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それからの・夏の庭
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夏休みに入った。
紡とは部活でも会うし、課題をするために一緒に図書館へも行く。もちろんなんでもなくても会う。
辺りが薄暗くなる時間に二人きりだと、手をつないだりもする。なんか不思議だけど、そんな時間がすごく心地良いと思う直史。
夏恒例の祭りやイベントなどは、亮と健人と四人で出かけたりもする。
時々亮は、直史にべったりの紡に不安を覚えるようで、「嫌なら言うべきだ」と直史に目で合図する。
だが大抵は健人が、自分の興味あるものを紡にも見てほしいらしく、引っぱていく。
「井坂……」
亮は、直史と視線を合わすことなく、言葉を発する。
「平気。というか、もう慣れた」
――こんな返事して、付き合っている事がばれたら……俺、どうなるんだろう……
花火大会の日、日が暮れかけてから直史は紡の家に向かった。
紡は会場にいつもの四人で行くつもりだった。だが、健人は家族旅行で、亮は塾のテストを控えているというので断られたと言う。
「うちでも見れるけど……会場とどっちがいい?」
紡は、二人ならどっちでもいいんだけどと照れたように聞いた。
直史はふいに、ブタの線香入れと風鈴の事を思い出した。
「お前んちがいい」
約束した浴衣を着た直史は、紡の家の前に立つ。
門の前でひと呼吸して、チャイムに手を伸ばす。不意に門が開き、浴衣姿の女性がぞろぞろと出てきた。
「こ、こんばんは」
「こんばんは。紡のお友達かしら?」
そう言った小さな婦人は、紡の母親だった。家の中の紡に声を掛けた後、今から花火を見に行くのだと張り切って出かけて言った。
「直史、似合うね」
母親と入れ違いで玄関から現れた紡は、紺の甚平を着て嬉しそうに笑みを浮かべる。
「お前も良く似合ってるよ」
「父さんのお下がりなんだ」
「そういうの、良いな」
紡は照れながら「ありがとう」と嬉しそうだった。
「直史、履き物持って。庭に出た方が良く見えるんだ」
言われるまま、草履を持って廊下を進む。
「お前の母さん、ご近所さんと花火見に行くって? ここから見えるんだろ?」
「お友達と花火が見えるビアガーデン予約したんだって。仕事終わりの父さんも合流するからってうきうきしてたよ」
「へぇ……」
話しながら歩く廊下は、オレンジのほの暗い明かりだけで、何かが出そうな雰囲気。
――確かに、夜中一人でトイレ行くの嫌な感じだな、ここ
「はい、これ」
和紙の貼られた団扇を渡される。そして紡は、ブタの蚊取り線香入れを指した。
「ほら、ブタさん」
「おぉ。思ったよりデカイ。いいなこれ」
使い込んだ感じがまた味を出している。
紡はそれを庭へと続く濡れ縁に置いて、外へと出た。直史も後に続く。
「むこうの方が良く見えるんだ」
紡は庭の隅にある、木製のベンチに向かう。
直史ははじめ、目の錯覚かと思た。音もなく、あちこちで小さな光が漂っている。
「ちょっと待て、コレ蛍じゃね!?」
「そうだよ、毎年出るよ」
紡は、庭のさらに奥を指差した。真っ暗なその先で、あちらこちらで点滅する光が見える。
「おぉ、スゲー!」
幻想的な光の点滅に囲まれ、直史は軽い感動さえしていた。思わず立ち止まり自分の周りを漂う光を目で追っていた。
突如、ヒューと音がして、辺りが一瞬にして明るくなる。
「上がった!」
ドーンと胸にまで響く大きな音。
紡は、小走りでベンチまで移動すると、直史を手招く。直史には蛍の方が珍しかったが、紡は花火の方が良いらしい。
ベンチの前に立ったまま、次々と上がる花火を見ていた。紡は「たっまや~っ!」などと言っている。直史は空を見上げたまま笑う。
しばらくすると、紡が直史の手を握ったので振り返る。紡は一瞬ためらい、笑顔を向けてきたので、つないだ手を握り返した。
なんだか、うきうきとした気持ちが照れくさい。直史は、つないだ手を子供のように揺らす。紡は、声を出して笑った。
そっと紡を見ると、花火を見上げる横顔がすごく嬉しそうだった。
直史はつないだ手を離し、紡の頭を引き寄せた。
「わっ!」
よろめく紡の体を受け止め、抱きしめた。それから、額にキスをする。
「何固まってるんだよ」
「だ、だ、だって直……」
こういう焦った紡が愛しくてたまらない。花火が見えるように後ろから抱きしめる。
花火が終わると、辺りはすごく暗く感じた。
「目が、ちかちかするね」
「あぁ」
目が慣れると、蛍の光に気づく。
大きな花火の音でジンジンしていた耳に、小さな虫の鳴き声も戻ってきた。
直史がそっと、腕を緩めると、紡は照れたように振り替える。
「紡」
名前を呼んで両手を握ると、少し首を傾けて笑う。
「俺のこと、嫌い?」
「え……なんで? ……好き、だよ」
小さく答える紡。その答えを聞いて、直史は腰をかがめて紡を見る。
「もっと言って」
「す、好きだよ」
「もっと」
「直史が、好き」
紡は照れて視線をそらしていく。そんな紡を見て直史は満足する。
「俺も紡が好きだよ」
そう言って、紡の頬を両手でそっと挟み込んだ。
「好きだ」
「う……うん」
紡は、どうしようもないくらい照れて、視線をおとす。
直史は、まぶた、頬とキスをしていく。紡は、小さな声を漏らして、直史の袖を握った。
