僕と変人の交遊録―赤松礼詞は超偏屈科学者―

渋川宙

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第22話 路人、珍しく熱弁を振るう

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 なんとなく解決した盗難事件だが、最大の問題は残されたままだ。
「ええっ。そっちで勝手に処理してくれるんじゃなかったのか?」
 見合いの日取りを決める。そう言いに来た礼詞に向け、路人はクマさんぬいぐるみを抱っこしたまま不満顔だ。完全におちょくっている。
「勝手に処理は出来ない、というか不可能だと判明した。そこで」
 礼詞はどうしようと、なぜかそのタイミングで暁良の顔をみてきた。
 が、暁良は視線を逸らす。絶対にろくなことではない。そしてしれっと、研究室の掃除を始めた。相変わらず、路人が手当たり次第に散らかしていたのだ。これ幸いと、礼詞の手助けはしない。
「そこで、何?」
 路人は暁良を見ても仕方ないだろと、先を促す。盗難事件の解決に協力してやっただろと、不満たらたらだ。
「そこで、お前にはまず、お嬢様に結婚できない旨を伝えてもらう。その後、なぜか俺と結婚することになる」
「――」
「当初の計画と何も変わってないですね」
 固まる路人とは違い、暁良はゴミ袋に要らない書類を突っ込みながら言ってしまっていた。結局、礼詞が代わりに結婚するしかないらしい。それにびっくりだ。
「といっても、書類上だけ」
「はあ?」
 ますます解らんと、不満の声を上げたのは路人だ。何がどうなれば書類上だけ、しかも礼詞が結婚することになるのか。甚だ不思議だ。
「その。お嬢様は結婚しているという事実だけが欲しいんだよ。それも科学者の旦那がいるってのが重要というだけ。お嬢様なんて言われているから解り難いが、穂乃花さんはすでに立派な政治がであり、独立心の強い人だ。が、政治の世界はまだまだ古い。結婚していることがステータスであるらしいんだよ」
「馬鹿馬鹿しい」
 礼詞の説明を一蹴する路人。何だか妙な構図だ。
 しかし、路人の感覚は正しいだろう。今時、結婚していることが重要ってと、昔好きの暁良でも思うところだ。
「まあ、仕方ないのかもしれないと、俺は納得できるから書類にはサインすることにした。それだけだ。女性というだけで大変だということを、あの後一色先生から死ぬほど聞かされた後だし」
「――」
 穂波は一体、何を語ったのだろうか。絶対に大幅に盛って話したに違いない。そもそも、彼女の生活も結婚も子育ても、どれも一般女性のそれに当てはまらないではないか。苦労が違うと思うのだが。
「まだ男女差別とかやっているのか。人間は暇だな」
「身も蓋もないこと言うなよ」
 たぶん色々と考えた末の発言だろうが、路人のそれは何の解決にもなっていない。暁良は注意する。
「でもねえ。どうしてそう拘るのかなって、いっつも不思議なんだよね。男だからとか女だからとか、それって重要なのかな? この大学にしてもさ、男女比が7対3って異常だよ。これだけテクノロジーが大切だ、人工知能が重要だと言っているのに。どうして女性は工学を目指さない!?」
 どんっと、珍しくクマさんぬいぐるみを床に投げつけて熱弁を振るう。路人もちゃんと教授なんだなと、実感する瞬間だ。が、すぐにクマさんぬいぐるみを拾ってなでなでするので、何だか話が入って来ない。
「今、それについて議論しているわけではない。政治家の話だ」
 礼詞も一連の動きに驚いたようだが、冷静に話しの軌道修正を計る。さすが、長年の付き合いで路人の奇行には慣れている。
「政治家だって変だろ? あそこも男女比がおかしい」
「だから、今はその差に関して議論しても進まないんだよ」
 路人は納得できないと、ふんっと鼻を鳴らす。が、礼詞はそこまでではない。仕方ないと割り切れる部分がある。というか、決まっていることを捻じ曲げるつもりがないのだ。性格が二人とも、違う方向に捻じ曲がっている。
「なぜだ。そこを解決すれば、お前の書類上の結婚は必要なくなるだろ?」
 お、路人にしてはまともな意見だ。書類上の結婚なんて納得しないという立場らしい。
「すでに散々議論して、面倒ではない方法を採択したんだ。それにお前には関係ない、ごねても仕方ないだろ」
 が、礼詞は一度決めたら一直線タイプ。決まったことを覆すつもりはない。
「ああっ? そのくらいの労力を惜しんでどうする? 今後、似たような問題が浮上したらどうするんだ? あいつらすぐ、前例があるとか言うぞ。今回乗り切っても、また次の犠牲者を出すだけだ。科学者は政治家のおまけじゃない!」
 路人、熱弁を振るう。その二が発動した。暁良はどうしたと、その変化に驚く。
 が、これは外向けの会議の時と同じだ。つまり、こういう議論が意外と路人は大好きなのだ。だから政策会議に呼び出される。
 にしても犠牲者って。礼詞を目の前にして言うことだろうか。その辺の配慮はない。
「――じゃあ、どうするんだ?」
 その勢いに飲まれそうになった礼詞だったが、対案を出せと要求した。このままでは堂々巡りだ。
「それはもちろん、俺がそのお嬢様に懇切丁寧に説いてやる。そもそも、結婚なんて俺は面倒な手続きの一つとしか思えない。いい加減、止めればいいと思うんだよね」
「そこまで行くと、極論だろ?」
 暁良は思わずツッコミを入れる。これ、路人の幼少時代の経験が言わせているだけだ。マザコンだが、穂波への恨みも同じくらいに持っている。そういうことである。
「そうかな。一緒に生活したいならば、勝手にすればいい。子どもの問題だけだろ? 今や子どものいない家だってあるのにさ。もはや結婚を持ち出すことは、男女どちらにとってもセクハラだと認識すべきだと思うんだよね。やるなら、個人の自由とちゃんと捉えないと。何歳になったらとか、この地位になったら結婚って、馬鹿馬鹿しい」
 極論かと思いきや、意外と真面目な答えが返ってきた。
 ううむ、路人の意外な一面が発覚だ。世間知らずの発明馬鹿だと思っていたのに、ちゃんとした認識を持っている。
「――あの、取り敢えずお嬢様に会う日を決めてくれ」
 妙な議論になって来たと、礼詞はともかく最初の目的を思い出し、そう言っていた。
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