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第14話 次は図書室にしよう
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「まあ、あれは例題だったんだ。深く考えるのは止めよう。それより続けるんだろ?次はどうする?」
どうやら話し合いは終わったということで、芳樹は次の議題に移ることにした。
「そうですね。情報をくれた友人はどうやら図書室の謎を解決してほしいようですし。これはどうですか?」
桜太は先ほどの過酷な終業式を思い出しつつ言う。悠磨はあれでも多分気にしてくれているのだろうし、解決するのは悪くないと思える。ただし、あのにやにや笑いだけは許せないが。
「勝手に本が落下するというやつだな。これはどう考えても物理現象だろう」
物理系頭脳の莉音が即座に反応する。彼の頭の中にはすでに万有引力の式が浮かんでいた。
「棚の傾きではないのか?しかし一部だけという話だったよな」
楓翔も問題点の検証を始めた。解けそうな問題を前にしてじっとしていられないのは科学部である以上仕方がない。
「その本が載っている棚板だけが問題なのかもしれないぞ。微妙な歪みが作用しているのかもしれない」
迅も補足するように意見する。どうやら数学パズルが解き終わったらしい。
「けれどもそれなら悠磨にも解ける気がするんだよな。自分で検証してみたらしいし。何が問題なんだろう」
悠磨がわざわざ嘘を吐くとは思えないので、桜太は問題が難しいはずだと思っている。
「つまりこの場では答えが出ないわけだ。諸君、取り敢えず図書室に討ち入りだろう」
亜塔が妙な陣頭指揮を執り始めた。問題を解決する場に討ち入ってどうする気なのか。どうにも間違っている気がする言い方だ。
「図書室に行くにしても、まだ閉まってますよ。開くのは1時からです。今はまだ図書委員も昼食中です」
時計を確認して優我が指摘した。時間は12時を少し過ぎた頃だ。優我は普段から図書室を頻繁に利用しているので夏休み中の開室時間にも詳しい。
ちなみに優我が毎回のように遅刻して来るのもこの図書室のせいだ。この学校の図書室は学園長の方針で大きく作られており、北館の一階の大部分を占めている。蔵書数も高校の図書室とは思えない数があった。
「昼食。そうだ、我々も昼にしないと。わざわざ母上に頼み込んで作ってもらったのに」
桜太は早速弁当を鞄から取り出した。もう夏休み扱いでチャイムが鳴らないせいで昼に気づかなかったのだ。
「こんなに大人数で、しかも広々と食べれるなんて久々だな」
同じように弁当を取り出す芳樹の呟きは、亜塔にすれば原稿用紙750枚分になる不満の一部を表わしているのだろう。特に芳樹はカエルを携えているせいで除け者にされがちだ。カエル柄の可愛い弁当包みも効果なしというわけである。
「なんか、危機感の増す言葉だよな」
楓翔がこそっと横にいる迅に耳打ちする。
「そうだな。考えるとクラスでは浮いているんだ。このままでは寂しい昼食が待っているかもしれない」
そんな迅の弁当包みは幾何学模様だった。何だか似た者同士な感じがしてしまう。しかし二年生は五人いるので、クラスで誰とも同じにならない可能性は低かった。なぜなら理系クラスは9クラス中3クラスしかない。まだ完全に一人となってしまった芳樹よりましだろうとは思える。
「うげっ。揚げ物が単体になってる!」
そんな悲壮感を吹き飛ばしたのは桜太の叫びだった。頼み込んでまで作ってもらった弁当は、終業式を過ぎても弁当作りから解放されないと解った母の恨み満載だ。なんとご飯を押しのける形で巨大なスコッチエッグが二つ突っ込まれていたのだった。もちろん野菜はなしである。
弁当を食べてすぐ行動となる科学部ではない。ちょっとは自分の時間が欲しいのだ。
「なあ、変人の定義って何だと思う?」
巨大スコッチエッグのせいでブラックホールに取り組めない桜太は優我に質問する。極度の満腹感にこのまま揚げ物ばかりの弁当を食べていて大丈夫なのかと不安だった。今は標準体型とはいえ、いつ太るか解らない。しかし抗議は受け付けられないのが目に見えているし、最悪の場合自分で作れと言われるだろう。どうにも母も変人である気がしてならない。
「定義ねえ。国語辞典とかだと一般と変わった性質の人って書かれてるぞ」
優我はハイゼンベルクの本を片手に電子辞書を手早く引いた。
「俺たちの性質は変わっているのか」
聞いておいてなんだが、桜太はへこんだ。性質という言葉が何だか悲しい。そして母も変わった性質で間違いない。
その毎日息子が太る可能性を考慮せずに揚げ物を入れ続ける母は何と大学教授である。変人もひょっとして遺伝するのだろうか。だとしたら悲し過ぎる。よく考えると色々と変だ。
桜太の頭の中がカオスになっているところに迅が打撃を加える。
「あれだよ。何か一つことに熱中しているとずれてくるんだよ。あのテニスで熱い人も俺たちから見ると変に映るのと一緒だ」
そんな考証をする迅の手にはリーマン予想の本があった。彼の素数愛も凄まじい。
「テニスの人って誰だ?でもまあ、そうか」
桜太は思い浮かばない人物を放棄して周りを見る。ここにいる誰もが弁当を食べ終えた後には何かに熱中しているのである。その寸暇を惜しむ様を見れば、誰だって変だと思うだろう。
ちなみに芳樹はまたどこかでカエルを捕まえたらしく、小さな水槽を熱心に見つめている。その横で莉音がせっせと計算中であり、さらにその横の亜塔はピンポン玉やビー玉を並べていた。おそらく好きなものの代用品だが、丸いもので何とか凌ごうというその発想が怖い。
