」
直史は直ぐにそれを受け取り、やんわりと母が部屋に入るのを阻止し、鍵をかけた。
そして、外に声が漏れにくいよう、音楽をかける。
紡の向かいに腰をおろして、すぐ本題に入った。
「西野の事は、もういいから気にすんな」
「何で?」
甘い紅茶の入ったグラスを口に持っていきかけた紡は、きょとんとした表情で首をかしげる。
「何でも……。お前が気にする事じゃあないだろ」
直史もグラスを口に運ぶ。
「だって……気になるよ。いつも見てるだけの直史が、せっかく西野さんと話せたんだしさ」
直史は、ため息をもらす。
「頼むから、放っておいてくれ。俺は現状で満足してるから」
直史の言葉に紡は不満気に口を開く。
「そんなのウソだぁ。ちょっと話しただけだよ? あとは見てるだけ? 満足なんて……それじゃ何もはじまらない」
「いいんだよ」
「意外とお笑い芸人にも詳しくて、テレビも結構見るみたいだよ。バスケの話も真剣に聞いてくれるから、もう少し話しかけてみなよ」
「変なヤツだな。何でお前が気にすんの?」
直史はまた少し、嫌な気分が浮上してきたが、紡の頬は少し赤くなる。
「俺は……そうなりたいって思うから。好きな人と沢山話して、いろんな事知って、発見して……それが嬉しいから」
――へー……そんな事思うのか
「それで?」
「それで、いっぱい理解して、もっと好きが増える。側に居て、手とかつないだりしてさ……」
空想の中に居るのか、紡は天井を見つめている。
――その相手って……俺?
直史は、男二人で手をつなぎ歩く姿を想像しかけ、かき消した。そして、ふと思いつく。
「紡、ここに手置いてみろ」
二人の間にあるテーブルを直史が指差す。
「手のひら上な」というと素直に手を返す。直史は、その手を握った。
「うれしい?」
紡は驚き、顔を更に赤くしてうんうんと頷く。そして、幸せそうな笑顔を直史に向けた。
直史はじっと紡を見て口を開いた。
「同じ顔してた」
「えっ?」
「佐々本先輩と居る時の西野」
「……」
「俺さ、お前が西野の話するの嫌でさ」
「ご、ごめ……」
紡は謝り、手を引き戻そうとした。直史は握った手を放さず、言葉を続ける。
「さっきの西野見て思った。俺にとって西野は、アイドルと一緒」
「い、意味がわからない」
「……俺が手に入れたいんじゃあない。まぁ……確かに、佐々本先輩と付き合ってるって知ってヘコんだけど……。見てると幸せ、それでいいって思えるんだ。それだけの感情。アイドルに憧れるのと変わんない感じなんだよ。だから、俺の中の西野像を壊して欲しくないわけ、以上」
そう言って紡の手を放してやる。
「……ウソだぁ」
疑いの眼差しで、直史を見ている。
「ホント。そして、俺はまだわかんねぇ……。恋するお前や、西野の気持ち」
紡の体から力が抜けてゆく。
「そう……そうなんだ」
沈黙が続き、直史は紅茶を飲んでホットドックの包み紙を開く。
「ごめんな。なんか、俺のためにしてもらったのに……ひどい言い方してるよな」
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