2 / 43
第2話 田舎の家は快適
しおりを挟む
「いいんじゃないか。パソコンかスマホさえあれば大丈夫とか言ってたぞ。今時、コンピュータに張り付いている必要はないんだと。だったら初めから帰れるって言えって話だよな」
「へえ」
悠人の確認に詳しく語ってくれる信明は、一応は息子の都合を確認したということか。それはそうだろう。和臣は遊んでいるわけではない。しかし、離れられるのに帰るのが面倒で実験中と言ったのか。それはそれで複雑な気持ちにさせられる。和臣ももう大人だから、いちいち家族に干渉されたくないのだろうか。
「じゃあ、行くか」
一通りの会話が終わったところで、信明の乗ってきた軽トラックの助手席に乗り込む。これもいつものことだ。駅の周辺は神社もあるから発展しているが、ちょっと外れると一気に田舎町。車で移動するのが一番という場所だ。しかも、信明は農家だから軽トラックも当然というところ。
「今年はスイカが豊作だよ。たんと食べてくれ」
そして運転席に乗り込んだ信明は、早速そんなことを言う。それを聞いてスイカかと、悠人は今から楽しみになる。小さい頃は畑の要らないスイカを、畑の肥料にするからということで、棒を持って割っていく遊びをしたものだ。しかし、さすがにこの年になるとそれはやらない。叔父も割ってくれる人がいないと適当に廃棄するようだ。
でも、この年になっても食べるのは大歓迎だ。特に信明のところで作っているスイカはスーパーで買ったものより断然美味しいと思う。信明は凝り性なところがあるから、それで他よりも美味しいのだろうと最近では思っている。それはもう、楽しみになろうというものだ。
「豊作ですか。今年は暑いですもんね」
「そうそう。しかもその割に天候が安定してるだろ。いつもより台風も少ないしな。そのおかげかスイカもたくさんできているんだが、他の野菜も多く出来ちゃってね。収穫も大変だが、出荷できない野菜が多くて困ってるんだよね。何だっけ、供給過剰っていうの。ただでさえ値段が安くなって大変だよ」
そんなことを言いつつも、がははっと大声で笑う信明だ。笑えてしまうところが凄い。何事も前向きに考える人だと思っていたが、こんなことまで笑い飛ばしてしまうのか。
「まあ、うちは米も作ってるからな。そっちの分で野菜の損失はまあまあ補えるよ」
「へえ。でも、そういう野菜って、やっぱり廃棄されるんですか」
しかし、採れすぎると廃棄されるはずではと、先ほどのスイカを割った思い出がよみがえり心配になる。すると、夏野菜は信明の母が漬物にして家で消費しているのだと教えてくれた。しかも一部は道の駅でも販売していて、これがなかなか好評なのだという。なるほど、その手があったかと、悠人は素直に驚いた。
「とはいえ、それでも追い付かないくらいに量が多いからな。漬物と野菜、よかったら持って帰ってくれ。スイカは重いから後で送っておくよ」
「はい、ありがとうございます」
そのくらいはお安い御用と、悠人は頷いた。信明の作る野菜は両親も大好きなので、今年は漬物もあると知れば喜ぶだろう。
ああ、普段とは違う風景に、都会ではまずしない会話。これが悠人のお盆前のいつもの光景だ。そんな普段との違いでようやく、日々の悩みもちょっと吹き飛ぶ。
しばらく国道を走って行き、十五分ほどで叔父の家に到着した。その家は大正時代に建てられたものだそうで、とても古風だ。全体的に木がふんだんで、そして瓦屋根。最近では見かけない、ちょっと耐震性能は不安があるものの、昔ながらの平屋建ての日本家屋だった。
「あら、いらっしゃい」
軽トラックが庭に止まると、叔母の新井沙希が廊下から顔を覗かせた。エプロンをしていることから、台所で何かしていたようだ。そんな沙希は、甥っ子の悠人から見ても美人だなと思う人で、母の弥生も羨ましがる美肌の持ち主だった。農家なのに日焼けしていないのは、手入れのたまものであるとか。
「お世話になります」
「いいのよ。さ、早く上がって。丁度今、冷やしていたスイカを切ってたの」
「ははっ」
早速かと思いつつ、悠人は大きなボストンバックを肩にかけると玄関に回った。信明はそのまま軽トラックで田んぼの確認に行くという。悠人が降りるとすぐに出て行ってしまった。
「涼しい」
玄関は東側にあり、この時間は少しひんやりとしている。土間になっているそこから上がると、すぐに右手が台所だ。左手を少し進んだところに和臣が使っている部屋があるが、そちらは今は当然ながら無人で、とても静かだ。
いや、家全体がどこか静かで、そしてひんやりしている。冷房を効かせているわけではないのに、不思議なことだ。昔ながらの知恵が詰まっているからか。冬は寒そうだが、夏はとても快適だ。
「いつもの部屋を使ってね」
「あっ、はい」
廊下のひんやりした空気を堪能していたら、沙希がスイカを持って現れた。悠人は恥ずかしくなって、慌てて廊下を進む。南側の大きな部屋が客間として使われていて、小さい頃は両親とその部屋で川の字で寝たものだ。今回は一人だから、八畳もある部屋を独り占めできてしまう。
「ううん。広すぎて困る感じ」
部屋の隅にカバンを置いて見渡すと、ちゃぶ台だけが置かれた部屋は非常に広く感じた。すぐそこに見える庭や畑、さらに遠くに見える山々が、遠くに来たなという気分にさせた。しかし、同時に慣れた風景でもある。毎年のように一週間はここに滞在しているのだ。すぐに感覚を取り戻すだろう。
