40 / 43
第40話 圧倒される
しおりを挟む
「蓮井君。考え直すなら今のうちだからね。うちの研究室に入ったら先生の世話をしなきゃ駄目だからね。よく考えて選んだ方がいいよ。しっかりした先生は他に一杯いるんだからね」
「そうそう。高見先生がスタンダードって思わないでね。ぴっしりきっちりしている人もいるんだからさ」
しかし、大学院生二人はそんな容赦ない注釈を入れていた。それに悠人は苦笑してしまうが、先ほど仁美が起こしに行ったことを考えると、それも大袈裟な嘘ではないのだろう。何度かこういう場面があったに違いない。それにしても先生の世話か。和臣も将来はそうやって大学院生に迷惑を掛けていそうだなと、ちらっと和臣の顔を見てしまう。
「なんだよ」
「いいえ」
視線に気づいた和臣に睨まれたが、横にいた和哉には何を考えていたのかバレバレだったのだろう。思い切り笑っている。
「大丈夫だよ。悠人君は何でもマルチにこなせるからな。教授の世話だろうが料理を命じられようが何でもやってくれる。まさに即戦力だよ」
「ちょっと、何を言い出すんですか」
でもって、和哉がそんな無責任な太鼓判を押すものだから、みんな揃って大笑いとなってしまった。ともかく、賑やかであることは間違いない。
「じゃ、まずは研究紹介をしておこうかな。その方が共同研究の方向性も決めやすいだろうし」
「ええ」
和臣と和哉の同意を貰い、まずはと久遠はパソコンを取り出した。そこには和哉の作ったロボット紹介も入っているという。この間の住民への説明よりもバージョンアップしたもので、対外的に紹介しやすいものになっているという。
「まずはさっきの話の続きといこうかな。黒田君が説明していたように、うちの研究は今の社会に必要不可欠な技術の開発に繋がっているものがメインだ。工事現場なんかは企業が力を入れていることもあって随分と発展しているが、農業はまだまだだね。それに介護現場なんかも、人に任せきりというのは限界が来るのが見えている。こういう重労働の代替をどうやっていくか、それがメインテーマとなっている」
「つまり、分野は多岐に亘るってことですか。特にどちらも人工知能では複数の学習を必要とするものですね」
和臣の確認に久遠は大きく頷いた。
「そうだね。どちらも画像認識技術だけでは無理だし、そこから複数の動きを解析する能力が求められる。これは人工知能でも難しい部分だと思う。でも、ロボットというある程度のフレームを使うことで、その難問に対する一つの解が得られるんじゃないかと俺は考えているんだ。というのもメインテーマとは言ったが、うちで研究することを大きく捉えると人間の動きの再現性ということになるんだ。だから、どういうものにも応用できる。フレームとなるロボットさえ用意できればどんな場所にも対応できる。それが最終的なゴールだと考えているよ」
「大きいですね」
それってつまり最終的には人型ロボットを作るようなものではないか。しかし、全部を一つのロボットで再現するのは難しいのだと、そのくらいの知識は悠人にもあった。だから場面場面に合わせたものが必要だと考えているというわけか。
「そうそう。でもね、何も人型ロボットである必要はないと思うね。空を飛ぶために鳥を再現していては飛べなかったように、人の労働を手伝うからといって人型である必要はないと思う。それに不気味の谷の問題もあるから、できれば外見はロボットらしさを残した方がいいんだと思うよ。その方が、人間側からしても仕事を任せているという認識に繋がるしね」
「なるほど」
「今の飛行機が出来上がったように、最適な姿というのは必ずあるはずだ。それを探すのも目標の一つになるだろうね。だから色んな形を試していきたいと思っている」
そう語る久遠は目をきらきらと輝かせていた。これが夢中になれることだと、その目が総てを語っている。
「なるほど。そういう動きの最適化を探すにはAIの力を借りた方が早いと考えているんですね」
「それもお願いしたいことの一つだよ。最適化問題にはAIが一番だからね。とはいえ、他にもやって貰いたいことはある」
「解っています。そこが共同研究の内容のメインというわけですね」
「そうそう。問題は数多くあるんだよ。例えば田んぼって大きさが統一されているわけではない。これをクリアするためには、普通のロボットではそれぞれに合ったものを作ることになって非効率だ。それをどうすれば一つで解決できるのか。その見極めとかね。色んなロボットが必要とはいえ、数が増えればそれだけ煩雑になってしまう。まとめられるところはまとめたいのが本音だ。」
「なるほど。田んぼの問題ですと、それを図形として捕らえ、その共通項を見出すようなものですか」
「そうだね。ただ、それだと共通域から外れる部分が解決しないだろ。この解決までAIが担ってくれると助かるんだけど」
「つまり、掃除ロボットのようなAIですね。しかし、そうなると小型のロボットになりますね。田んぼという広大な面積部分の解決と、そういう些末な部分の解決では、やはりロボットの大きさそのものに違いが生まれそうですね」
「そうだね。そこは俺たちの腕の見せ所かな」
会話が急に具体的かつ研究の話になって悠人は圧倒される。こうやって議論して研究は進んでいくのかと、最前線の現場を見せてもらっている気分だ。それにしても、田んぼ一つとっても問題が多くあるらしい。未だに人が多く関わっている理由でもあるだろう。
