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第十四話
グルコと隕石
しおりを挟む「国王様、緊急事態でございます。」
「うむ」
「シンケー領に隕石の落下を確認しました。」
「大雪の次は隕石か」
「はい。」
「隕石の大きさは」
「お犬様のお城ほど。」
「何個だ」
「2個です。」
「どこに落ちた」
「街道の両脇です。」
「被害は」
「被害は国道です。」
〈ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン〉
「もぉー非常識な押し方して」
先日 薬局のドアチャイム魔道具の子機を発注して台所に置いた 音量を小さく設定していて良かった
ケッ「グルコ出といで」
「ハイハイ」
薬局の黒い引き戸を開ける
「ボリルたんは?」
「領主さん、おはようございます」
「なあ、ボリルたんは?」
あのね 大人なんだからさ ちゃんと訪問の挨拶とかやろうよ
「まだ寝てますよ。台所へどうぞ」
「グルコ君、私はもう朝食を済ませてきたよ。ボリルたんと食後の添い寝を所望する」
この人何しに来たの?
「ダメです。店長が食事中です。とりあえず台所へ行ってください」
フンッ「しゃーねーな」
「どうぞ」
「お。フローリング張ったんだね。ヒノキか。イイね~。ツヤ出し蜜蝋塗る時は言ってね お高く売ってあげるから」
「ハイハイ」
町の外れのナナフシ薬局/我が家は店長から購入した物件で 店長の昔馴染みには勝手知ったる我が家も同然だ
薬局の奥の壁に居住スペースへの通り口がある 正面は廊下の壁 廊下を左に行くと台所 右に行くと寝室がある
よし 領主さんは左に行ったね お利口さんでした
庭先の馬車に目をやると御者席で困った顔のバリンさん 顔を真っ赤に大口開いた泣き顔の子供に挟まれている 叫び声は聞こえない 防音魔法を掛けてる
「グルコさん、おはようございます」
「おはようございます。どうされました?」
「凄い癇癪でしょ。領主邸を出発してから急に泣き出しました」
癇癪どころかこの世の終わりだ 俺には怖くて触れない
「領主さんに頼んで引き返せなかったんですか?」
「緊急出動でしたからね。旦那さまには隠蔽魔法で寝ているように見せてます」
プロ意識か
「子供達、寝室にどうぞ。ボリルがいるので泣き止みますよ。馬休ませますね」
「お願いします」
馬車から馬を外し厩舎に繋ぐ 水桶は常に新鮮なミネラル水で満杯になる魔道具だ かなり奮発した 2頭の馬が凄い勢いで飲む 全身から湯気が立ってる 浮き出た血管 領主邸からブッチギリだったんだ がんばったね お疲れさま
「ありがとうございます」
「ご遠慮なく。バリンさんの馬とてもキレイですね」
「はい。私の自慢です」
泣き叫ぶ子供達を両腕に抱いて バリンさんは幸せそうに笑った 町では珍しい父子家庭だ 町の婦人会が再婚相手を物色してるの気付いてないよね
「ボリル、子供達を頼んでいいかな」
キングサイズベッドで横たわる子供馬
頭をあげ俺達をジッと見ている 知らない人の気配で起きたんだね
「うん。いいよ」
「ボリルさんおはようございます。バリンです。子供達をお願いします」
キラキラ顔
「おはよう。バリン覚えた」
もそりと体を少しずらし お腹の横にスペースを作る
「ここ」
なんだかお乳をあげる母猫みたいだな
「子供達のお名前をボリルに紹介してください」
「はい。男の子がゼル、女の子がテルです」
「覚えた」
ボリルが白く仄めいた 魔力だ
「ゼル。テル。ボリルだよ」
子供達を包み込む
「えっ泣きやんだ!」
うふふ うちの子供馬凄いでしょう
「バリン。魔法いらない」
「えっえっえっ」
「隠蔽魔法を解いて大丈夫ですよ」
