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第十話
グルコと店長
しおりを挟む町の外れのナナフシ薬局/我が家に好々爺がご来店
転移魔法で突然現れたが普段から店長がポンポン出てくるので俺もボリルも驚かない
「いらっしゃいませ」
「西に神経痛によく効く薬があると聞いてね」
建物に張られた強い結界を転移魔法で通り抜け出来るのは店長の昔馴染みだけだ
「少々お待ちください。店長を呼んで来ますね」
「早かったね」
カウンターの椅子に突然現れ さもそこにずっといたような態度
さっきまで台所で酒を飲んでいた
「ついでに昼飯をご馳走になろうと思ってな」
柔らかい口調のせいか図々しく聞こえない
「グルコ、紹介するよ。初代のシンだ」
「はじめまして。グルコです」
「おう」
「初代というと、山神の峰を隣の領から分領して新領設置をしたシンケー領初代領主さんでしょうか?」
大事な確認
「私だな」
おお~
「百歳を?」
「軽く超えてるな」
おお~ 見えない ドロイよりガチデカ筋肉隆々で顔のシワシワが無ければ二十代で通るかも シンケー領の生きる七不思議だ
「ボリル、アンタも挨拶しな」
おしゃべりの許可
テコテコ「子供馬のボリルだよ」
カウンターに顎を乗せて可愛いご挨拶 よく出来ました♡
ニヤニヤ「おう。よろしくな」
耳の後ろ撫でた ボリルは嫌がらない この人は馬好きだ
「おじいちゃん強い」
「わかるかい?」
「ボリルより凄く魔力強い」
「昔はもっともっと強かったんだ。領主の傍ら八岐の大蛇という冒険者パーティでブイブイいわせてたんだよ。西もな」
フンッ「アタシャ大人しいもんさね」
ハッハッハッ「そーだったかもなぁー」
「ブイブイってなあに?」
ふふっ「元気いっぱいって事だよ」
「ふーん」
薬局のカウンターで肘を付く好々爺 グラスにはドロドロに濃い赤ワイン 隣の店長はドロドロに濃い白ワイン
ここは洞窟風古民家BARナナフシ薬局になった
「あの。シンさん。突然ですが、俺に獣人族のご友人を紹介して頂けませんか?」
〈ケホッ〉
「西、私は耳がおかしくなったのか?」
「確かだよ」
初級不機嫌かな
「獣人族と聞こえたよ?」
ケッ「確かだよ」
これは中級だね
「そーかそーか」
態度の悪さに慣れっこだな
「グルコ君、順序よく話してごらん」
店長と同じシワシワ声だけどダンディでカッコいい
「ハイ」
「グルコォ」
俺の脇腹を黒い鼻紋でつついた
最近は人語念話を使う前にこうして合図するようになった 内緒話しするよって感じで可愛い
(おじいちゃんお酒臭いよぉ)
店長は臭くないんだ 自分にデオドラント魔法掛けてるな
シンさん臭いからデオドラントしてとは言いにくい
使ってる事に気付かれ無い軽い程度の魔法
(おじーちゃん入れ歯くちゃい防臭魔法でお鼻にマスクを付けてごらん。できるよね)
(うん。できる)
魔法は店長に教わっている とても筋が良いらしい
(あのさ、シンさんにアレ見て貰おうか?)
(アレ?)
(ウソ泣き)
(うん。いーよ)
「老い先短いから早くして」グビグビ
そのガチムチな体で?