「へえ」
悠人の確認に詳しく語ってくれる信明は、一応は息子の都合を確認したということか。それはそうだろう。和臣は遊んでいるわけではない。しかし、離れられるのに帰るのが面倒で実験中と言ったのか。それはそれで複雑な気持ちにさせられる。和臣ももう大人だから、いちいち家族に干渉されたくないのだろうか。
「じゃあ、行くか」
一通りの会話が終わったところで、信明の乗ってきた軽トラックの助手席に乗り込む。これもいつものことだ。駅の周辺は神社もあるから発展しているが、ちょっと外れると一気に田舎町。車で移動するのが一番という場所だ。しかも、信明は農家だから軽トラックも当然というところ。
「今年はスイカが豊作だよ。たんと食べてくれ」
そして運転席に乗り込んだ信明は、早速そんなことを言う。それを聞いてスイカかと、悠人は今から楽しみになる。小さい頃は畑の要らないスイカを、畑の肥料にするからということで、棒を持って割っていく遊びをしたものだ。しかし、さすがにこの年になるとそれはやらない。叔父も割ってくれる人がいないと適当に廃棄するようだ。
でも、この年になっても食べるのは大歓迎だ。特に信明のところで作っているスイカはスーパーで買ったものより断然美味しいと思う。信明は凝り性なところがあるから、それで他よりも美味しいのだろうと最近では思っている。それはもう、楽しみになろうというものだ。
「豊作ですか。今年は暑いですもんね」
「そうそう。しかもその割に天候が安定してるだろ。いつもより台風も少ないしな。そのおかげかスイカもたくさんできているんだが、他の野菜も多く出来ちゃってね。収穫も大変だが、出荷できない野菜が多くて困ってるんだよね。何だっけ、供給過剰っていうの。ただでさえ値段が安くなって大変だよ」
そんなことを言いつつも、がははっと大声で笑う信明だ。笑えてしまうところが凄い。何事も前向きに考える人だと思っていたが、こんなことまで笑い飛ばしてしまうのか。
「まあ、うちは米も作ってるからな。そっちの分で野菜の損失はまあまあ補えるよ」
「へえ。でも、そういう野菜って、やっぱり廃棄されるんですか」
しかし、採れすぎると廃棄されるはずではと、先ほどのスイカを割った思い出がよみがえり心配になる。すると、夏野菜は信明の母が漬物にして家で消費しているのだと教えてくれた。しかも一部は道の駅でも販売していて、これがなかなか好評なのだという。なるほど、その手があったかと、悠人は素直に驚いた。
「とはいえ、それでも追い付かないくらいに量が多いからな。漬物と野菜、よかったら持って帰ってくれ。スイカは重いから後で送っておくよ」
「はい、ありがとうございます」
そのくらいはお安い御用と、悠人は頷いた。信明の作る野菜は両親も大好きなので、今年は漬物もあると知れば喜ぶだろう。
ああ、普段とは違う風景に、都会ではまずしない会話。これが悠人のお盆前のいつもの光景だ。そんな普段との違いでようやく、日々の悩みもちょっと吹き飛ぶ。
しばらく国道を走って行き、十五分ほどで叔父の家に到着した。その家は大正時代に建てられたものだそうで、とても古風だ。全体的に木がふんだんで、そして瓦屋根。最近では見かけない、ちょっと耐震性能は不安があるものの、昔ながらの平屋建ての日本家屋だった。
「あら、いらっしゃい」
軽トラックが庭に止まると、叔母の新井沙希が廊下から顔を覗かせた。エプロンをしていることから、台所で何かしていたようだ。そんな沙希は、甥っ子の悠人から見ても美人だなと思う人で、母の弥生も羨ましがる美肌の持ち主だった。農家なのに日焼けしていないのは、手入れのたまものであるとか。
「お世話になります」
「いいのよ。さ、早く上がって。丁度今、冷やしていたスイカを切ってたの」
「ははっ」
早速かと思いつつ、悠人は大きなボストンバックを肩にかけると玄関に回った。信明はそのまま軽トラックで田んぼの確認に行くという。悠人が降りるとすぐに出て行ってしまった。
「涼しい」
玄関は東側にあり、この時間は少しひんやりとしている。土間になっているそこから上がると、すぐに右手が台所だ。左手を少し進んだところに和臣が使っている部屋があるが、そちらは今は当然ながら無人で、とても静かだ。
いや、家全体がどこか静かで、そしてひんやりしている。冷房を効かせているわけではないのに、不思議なことだ。昔ながらの知恵が詰まっているからか。冬は寒そうだが、夏はとても快適だ。
「いつもの部屋を使ってね」
「あっ、はい」
廊下のひんやりした空気を堪能していたら、沙希がスイカを持って現れた。悠人は恥ずかしくなって、慌てて廊下を進む。南側の大きな部屋が客間として使われていて、小さい頃は両親とその部屋で川の字で寝たものだ。今回は一人だから、八畳もある部屋を独り占めできてしまう。
「ううん。広すぎて困る感じ」
部屋の隅にカバンを置いて見渡すと、ちゃぶ台だけが置かれた部屋は非常に広く感じた。すぐそこに見える庭や畑、さらに遠くに見える山々が、遠くに来たなという気分にさせた。しかし、同時に慣れた風景でもある。毎年のように一週間はここに滞在しているのだ。すぐに感覚を取り戻すだろう。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる