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第二話
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僕はため息をついた。
あと少しだったのに……。
このまま少年を引っ掴んでギルドから出る。そして、少年に父親のところまで案内してもらい、怪我を治す。という計画が吹き飛んでしまった。
来たからには少年は彼らに託すしかない。
それ自体に問題は無いけど……
できれば、痛い思いはしたくなかったんだけどなぁ。
僕の身体は吹き飛んだ。
「グッハッッッ!」
受付カウンターに背中がぶつかり、ズルズルと床に座り込む。
お腹が熱い。今朝食べたものがせり上がってきそうだ。
ラックの方に視線を向けると案の定こちらに飛び出してきそうだったので睨みつける。
「おい! どこ見てるんだ!」
「グレイ・ファングル……」
グレイは僕の視線を遮るように立ち、見下ろしてきた。
僕と同じ黒髪に燃えるように赤い瞳を持つ男。みぞおちを殴り、僕を吹き飛ばしたのは彼だ。
ファングル公爵家の三男にもかかわらず、冒険者をしている変わり者。冒険者ランク最上位のSランクになる試験を受ける条件を満たしているが、辞退しているという噂まである正真正銘の強者だ。
ファングル公爵家は猫獣人保護を掲げる団体の筆頭で、そのせいか彼は冒険者活動の傍ら、猫獣人を保護して回っているらしい。
噂は当てにならないものだ。このオルナ街に彼らが来たのは約二週間前。そんな短い時間でもグレイは自分の意志で保護活動をしていて、冒険者活動の傍らなんてものじゃないことは分かった。
少年の方を見れば、ルールーというグレイの仲間に保護されていた。ルールーは猫獣人だから大丈夫か。
「チッ、変態がッ。見んなッ」
「見るなって、僕が最初にその子に話しかけたんですよ? 横取りしないでください」
「猫獣人を物扱いするんじゃねぇ」
「国が物扱いしてるんですからいいじゃないですか」
「俺は認めてないッ!」
ハハッ、傲慢だ。
グレイは殴る、殴る、殴る。僕の頬を。抵抗はしない。しているようには見せるけど。
そもそも抵抗しても意味ないし。絶対負ける。
頬が熱い。お腹が熱い。
ああ、あの頃を思い出す。熱い思いをして、寒い思いをして、痛い思いをして。
その頃に比べたらマシかもしれない。あそこには戻りたくない。
熱い。なんで殴られてるんだろう? 僕も半分は猫獣人なのに。
いや、幻術で狼の耳にしてるんだった。
それに、僕は悪役になりきるって決めたじゃないか。それが一番猫獣人を守りやすいポジションだ。
ふと、拳が止む。
「その耳、片方切り落としてやろうか?」
僕はハッとする。
「嫌だッ!」
つい、勢いよく否定してしまった。猫獣人を見ていて僕はよく思うんだ。僕はそちら側でいたい。獣人を物扱いする奴らと同じにはなりたくない。
僕はこの猫耳を捨てたくない。
『幻影で隠してるくせに』
パッと耳を塞ぐ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
「ハッ、小さい子供を殴るくせに、俺には脅えてんの?」
「ガッハッッ!」
お腹が蹴られる。
「クズが」
「グレイ、それぐらいにしとけ」
「ルールー……分かった」
長い銀髪を1本に後ろでまとめ、その頭部には猫耳。瞳の色は青色。
ルールーと呼ばれる彼のその容姿からは随分と懐かしいものを感じる。
もしかしたら、グレイはそういう猫獣人が好きなのかもしれない。
だって、昔はーー。
いや、考えるのは辞めよう。
どれだけ昔を思い出しても、過去には戻れない。
僕に気づいてくれないかな? とか、忘れちゃったのかな? とかそんな想いは邪魔なだけだ。
嫌われたくないだなんて……考えるだけで僕を慕ってくれている猫獣人たちへの裏切り行為だ。
僕には魔法の適性があって、幻影魔法が使えて、冒険者としてAランクにまでなって、人並みに、いや、人並み以上に暮らしている。
これ以上、何を求めるっていうんだろう?
こんなに恵まれた生活をしていて、彼に嫌われたくないだなんて考えて僕はなんて我儘なんだろう?