「あっ!はいっ!」
ポカンとボリルの顔を見つめる双子ちゃん 黄色い瞳が珍しいのかな
「魔塔主の子供達もボリルがお名前呼ぶとすぐに泣き止むんですよ」
「凄い!助かる!うちにも欲しい!」
ですよねー
「まずは水分補給させましょ。飲み物持って来てますか?そのあとお風呂入れましょ。お着替えありますか?」
「あっあっあっ」
顔も手も髪の毛も服もデロデロでカピカピでグチャグチャ
うふふ「この世の終わりでしたからね」
「ありますあります」
お出掛けリュックには一通り常備されている
「バリンさんの着替えもありますね」
「ですね」
「お風呂、ご一緒にどうぞ。引っ掻き傷、確認してください。塗り薬ありますから」
「グルコさん!至れり尽くせり!ありがとうございます!」
「ご遠慮なく」
キャッキャッ「とったんあわあわ」キャッキャッ
キャッキャッ「あわあわあわあわ~」キャッキャッ
「ほれぇ、遊んじょらんでぇ~見ご見ごしないねぇ」
「あい」
「あい」
双子ちゃんは大きなタライで泡風呂している
商業さんが仔馬の餌入れ用に買ってくれたやつだ
「家畜じゃないのに」
「タライには色んな使い道があるから」
「ふーん」
ボリル不納得な顔
〈ハアァ~〉
「⋯グルコさん、私、黒鹿毛、初めてです。実物はこんなに美しいんですね。ギルドには登録したんですか?」
「ハイ、済ませてます。仕事はまだですが」
「黒鹿毛は珍しいからきっとお仕事引っ張りだこですよ。お散歩したいなぁ。削蹄したいなぁ」
その仕事 商業ギルドの管轄じゃないのは確かだな
「プロフィールは黒毛です。体が黒いんで個体登録は黒毛にしました」
「そうなんですね。タテガミと尾の特徴が秀逸です。黒鹿毛にしていいかも⋯」
触るの我慢してる
「一般的では無いので、皆さんの認識に合わせました」
「ああ、そうですよね」
「それよりほら、もう寝ちゃいましたよ」
背中側から乗り出して 子供達を覗くと スヤスヤと寝息を立てている
「凄い⋯ヤバくね」
バリンさんは隣国の奥地出身 王国語の語彙力は領主さんの影響が強い ヤンキー言葉を子供達が真似しそうで心配になる
台所では店長と領主さんが悪い顔を突き合わせていた
「西、なる早で頼むよ。国境と関所の開門前に済ませて欲しい」
「話しはわかった。町民の野次馬はどうするんだい」
「気にするな」
「いくら出せるんだい」
「コレでどうよ。銀細工だぞ」
デカイブローチか? どこかで見たことあるような無いような
「元国道大臣から貰った なんか高いやつらしい」
「瑞宝章だね。いいよ」
マジか 瑞宝章って永代家宝にするやつだろ
首にぶら下げる布の所取っちゃってるじゃん こんな町外れのしがない薬局で 子供姿のおばあちゃんと馬大好き変人が交渉に使って良いもんじゃないよね
「あの、領主さん、何か他の銀細工を」
「口出しするんじゃないよ。もうアタシのもんだ」
素早く収納から宝箱を出して仕舞った
「そーだ。グルコ君。ジジイには薬局に来るように伝えたよ」
「災害本部が立ち上がりますよね?参加しないんですか?」
「まだ私達の出る幕じゃない。ここで待機だ」
「領主邸で待機してくださいよ」
「こき使われるからヤダ」
「誰にですか?」
「うちの災害対策本部長」
「奥さんですね」
「うん」
この人も尻に引かれてる かなり 過酷に
「そんなことより、ほら善は急げだ。隕石に行くぞ。そらっ上級ポーション飲んどけ」
「ヨッシャ久しぶりのデカイ魔法だ!腕が鳴るよ!」グビグビ
「あのね店長、そうやって魔力の無駄遣いばかりしてるから子供魔法が解けないんですよ?早く以前のシワシワ魔女に戻ってください。子供に仕事させるの心苦しくてこき使えないんです」
「一向に構わん!」グビ
ん? んん? それが狙いか?