「そうそう。高見先生がスタンダードって思わないでね。ぴっしりきっちりしている人もいるんだからさ」
しかし、大学院生二人はそんな容赦ない注釈を入れていた。それに悠人は苦笑してしまうが、先ほど仁美が起こしに行ったことを考えると、それも大袈裟な嘘ではないのだろう。何度かこういう場面があったに違いない。それにしても先生の世話か。和臣も将来はそうやって大学院生に迷惑を掛けていそうだなと、ちらっと和臣の顔を見てしまう。
「なんだよ」
「いいえ」
視線に気づいた和臣に睨まれたが、横にいた和哉には何を考えていたのかバレバレだったのだろう。思い切り笑っている。
「大丈夫だよ。悠人君は何でもマルチにこなせるからな。教授の世話だろうが料理を命じられようが何でもやってくれる。まさに即戦力だよ」
「ちょっと、何を言い出すんですか」
でもって、和哉がそんな無責任な太鼓判を押すものだから、みんな揃って大笑いとなってしまった。ともかく、賑やかであることは間違いない。
「じゃ、まずは研究紹介をしておこうかな。その方が共同研究の方向性も決めやすいだろうし」
「ええ」
和臣と和哉の同意を貰い、まずはと久遠はパソコンを取り出した。そこには和哉の作ったロボット紹介も入っているという。この間の住民への説明よりもバージョンアップしたもので、対外的に紹介しやすいものになっているという。
「まずはさっきの話の続きといこうかな。黒田君が説明していたように、うちの研究は今の社会に必要不可欠な技術の開発に繋がっているものがメインだ。工事現場なんかは企業が力を入れていることもあって随分と発展しているが、農業はまだまだだね。それに介護現場なんかも、人に任せきりというのは限界が来るのが見えている。こういう重労働の代替をどうやっていくか、それがメインテーマとなっている」
「つまり、分野は多岐に亘るってことですか。特にどちらも人工知能では複数の学習を必要とするものですね」
和臣の確認に久遠は大きく頷いた。
「そうだね。どちらも画像認識技術だけでは無理だし、そこから複数の動きを解析する能力が求められる。これは人工知能でも難しい部分だと思う。でも、ロボットというある程度のフレームを使うことで、その難問に対する一つの解が得られるんじゃないかと俺は考えているんだ。というのもメインテーマとは言ったが、うちで研究することを大きく捉えると人間の動きの再現性ということになるんだ。だから、どういうものにも応用できる。フレームとなるロボットさえ用意できればどんな場所にも対応できる。それが最終的なゴールだと考えているよ」
「大きいですね」
それってつまり最終的には人型ロボットを作るようなものではないか。しかし、全部を一つのロボットで再現するのは難しいのだと、そのくらいの知識は悠人にもあった。だから場面場面に合わせたものが必要だと考えているというわけか。
「そうそう。でもね、何も人型ロボットである必要はないと思うね。空を飛ぶために鳥を再現していては飛べなかったように、人の労働を手伝うからといって人型である必要はないと思う。それに不気味の谷の問題もあるから、できれば外見はロボットらしさを残した方がいいんだと思うよ。その方が、人間側からしても仕事を任せているという認識に繋がるしね」
「なるほど」
「今の飛行機が出来上がったように、最適な姿というのは必ずあるはずだ。それを探すのも目標の一つになるだろうね。だから色んな形を試していきたいと思っている」
そう語る久遠は目をきらきらと輝かせていた。これが夢中になれることだと、その目が総てを語っている。
「なるほど。そういう動きの最適化を探すにはAIの力を借りた方が早いと考えているんですね」
「それもお願いしたいことの一つだよ。最適化問題にはAIが一番だからね。とはいえ、他にもやって貰いたいことはある」
「解っています。そこが共同研究の内容のメインというわけですね」
「そうそう。問題は数多くあるんだよ。例えば田んぼって大きさが統一されているわけではない。これをクリアするためには、普通のロボットではそれぞれに合ったものを作ることになって非効率だ。それをどうすれば一つで解決できるのか。その見極めとかね。色んなロボットが必要とはいえ、数が増えればそれだけ煩雑になってしまう。まとめられるところはまとめたいのが本音だ。」
「なるほど。田んぼの問題ですと、それを図形として捕らえ、その共通項を見出すようなものですか」
「そうだね。ただ、それだと共通域から外れる部分が解決しないだろ。この解決までAIが担ってくれると助かるんだけど」
「つまり、掃除ロボットのようなAIですね。しかし、そうなると小型のロボットになりますね。田んぼという広大な面積部分の解決と、そういう些末な部分の解決では、やはりロボットの大きさそのものに違いが生まれそうですね」
「そうだね。そこは俺たちの腕の見せ所かな」
会話が急に具体的かつ研究の話になって悠人は圧倒される。こうやって議論して研究は進んでいくのかと、最前線の現場を見せてもらっている気分だ。それにしても、田んぼ一つとっても問題が多くあるらしい。未だに人が多く関わっている理由でもあるだろう。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる