幻魅桃~げんみとう~

秋月みゅんと

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月曜日

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 昼休み、弁当を食べ終えた亮が席を立つ。教室で直史と紡、それに亮と健人の四人で食事をするいつもの光景。
 亮と健人は食事を終えるとたいてい一度、席を立つ。亮は図書室へ行ったり、健人は別の友達に声を掛けたりとそれぞれ過ごす。
 直史も食事を終えていたが、いつも最後の紡を待つ。教室内や廊下で思い思いに時間を過ごすみんなのざわめきが心地よく、ぼんやりと紡を見ていたら、ふと思ったことを口にしてしまった。
「なんで、好きな人の好きな人を調べるんだろうな? それって、得なことあるのか?」
「何、急に」
 口に入っていたものを飲み込み、紡はお茶を飲む。
「不可解な恋愛心理の謎を、追ってみたくなった」
 直史に好きな人はいない。だが、紡の取った行動に納得できなくて、どこかで気になっていた様で、口に出して聞いてから直史もそれに気付く。
「……何だよ、もう」
 ため息をついて弁当箱をしまうと、もう一度お茶を飲み、咳をひとつして紡は答えた。
「人それぞれだと思うよ。……好きな人に幸せになって欲しいから、じゃない?」
 直史は視線を斜め上に向け、少し考える。
「じゃあ、本人の幸せはどこへ行くんだ?」
「う~ん……好きな人が幸せなら本人も、幸せ……?」
 直史は、眉を寄せる。
「それって絶対本心じゃねぇよ、なぁ」
 戻ってきた亮に直史は話をふる。
「自己犠牲、無償の愛、というと少し大袈裟か。まぁ……それで幸せを感じる人もいる」
「俺には、ムリ」
 直史は首をふってため息をついた。
「俺も、だな」
 亮も頷き、本を開く。
「好きならそいつだけ見てればいいだろ? そこまで頭にゆとりあるのか?」
「む、難しいね……」
 紡は、真剣に考え込んだ。
「難しい顔してるなぁ……お前ら来週のテストやばそうなの?」
 健人の言葉に、自分達の大きな壁を思い出し、更にため息をつく。
「健人、お前がこの仲で一番成績は低いはずだが」
 亮の言葉に健人は「そうだっけ?」と笑う。


 ホームルームが終わると、紡の姿が見えない。いつもなら直史が、だらだらとカバンを持ち上げるまで待ってくれる。
「紡、知らね?」
 亮に聞く。
「女生徒に呼ばれて出て行った。荷物は置いてあるから、ここに居れば戻るだろ」
 ちらりと紡の席を見て答えると、「じゃあ明日」と帰っていった。
 静かな教室に一人。直史は五分もじっとはせずに動き出す。廊下を見回し、階段、渡り廊下、向かいの校舎の窓へと紡の姿を探す。
 そして、教室側のトイレへと足を踏み入れた。
――女子に呼ばれて男子トイレはないな……誰だ? バスケ部か?
 トイレから出ると、階段を上がってきた紡がすぐに声をかけた。
「直史、ごめん。待たせたね」
「何、今日は部活休みとか?」
 いつもなら直史をせかして部室へ向かうのに、紡は急ぐ様子もない。

「違うよ、行こう」
 言って直史を追い越し、教室へ入った。
 しかし、カバンを持ってから紡は立ち止まる。
 振り向いた顔は、なんだか浮かない顔だった。
「直史は……何で、俺と居てくれるのかな?」
「何だよ、急に……」
 幻魅桃の事を知られたのかと、一瞬ひやりとする。
「人をふってしまうのは、心苦しいなって……」
 直史はにやりと笑い、紡に軽く体当たりした。
「何? 告白されたってか?」
「……うん」
 素直に返事するので、冗談を言う気が失せた。
「何暗い顔してんだよ。俺様モテるーっ! とか健人並のテンションにならね?」
「だってさ、俺は直史のコト……」
「ばっ……」
 言いかけた紡の口を手でふさぐ。教室には誰もいないが、もし聞かれていたらと思うと焦った。
 すぐに廊下を見回し、人がいないことにほっとした。
 紡は直史の行動の意味を理解し、言葉を選ぶ。
「ごめん。……その……俺の好きな人はさ、気持ち伝えても何も言わずに側に居てくれるわけ。気まずいし、そんな風に見てたのかって……距離置いたりしないわけ。ふってしまうのが辛いから、平気なふりしてるのかな? ほんとは……側に居るのも嫌なんじゃないかって……」
 直史はふっと息を吐いた。
「難しく考えすぎじゃね? ……その人はきっと、紡の気持ちを知っても、今まで通りでいたいだけじゃねぇの? ……嫌ならお前の事待ったり、休日一緒に出かけないと思う。俺はな」
「そっか……」
「そうだよ」
 紡が安心した顔で歩き出す。
「告白してきたのって、同級生?」
「う~ん、どうだろ?」

 部活に遅れ、佐々本に注意される。
「すみません」
 二人は同時に頭を下げた。そして、用意していた言い訳を紡が口にする。
「教室の花瓶落として片付けてました」
「そういう時はどちらか一人、連絡においで。心配するから」
 佐々本は二人の頭をぽんと軽く叩き、笑いかけた。
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