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最終話 夢に向かって
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「そうよね。なにがどう転ぶかなんて誰にも解らないわよ。小さい頃の夢を叶えるってそう簡単なことじゃないしね。それに、大学に入って見ないと解らないこともあるからね。その点、蓮井君はラッキーじゃない。こうして間近で見れて、しかも先生とお近づきになれたんだから。オープンキャンパスでは無理よ。ここまでの具体的な内容は喋ってもらえないもの」
「そうですね」
ここに来る前、悠人もいくつかオープンキャンパスには行った。もちろん大学生になったらという妄想を膨らますことは出来たものの、ではどうしようという具体的なイメージが欠けたままだった。
「その悩みが凄いわよね」
「うんうん。取り敢えず受験乗り切っておこうってなるもんだよ。最終的には偏差値と睨めっこだったりするし。どこかで妥協しちゃうし」
「ですよね。俺も偏差値を考えると、K大を志望するなんて無謀に近いですから、こんなことがなければ目指そうなんて思わなかったです。ううん。でも、俺、先生のところを目指します。今までになく、目指したいって気持ちになりましたから、偏差値なんて努力で何とかなるって思えています」
「あらあら。そこまで勉強を頑張れるんだったら従兄のところじゃなくていいの」
「あっちは、まあ、K大も似たような偏差値ですけど、なんか違うっていうか。凄さが感覚として違うんですよね」
「ああ、解る。T大ってなんか特殊よね。うちも変人の巣窟みたいなところあるけど、あっちは強烈なイメージがあるな」
「変人具合を比較したことはないですけどね」
容赦ない仁美の一言に笑ってしまうが、久遠を見ていれば何となく想像できる。それに、変わっていなければ、大学の研究室の出張所を廃校にしようなんて思わないのではないか。今までにない、廃校の新たな活用方法だよなと思う。
「難しいけど頑張ってくれ。一浪してる奴なんてざら、二浪している奴も珍しくないよ。だから、親が許すんだったら何度もチャレンジすればいいし、目標を持っていれば大学は別のところに入っても、院で目指せるさ」
「はい」
憲明にそう励まされ、決心はより固くなった。問題は浪人を許してくれるかどうかか。ちょっとどころか大分足りない偏差値を思い、悠人はせめて一年は浪人を容認してもらえるように交渉もしておかないとなと、これから両親をどう説得するのがいいかとそこが難関だなと思うのだった。
こうしていつもと違う夏休みは終わりを告げた。何だか色々とあったものの、それは総て将来を悩んでいた悠人自身が引き寄せたものなのかもしれない。おかげで漠然とした不安は消え、代わりに頑張らなければという気持ちだけが残った。
「ま、それが大変なんだけど」
相変わらず観光客で混む電車に揺られながら、長閑な田園風景へと目を向ける。この田園風景の中を、いつか久遠たちが作ったロボットが人間と一緒に働くのだろうか。そんなことを夢想しながらの帰宅だ。家に帰ったら、まずは母親と話し合わなければならないだろう。父親の方は、お盆の間に攻略するしかないが、どうだろうか。
お盆の前半の一日は祖父母の家に行くことになるから、そこが狙い目かもしれない。よく考えると、自分は夏休みをあちこちで過ごしている。これもまた、今だけの醍醐味だろうか。高校生という期間は、あれこれ悩むためにあるのかもしれないな。そんな気持ちになる。
ボストンバックの横にある野菜や漬物の入った紙袋を見ながら、いい夏休みだったなと悠人は微笑んでいた。
そして、月日は過ぎ去り――
「やあ、入学おめでとう」
「ありがとうございます。予想通り、一浪しちゃいましたけど」
三年後の四月。ようやく悠人は久遠と再会を果たしていた。場所はK大キャンパス内の久遠の研究室だ。そこはあの町にある校舎と同じく、秘密基地のようにごちゃごちゃとした空間でありながら、でも、あそこよりは綺麗に掃除された場所だ。そしてその中にいる久遠も、あの長髪でちょっと汚れた格好のままだったから笑ってしまう。今年は年末年始の散髪も忘れていたのだとか。おかげでまだ丸坊主になっていたかったと言い訳していた。
「俺の髪型はいいんだよ。それに何年掛かってもいいんだ。目標を達成できればいいのさ。一浪してるとか関係ないよ。それに見合うだけの努力はしただろ」
「はい」
悠人が大学生になるその間に共同研究は順調に進み、あの田舎町での実験も着々と進んでいた。和臣はその後無事に博士号を取得し、なんとK大で研究者をすることになった。これも何かの縁だろう。今や助教として研究室を一つ任せられているのだという。
「もうすぐ和臣君も来ると思うよ」
「はい」
きょろきょろと研究室を見学していると、しばらくしてぼさぼさ頭の和臣が現れた。何だか三年前よりもっとぼさぼさになっている気がする。ひょっとして久遠がいるから油断しているのか。ふとそんな疑問が過るが、ロン毛になっていないだけマシだろうか。
「よう、無事に来たな」
「うん。まだまだここに加わるまでに勉強することがあるけど」
「ふん。問題ないさ」
