悩みの夏は小さな謎とともに

渋川宙

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第15話 怪しいのはおばあちゃんだ

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「なるほど、確かに和臣の血縁って感じの顔をしているな。品のいい顔をしている。俺は宮本。そこで米作ってんだ、よろしくな」
「よろしくお願いします」
「固くなんなくていいよ。新井とは親友なんだ。遠慮はいらないぜ。で、噂って何だよ」
 興味津々に訊ねられ、なぜか悠人が志津の話を哲太にすることになる。すると哲太も志津を知っているので、変だなと首を傾げた。
「あのばあちゃんがでっち上げの怪談で二人をからかうわけないし、老人会で聞いたんだろ。不審者だったらまず俺たちに相談するはずだよな。ううん。それは怪しいぜ」
「あの、老人会ではなく老人ホームですよ」
「大丈夫大丈夫、似たようなもんだろ。介護士がいるかいないか、それだけの差だ。しかもその介護士やってるのだって、もうじじばばと変わらねえのに。元気なじじばばの集会所みたいなもんだよ」
 悠人の訂正は、哲太によってとんでもない情報へと変換される。そうなのかもしれないけど、その感想は酷くないか。それとも、これぞ過疎化と少子高齢化の見本ってことか。
「ここで会えたのは丁度よかった。一体何を企んでいるのか、噂がどこから出てきてどうやって出来上がったのか、宮本のところの爺さんに確認してみてくれないか」
「ああ、それならばお安い御用。うちのじっちゃんも毎回楽しそうに行ってるからな。志津さんと喋っているはずだ」
 こうして何故か謎の人物探しは、まずはそもそも噂とは何なのかを確かめることから始まることになった。その後、和臣と哲太は連絡先が変わっていないことを確認し、明日も同じ時間にここで会うことを約束して別れたのだった。



「どうだった?」
 家に戻ると、出来上がっていた作物を収穫する作業を終えて一休みしていた信明が、興味津々に訊ねてくる。どうやらこの謎の噂、みんなにいい娯楽を与えているらしい。馬鹿にしつつもしっかり気になっている。
「誰かが出入りしているのは確かみたいですよ。でも、校庭は雑草だらけでしたね」
 先に茶の間に入った悠人が、そう報告する。すると信明はマジで住んでいる奴がいるのかと大喜びだ。
「住んでいるかは不明だ。ただ、校舎の中を綺麗に掃除してあった。だから使用されているのは間違いない」
 そこに台所から麦茶の入ったピッチャーとコップを持って現れた和臣が、喜ぶことでもないし、不審者というのは間違っていると訂正を入れる。
「お前なあ、相変わらず夢も愛想もないな。そこは変な奴がいるんだって思った方が面白いだろうよ。あっ、俺にも入れてくれ」
 そんな息子の冷淡な対応にも慣れている信明は、さっきまで飲んでいた自分のコップを差し出し、麦茶のお代わりを要求する。
「夢はあるし、今の話には愛想も必要ないね。それより、父さんは本当にその話に関して何も知らないのか。校舎を利用しているんだから、この辺にどういう理由で使用していると説明しているはずだけど」
 三人分の麦茶を手早く入れて、和臣はどうなんだと訊く。どうやらこの話は志津が一枚噛んでいる。しかしなぜ情報が他からは出てこないのか。それが謎だと考えているようだ。
「いや、俺は特に聞いたことはないけどなあ。あそこを利用って、何に使うんだよ。まあ、農作業で忙しいから学校の様子なんてここ最近は見たことねえし。でも、寄り合いでもそんな話は出ないしなあ」
 入れてもらった麦茶を一気に飲み干し、信明は全く知らないと断言した。そうなると、ますます危ない人が住んでいるというわけではなさそうだ。もし不審者だとすれば、信明や他の人が何か情報を得ていることだろう。そもそも、噂自体が怪しいのだが、情報源が志津であるだけに全面否定は出来ない。しかも誰かが出入りしている証拠はあった。
「そう。校舎が使用されているということは、これが根も葉もない噂だと断言できない証拠を得てしまったわけだ。ということは、あそこで誰かが何かをしているのは確かだろう。まあ、ばあちゃんの言ったようなマッドサイエンティストでも猟奇殺人鬼でもないのは確かだろうな。だからこそ、おばあちゃんが何を考えてそんな悪ふざけのような情報を付け足したのかが気になる」
「ほう。相変わらずがちがちに理詰めで考える奴だな。まあ、噂話ってのは面白おかしく語ってなんぼだからなあ。どっかで内臓だの悲鳴だのがくっついたんだろう。あの木造校舎は俺が通ってた頃から、廊下や階段はぎしぎし煩かったからな。悲鳴っていうのは、ひょっとしたらそういう音を聞き間違ったのかもしれないし」
 信明は不便な校舎だったとぼやく。まだまだ思い出に浸る年ではないのか、いい印象は持っていないようだった。
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