「ペチャクチャ念話してないでサッサと始めな」
「ハイハイ」
「西、わかるのか?」
「表情、視線、口元、喉、動いてるだろ。声に出てないだけだ。素人だね」
「そーかなるほどなぁ」
(じゃ、ボリル始めるよ)
(うん。ウソ泣きがんばる)
「それではまず、俺とボリルの可哀想な物語にお付き合いお願いします」
「おう」
「ナナフシ薬局お昼の小劇場始まり始まり~」
「まりまり~」
コホン
「それはある日、商業ギルドでの出来事です。ギルマスに家畜の給料は人件費計上できないとケンモホロロにされました」
〈ヒィーンヒィーン〉
「またある日の町役場税務課では、家畜に給料を支払う人間はいないと門前払いされました」
〈ヒィーンヒィーン〉
「そしてある日の冒険者ギルドでは、家畜の給料は高級松茸とか現物支給で十分だお前は馬鹿かと叱責されました」
〈ヒィーンヒィーン〉
「残念な人間ばかりでごめんよ」
「ボリルお給料欲しい。グルコお願い」
「高級松茸で我慢しようね」
「ひどい!ボリル家畜じゃないもん!」
〈ヒィーンヒィーンヒィーンヒィーン〉
「ね。可哀想でしょ?」
お客さまコチラをご覧くださいした
ハッハッハッ「西、私はこの三文芝居、嫌いじゃないぞ」
「物好きだね。アタシャこんなもんを何回も見せられて疲れちまったよ」
「私に見せる為にか?」
「いいえ。新しい条例を公布して貰いたくて、領主さんに見せる為に練習していました」
三代目領主も馬好きだ
「なるほどな。それで?」
好々爺がキリリとした 詳細を述べよ だね
「ボリルは家畜の仔馬ではありません。獣人族に近い存在だと思っています」
「それで?」
「ボリルと獣人族の違いがどの程度あるのか直接お会いして確かめたいです」
「それで?」
「獣人族のような自立した社会人になって貰いたいです。共に働きたいと思っています」
店長がボリルは獣人族では無いと断言した
初めて会う種族なので先の成長はわからないと言った
「そーか。社会人に育てたいのか」
眉間のシワが深くなった
「獣人族との仲介に私を選んだ理由は何だ?」
「わかりません」
「そーか。わからないのかぁ~。グルコ君は抜け目ない正直者なのかもなぁ」
そんなこと初めて言われた 貶してるのか褒めてるのか分からない
でも温厚な雰囲気が不快感を与えない
町の偉人伝に書いてある『荒れた時代を生き抜いた海千山千の豪腕領主』という人物像とは程遠い印象を受ける
「獣人族のご友人に俺を紹介してください。お願いします」ビキッ
俺は深々と頭を下げる 腰痛持ちにはキツイが我慢
「おじいちゃんボリルもお願い」
脇の間から顔を出しスリスリ甘える子供馬 黒鹿毛のタテガミが顎をくすぐる
馬好きはこの可愛いさに抗えない
「そーか。お願いされたかぁ~」
ボリルの頬を両手で包む 参ったなぁといったところかな
「わかった。本人が承諾したら紹介しよう」
感謝を込めて深々と頭を下げる
「ありがとうございます」ビキッ
「さてと。店長はお疲れですよね」
ササッと閉店札を掛け鍵をする
「アンタ、急に何やってんだい」
「先程、疲れちまったと聞きましたので。薬局は閉店して、シンさんの貸切BARにしますね」
「ボリルも聞いたよ」
「そーだな。言ってたなぁ」
おぉー 援護射撃ありがとうございます 貸切BARが効いたかな
「シン坊までなんだい」
百歳越えのおじいちゃんにその呼び方
「どうせ誰も来ないだろ?」
薬局が暇なのバレてる
ケッ「勝手におし」
店長この頃ケッなんて使うからボリルが真似しないか心配だ
「それでは、続きをお話ししますね」
俺はカウンターの中に椅子を入れ 向き合って座る
「おう」
「シンさん、俺はご友人に村への入り方を教えて貰おうと考えてます。それでもご紹介して頂けますか?」
「村へ入る?獣人族の村へか?」
「ハイ」
「私の友人は既に村から独立している。長年帰省もしていない。友人から話しを聞くだけじゃ足りないのか?」
厳しい顔つき 独立は追放とも受け取れる
「シンさんは開拓系のスキルを全てお持ちですよね」
この人は人心掌握スキルを使って亡命希望の獣人族を村からもぎ取った
「ああ」
「俺は魔力無しです。スキルを持たない人間です。開拓スキル持ちのシンさんと渡り合ったご友人のお話しはレベルが高すぎて理解出来ないと思います」