どうやら話し合いは終わったということで、芳樹は次の議題に移ることにした。
「そうですね。情報をくれた友人はどうやら図書室の謎を解決してほしいようですし。これはどうですか?」
桜太は先ほどの過酷な終業式を思い出しつつ言う。悠磨はあれでも多分気にしてくれているのだろうし、解決するのは悪くないと思える。ただし、あのにやにや笑いだけは許せないが。
「勝手に本が落下するというやつだな。これはどう考えても物理現象だろう」
物理系頭脳の莉音が即座に反応する。彼の頭の中にはすでに万有引力の式が浮かんでいた。
「棚の傾きではないのか?しかし一部だけという話だったよな」
楓翔も問題点の検証を始めた。解けそうな問題を前にしてじっとしていられないのは科学部である以上仕方がない。
「その本が載っている棚板だけが問題なのかもしれないぞ。微妙な歪みが作用しているのかもしれない」
迅も補足するように意見する。どうやら数学パズルが解き終わったらしい。
「けれどもそれなら悠磨にも解ける気がするんだよな。自分で検証してみたらしいし。何が問題なんだろう」
悠磨がわざわざ嘘を吐くとは思えないので、桜太は問題が難しいはずだと思っている。
「つまりこの場では答えが出ないわけだ。諸君、取り敢えず図書室に討ち入りだろう」
亜塔が妙な陣頭指揮を執り始めた。問題を解決する場に討ち入ってどうする気なのか。どうにも間違っている気がする言い方だ。
「図書室に行くにしても、まだ閉まってますよ。開くのは1時からです。今はまだ図書委員も昼食中です」
時計を確認して優我が指摘した。時間は12時を少し過ぎた頃だ。優我は普段から図書室を頻繁に利用しているので夏休み中の開室時間にも詳しい。
ちなみに優我が毎回のように遅刻して来るのもこの図書室のせいだ。この学校の図書室は学園長の方針で大きく作られており、北館の一階の大部分を占めている。蔵書数も高校の図書室とは思えない数があった。
「昼食。そうだ、我々も昼にしないと。わざわざ母上に頼み込んで作ってもらったのに」
桜太は早速弁当を鞄から取り出した。もう夏休み扱いでチャイムが鳴らないせいで昼に気づかなかったのだ。
「こんなに大人数で、しかも広々と食べれるなんて久々だな」
同じように弁当を取り出す芳樹の呟きは、亜塔にすれば原稿用紙750枚分になる不満の一部を表わしているのだろう。特に芳樹はカエルを携えているせいで除け者にされがちだ。カエル柄の可愛い弁当包みも効果なしというわけである。
「なんか、危機感の増す言葉だよな」
楓翔がこそっと横にいる迅に耳打ちする。
「そうだな。考えるとクラスでは浮いているんだ。このままでは寂しい昼食が待っているかもしれない」
そんな迅の弁当包みは幾何学模様だった。何だか似た者同士な感じがしてしまう。しかし二年生は五人いるので、クラスで誰とも同じにならない可能性は低かった。なぜなら理系クラスは9クラス中3クラスしかない。まだ完全に一人となってしまった芳樹よりましだろうとは思える。
「うげっ。揚げ物が単体になってる!」
そんな悲壮感を吹き飛ばしたのは桜太の叫びだった。頼み込んでまで作ってもらった弁当は、終業式を過ぎても弁当作りから解放されないと解った母の恨み満載だ。なんとご飯を押しのける形で巨大なスコッチエッグが二つ突っ込まれていたのだった。もちろん野菜はなしである。
弁当を食べてすぐ行動となる科学部ではない。ちょっとは自分の時間が欲しいのだ。
「なあ、変人の定義って何だと思う?」
巨大スコッチエッグのせいでブラックホールに取り組めない桜太は優我に質問する。極度の満腹感にこのまま揚げ物ばかりの弁当を食べていて大丈夫なのかと不安だった。今は標準体型とはいえ、いつ太るか解らない。しかし抗議は受け付けられないのが目に見えているし、最悪の場合自分で作れと言われるだろう。どうにも母も変人である気がしてならない。
「定義ねえ。国語辞典とかだと一般と変わった性質の人って書かれてるぞ」
優我はハイゼンベルクの本を片手に電子辞書を手早く引いた。
「俺たちの性質は変わっているのか」
聞いておいてなんだが、桜太はへこんだ。性質という言葉が何だか悲しい。そして母も変わった性質で間違いない。
その毎日息子が太る可能性を考慮せずに揚げ物を入れ続ける母は何と大学教授である。変人もひょっとして遺伝するのだろうか。だとしたら悲し過ぎる。よく考えると色々と変だ。
桜太の頭の中がカオスになっているところに迅が打撃を加える。
「あれだよ。何か一つことに熱中しているとずれてくるんだよ。あのテニスで熱い人も俺たちから見ると変に映るのと一緒だ」
そんな考証をする迅の手にはリーマン予想の本があった。彼の素数愛も凄まじい。
「テニスの人って誰だ?でもまあ、そうか」
桜太は思い浮かばない人物を放棄して周りを見る。ここにいる誰もが弁当を食べ終えた後には何かに熱中しているのである。その寸暇を惜しむ様を見れば、誰だって変だと思うだろう。
ちなみに芳樹はまたどこかでカエルを捕まえたらしく、小さな水槽を熱心に見つめている。その横で莉音がせっせと計算中であり、さらにその横の亜塔はピンポン玉やビー玉を並べていた。おそらく好きなものの代用品だが、丸いもので何とか凌ごうというその発想が怖い。
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