プハァ「もう一本!」
「おう」
まだ飲むのか
「店長、どんな魔法を使うんですか?」
「泥団子魔法さ。隕石をツヤツヤまん丸にしちまうのさ」グビグビ
わけわからん
「領主さん、どういう事ですか?」
「そのまんまだよ。現場に駆けつけて隕石を見た時によ、うわっダッセー岩!町の景観ダダ下がりだよってな」
「はあ、そうですか」
「もう一本!」
「おう。グルコ君も見ればわかるよ。一緒においで」
隕石見たいかも
「あ、じゃあバリンさん、お留守番お願いして良いですか?」
「はい。お任せください。来客の対応はどうしますか?」
「ドアチャイムは無視してください。転移魔法で勝手に入ってくる人も無視してください。薬局以外の物は何でも自由にお使いください」
「早くしな」グビグビ
「ボリルをお願いしますね」
「わかりました」
聞き終える前に転移された
俺は生まれて初めて隕石を見た
ロカン王国シンケー領には領主邸と町を結ぶ街道5線馬車道がある
国道4線馬車道と交差している
その交差を意図して塞ぐかのように隕石が落下した
《わははははははははははははははは》
「町民の皆さん、なんで笑ってるんですか?」
「えーあんだって?」
「隕石を指差して笑ってますよね?」
「そりゃおかしーだろ!」
「店長の魔法、失敗したんですか?」
「ちげーよ大成功だよ!山神さまにタマキン2個付いたから笑ってんだよ」
シモネタかよ 瑞宝章でシモネタ買ったのか
聞くところによると
山神さまを信仰する町民は 町の中央にある円舞台を山神さまの頭 そこから領主邸を結ぶ街道を胴体と例えているそうだ
国道辺りは尾の付け根に近い部分 その両脇に隕石が2個落下した それをタマキンと揶揄して大爆笑中 なんてバチあたりな いや隕石が既にバチなのか?わからん
《わははははははははははははははは》
《わははははははははははははははは》
「ギャハハハハハハハハハハハハハ」
「下品すぎて怒る気にもなれませんね。」
「ギャハハハ商業タマキンだってよ!」
〈ゴツンッ〉
「ってーなぁバーロー何しやがんでい」
「冒険者ギルドの5階大会議室を災害本部にしなさい。」
「はあ~ん」
「MAXゲンコ欲しいんですか?」
チッ「ヘイヘイ」
「よお、コレ超ヤバくね?」
「あ、町長。これから災害本部を立てます。職員に招集かけてください。野次馬に混ざり過ぎてて接近できません。」
「あいよ」
〈ヨーデルヨーデルヨーデリッヒー〉
〈ヨーデルヨーデルヨーデリッヒー〉
〈ヨーデルヨーデルヨーデリッヒー〉
「やっと掛かった。超ヤバくね」
「ありがとうございます」
「じゃ。あとで」
「へぇ~ 町長の詠唱、初めてかもオレ」
「災害現場に臨場しないからです。」
《わははははははははははははははは》
《わははははははははははははははは》
「国道4線の幅が陥没する規模です。なのに隕石の落下に気付かなかったんですか?」
「はい。緊急放送魔法が鳴るまで知りませんでした」
「おかみさんも?」
「何も感じなかったね。なんか薄気味悪いね」
「高位の魔術師は来てますか?」
情報が欲しい
「いや。あいつらは表に出ない。中継魔法でこの辺りを見てるはずだよ」
見てるだけか
「わかりました。ありがとうございました」
「昼から隕石祭りを開催するけど、バイトしに来るかい?」
「あーー、シンさん達が薬局で宴会しそうなんで見張り番を」
ハハハッ「そりゃ大仕事だね」
「ですね」
《わははははははははははははははは》
《わははははははははははははははは》
「笑い過ぎですね。少し声を抑えるよう注意してはどうですか?」
フンッ「私に領民の笑顔を奪う権利は無い」
「災害現場ですよ?」
「領民には影響ない」
「国道封鎖ですよ?」
「旧道を使えば良い」
「物資が止まりますよ?」
「商業ギルドの仕事だ」
