27 / 56
第27話 陰陽師の実力
しおりを挟む
「昔ながらのタイプだな。水が綺麗な時は問題ないが、こういう非常事態では影響をもろに食らうことになる」
「じゃあ」
「そのお米は使わない方がいいだろうな。水もペットボトルのものを使った方がいい」
「ま、マジですか」
「マジですよ。といっても、綺麗な水が家にあるとは限らないだろうから、ミネラルウォーターはこれをどうぞ。大丈夫、お米を炊くのではなくお粥ならば、多めの水にお米を突っ込んでおけばなんとかなる」
「そ、そうですか」
懐からミネラルウォーターのペットボトルが出てくるのもびっくりだが、お粥の炊き方のアドバイスまで出来るとは。陰陽師という謎の職業の割りに意外と有能だ。
「ああ、そうそう。空のペットボトルは返してくれるか。これから使うのでね」
「えっ、はい」
手頃な大きさの鍋に中身を全量入れ、桂花は空になったペットボトルを返した。すると、陽明はどうもと受け取って勝手口から出て行ってしまう。
なるほど、そこから台所にやって来たのか。ということは、井戸はこちら側にあるのか。気になってと勝手口から覗いてみると、その先にはすでに注連縄が張られ、さらに御幣が立てられた井戸があった。その井戸からは、ぞわぞわとした不快な気配が漂っている。陽明はというと、あの空のペットボトルに井戸の水を汲んで入れていた。
「うわあ、本格的ですね」
「覗き見禁止」
「ご、ごめんなさい」
陽明に咎められ、桂花は大人しく引っ込んだ。なるほど、ちゃんと神主だし陰陽師だった。この家や井戸が放つ気配と、ちゃんとそれに合わせて処置をしている様子で納得できた。今まで別に疑っていたわけではないが、怪しさ満点だったが、イメージは少し良くなっていた。
「ううん。でも、不思議よねえ。この地を鎮める陰陽師ってことでしょ。それって凄いことじゃないかしら。それとも、ここは深く考えずに、さすがは京都ということにしておくべきかしら」
桂花はぼやくように呟くと、今度はお米を探すことになった。一体どこに仕舞ってあるのか、自分の家とは勝手の違う台所だから、何がどこにあるのか解らない。
「えっと、炊飯器の近くかな」
きょろきょろと辺りを見渡し、電子レンジの横に炊飯器を発見。その二つが置かれた棚の下は丁度よく収納スペースとなっており、お米を保管するのにお誂え向きだった。
「よしよし」
見事に予想が的中し、そこに米びつが収められていた。中には二キロほどのお米が入っている。そこから一合分のお米を取り出して再びコンロのところへ戻ってくるとパンパンっと高らかに手を打ち鳴らす音がした。そして
「高天原に神留坐す皇親神漏岐神漏美命以ち――」
と低く落ち着いた声音で陽明が祝詞を詠み上げる声がした。途端にぴんっと空気が張り詰めるのが解る。
「凄い」
桂花は思わず手を合わせて目を閉じていた。そして、どうか路代がよくなりますように、龍神様が怒りを治められますようにと祈っていた。
すると一瞬だが、龍神、つまり龍の姿を見たような気がした。目を閉じていたから正確には見たとは言えないのだろうが、きらきらと光る銀色の鱗を持つ龍が、ぺこりと頭を下げるような仕草をしたような気がした。
「――所聞食と申す」
陽明が祝詞を詠み終え、再び柏手を打つのが解った。そこで目を開けると、家の中にあれほど溜まっていた湿気が無くなっているのに気づく。台所の中もぱっと明るくなった感じがした。
「凄い」
「やっぱりお前か」
びっくりしていると、陽明が不機嫌そうに勝手口からこちらを覗いていた。何か悪いことをしたのだろうか。桂花が不安になっていると、こっちへ来いと手招きをされた。
「えっと」
「コンロの火を点けておけば勝手に煮えるだろ」
お粥に対して陽明は雑だった。しかし、先ほどのアドバイスといい、何だか作り慣れている感じがする。だから、桂花もそれもそうかとお米を入れて火を点けておくことにした。そして勝手口から外へと出る。
「ううん。気持ちいい空気」
「ああ。お前の祈りを聞き届けた龍神からのプレゼントさ」
「えっ」
そこでにっこり笑う陽明は、いつもと違って意地悪さが微塵もなかった。そしてあれを見ろと空を指差す。そこには美しい彩雲が広がっていた。