おそらくその獣人族はシンさんの住む北の森代表だ
森の代表は秘匿されているが魔女だ
山神さまの恩恵で魔女になった
元々素質があったんだ
「シンケー領のフロンティアスピリットを知ってるか?」
「ハイ」
「私達の昔話しじゃダメなのか?」
「ハイ。フロンティアスピリット史学は授業で学びましたが理解に苦しみました。俺は弱いからシンさん達のような生き方はできないんです」
「要するに、村で自分達のレベルに近い者に話しを聞きたい。そういう事で間違いないか?」
「間違いありません」
俺は普通の獣人族に会いたい
「西、グルコ君は村に潜入できる腕前の高位な魔術師か?」
「単なる魔力無しだよ。アタシが保証する」
「潜入するんですか?」
「勿論そうさ。私には村人と仲良しな友人なんていないぞ。命がけで潜り込むんだよ」
「そうですか。なら俺は体も存在感も薄いし、魔力無しなので魔力感知されません。潜り込むのは向いてると思います。危険ならボリルはお留守番させます。なんなら金を握らせる方法を使いますよ」
ブハッ「そのやり方は嫌いじゃないぞ」
「嫌いじゃないぞぉ」
「そーかそーかヨシヨシ」
「まずは、友人が承諾したら紹介するよ。その時は昔話しを聞いてやってくれ。理解できなくても良いんだ。友人と信頼関係を築く。そこから始めてくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
「アタシにも話す事があるんだろ」
「察しが良くて助かります」
古代兵器魔女で西の森代表でナナフシ薬局の店長 肩書き満載な貴方がキーパーソンです
「村に行く時に転移魔法での送迎を頼みたいんです。お願いします」
「待て待て、私は耳がおかしくなったのか?西が送迎するのか?」
チッ「だとよ」
上級不機嫌だ
「海賊船じゃダメなのか?」
「はあっ!?海を渡るのかい!?」
「ああ。友人は私の海賊船で海外から来た。知らなかったのか?」
「知らんわっ!」
「店長も昔話し聞いた方が良さそうですね」
「むぅ」
「グルコ君、西でも海外への転移は一度では無理だ。ハブ港を幾つか経由してやっとの距離だ」
「でも俺、体質的に海賊船は無理なんです」
「船酔いか?それなら良く効く薬があるぞ」
「ゆっくり歩くゾムでも酔いましたが?」
「はあっ!?」
「なんならボリルの風魔法ソファでも酔いましたが?」
「そうなのか?」
「うん。ウェーッて」
そんな白い目で見ないでちょーだい
「ダメだコリャ」
「だめだこりゃ~」
ハッハッハッ「店長がんばれよ!」
「冗談じゃないよ!」
〈ポーンポーンポーン⋯⋯⋯〉
壁時計が軽やかな音色で時を知らせる
「それでは切りの良いところで昼飯にしましょうか。午後はご友人へのお土産の準備をしましょう」
「気が早いやつだね。まだ分からないんだろ?」
「見切り発車ではないよ」
「そーかい」
「しかしまあ、グルコ君は拘りが強い頑固者だよな。俺達の若い頃に似てないか?紹興酒飲むか?」
「どうだかね。貰うよ」
「あ。それから、獣人族村潜入作戦の事は、ケモ村クエストと呼ぶようにお願いします」
「グルコもっかい」
「ケモ村クエスト」
「ケモムラクエスト」
んー 発音が違うな
「ケモ村クエスト」
「ケモ村クエスト」
よし
「覚えたね」
「うん覚えた」
「ケモ村クエストだとよ。覚えたか?」
「アタシャ知らないよ」グビグビ
昨夜遅くクール速達便で大型アサリが届いた 送り主は家具職人だった
南の森には僅かばかり汽水域があり不思議な地熱の影響で一年中アサリが採れる
通常は地元民で消費しきる量しか採れないが 先日の山神さまの『豊穣の発現』で大型アサリが大量に収穫されたそうだ
「ほおー!ほおー!これはこれは!」
「南の森産アサリの酒蒸しです。お好きですよね?」
「西が教えたのか?ポンシュ飲むか?」
「アタシャ知らないよ。貰うよ」
「さ、温かいうちにどうぞ」
《いただきます》
ボリル用に浅くて大きな木製皿を買った 何でも食べたがるのでテーブル直置きはやめた
風魔法がカトラリーの代わりをする 大き目に切り頬張るのがお好みのようだ
良く見てると奥歯でモチモチ噛んでる
「グルコ!ぷりぷりおいしー!」
「なんと!バカウマ!」