ダメだコリャ
《わははははははははははははははは》
《わははははははははははははははは》
国道の突然の封鎖に交通渋滞が起きている
隕石の現場確認に来た憲兵臨場部隊は初動捜査もそこそこに交通整理をしている
詰め寄る荷馬車を迂回させ旧道を案内するのだがどうにも要領を得ていない
「領主さん、非常事態です。外部との転移魔法が使えなくなったそうです。応援部隊は渋滞に巻き込まれ全ての対応が遅延しているそうです」
「詳しいな」
「憲兵さんに聞いて来ました。シンケー領が協力できる事があるはずです。なんとかしなくて良いんですか?」
「私は何もわからん。だから、何もしない。今は各方面からの報告書を待つだけだ」
「手後れになっても知りませんよ?」
「何が手後れになるんだ?」
「それは」
今のところ隕石による町民への実害が無く 皆んなゲラゲラ笑っている まるで天秤祭りのような賑わいだ
「その、あれですよ、ほらえーと」
フンッ「そんなことよりグルコ君、西はどこ行った?薬局に帰りたいんだが。そして早くボリルたんに会いたいんだが」
国王と領主達は秘匿魔法+誘拐防止魔法の副作用で転移魔法が使えない
「その辺にいますよ。ちびっ子だから見えないだけです」
〈ペンッ〉
「誰がちびっ子だバカタレ」
悪口言えば出てくる仕様
「おう、西。便所スリッパか?」
〈ペンッ〉
「見りゃわかんだろボケカス」
不敬罪にはもう慣れた
「帰るよ 疲れた」
《わははははははははははははははは》
《わははははははははははははははは》
町の外れのナナフシ薬局/我が家
「只今より、隕石どうする会議を始めます。領主案、温存して観光の目玉にする。店長案、撤去して鉄やら何やらを何かしらに利用する。ハイそこお酒飲むのやめてください」
二人が口ゲンカを始めてしまい 周りに被害が及ぶ前に皆んなで話し合って決める事にした
「ね~も~町民に投票させれば~?」
「そーだな」
自分の案をアピールする気ゼロ態度 其の一
さっきまでの勢いはどーした
「魔塔主が経費出すならやりますよ?」
オホホホ「忘れてちょ~だ~い」
「はいはい!先生ー!」
誰が先生だ
【タマキン災害本部】
冒険さんの書いた戒名が壁に貼られている
ハァー「ハイ、ドーゾ」
「じゃあさじゃあさ、経費出すやつを決める投票したらどうだ?」
こんなんだから災害本部から締め出されたんだよ デカイたんこぶこさえて
「真面目に考えてます?」
チッ「ノリわりぃーな。領主、お前が金出せ」
その悪ノリに付き合えるのはサブマスさんだけです
「そーだな。ボリルたんこっちおいで~」
「やだ」プイッ
「萌え~」
領主さん帰らすか カウンターの中の若い店員にちょっかい出すエロガッパかよ
「店長、皆さんどーでもいいようです」
俺もどーでもいい 店長が魔法を掛けてから気付いたが隕石は国道上にあるから国の所有管理物だ めんどくさいので黙ってる
「どうしますか?」
「知らん」
自分の案をアピールする気ゼロ態度 其の二
「ハイ。それでは決まらないので終わりにします。ケンカは禁止ですよ。飲酒はほどほどに」
《カンパ~~イ》
何の集まりだよ
「グルコご飯食べる?」
「忘れてた」
「行くよ」テコテコ
ボリルが一緒に食べたがるから 俺も昼飯を喰うように努力しているが 忘れる事もしばしば
「えーボリルたん行っちゃうのぉ じゃあ私も」
「ついてこないで」プイッ
「萌え~」
「おい!領主!ボリルにちょっかい出してないでサキイカ出せ!」
シンさん 孫に領主って
「んなもん持って来てねーよジジイは飴でもシャブってな」
どっちもどっちか
「ボリル、汚い言葉だから覚えないでね」
「うん」テコテコテコテコ
「あれ?早いね。どっちになったの?」
「中止にした。宴会再会したよ」