「じゃあ」
「そのお米は使わない方がいいだろうな。水もペットボトルのものを使った方がいい」
「ま、マジですか」
「マジですよ。といっても、綺麗な水が家にあるとは限らないだろうから、ミネラルウォーターはこれをどうぞ。大丈夫、お米を炊くのではなくお粥ならば、多めの水にお米を突っ込んでおけばなんとかなる」
「そ、そうですか」
懐からミネラルウォーターのペットボトルが出てくるのもびっくりだが、お粥の炊き方のアドバイスまで出来るとは。陰陽師という謎の職業の割りに意外と有能だ。
「ああ、そうそう。空のペットボトルは返してくれるか。これから使うのでね」
「えっ、はい」
手頃な大きさの鍋に中身を全量入れ、桂花は空になったペットボトルを返した。すると、陽明はどうもと受け取って勝手口から出て行ってしまう。
なるほど、そこから台所にやって来たのか。ということは、井戸はこちら側にあるのか。気になってと勝手口から覗いてみると、その先にはすでに注連縄が張られ、さらに御幣が立てられた井戸があった。その井戸からは、ぞわぞわとした不快な気配が漂っている。陽明はというと、あの空のペットボトルに井戸の水を汲んで入れていた。
「うわあ、本格的ですね」
「覗き見禁止」
「ご、ごめんなさい」
陽明に咎められ、桂花は大人しく引っ込んだ。なるほど、ちゃんと神主だし陰陽師だった。この家や井戸が放つ気配と、ちゃんとそれに合わせて処置をしている様子で納得できた。今まで別に疑っていたわけではないが、怪しさ満点だったが、イメージは少し良くなっていた。
「ううん。でも、不思議よねえ。この地を鎮める陰陽師ってことでしょ。それって凄いことじゃないかしら。それとも、ここは深く考えずに、さすがは京都ということにしておくべきかしら」
桂花はぼやくように呟くと、今度はお米を探すことになった。一体どこに仕舞ってあるのか、自分の家とは勝手の違う台所だから、何がどこにあるのか解らない。
「えっと、炊飯器の近くかな」
きょろきょろと辺りを見渡し、電子レンジの横に炊飯器を発見。その二つが置かれた棚の下は丁度よく収納スペースとなっており、お米を保管するのにお誂え向きだった。
「よしよし」
見事に予想が的中し、そこに米びつが収められていた。中には二キロほどのお米が入っている。そこから一合分のお米を取り出して再びコンロのところへ戻ってくるとパンパンっと高らかに手を打ち鳴らす音がした。そして
「高天原に神留坐す皇親神漏岐神漏美命以ち――」
と低く落ち着いた声音で陽明が祝詞を詠み上げる声がした。途端にぴんっと空気が張り詰めるのが解る。
「凄い」
桂花は思わず手を合わせて目を閉じていた。そして、どうか路代がよくなりますように、龍神様が怒りを治められますようにと祈っていた。
すると一瞬だが、龍神、つまり龍の姿を見たような気がした。目を閉じていたから正確には見たとは言えないのだろうが、きらきらと光る銀色の鱗を持つ龍が、ぺこりと頭を下げるような仕草をしたような気がした。
「――所聞食と申す」
陽明が祝詞を詠み終え、再び柏手を打つのが解った。そこで目を開けると、家の中にあれほど溜まっていた湿気が無くなっているのに気づく。台所の中もぱっと明るくなった感じがした。
「凄い」
「やっぱりお前か」
びっくりしていると、陽明が不機嫌そうに勝手口からこちらを覗いていた。何か悪いことをしたのだろうか。桂花が不安になっていると、こっちへ来いと手招きをされた。
「えっと」
「コンロの火を点けておけば勝手に煮えるだろ」
お粥に対して陽明は雑だった。しかし、先ほどのアドバイスといい、何だか作り慣れている感じがする。だから、桂花もそれもそうかとお米を入れて火を点けておくことにした。そして勝手口から外へと出る。
「ううん。気持ちいい空気」
「ああ。お前の祈りを聞き届けた龍神からのプレゼントさ」
「えっ」
そこでにっこり笑う陽明は、いつもと違って意地悪さが微塵もなかった。そしてあれを見ろと空を指差す。そこには美しい彩雲が広がっていた。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる