僕と変人の交遊録―赤松礼詞は超偏屈科学者―

渋川宙

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第23話 意外すぎる

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  どうしてこうなったのだろうと、暁良だけでなく礼詞も紀章も悩んでいた。それは見合い相手の父親である、吉岡尚春も同じだろう。
「ようやく先生がお越しくださいましたね」
 そんな周囲に関係なく、テーブルで向かい合う穗乃花は、そう言って頬を染めている。
 が、目の前にいる路人はいつもどおり、クマさんぬいぐるみを携え、あろうことか、それを撫でていた。
「君が妙な妄想に取り憑かれているというのでね。出向いて正すより他ないと思っただけだ」
 そして、路人の答えはどこまでも冷たい。紀章の胃痛が、暁良には手に取るように解った。こちらの胃も限界に近い状態だ。
 そんな苦しく重い空間を、唯一楽しんでいる人物がいた。そう、穂波だ。こうなったのも、総て穂波のせいであり、誰も得しない状態が生み出されているのだ。
 この女傑を敵に回してはいけない。それが今回の教訓の最も大きい部分だ。
「妙な妄想とおっしゃいますと?」
 穗乃花は失礼なことを言われても、にこにこと訊く。相手が変人であることは織り込み済みなのだ。さらに扱い難いことも。どう考えても上手だ。
「結婚が必要だという考えだ」
「まあ。将来、先生と子供を作ろうと思えば、当然の前提条件ではありませんか?」
「――」
 そして気づく。穗乃花はやはり政治家だ。口で勝つには、相当弁が立たなければならない。暁良はそっと路人の顔を覗き込んだ。見事に固まっている。
「先生?」
 その様子がおかしかったようで、穗乃花はお上品に笑った。すげえと、暁良は感心するしかない。
 路人も年貢の納め時が来たということだろうか。しかし、そう簡単に負けを認める男ではない。
「子供がほしいのか?」
「もちろんです。それは生物として当然ですよね?」
「人間において、それは当然ではないな。選択肢の一つだ」
 あれ? 何の話をしに来たんだっけと、二人のやりとりに暁良は首を捻りたくなる。いつの間にか結婚が子供の話に変わっている。
「選択肢の一つ、ですか? だから結婚が前提のお話を受けて頂けないと?」
「それもある。が、君に結婚は必要なのか?」
 おっ、話が戻った。一体このやりとりは何なのだろう。
 取り敢えず、見合いではないことは確かだ。尚春が紀章を見たまま固まっていることからも、それは解る。
「必要ではないと、そう考えたことはないです。今の法律から考えてみても、結婚することのメリットは大きい」
「収入上、君には関係のない話だな」
 穗乃花の意見を路人はばっさりだ。学生を相手にしているのと変わらない。
「ううん。先生の考え方は、予想以上に面白いです」
「そうか? 君の考えを解るように述べてくれないかな? 一般論はここでは不要だ」
 あんたが一般論を持ち出しているんだろうと、暁良は思う。路人が全く自分との結婚という話題にしたくないと考えているから、こんな遠回りをしているのではないのか。
「結婚が大事ということについて、ですか?」
「その通り。俺が見ている限り、君にとって結婚というのは政治のツールでしかない。それでいいのか? もし具体的に将来の家庭を想像しているのならば、俺が不適切であることはすでに理解しているはずだ。その辺りを具体的に」
 これ、口頭試験ですかと、暁良は自分の受験を思い出してうんざりした。飛び級の試験にはこういう口頭試験があるのだ。その試験官の一人が紀章だったのは言うまでもない。
「先生が不適切であるというのは、根拠がないです。優秀さを求めるならば、先生をパートナーに選ぶのは当然だと思いますわ。それに今、これだけロボットやIT技術が進歩しているんです。子育ては一昔前ほど難しくないです。互いの生活リズムの差は関係ない時代ですよ。政治のツールというのは、否定できないことですけど、また別問題です」
 穗乃花は淀みなく答えてくる。ううん、すげえなと、そんな感想以外持ちようがなかった。少し離れたところでやり取りを見ている穂波は、笑いを堪えるのに必死なようだ。
「考えの差異、そして結婚への考え方の差異。生活というものの考えの差。様々なことが解ってきたな。まず、俺の人生において、結婚というものは存在しない。なぜなら、人生という有限時間において、やることが多い。結婚して相手に合わせる時間というのを想定することはない。子供に関しても同じだ。ここまではいいか」
 そして路人は真剣にそんなことを言い返す。見合いというより討論。そして路人の人間性のなさの発露と、暁良は分析する。紀章は呆れ返って、視線がもう明後日の方向を向いていた。尚春は額を押さえている。
「先生はまだまだ研究し足りないと、そう思われているんですか? 一年半、姿を隠していたのに?」
 穗乃花の反論は、ちょっと棘があった。まあ、詳しい事情を知らなければそうだろう。研究から逃げていたと取られても仕方ない。
「あれはトラブルというものだ。現に、今は研究を複数抱えているし、何より一年半、まったく研究をしていなかったわけではない」
「そう、でしたね。論文が何本か出てましたね」
 穗乃花が失礼しましたと頭を下げる。どこまでも噛み合わない。
 どうしてそこまで路人と結婚したいんだと、暁良でさえ謎になってきた。拘る必要も理由もないはずだ。もっと物分かりのいい、それでいて頭のいい旦那を見つけた方が断然早い。
「それで、どうして俺なんだ?」
 それは路人も思ったようで、ついに直接的な質問を投げた。というより、無駄を悟ったらしい。
「あら。一目惚れです。様々な理由は、後付けですわ」
「――」
 路人、フリーズタイムに突入。
 意外だ。意外すぎた。もちろんその場に居た男性全員、尚春も含めて同じようにフリーズしてしまっていた。
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