店長が薬局に防臭防音魔法を掛けてるから 居住スペースは快適空間だ
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「グルコこれなに?」
「オムライスって言うんだよ」
「ボリルこれ食べていいの?」
ああ いつもの自分専用の木製皿じゃないから確認したのか
「うん。一緒に食べようね」
「うん」
《いっただきま~す》
美味いなぁ~なんか幸せだなぁ~あったかいマイホームって感じするぅ~エプロンしてるのガチデカなバリンさんだけど~
「おいしー!」
「おいしーね」
「ベッド使わせて頂いてすいません」
「あ。ご遠慮なく」
バリンさんと魔塔主の子供達には俺のベッドを提供した
「ボリルも食べたらお昼寝だね」
「うん」
うふ「ほんと可愛いですね。うちの子も昔はこんなだったなぁ。」
「子供の成長って早いですよね~」
「早いですね~。」
マクさんは馬獣人族の亜種だ 5歳くらいまで仔馬の姿で育つ家系らしい 今の容姿は人族なので魔塔でも差別を受けずに働ける 先週 副魔塔主に任命された 凄い人だ
「まだ町の外に出られませんか?」
「はい、魔塔の座標にノイズが入ってしまいます。町の中では使えますけど。嫌な感じはありますね。」
魔塔主の送迎兼子供の世話をしに来て 町に入る時も違和感があったそうだ
「隕石の影響でしょうか」
「確実にそうですね。」
「グルコは何か感じる?」
「体がふわふわした感じだったけど」
「軽い転移酔いだね」
「だね。ドロイは?」
「薄気味悪い。滝の森の魔獣が静か過ぎる。サミンも部屋から出ない」
「そうなんだ。無理しないでね」
「うん」
「それにしても。夜明け前から人んち来て飲み会って何考えてんだか」
「皆んな異変を感じて薬局に集まったんだと思うよ」
それはどうかなぁ 単なる口実だと思う
「今朝、ばっちゃんはどんなだった?」
「隕石行く前に上級ポーション3本飲んでたよ。魔法を掛けたあと疲れたって言ってた。珍しいよね。何だろう?」
「何だろう」
朝からずっと見聞きした事を備忘録に記録している 明日は肩から指先まで筋肉痛だな
「今日の事を記録してるんですね。」
「マクさんは書かないんですか?」
「直接は書きませんね。書類にまとめて魔法で入れます。」
「なるほど。俺、備忘録の使い方おかしいですよね」
「いえ。使える事が根本的におかしいです。こうして目の当たりにするまで信じられませんでしたよ。」
「魔力無し、未知数でしょ?」
ハハッ「可能性が無限大ですね。」
「全てが手探りです。でもね、面白いんですよ」
「良いことです。」
「ハイ」
「あ、そうそう、グルコさん隕石の史実についてお調べだと聞きました。」
「ハイ。この備忘録には載って無かったんですよ」
「触らせて頂いても?」
「構いませんよ」
備忘録を差し出す
「黒革の備忘録。無地は珍しいです。」
手のひらで装丁を撫でる撫でる撫でる
何か読み取ってるのかな
「これは⋯⋯とても古い物です。深い。歴史の重さを感じます。この本に史実が記載されて無かったんですか?」
「うんともすんとも」
「んーーー。検索ワードが違う可能性がありますね。言語は幾つ試されました?」
「え。言語ですか?」
「そうです。これ程古ければ史実もあるはずです。何人もの方々が使用し、時代や言語も様々です。翻訳機能は無いですからね。」
「なるほど。そうなんですね。盲点でした」
「グルコさんは、何ヶ国語使えますか?」
「今の、この言語ひとつです」
「そうですか。実は私、スキル『ポリグロット』持ちなんです。今5ヶ国語レベルです。よろしければご協力しますよ。」
町役場やギルドの窓口職員でも多くて3ヶ国語
「そうなんですね。是非、よろしくお願いします」
