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火曜日(1)
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朝会で、同学年の女生徒が表彰された。
舞台に上がる彼女を見て、紡が驚いたように直史を振り返る。
その時は理解できなかったが、後で聞いて驚いた。
「へぇ~、彼女だったのか……もったいないことしたな」
「もったいないとか、言わないでくれるかな……俺、まったく知らない子だったわけだし……」
体育館から教室に戻る廊下で紡が、昨日告白してきた子だったと言ったのだ。
「それでも、"友達から"とか言って仲良くなればよかったかもよ」
桃の効果が切れれば、紡だって普通の恋愛をするだろう。もしかしたらせっかくのチャンスを逃してしまったのかもしれない。
「いや……それムリだよ。気になってしょうがないかも、彼女の気持ちが」
――変なとこで真面目だな……
直史は、苦笑した。
「誰の気持ち?」
後ろから追いついた健人が声をかけるが、二人は気づかないふりで教室へ入った。
「俺、無視された?」
健人は首を傾げる。
「デリケートな話題に勝手に入ろうとするからだろ」
亮は言ってその横を通り抜ける。
テスト前で今日から一週間、部活は休みで、SHRが終わるとすぐ家に帰れる。
「ウチ来ない?」
いつもの角に着くと紡がそう言った。
「何、数学教えろって?」
「うん」
紡の返事に少し困った顔で、直史はおでこを掻いた。
「俺、人に教えるの苦手なんだよ……小野寺に頼んでなかったか?」
「四人で勉強しようって言ったら、一人のほうがはかどるからいいって」
直史はすぐに原因に気付く。
「健人も誘うからだろ……あいつ等って仲いいのか悪いのか、わかんねぇな」
一度家に帰り、制服を着替えて自転車で紡の家に向かう。
――そういやアイツんち、入ったことないな……
いつも分かれるあの角から左に曲がれば直史の家はすぐ。
紡の家は右の道を進んで、しばらく行って大通りを渡り、右手に進んで更に左折する。
なにかしら用がある時は、あの角の近くにある公園か、直史の家で済ませていた。
分厚い木製の立派な門構えとその横に立つ大きな樹木が印象的だが、その中を見たことはない。
――アイツ……おぼっちゃまとかじゃねぇよな……
妙に緊張してくる。
緊張しながらチャイムを鳴らすと、すぐに紡が出てきた。すごく嬉しそうな表情をしていた。
緊張していたのが馬鹿らしくなり、思わず噴出してしまう。
「何?」
「いや、別に」
紡が指定した場所に自転車を置いて、横引きの玄関扉をくぐる。
家の中はなんとなく古風な雰囲気がある。静かな室内に振り子時計の音が響き、廊下の柱に付いた照明がオレンジに辺りを染めている。
「お前んちって広いのな」
廊下を進み角を曲がると、広い庭が見えた。
「おじいちゃんが一目ぼれして買った家なんだって。……でも、雰囲気がこんなんだからさ、夜中にトイレ行くの怖いんだよね」
「マジ?」
「うん……」
さらに先へ進み、突き当たりに扉があり、そこが紡の部屋だった。
渋い色のちゃぶ台にふんわりと厚みのある和模様の座布団。漆の菓子入れには一口サイズの饅頭が入っていた。
「お前んち普段、着物とか着てるの?」
直史は部屋の中を見回した。
「着ないよ」
「夏はブタの蚊取り線香入れと、風鈴が良く似合いそうだな」
紡は座布団に腰を下ろし、教科書とノートを開くと感情のない笑い声を立てる。
「ははっ、それあるから……夏は見に来るといいよ」
「顔が無表情なのは何だ? 俺がバカにしてるとでも?」
直史も向かいに腰を下ろす。
「してるよね」
「いや、羨ましく思っただけ」
素直な感想に、紡の表情がぱっと明るくなる。
