悩みの夏は小さな謎とともに

渋川宙

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第25話 和臣の知り合い登場

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「化学か、工学か。取り敢えずこの二つなんだろうけどなあ」
 ともかく、ここに来て和臣に相談したことで、二つには絞り込めた。後はどうやって絞り込むかだ。第一志望は国立だから、そこにある学科から考えるべきだろうか。一応は滑り止めで私学も受けるが、学費を考えると出来る限り国立に行きたい。理系だとバイトが難しいという話をあちこちで聞くから、そこは考慮すべきことなのだ。自分の小遣いを削られたくなければ、国立に行く。それは進学に関して両親と話し合うたびに出てくることだ。
「はあ」
 ずるずると畳に寝転んでしまう。これも、家では出来ないことだ。椅子に座っていると、姿勢を崩すことは少ないが、どうにも畳は寝転んでしまう。そうして寝転んでしまうと、疲れていたのかそのまま眠ってしまっていた。
「おおい」
 だから誰かに呼びかけられてはっと目を覚ました時、夕方になっていたのは素直に驚いてしまった。すでに日が傾き、それが赤色になっている。軽く三時間は寝てしまっている計算だ。しかも庭先には見慣れない眼鏡を掛けた青年が立っていた。声を掛けてきたのはこの人らしい。ひょろっとした体形で、どこか和臣と似ている雰囲気を持っている。
「えっと」
「君、和臣の甥っ子だろ。初めまして」
「あ、はい、初めまして」
 その青年は起き上がった悠人ににこっと笑って声を掛けてきた。どうやら和臣の知り合いらしいと解り、悠人は挨拶を返す。
「宮本から聞いたんだよ。東京から帰ってきているんだよね。奴はいるかい」
「え、ええ。でも、大学の人と電話中かもしれないですけど」
「そうなのか。悪いけど呼んでもらっていいかな。おばさんもおじさんも留守みたいでさ、玄関から呼んでも誰も出て来なかったんだ。こっちに周ってみたら君がぐっすり寝てて、悪いかなと思いつつ声を掛けたってわけ。電話中だから和臣も反応しなかったんだな。まあ、あいつのことだから無視されただけかもしれないけど。俺、谷原和哉。谷原が来たって言えば、解ってくれるから」
「あっ、はい。ちょっと待っててください」
 何の説明もなしにあれこれ気安く話す和哉に、変わった人だなと苦笑しつつ悠人は立ち上がった。ひょっとして和哉は高校時代、理系クラスで一緒だった人だろうか。雰囲気からしても、和哉は理系っぽかった。哲太と違って友達だというのがすんなりと納得できる。
「和臣さん、入りますよ」
 玄関横にある和臣の部屋のふすまを開けると、和臣は部屋の真ん中に座ってノートパソコンを操作している最中だった。電話はとっくの昔に終わっていたらしい。部屋は昨日よりさらに散らかっていて、足の踏み場がなくなっている。声を掛けようとしたら、ちょっと待ってと手で制される。
「終わったら、俺の部屋に来てください」
 これはまだ時間が掛かるかなと、そう判断して悠人はそう言っておいた。すると和臣は大きく頷いたから、たぶん大丈夫だろう。和哉を待たせたままにするのも問題なので、悠人は一先ず自分の部屋に戻ることにする。
 廊下に戻ってみると、和哉は縁側に腰掛けてのんびりとしていた。呼べと言った割には急ぎの用ではないらしい。
「あの」
「やっぱり電話中だった」
「いえ、作業中でした。ちょっと手が離せないみたいです」
「ああ、なるほど。大学院生は大変だな。そうそう。俺、和臣の先輩にあたるんだよ。よろしくね。えっと」
「蓮井悠人です。先輩なんですか」
 今更の挨拶に苦笑し、てっきり同級生だと思い込んでいただけに、悠人は驚きを隠せない。すると、若く見られるんだよねと和哉は笑った。
「まあ、普通の社会人と違って好きなことをやってるからかな。ストレスが一般の人より少ないんだろう。これでも俺は隣町でベンチャー企業をやってるんだ。社長だよ。自分の作ったプログラミングを世界に普及させようとしてるってところだな。他にも色々とやっているんだけど、メインはそれ」
「へえ、凄い。じゃあ、谷原さんも工学系ですか」
「うん。小さい頃からコンピュータオタクでね。こんな田舎だからか珍しがられたもんだよ。まあ、二十年前だとまだまだ一般家庭にコンピュータが普及していなかったからなあ。ウインドウズがようやくXPだったか。って、それはいいや。あいつが今では人工知能の研究をしているって聞いたから、あれこれ話をしようかなと思って来たんだ。なんせ向こうは東京にいるからさ、なかなか近況を話す機会もなくてね」
「なるほど。じゃあ、谷原さんは和臣さんの人生に少なからず影響を与えているんですね」
「どうだろうなあ。あいつ、当初は物理に行くって言ってたからなあ。俺と会った時はそんなに興味を持っている感じじゃなかったけど。しかも五歳も上だからさ、それほど影響しそうにないけどね」
 ははっと笑う和哉は、影響してたら嬉しいけどねと付け加える。何とも話し易い人だ。とてもベンチャー企業の社長とは思えない。しかも五つも上だったのか。本人も言っていたがとても若く見える。とすると、今は二十八歳となる。その年齢で社長とは驚きも一入だ。
「あれ、じゃあ、どうして」
「知り合いなのかって。大学でだよ。俺が院生だった時に出会ってね。そしてたまたま同郷だって知って盛り上がったもんだ。それであれこれ話し合う仲になったんだよね。でもまさかの出身高校も一緒だとは、それを知った時は仰け反ったねえ」
「ということは、谷原さんもT大」
「うん、そう」
「はあ」
 急に違う世界の人に見えてきたと、悠人は呆けた声を出してしまった。しかもこの田舎町では出会うことがなく、大学でたまたま知り合った。そんな巡り合わせってあるのかと驚いてしまう。
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