「はい。ご遠慮なく。備忘録は個人契約だから私の詠唱は認識されません。私が書いた文字を練習して書き込んでくださいね。」
「ですよね。マクさんが直接これに書き込みとかできないですか?」
「はい?」
「無理ですかね」
「やった事ないです。やろうと思った事もないです。でも、やって良いならやってみようかな?」
お茶目な一面
「ハイ。どうぞどうぞ。お試しください」
そうだよね 他人の備忘録に書き込むチャンスなんて滅多にないよね
「マクさんは、普通のペンで書いてくださいね」
魔力持ちの人が契約魔法ペンで書くと何かがどうにかなるらしいからね
「はい。勿論です。備忘録に魔法ペンは疲れます。魔力ガンガン取られちゃうんです。」
そうなのか 俺は魔力無しだから取られるもんが無いのか
「では、隕石、書きます。」
サラサラ『隕石』
「ふぉっ書けましたね!」
喜んでる
「この言語で書かれた情報は無いですね。」
「お体に変化はありますか?」
「んーーー。異常無しです」
サラサラ『隕石』
サラサラ『隕石』
サラサラ『隕石』
フゥ「私の知る言語は以上です。」
「あの、お体、大丈夫ですか?」
脂汗かいてる
「コレ。魔力を凄い吸われました。古代語です。グルコさんが書いたら検索できるかもしれません」
「ありがとうございます。やってみますね」
「マクさん、上級ポーションどうぞ」
「いただきます。」グビグビ
マクさんの字を見ながら文字の練習を始めた
「指、つりそうです」
「グルコはキレイな波の文字を書くから、何でも書けると思ってたよ」
「うん」
俺もだよ 舐めてた マクさんこれを5ヶ国語って努力家なんだなぁ
「詠唱方法に替えようかな」
「『隕石』」
「ん?」
「古代語の発声練習しますか?」
高位の魔術師が使う詠唱より聞き取れない
「あ。大丈夫です。書き書き頑張ります」
フフ「慣れるまでは大変なんですよ。がんばって」
「ハイ」
いよいよ備忘録に書いてみる
サラサラ『隕石』
「うおっ」
「ぬんっ」
「ふんがっ」
ドロイ マクさん 船を漕いでたバリンさんが一斉に呻いた
「えっなに?」
「グルコ、何とも無いの!?」
「なにが?」
「ああーーーー」
頭をワシワシ 困った時のドロイのクセ 魔力無しにはわからない何かがあったのね
〈バンバンッ〉
「出ましたよ!グルコさん出ましたよ!」
魔塔主のテーブル叩くクセが伝染ってる
『隕石』
『隕石ーーーーーーーーーーーーー』
うん 読めない
「これは
隕石は昔トビイシと呼ばれていた
と書いてあります」
「下に読み方を書きますね」
「そうだ。他の言語も書きませんか?」
「あ、そこまではちょっと」
めんどくさいです 指が限界です
「そうですか。」
しょんぼりした んーと
「マクさんの備忘録に記録して頂けますか?」
「私のにですか?」
「この備忘録、無責任なんです」
「備忘録が無責任?」
「ハイ。例えば」
備忘録に手を乗せる
詠唱「馬鹿」
開く
「馬鹿とは。国王、魔塔主、経理部長、コレは最近更新した俺の字ですね」
「ぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「ボク、ハゲカス教皇、野蛮人、人参、お父さま、お母さま、お兄ちゃん、似顔絵に矢印で馬鹿ってのもありますね。子供が描いたのかな、可愛いですね。馬鹿のページ多いなぁ」
ペラペラと捲っていく
「ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「歴代の持ち主は、日記帳、落書き帳、メモ帳とかにしてますね。ちゃんとした記録は人が書いた書類を魔法で入れたやつでしょうね。多分いままで仕事の記録に使われて無いです」
「こ、高位な魔道具をそんな風に⋯⋯」
「ね。無責任でしょ?」
