悩みの夏は小さな謎とともに

渋川宙

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第14話 和臣の同級生

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「うわあ」
「見事に手入れがされていないな」
 近づいてみると、校庭のほとんどが緑に覆われていた。要するに雑草まみれだった。ここだけ見ると、とても人が出入りしているように見えない。校門のところからこそっと覗くも、奥に見える校舎からは人の気配はまるでしなかった。
「住んでいる人なんているのかな」
「さあ。ただ、誰かが出入りしているのは確かなようだな」
「えっ」
 なぜそんなことが解るのか。目を丸くする悠人にここだと和臣が指を差す。そこに目を向けると、確かに草が踏まれた跡があった。その踏まれた跡が何本も雑草の海の中に残っている。校舎に向かうために通った痕跡だ。
「踏みしめられた雑草から推測するに、出入りしているのは男だな」
「ですね」
 草の上に残る足跡だからはっきりとは解らないが、残っている道の幅からして、大人の男性が通ったように思えた。悠人がその道にちょっと足を踏み入れてみると、大体、同じくらいの幅の道が出来そうだった。しかもこの夏真っ盛りにはっきりと残ったままだから、つい最近、何度も踏んだ証拠だ。
 そんなことを考えていると、和臣はすたすたとその草を踏んで中に入っていく。まさか校舎付近まで入ると思わなかった悠人は慌てた。
「だ、大丈夫なの」
「立ち入り禁止になっているわけじゃないから大丈夫だろう。今のところ人の気配もないし。それにぐるっと見て回るだけだ。いきなり建物の中に入ることはない」
「そ、そうでしょうけど」
 人の気配がない気がするだけで、どこからか、ここに住むという変人が見ていたらどうしよう。息を潜めていたら解らないのではないか。そう思ってびくびくとしてしまう。すると和臣に思い切り笑われた。
「ちょっと」
「いや、勇猛果敢に一人でここに来ようとしていたのに、いざとなったらそうびびってるから」
「し、仕方ないよ。こんな荒れているとは思ってなかったし、それに、誰もいないもんだと思っていたからさ」
「誰もいないのに噂は出てこないだろ。確かにばあちゃんの話は不確かな部分ばかりだからな。存在そのものを疑いたくなるのは解るが」
「でしょ」
 いざいるかもしれないとなると、やっぱり怖くなるものだと悠人は力説する。しかし、そんなことを喋っていると、逆に怖さはなくなっていた。それにこれだけ敷地内で騒いでいても、人の気配はまるでしない。
「今はいないっぽい」
「そうだな。あっ、ここから中の様子が見えそうだ」
 校舎の付近まで近づいた二人は、開いたままになっている下駄箱のある出入り口から中をこそっと覗く。こういうところが封鎖されていないとなると、やはり誰かが出入りしているのだろう。ドアはあるが、開きっ放しになっている。それこそ使っている何よりの証拠だ。
「誰かが使っているのは確かみたいだな」
「ええ。しかも綺麗ですもんね。掃除してるっぽい」
 下駄箱から覗いた中の様子は、何年も放置された様子はなかった。それどころか、ちゃんと掃除がされて綺麗だ。埃っぽい感じもなく、今でも学校として使われているかのようだ。ついでに言えば、血が飛び散っているなんてこともない。
「何なんだろう。誰かがいるのは確かだけど、あんな変な噂が出るような感じはしないなあ。志津さん、何を企んでいるんだろう」
 志津の話と校舎の様子は大分違うぞと悠人は首を捻った。ひょっとして揶揄われたのだろうか。しかし、志津がそんなことをする意味が解らない。ついでに、何か知りたいと嗾けることもないだろう。
「ふうむ」
「おい」
 二人で首を傾げていると、後ろから大声で呼びかけられた。おかげで悠人は文字通り飛び上がることになる。
「おや、宮本じゃないか」
「なんだ、新井か。久しぶりじゃないか。東京に住んでるんだろ、帰省か」
「まあね」
 しかし、先に振りむいた和臣の知り合いだったらしく、そんな呑気な会話が交わされる。悠人が恐る恐る振り返ると、いかにも農業やってますというTシャツに作業ズボンという格好の、頭に手ぬぐいを巻いた日焼けした青年が立っていた。彼は宮本哲太みやもとてったといい、和臣の高校の同級生だという。
「ひょっとしてお前も、ここの噂を確かめに来たのか」
 和臣は早速その哲太に噂の真相を確かめようと訊ねる。すると、哲太は何のことだと首を捻った。
「噂って何かあったか。ここってもうずっと使われていないだろ。俺は見慣れないお前らがいるから声を掛けただけだ」
「そうなのか。あっ、こっちは従弟の蓮井悠人」
「蓮井です」
 これ誰と指差され、和臣がさらっと紹介する。悠人もぺこりと頭を下げておいた。しかし、地元民である哲太が噂を知らないとはどういうことか。
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