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ビターなチョコと年上彼女
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「はい、これ」
彼女が無造作に差し出したのは、深い茶色のパッケージに金色の文字が光るチョコレートだった。
「……これ苦いやつじゃん」
僕が渋々受け取ると、彼女は少しだけ目を細めて悪戯っぽく笑った。
「私はビターの方が好きだから」
「僕は甘い方が好きだって知ってるだろ。ビターなんて苦いだけじゃん」
「その苦みがいいのよ。ほら、試してみて」
そう言いながら、彼女は僕の近くにごろんと寝転がると、下からじっと見つめる。
その仕草が何故か妙に絵になり、僕は目を逸らすようにチョコレートの包装を開けた。
小さなひとかけらを口に入れると、途端に広がる苦味とわずかな甘さ。
思わず顔をしかめると、彼女が面白そうにこちらを見つめている。
「どう?」
「……やっぱり苦い」
「でしょ。でも、その苦さが段々美味しく感じるようになるのよ。大人の味ってやつね」
彼女は、自分も一粒つまむと、軽く目を閉じて満足そうに味わった。
「甘いものが食べたいからチョコを食べるのに、何でわざわざ苦いものを選ぶのか僕には分からないな」
「君のそういう所、本当に子どもっぽいなぁ」
「別に甘いものは大人になっても美味しいから」
頑なに譲らない僕を見て、彼女はやれやれと言わんばかりに苦笑しながら頬をポリポリと掻く。
「でも、たまにはこういう苦さも悪くないと思わない? 人生と一緒だよ」
「人生?」
「そう。人生も全部甘いだけじゃすぐ飽きるの。苦い時があるから、甘いのがより際立つって思わない?」
彼女の言葉に、少しだけ返答に詰まる。
こういう考え方をできるのが、彼女の年上らしいところだ。僕にはまだ理解できない感覚を、さらりと話してくる。
「僕は、全部甘い方がいいけどな」
「ふふっ、君らしいね。でも私が一緒にいる限り、そんなわけにはいかないと思うけど?」
彼女は目を細めて、からかうように笑った。
「僕の人生に苦い部分を作るってこと?」
「さぁ、どうかな。でも……」
彼女は少し間を置いてから、静かに続けた。
「私の人生の甘い部分は君なんだろうなって、思うよ」
その言葉に、不意を突かれた。
彼女はまたひとかけらのチョコをつまみながら、小さく笑った。
「……そういうことをさらっと言うの、ずるいよね」
「そう? 私はいつも素直だと思うけど」
彼女はそう言って、僕の手元に視線を移す。
「ほら、もう一粒食べよう。慣れたら美味しく感じると思うし」
「本当に?」
半信半疑でチョコをもう一つ口に入れる。
確かに、最初ほど苦くは感じない気がした。それでも、甘さの足りないこの味にはまだ馴染めないが。
「うーん……。やっぱり甘い方がいいなぁ」
「まぁ、そんなに簡単に慣れないよね」
僕のしかめっ面に彼女は肩をすくめる。
「これで終わり。次は君の好きな甘いやつ、買ってあげるね」
「本当? じゃあ次はミルクチョコがいい」
「もう、しょうがないなぁ」
彼女が笑う。
その笑顔はさっき食べたビターチョコなんかよりよっぽど甘く感じる。
「やっぱりチョコも、この関係も、甘いままの方が好きだ」
僕は口の中に残る苦みを味わいながら、小さく息を吐いた。
彼女が無造作に差し出したのは、深い茶色のパッケージに金色の文字が光るチョコレートだった。
「……これ苦いやつじゃん」
僕が渋々受け取ると、彼女は少しだけ目を細めて悪戯っぽく笑った。
「私はビターの方が好きだから」
「僕は甘い方が好きだって知ってるだろ。ビターなんて苦いだけじゃん」
「その苦みがいいのよ。ほら、試してみて」
そう言いながら、彼女は僕の近くにごろんと寝転がると、下からじっと見つめる。
その仕草が何故か妙に絵になり、僕は目を逸らすようにチョコレートの包装を開けた。
小さなひとかけらを口に入れると、途端に広がる苦味とわずかな甘さ。
思わず顔をしかめると、彼女が面白そうにこちらを見つめている。
「どう?」
「……やっぱり苦い」
「でしょ。でも、その苦さが段々美味しく感じるようになるのよ。大人の味ってやつね」
彼女は、自分も一粒つまむと、軽く目を閉じて満足そうに味わった。
「甘いものが食べたいからチョコを食べるのに、何でわざわざ苦いものを選ぶのか僕には分からないな」
「君のそういう所、本当に子どもっぽいなぁ」
「別に甘いものは大人になっても美味しいから」
頑なに譲らない僕を見て、彼女はやれやれと言わんばかりに苦笑しながら頬をポリポリと掻く。
「でも、たまにはこういう苦さも悪くないと思わない? 人生と一緒だよ」
「人生?」
「そう。人生も全部甘いだけじゃすぐ飽きるの。苦い時があるから、甘いのがより際立つって思わない?」
彼女の言葉に、少しだけ返答に詰まる。
こういう考え方をできるのが、彼女の年上らしいところだ。僕にはまだ理解できない感覚を、さらりと話してくる。
「僕は、全部甘い方がいいけどな」
「ふふっ、君らしいね。でも私が一緒にいる限り、そんなわけにはいかないと思うけど?」
彼女は目を細めて、からかうように笑った。
「僕の人生に苦い部分を作るってこと?」
「さぁ、どうかな。でも……」
彼女は少し間を置いてから、静かに続けた。
「私の人生の甘い部分は君なんだろうなって、思うよ」
その言葉に、不意を突かれた。
彼女はまたひとかけらのチョコをつまみながら、小さく笑った。
「……そういうことをさらっと言うの、ずるいよね」
「そう? 私はいつも素直だと思うけど」
彼女はそう言って、僕の手元に視線を移す。
「ほら、もう一粒食べよう。慣れたら美味しく感じると思うし」
「本当に?」
半信半疑でチョコをもう一つ口に入れる。
確かに、最初ほど苦くは感じない気がした。それでも、甘さの足りないこの味にはまだ馴染めないが。
「うーん……。やっぱり甘い方がいいなぁ」
「まぁ、そんなに簡単に慣れないよね」
僕のしかめっ面に彼女は肩をすくめる。
「これで終わり。次は君の好きな甘いやつ、買ってあげるね」
「本当? じゃあ次はミルクチョコがいい」
「もう、しょうがないなぁ」
彼女が笑う。
その笑顔はさっき食べたビターチョコなんかよりよっぽど甘く感じる。
「やっぱりチョコも、この関係も、甘いままの方が好きだ」
僕は口の中に残る苦みを味わいながら、小さく息を吐いた。
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