マクさんが収納魔法から備忘録を出した 俺のとは全然違う 百科事典みたい 落ち着いた焦茶色 角々してる 硬そうでクッション替わりにはならないな
詠唱「馬鹿」
開く
[馬鹿とは。1.知能の働きがおよそ鈍いこと。利口ではないこと。また、そういう人。2.まじめに取り扱う値打ちのない、つまらないこと]
「⋯⋯うそ⋯載ってる⋯⋯」
そこまでショック受けるんだ ほんとに真面目だよね
「辞典ですね。個人的な感情ではないですよ?」
ホッ「そうですか。辞典ですか。そうですよね。良かった良かった。」
そんなに嫌なの? あ そうかそうか
「備忘録は持ち主を選ぶと言われてます。性格が合う人に自分を使わせてるんですね」
「性格が合う?」
「そうです。備忘録に人の悪口とか書けますか?」
「ぜっ絶対無理ですっ!」
「ですよね。だから真面目な性格の備忘録は真面目なマクさんを選んだんです。良かったですね」
「あ、ありがとうございます?」
「じゃ、そーいうことなんで、隕石の5ヶ国語の記録、お任せしますね」
「はい」
「これからも素敵な相棒と真面目を楽しんでくださいね」
「はい」
お 直接書き込みだした 丁寧だな 整ってる 舟を編む人だね 読めないけど
ふふ「とてもお似合いですね。私も欲しくなります。高くて買えませんが」
バリンさん読み書きできるんだ
「備忘録、面白いね。僕も読み書き勉強しようかな」
「うん。それもいいと思う。あ、そうだ。良いものあげる。バリンさんにも」
上着の内ポケットを弄る
「コレ、隕石の近くでこっそり拾ったの」
「グルコさん、得体の知れない物を大胆ですね。」
「おかしな魔力とか波長とか感じる?」
「いえ。特に何も。」
魔力に敏感なマクさんが大丈夫なら問題無いだろう
「バリンさんどうぞ」
「ひんやり?」
「金属だからねドロイにも」
「元気飴みたい」
「食べちゃダメだよ?」
「流石にそこまでおっちょこちょいでは無いよ」
《ははははは》
「多分ね、店長が凄く欲しがると思うんだ」
「うん。ばっちゃんこーいうの大好きだよね」
「備忘録と交換して貰ったら良いよ」
「えっ、西さん、備忘録を何冊も持ってるんですか?」
「無駄に長生きなお年寄りですからね」
〈ペンッ〉
「なんだいそりゃ」
悪口言えば出てくる仕様
「店長、宴会は終わったんですか?」
子供がデカイスルメと酒瓶抱えるダメなタイプの珍百景
「銀の玉だね」
俺はスルーだ ほら 言っちゃって
「あ、あの、び、備忘録と交換してくださいませっ」
「ばっちゃん、僕にも」
「ドロイも持ってんのかい。どこで手に入れた?」
シーだよ
「あれれ、偶然、なんか、持ってる、不思議?」
ドロイ誤魔化すの下手っぴ マクさん笑い堪えてるし
「わ、私も、偶然、手の中に、ふ、不思議?」
バリンさんも下手っぴ
「わかった」
銀の玉をササッと奪い取る
〈ポンッポンッ〉
2人の手に備忘録が現れた
《わぁっ》
「アンタ達に似合いの備忘録だ」
「あっありがとうございます!」
「ばっちゃんありがとう!」
「好きに使いな」
「えっ⋯うわっ新品?新品ですよね? 始めて見ました!素敵な装丁ですね!」
マクさんキラキラ感動してるよ
「アンタはその子をこれからも大事にしな」
「はい!」
ぷぷ「備忘録にその子って」
〈ペンッ〉
「無責任男は黙ってイカ炙りな」
「ハイハイ」
「酒は温めの燗にしな」
「ハイハイ」
「ペンッ」
「ハイは1回!」
隕石落下 予想外の恩恵があったね
~グルコと隕石 完~
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そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
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