直史が紡の視線に入り込むと、今度は紡も見つめ返した。少しためらい、二人はお互いに顔を寄せた。
紡とは部活でも会うし、課題をするために一緒に図書館へも行く。もちろんなんでもなくても会う。
辺りが薄暗くなる時間に二人きりだと、手をつないだりもする。なんか不思議だけど、そんな時間がすごく心地良いと思う直史。
夏恒例の祭りやイベントなどは、亮と健人と四人で出かけたりもする。
時々亮は、直史にべったりの紡に不安を覚えるようで、「嫌なら言うべきだ」と直史に目で合図する。
だが大抵は健人が、自分の興味あるものを紡にも見てほしいらしく、引っぱていく。
「井坂……」
亮は、直史と視線を合わすことなく、言葉を発する。
「平気。というか、もう慣れた」
――こんな返事して、付き合っている事がばれたら……俺、どうなるんだろう……
花火大会の日、日が暮れかけてから直史は紡の家に向かった。
紡は会場にいつもの四人で行くつもりだった。だが、健人は家族旅行で、亮は塾のテストを控えているというので断られたと言う。
「うちでも見れるけど……会場とどっちがいい?」
紡は、二人ならどっちでもいいんだけどと照れたように聞いた。
直史はふいに、ブタの線香入れと風鈴の事を思い出した。
「お前んちがいい」
約束した浴衣を着た直史は、紡の家の前に立つ。
門の前でひと呼吸して、チャイムに手を伸ばす。不意に門が開き、浴衣姿の女性がぞろぞろと出てきた。
「こ、こんばんは」
「こんばんは。紡のお友達かしら?」
そう言った小さな婦人は、紡の母親だった。家の中の紡に声を掛けた後、今から花火を見に行くのだと張り切って出かけて言った。
「直史、似合うね」
母親と入れ違いで玄関から現れた紡は、紺の甚平を着て嬉しそうに笑みを浮かべる。
「お前も良く似合ってるよ」
「父さんのお下がりなんだ」
「そういうの、良いな」
紡は照れながら「ありがとう」と嬉しそうだった。
「直史、履き物持って。庭に出た方が良く見えるんだ」
言われるまま、草履を持って廊下を進む。
「お前の母さん、ご近所さんと花火見に行くって? ここから見えるんだろ?」
「お友達と花火が見えるビアガーデン予約したんだって。仕事終わりの父さんも合流するからってうきうきしてたよ」
「へぇ……」
話しながら歩く廊下は、オレンジのほの暗い明かりだけで、何かが出そうな雰囲気。
――確かに、夜中一人でトイレ行くの嫌な感じだな、ここ
「はい、これ」
和紙の貼られた団扇を渡される。そして紡は、ブタの蚊取り線香入れを指した。
「ほら、ブタさん」
「おぉ。思ったよりデカイ。いいなこれ」
使い込んだ感じがまた味を出している。
紡はそれを庭へと続く濡れ縁に置いて、外へと出た。直史も後に続く。
「むこうの方が良く見えるんだ」
紡は庭の隅にある、木製のベンチに向かう。
直史ははじめ、目の錯覚かと思た。音もなく、あちこちで小さな光が漂っている。
「ちょっと待て、コレ蛍じゃね!?」
「そうだよ、毎年出るよ」
紡は、庭のさらに奥を指差した。真っ暗なその先で、あちらこちらで点滅する光が見える。
「おぉ、スゲー!」
幻想的な光の点滅に囲まれ、直史は軽い感動さえしていた。思わず立ち止まり自分の周りを漂う光を目で追っていた。
突如、ヒューと音がして、辺りが一瞬にして明るくなる。
「上がった!」
ドーンと胸にまで響く大きな音。
紡は、小走りでベンチまで移動すると、直史を手招く。直史には蛍の方が珍しかったが、紡は花火の方が良いらしい。
ベンチの前に立ったまま、次々と上がる花火を見ていた。紡は「たっまや~っ!」などと言っている。直史は空を見上げたまま笑う。
しばらくすると、紡が直史の手を握ったので振り返る。紡は一瞬ためらい、笑顔を向けてきたので、つないだ手を握り返した。
なんだか、うきうきとした気持ちが照れくさい。直史は、つないだ手を子供のように揺らす。紡は、声を出して笑った。
そっと紡を見ると、花火を見上げる横顔がすごく嬉しそうだった。
直史はつないだ手を離し、紡の頭を引き寄せた。
「わっ!」
よろめく紡の体を受け止め、抱きしめた。それから、額にキスをする。
「何固まってるんだよ」
「だ、だ、だって直……」
こういう焦った紡が愛しくてたまらない。花火が見えるように後ろから抱きしめる。
花火が終わると、辺りはすごく暗く感じた。
「目が、ちかちかするね」
「あぁ」
目が慣れると、蛍の光に気づく。
大きな花火の音でジンジンしていた耳に、小さな虫の鳴き声も戻ってきた。
直史がそっと、腕を緩めると、紡は照れたように振り替える。
「紡」
名前を呼んで両手を握ると、少し首を傾けて笑う。
「俺のこと、嫌い?」
「え……なんで? ……好き、だよ」
小さく答える紡。その答えを聞いて、直史は腰をかがめて紡を見る。
「もっと言って」
「す、好きだよ」
「もっと」
「直史が、好き」
紡は照れて視線をそらしていく。そんな紡を見て直史は満足する。
「俺も紡が好きだよ」
そう言って、紡の頬を両手でそっと挟み込んだ。
「好きだ」
「う……うん」
紡は、どうしようもないくらい照れて、視線をおとす。
直史は、まぶた、頬とキスをしていく。紡は、小さな声を漏らして、直史の袖を握った。
直史が紡の視線に入り込むと、今度は紡も見つめ返した。少しためらい、二人はお互いに顔を寄せた。
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