「バカウマ?」
「悩んでるのが馬鹿らしくなるほど美味いってことだよ」
「そっか。ボリルもバカウマ!」
あちゃー いらない語彙力ついたかも 文脈が変
「そーいやアンタ、ボリルの口座は開設できたのかい?」
シンさんが大型アサリをくわえたまま固まった そーなるよね
ボリルを連れて商業ギルドの窓口で用件を伝えたときも辺り一帯固まった
「ハイ。開設出来ました」
「ボリルね、お鼻ポンッてしたの」
「サインが書けないので鼻紋で登録したんです」
商業さんが自分の制服の胸に鼻紋を押させようとしてアスリート系職員が羽交い締めして止めに入って大騒ぎだった
ボリルには鼻紋の扱いと馬大好き変人に気を付けるよう教えた
「ボリル、俺ちゃんとお給料支払うからね」
ほっぺた膨らましてモチモチ 可愛いなぁ~
「アサリ美味しい?」
ゴックン「うん。バカウマ」
定着しちゃったか 馬が聞いたら怒るよね
「十分フロンティアスピリット持ち合わせてるよな。魔力無しってみんなこんな感じなのか?ターキー飲むか?」
「アタシャ知らないよ。貰うよ」
「気になってたんだが、グルコ君は私と獣人族の関わりをどこで調べたんだ?」
「幼い頃に読んだ母の備忘録にシンさんの事が書いてありました。海賊船と獣人族のお話しがとても面白くて覚えてたんです」
「そーか。備忘録か。母親の名はなんだ?」
「知りません。知らずに育ち、知らずに別れました」
「シン坊、あまり深く聞いてやるな。グルコの身元はアタシが保証する」
「そーか。わかった」
「痛み入ります」
「そーかそーか」
《ごちそうさまでした》
俺が片付けをしている間 二人には店に戻ってお土産にする薬品や雑貨を選んで貰った
配達用のリュックがパンパンになってる
シンさんがご友人をとても大切にしてるのがわかる
経営者としてはお土産を接待交際費にするか広告宣伝費にするか悩むところだ
シンさんが選んだ商品の内容でご友人の趣向や必要な薬品がわかる
酒好きで打ち身が多い方のようだ
「グルコ君、獣人族の村の座標は分かるか?」
「お待ちください」
店のカウンターに備忘録を置く
「歴史ある立派な備忘録だ。母親の形見か?」
「いえ、魔塔主に貰いました」
「魔塔主から⋯⋯」
備忘録に手を乗せ検索ワードを唱えたり無詠唱するだけで適当に開いたページにヒットした情報が表示される
魔力無しの俺でも使える色々と便利な魔道具だ
「ほんとは魔塔の諜報員とか」
「単なる魔力無しだよ」
「始めますね」
備忘録に手を乗せ集中
詠唱「獣人族の村の座標」
開く
「こちらです。この中にありますか?」
「この地図じゃ何もわからんなぁ」
見開きいっぱいに薄い墨で描かれた輪郭だけの大陸図
紙面は古代地図のように暗い山吹色
マーカーが複数あるが座標は見当たらない
「絞り込みが必要ですね」
「そーだな」
集中
詠唱「ロカン王国シンケー領初代領主シンさん 獣人族ご友人の出身村座標」
開く
先程より明らかに時代の新しい領地図 道路・河川・地名が確認できる 海岸線の地名にマーカーが付いている 海には航路が書かれている 座標もひとつ表示されている
「ああっ私の地図だ!昔なくした!この書き込み私の字だ!汚い字だろ!」
そんなに興奮したら血圧上がりそ
「なんでこの備忘録に入ってる!魔塔主だな!奴が盗んだんだ!」
「シン坊落ち着きな」
〈ピシャッ〉
「ガハッ」
うわぁ激しめのイタズラ雷魔法だ 心臓に悪そ
「シンさん、魔塔主はまだ子供です。もっと前の持ち主が入れたんですよ」
「そーか。それもそーだな」
髪の毛がパチパチしてる
「大陸の座標じゃないね。やっぱり海外なんだね」
「遠いぞぉ~ウンザリする程遠いぞぉ~」
「大陸にある獣人族の村に交渉出来ないのかい?」
「現在、大陸内に獣人族の村はないそうです。魔塔主に確認済です」
カウンター端の壁に付けた転送ポストに視線が集まる
「グルコ君、そのポスト魔塔主から貰ったんだろ?」
「退職する時、押し付けられました」
「私が捨ててやろうか?。魔道具廃棄物処理業者に知り合いがいるんだ。半額まで値下げ交渉してあげるよ」
捨てるの前提なんだ
「いえ。今のところ便利に使えてますので大丈夫です」
ボリルが着メロ気に入っちゃったんだよね