ふぅと一度息を吐き出す。
ギルドから出て少年の父親、ホンドンさんを早く探さないと。
あと少しだったのに……。
このまま少年を引っ掴んでギルドから出る。そして、少年に父親のところまで案内してもらい、怪我を治す。という計画が吹き飛んでしまった。
来たからには少年は彼らに託すしかない。
それ自体に問題は無いけど……
できれば、痛い思いはしたくなかったんだけどなぁ。
僕の身体は吹き飛んだ。
「グッハッッッ!」
受付カウンターに背中がぶつかり、ズルズルと床に座り込む。
お腹が熱い。今朝食べたものがせり上がってきそうだ。
ラックの方に視線を向けると案の定こちらに飛び出してきそうだったので睨みつける。
「おい! どこ見てるんだ!」
「グレイ・ファングル……」
グレイは僕の視線を遮るように立ち、見下ろしてきた。
僕と同じ黒髪に燃えるように赤い瞳を持つ男。みぞおちを殴り、僕を吹き飛ばしたのは彼だ。
ファングル公爵家の三男にもかかわらず、冒険者をしている変わり者。冒険者ランク最上位のSランクになる試験を受ける条件を満たしているが、辞退しているという噂まである正真正銘の強者だ。
ファングル公爵家は猫獣人保護を掲げる団体の筆頭で、そのせいか彼は冒険者活動の傍ら、猫獣人を保護して回っているらしい。
噂は当てにならないものだ。このオルナ街に彼らが来たのは約二週間前。そんな短い時間でもグレイは自分の意志で保護活動をしていて、冒険者活動の傍らなんてものじゃないことは分かった。
少年の方を見れば、ルールーというグレイの仲間に保護されていた。ルールーは猫獣人だから大丈夫か。
「チッ、変態がッ。見んなッ」
「見るなって、僕が最初にその子に話しかけたんですよ? 横取りしないでください」
「猫獣人を物扱いするんじゃねぇ」
「国が物扱いしてるんですからいいじゃないですか」
「俺は認めてないッ!」
ハハッ、傲慢だ。
グレイは殴る、殴る、殴る。僕の頬を。抵抗はしない。しているようには見せるけど。
そもそも抵抗しても意味ないし。絶対負ける。
頬が熱い。お腹が熱い。
ああ、あの頃を思い出す。熱い思いをして、寒い思いをして、痛い思いをして。
その頃に比べたらマシかもしれない。あそこには戻りたくない。
熱い。なんで殴られてるんだろう? 僕も半分は猫獣人なのに。
いや、幻術で狼の耳にしてるんだった。
それに、僕は悪役になりきるって決めたじゃないか。それが一番猫獣人を守りやすいポジションだ。
ふと、拳が止む。
「その耳、片方切り落としてやろうか?」
僕はハッとする。
「嫌だッ!」
つい、勢いよく否定してしまった。猫獣人を見ていて僕はよく思うんだ。僕はそちら側でいたい。獣人を物扱いする奴らと同じにはなりたくない。
僕はこの猫耳を捨てたくない。
『幻影で隠してるくせに』
パッと耳を塞ぐ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
「ハッ、小さい子供を殴るくせに、俺には脅えてんの?」
「ガッハッッ!」
お腹が蹴られる。
「クズが」
「グレイ、それぐらいにしとけ」
「ルールー……分かった」
長い銀髪を1本に後ろでまとめ、その頭部には猫耳。瞳の色は青色。
ルールーと呼ばれる彼のその容姿からは随分と懐かしいものを感じる。
もしかしたら、グレイはそういう猫獣人が好きなのかもしれない。
だって、昔はーー。
いや、考えるのは辞めよう。
どれだけ昔を思い出しても、過去には戻れない。
僕に気づいてくれないかな? とか、忘れちゃったのかな? とかそんな想いは邪魔なだけだ。
嫌われたくないだなんて……考えるだけで僕を慕ってくれている猫獣人たちへの裏切り行為だ。
僕には魔法の適性があって、幻影魔法が使えて、冒険者としてAランクにまでなって、人並みに、いや、人並み以上に暮らしている。
これ以上、何を求めるっていうんだろう?
こんなに恵まれた生活をしていて、彼に嫌われたくないだなんて考えて僕はなんて我儘なんだろう?
ふぅと一度息を吐き出す。
ギルドから出て少年の父親、ホンドンさんを早く探さないと。
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