「え、ホント?」
直史は頷いて笑う。
「マジで呼べよ。浴衣で遊びに来てやる」
舞台に上がる彼女を見て、紡が驚いたように直史を振り返る。
その時は理解できなかったが、後で聞いて驚いた。
「へぇ~、彼女だったのか……もったいないことしたな」
「もったいないとか、言わないでくれるかな……俺、まったく知らない子だったわけだし……」
体育館から教室に戻る廊下で紡が、昨日告白してきた子だったと言ったのだ。
「それでも、"友達から"とか言って仲良くなればよかったかもよ」
桃の効果が切れれば、紡だって普通の恋愛をするだろう。もしかしたらせっかくのチャンスを逃してしまったのかもしれない。
「いや……それムリだよ。気になってしょうがないかも、彼女の気持ちが」
――変なとこで真面目だな……
直史は、苦笑した。
「誰の気持ち?」
後ろから追いついた健人が声をかけるが、二人は気づかないふりで教室へ入った。
「俺、無視された?」
健人は首を傾げる。
「デリケートな話題に勝手に入ろうとするからだろ」
亮は言ってその横を通り抜ける。
テスト前で今日から一週間、部活は休みで、SHRが終わるとすぐ家に帰れる。
「ウチ来ない?」
いつもの角に着くと紡がそう言った。
「何、数学教えろって?」
「うん」
紡の返事に少し困った顔で、直史はおでこを掻いた。
「俺、人に教えるの苦手なんだよ……小野寺に頼んでなかったか?」
「四人で勉強しようって言ったら、一人のほうがはかどるからいいって」
直史はすぐに原因に気付く。
「健人も誘うからだろ……あいつ等って仲いいのか悪いのか、わかんねぇな」
一度家に帰り、制服を着替えて自転車で紡の家に向かう。
――そういやアイツんち、入ったことないな……
いつも分かれるあの角から左に曲がれば直史の家はすぐ。
紡の家は右の道を進んで、しばらく行って大通りを渡り、右手に進んで更に左折する。
なにかしら用がある時は、あの角の近くにある公園か、直史の家で済ませていた。
分厚い木製の立派な門構えとその横に立つ大きな樹木が印象的だが、その中を見たことはない。
――アイツ……おぼっちゃまとかじゃねぇよな……
妙に緊張してくる。
緊張しながらチャイムを鳴らすと、すぐに紡が出てきた。すごく嬉しそうな表情をしていた。
緊張していたのが馬鹿らしくなり、思わず噴出してしまう。
「何?」
「いや、別に」
紡が指定した場所に自転車を置いて、横引きの玄関扉をくぐる。
家の中はなんとなく古風な雰囲気がある。静かな室内に振り子時計の音が響き、廊下の柱に付いた照明がオレンジに辺りを染めている。
「お前んちって広いのな」
廊下を進み角を曲がると、広い庭が見えた。
「おじいちゃんが一目ぼれして買った家なんだって。……でも、雰囲気がこんなんだからさ、夜中にトイレ行くの怖いんだよね」
「マジ?」
「うん……」
さらに先へ進み、突き当たりに扉があり、そこが紡の部屋だった。
渋い色のちゃぶ台にふんわりと厚みのある和模様の座布団。漆の菓子入れには一口サイズの饅頭が入っていた。
「お前んち普段、着物とか着てるの?」
直史は部屋の中を見回した。
「着ないよ」
「夏はブタの蚊取り線香入れと、風鈴が良く似合いそうだな」
紡は座布団に腰を下ろし、教科書とノートを開くと感情のない笑い声を立てる。
「ははっ、それあるから……夏は見に来るといいよ」
「顔が無表情なのは何だ? 俺がバカにしてるとでも?」
直史も向かいに腰を下ろす。
「してるよね」
「いや、羨ましく思っただけ」
素直な感想に、紡の表情がぱっと明るくなる。
「え、ホント?」
直史は頷いて笑う。
「マジで呼べよ。浴衣で遊びに来てやる」
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