ケッ「盗聴魔法でも仕掛けられてんじゃないのかい?」
それはあるかもね
「そーいや現魔塔主は呪物崇拝者だって噂があったよな。テキーラ飲むか?」
「貰うよ」
「呪物に使われる魔法の研究をしてましたね」
「魔術式の分析か。学者タイプの変人だな」
「アタシャ男の髪の毛集める変人って聞いたよ」
「ゲロゲロッ!キモッ!魔塔主ヤバくね?」
ケッケッケッ「やべーやべーちょーやべー」
ボリルお昼寝してて良かった
それと魔塔主の噂話しはダメだと思うよ
〈アーブクタッターニエタッターアーブクタッターニエタッター〉
ほらね
「なんじゃなんじゃ!魔塔主の呪いかっ!」
「違います。魔塔主が歌う着メロです」
「おや、鳴ったのかい」
「西、耳がおかしくなったんじゃ」
ニヤリ「アタシャ嫌いな奴の声は聞こえない魔法使ってるからね」
「なんじゃそりゃ、私にも教えてくれ」
「いくら出せるんだい」
「海賊年金2か月分」
「わかった。そのうちな」
「おう」
嫌な商談だなぁ
「あれ?店長宛てですよ」
「破いて捨てちまいな」
「宛名の人にしか破れませんよ」
「私が破こう。西、譲渡してくれ」
「あいよ」
手紙が光った
「グルコ君」
大将の首取ったりみたいな顔してる
「じゃ、シンさんお願いします」
〈バチバチバチッ〉
「グオッ」
「わあっなになになにっ」
「ウグゥ」
「俺なんもしてませんよっ!手渡しただけですよっ」
「ウグゥ」
肩までバチバチ光ってる
「大丈夫ですか!?」
ケッ「ドンタッチミー魔法だね」
もぉーやめてよ みんなイタズラ魔法使い過ぎだよ
「あのクソガキめっ!」
〈ピーーーーンポーーーーン〉
「わあっ」
チャイムかビックリした またフラグ立ったのかと思ったわ
「すいません今日は閉店しました」
「グルコ、来ちゃった」
町の外れのナナフシ薬局/我が家に王都から魔塔主と副魔塔主が前触れ無しでチャイムを押してやって来た 魚眼レンズ欲しい
「ハイどうぞ」
魔塔主には親の仇のように砂糖を入れる
「わぁグルコの淹れたコーヒー久しぶり」
コーヒー色の甘いお湯 子供は大人の真似をしたがるからね
「サイフォンで入れると良い香りがしますよね。」
大きな麻のリュック 焦茶色のローブ 首に豆絞り手ぬぐい
「いよいよ魔塔を追放されたんですか?」
「え、なんで?」
「魔塔服じゃないのでクビになったのかと」
夜逃げしてきたのかと
「ああ、コレね」
「魔塔服だと目立つので庭師さん達にお借りして参りました。」
子供とデカ身長に大人Мサイズを貸すわけがない
ブカブカダラダラとキチキチツンツルテン
どーせまた黙ってお借りしたんでしょ
「ボク達の事、誰も気づかなかったよ~」
「道中、町馬車でも、どなたにも声を掛けられませんでした。」
この町の大人は上級魔法使いばかりだ
要所要所に高位の魔術師もいるそうだし 領地に入った時点でとっくに気付いて無視してるだけだ
「ねえ今グルコ一人?西さん出勤してないの?手紙出したんだけど」
「ああ、手紙ならさっき届いたばかりです。まだ読んでいませんよ」
チャイムが鳴ると店長が魔塔主の魔力を感知し 転移魔法でシンさんとボリルとリュックを掻っ攫って消えた
魔力の強いこの二人の接近を玄関まで許した原因はお酒の飲み過ぎだ
「魔塔主、やはりこの辺り一帯は結界が歪なんですよ。魔法が複雑で干渉しにくいですし。無闇に魔法を使わない方が良いですね。」
「うん。グルコ、その手紙を出したの5日前だよ」
「そうなんですね」
「グルコにも開封できるようにしてあるの。店に関係する事だから読んでみて」
「ハイハイ」
【魔塔主任命書】
「魔塔主任命書?」
「うん。ボク、魔塔つまらなくなっちゃったから辞める事にしたんだ」
「私も魔塔主と共に退職します。監視員を志願しました」
「でね、次期魔塔主を任命しないと退職できないって。ボクほら友達少ないからさ押し付ける人居なくてね」
「高位の魔術師は現役で何かしらの役員をされてますし。」
「店長が魔塔主?」
「西の森の魔女さんなら安心でしょ?何度も自宅に手紙出したけど返事来ないから任命書は薬局に出したんだよ。今日はご挨拶。グルコに会いたかったしね。ほら王都土産を沢山持ってきたよ」
「この町での魔法の使用を極力避けるためリュックを使いました。あ、それと魔女の存在は秘匿とされてますし、今の魔塔はレベルが低いのでバレる事はありません。西さんのご心配はいりませんよ。」
「そうそう。魔女感知はボクらじゃないと無理だよね」
「ええ。高位の最高峰ですからね。」
店長が魔塔主
「それとね。ほらこれ。グルコの髪の毛百%のミサンガ!黒いお守り、カッコいいよね~」
「私もお揃いです。何となく魔除けに効いてる気がしますね。」
「これつけてから競馬で大穴バンバン当たるの!」
「私はパチンコで確変の嵐です。」
店長が魔塔主
「グルコ?」
「グルコ?」
〈ペンッ〉
俺は後頭部を叩かれた
「また泣き虫かい」
〈ペンッ〉
店長
「よく泣く子だよアンタは」
〈ペンッ〉
店長
「泣くんじゃないよ!」
〈ペンッ〉
「店長、それ便所のスリッパです」
「ああ、急いで来たからウッカリしたよ」
「⋯す⋯すいません⋯魔力を下げ⋯て頂け⋯ますか⋯」
「おや、すまないね。グルコといると下げる必要がないからさ。ウッカリしてたよ」
「⋯しゅごい⋯魔力⋯しゅごい⋯」
魔塔主が変人マゾになってる
オホホホ~「ごめんあそばせぇ~~」
「遅い。何してたんだい」
「トイレのスリッパが見当たらなくて探してたのよ」
「コレかい」
「あら、西が持ってたのね。あわてん坊さんね」
「ああウッカリな」
「⋯魔女⋯」
あっUFOだ!みたいに人を指差しちゃダメだよ 副魔塔主消えたし
「それで、わたしが次期魔塔主になれるって本当なのかしらオチビ君?」
不敬罪にも程があるよね 勝手に任命のタライ回ししてるし
「⋯魔女⋯しゅごい⋯」
「どうなのかしら?」
「⋯しゅごい⋯」
「ねぇ、オチビ君、オカシくなってるけど?」
「東、あそこで物陰から覗き見ストーカー魔法してる亭主に挨拶しなくて良いのかい?」
「やぁねぇ~もう亭主じゃないから無視よ無視」
「そんなもんかい」
「あの顔見ると姑のクソババアを思い出すでしょ~ごめんだわ~」
「貰えるもん貰いすぎだよ。アタシがどれだけ迷惑してると思ってるんだい」
「ね~、でしょでしょあの姑クソババア、地の果てまで追ってくるでしょ~?」
ボリル居なくてほんと良かった
「ママの悪口言うな!」
「泣き虫グルコ。よ~く見ておきなさい。あれが世に言うマザコンという生き物よ。金づるには不向きなの」
「東さん、もしかして副魔塔主に銀細工の髪飾りと、オーク製の天蓋付きキングサイズベッドをねだりました?」
「貰う前に逃げちゃったけどね」
「両方とも俺が貰い受けました」
「ええ。聞いてるわ」チラッ
「髪飾りはアタシのもんだ」
「わかってるわよもぉ~」
「ベッドはボリルのです。返しませんよ」
「もう天蓋ないんでしょ?いらないわ~」
「ありがとうございます」
「あ。そうそう、シン坊から聞いたんだけど、ケモ村クエスト、あれ、中止ね。今、海外に行ったら戻れないわよ」
「何故ですか?」
「人族の間で魔女狩りが流行ってるの。インチキ魔道具で魔力持ち見つけて火炙りですってよ。グルコなら大丈夫だけど、あなた独りで行ける?船旅よ?」
「そうなんですね。中止で良いです」
命あっての物種だ
「英断ね。ボリルの給料の事なら心配いらないわよ。わたしが魔塔主になったら、上手いこと法律に捩じ込むから期待して待っててね」
「公約ですか?」
「公約よ」
「宜しくお願いします」
「まかせて~」パッチン
東の森の魔女は魔塔主達のリュックを持って消えた
「魔塔のクソガキ共よくお聞き」
超特級不機嫌な店長が白く仄めく
二人が床に叩きつけられるように捻じ伏せられた
「⋯ハ⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯イ⋯⋯」
白が濃くなった 実体化した
店長の全身に巻き付いてる
肩に顔
紅い目をした白蛇だ
『この町には手を出すな』
「⋯」
「⋯」
「返事は?」
「気絶してます」
「グルコ、アンタはこれからも変わらずにこの町で過ごしな」
「返事は?」
グスッ「ハイハイ」
俺は山奥で面白い事に囲まれてのんびり暮らすんだ
可愛い子供馬と面白い人々に囲まれて
~グルコと店長 完~
60
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