和臣にそう言われても何の保証にならないんだけどなと思いつつも、悠人は大きく頷いていた。これはあの夏がくれたプレゼントだ。これからも、夢に向かって頑張っていける。悠人は晴れ渡った四月の空を見ながら、あの不思議で楽しかった夏の日を思い出していたのだった。
「そうですね」
ここに来る前、悠人もいくつかオープンキャンパスには行った。もちろん大学生になったらという妄想を膨らますことは出来たものの、ではどうしようという具体的なイメージが欠けたままだった。
「その悩みが凄いわよね」
「うんうん。取り敢えず受験乗り切っておこうってなるもんだよ。最終的には偏差値と睨めっこだったりするし。どこかで妥協しちゃうし」
「ですよね。俺も偏差値を考えると、K大を志望するなんて無謀に近いですから、こんなことがなければ目指そうなんて思わなかったです。ううん。でも、俺、先生のところを目指します。今までになく、目指したいって気持ちになりましたから、偏差値なんて努力で何とかなるって思えています」
「あらあら。そこまで勉強を頑張れるんだったら従兄のところじゃなくていいの」
「あっちは、まあ、K大も似たような偏差値ですけど、なんか違うっていうか。凄さが感覚として違うんですよね」
「ああ、解る。T大ってなんか特殊よね。うちも変人の巣窟みたいなところあるけど、あっちは強烈なイメージがあるな」
「変人具合を比較したことはないですけどね」
容赦ない仁美の一言に笑ってしまうが、久遠を見ていれば何となく想像できる。それに、変わっていなければ、大学の研究室の出張所を廃校にしようなんて思わないのではないか。今までにない、廃校の新たな活用方法だよなと思う。
「難しいけど頑張ってくれ。一浪してる奴なんてざら、二浪している奴も珍しくないよ。だから、親が許すんだったら何度もチャレンジすればいいし、目標を持っていれば大学は別のところに入っても、院で目指せるさ」
「はい」
憲明にそう励まされ、決心はより固くなった。問題は浪人を許してくれるかどうかか。ちょっとどころか大分足りない偏差値を思い、悠人はせめて一年は浪人を容認してもらえるように交渉もしておかないとなと、これから両親をどう説得するのがいいかとそこが難関だなと思うのだった。
こうしていつもと違う夏休みは終わりを告げた。何だか色々とあったものの、それは総て将来を悩んでいた悠人自身が引き寄せたものなのかもしれない。おかげで漠然とした不安は消え、代わりに頑張らなければという気持ちだけが残った。
「ま、それが大変なんだけど」
相変わらず観光客で混む電車に揺られながら、長閑な田園風景へと目を向ける。この田園風景の中を、いつか久遠たちが作ったロボットが人間と一緒に働くのだろうか。そんなことを夢想しながらの帰宅だ。家に帰ったら、まずは母親と話し合わなければならないだろう。父親の方は、お盆の間に攻略するしかないが、どうだろうか。
お盆の前半の一日は祖父母の家に行くことになるから、そこが狙い目かもしれない。よく考えると、自分は夏休みをあちこちで過ごしている。これもまた、今だけの醍醐味だろうか。高校生という期間は、あれこれ悩むためにあるのかもしれないな。そんな気持ちになる。
ボストンバックの横にある野菜や漬物の入った紙袋を見ながら、いい夏休みだったなと悠人は微笑んでいた。
そして、月日は過ぎ去り――
「やあ、入学おめでとう」
「ありがとうございます。予想通り、一浪しちゃいましたけど」
三年後の四月。ようやく悠人は久遠と再会を果たしていた。場所はK大キャンパス内の久遠の研究室だ。そこはあの町にある校舎と同じく、秘密基地のようにごちゃごちゃとした空間でありながら、でも、あそこよりは綺麗に掃除された場所だ。そしてその中にいる久遠も、あの長髪でちょっと汚れた格好のままだったから笑ってしまう。今年は年末年始の散髪も忘れていたのだとか。おかげでまだ丸坊主になっていたかったと言い訳していた。
「俺の髪型はいいんだよ。それに何年掛かってもいいんだ。目標を達成できればいいのさ。一浪してるとか関係ないよ。それに見合うだけの努力はしただろ」
「はい」
悠人が大学生になるその間に共同研究は順調に進み、あの田舎町での実験も着々と進んでいた。和臣はその後無事に博士号を取得し、なんとK大で研究者をすることになった。これも何かの縁だろう。今や助教として研究室を一つ任せられているのだという。
「もうすぐ和臣君も来ると思うよ」
「はい」
きょろきょろと研究室を見学していると、しばらくしてぼさぼさ頭の和臣が現れた。何だか三年前よりもっとぼさぼさになっている気がする。ひょっとして久遠がいるから油断しているのか。ふとそんな疑問が過るが、ロン毛になっていないだけマシだろうか。
「よう、無事に来たな」
「うん。まだまだここに加わるまでに勉強することがあるけど」
「ふん。問題ないさ」
和臣にそう言われても何の保証にならないんだけどなと思いつつも、悠人は大きく頷いていた。これはあの夏がくれたプレゼントだ。これからも、夢に向かって頑張っていける。悠人は晴れ渡った四月の空を見ながら、あの不思議で楽しかった夏の日を思い出していたのだった。
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