悩みの夏は小さな謎とともに

渋川宙

文字の大きさ
24 / 43

第24話 悩むなあ

しおりを挟む
「それよりも、俺はばあちゃんがこの話題を持ち込んだことが気になるんだ。なぜ志津さんはわざわざそんな話を悠人君にしたのか。しかも興味があるはずだと言ったことが気になって仕方がないね」
 そして、和臣は麦茶を飲み終えると、そう言って今日は空席の志津が座る辺りを見た。志津は今日、あの噂をした老人ホームに行っている。今日はお風呂の日だとかで、にこにこと出かけて行くのを悠人は見送った。年を取ると自分で背中を洗い難いから、老人ホームのサービスを利用しているのだという。なるほど、元気そうに見えてもやっぱりお年寄りなんだなと実感したものだ。
「確かになあ。ばあちゃんは思慮深いっていうか、ま、和臣の性格は隔世遺伝なんじゃねえかって思うことがあるくらいに、余計なことは言わねえからな」
 それにうんうんと同意する信明だ。息子の目から見ても、志津はそういう性格だと断言する。それはあまりここに来ない悠人だって解るくらいだから、よほどしっかりした真面目な性格なのだ。そんな人がわざわざ怪談まがいの噂話をし、親戚の子と孫に謎を解くように嗾ける。これこそ謎だった。
「つまり、揶揄う目的で言い始めたのではないだろう。しかし、治安を気にしてということもないはずだ。本当に不審者ならばまず、青年団に言うだろうからね。俺に言うよりも確実だし、そもそも危ない奴だったら特にそうだろう」
「ああ、宮本さんか」
「そう。もしくは父さんたちが参加している寄り合いだ。治安に関わるならば、どちらかに相談するのが無難だろう。確認して警察に連絡するかどうか、そういう判断をしなければいけない。それなのに、悠人が興味を持つだろうと言って話題にしている。どうにも妙だ。ばあちゃんは確実に校舎を利用している人を知っているんだよ」
「なるほど。ああ、和臣さんも興味を持つって言ってましたね。それって不思議な奴が出入りしているからって理由じゃなかったんだ」
 どうしてこの町の部外者である二人が興味を持つと言って話題にしたのか。確かに気になるところだ。それも、誰もが真面目だと思う人が口にした。これがどうにも違和感を覚える。
「そう。ばあちゃんは不審者ではないと知っていて、それでもあえて怪談めいた話をしているんだ。最大の謎はばあちゃんだよ。あえて俺たちを校舎に関わらせようとしているんだ」
 だからか、和臣はそう断言して嫌だなと肩を竦める。どうやら積極的ではなかった理由は、何かに巻き込まれようとしていると察知してのことだったらしい。
「じゃあ、利用方法が俺や和臣さんの興味があることってこと」
「だろうね」
 利用者ではなく、その利用していることに対して関わらせたい。ううん、でも、それだったらその人を紹介してくれればいいのではないか。どうしてこんな回りくどい方法を採ったのだろう。
「ううん。何を企んでいるのかねえ」
 信明はううんと唸った。そして沙希に意見を求めるように視線を向けるが、何も聞いていないと苦笑されるだけだ。
「でも、変な人じゃないなら良かったわ。まったく、もうちょっと綺麗な服を着ればいいのに、どうしてあんなによれよれの服を着るのかしら。私は不審者だって信じちゃったじゃないの」
 そして、沙希の問題はやはり見た目であって、どういう人かは気にならないらしい。不審者でなければそれでよしという立場だった。
「俺と悠人が興味を持つ、か。やはり、あの可能性しかなさそうだな」
 そして和臣は、また一人で納得してしまうのだった。



 昼食後、和臣は大学にいる共同研究者と電話会議をするというので、悠人は一人で過ごすことになった。今日こそ勉強するかと、ごそごそとカバンの底から夏休みの宿題を取り出した。
「はあ」
 しかし、開け放たれたふすまと廊下の戸のためにセミの鳴き声が聞こえ、さらに爽やかな田舎の風を受けていると、どうして宿題なんてっていう思いに駆られてしまう。こんな長閑な場所にいるのに、あくせく勉強なんてしたくない。そんな気持ちにさせられる。おかげでテーブルの上に問題集とノートを広げたものの、すぐにペンは止まってしまった。そしてしばらく、頬杖を突いてぼんやりとしてしまう。
「和臣さんもこの環境で勉強してたんだよな。すごいなあ」
 ここに来ると、毎年夏休みをしているなと実感する。だからか、何もすることがなく、ぼんやりとする。こんなこと、都会ではまず無理だ。何かが気になるし、やることがなくても何かをしてしまう。そういう生活になってしまう。
 しかし、ここは邪魔するものが何もない。実は勉強には適した環境なのではないか。それにしても、忙しなく行き交う人がいないだけで、こんなにも気分というのは変わるものだろうかと、悠人は不思議になっていた。去年まではそんなことを思わなかったのに、ひょっとして疲れているのだろうか。
「まあ、もうすぐ受験生だしなあ」
 ここに来た目的の一つは、和臣に進路の相談に乗ってもらうことだった。ここ三日、あれこれと相談に乗ってもらっているし、実際に和臣がやっていることも見せてもらって、その目的は達成されている。しかし、人工知能の研究に進むかと言われると、まだ保留という気分だ。自分が人工知能でやってみたいことがない。
 だから、まだ自分の中で何がしたいと具体的にないものの、人工知能でいいかという決め手がない。それでは、他の分野と変わりがないのだ。化学を選ぶにしても、こうやりたいが見つからないまま。生物学は興味がないし、数学も天才的に出来るわけじゃないから却下。選択肢はそれほどないくせに、これといった決め手がない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...