科学部と怪談の反応式

渋川宙

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第15話 斜め132度からの七不思議

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 そして二年生も桜太を除いて誰もが熱中していた。優我と迅はそれぞれ興味のあることについて書かれた本を読んでいる。千晴はいつものように周期表を広げるだけでは飽き足らず、化学式を書いていた。そして楓翔は井戸の時にも見ていた地形図を笑顔で見つめている。
「これを守らないといけないんだよな」
 桜太はこの妙なメンバーが過ごせる場所の大切さを改めて感じていた。
「けどなあ。七不思議を斜め132度くらいから解明している俺たちに共鳴する人はいるんだろうか」
 結局はそれが心配な桜太だった。




 まったりと自らの研究に取り組んでしまっていた科学部だが、図書室の謎を忘れたわけではない。3時となってしまったが図書室へと向かった。一階は二階以上に湿度が多い感じがして、どことなく黴臭かった。
「悠磨」
 しかし図書室の中は冷房のおかげか快適で、湿気もない。桜太はカウンターで読書に勤しんでいた悠磨に声を掛けた。
 図書室の中は自習する三年生が何人かいるだけで空いていた。図書委員の主な仕事である貸し出しはあまりないらしい。
「おっ、科学部。次はここになったか」
 悠磨は嬉しそうに顔を上げた。丁度いい暇潰しがやって来たと思っているのだ。その悠磨が読んでいた本はヒッグス粒子についてであり、どうにも同じ変人臭を感じてしまう。しかし桜太がどう追及しても悠磨は同類であることを認めようとしなかった。
「そうなんだ。本が落下するっていうのは物理現象だろ?だから全員が興味あってさ」
 そう言って桜太がメンバーを紹介しようと後ろを振り向いたが、科学部のメンバーは勝手に読書に出かけてしまった後だった。辛うじて残っていた芳樹の手にも本が握られている。ただ単にすでに発見して戻ってきただけらしい。ちなみに持っている本はカエル図鑑で、まったくぶれないチョイスである。
「大丈夫か?」
 呆然とする桜太に悠磨は気の毒になっていた。新入生を獲得して部を存続させたいとの思いはどこに行ったのかと心配にもなる。
「いつものことだ。さっさと問題に取り組まないと回収不能になる」
 芳樹がフォローではなく手遅れと取れる発言をした。しかも芳樹の目がカエルに釘づけとあって妙な説得力だけはある。
「問題の棚はあっちだ」
 なぜか悠磨まで危機感を覚えることとなり、早速案内をするためにカウンターから出た。それにここに科学部が来たというだけでは面白くない。現場に行くまでにメンバーを回収するという手間があるが、それは目を瞑るべきだろう。
おおい、亜塔」
 早速芳樹が手前のほうの棚にいた亜塔を発見して声を掛けた。その亜塔は医学書に噛り付いているところだったのだ。ついに好きの対象が人間のものにまで伸びたかと思うと、芳樹は亜塔の将来が心配だった。このままだと被害が出かねない。亜塔が猟奇殺人に手を染める前に、同じ生物分野として何とかしなければならないだろう。
「この丸さ、やはり人間が一番だよな」
 そんな心配を余所に亜塔は写真に食らいついている。
「亜塔」
 芳樹はちょっと引きつつも、亜塔の肩をカエル図鑑で叩いた。
「ああ、本が落下するヤツね。解ってるよ」
 亜塔は渋々本を戻して合流した。本当は借りたいのだろうが、分厚くて大きいため断念したらしい。
 そのまま図書室を壁伝いに進んで行くと、曲がって一番長い本棚の列に科学部が点々と立っていた。どうやらこの壁伝いに理系の全分野の本が集結していたらしい。回収する手間は省けたが、凄い話だ。要するに入り口付近にあった棚が生物医学系で、芳樹は戻って来れる範囲にいた。そして次が亜塔だったというわけだ。そこから長い部分に入って地学がある。そこは当然楓翔がいる。そして化学があり物理が続き、その奥が数学だった。おかげで千晴の奥に莉音と優我、さらに奥に迅がいるという具合なのである。
「現場もこの一番長い棚なんだ。毎回ここのどこかで発生するんだよね」
 悠磨は棚を見上げて嘆いた。別に悠磨が本をしょっちゅう片付けているのは何も勤勉だからではない。ここの棚を悠磨も利用しているからだった。
「ふうん。それにしてもマニアックな本が多いんだな。ブラックホール関係もかなり充実している。こういう本って大きな図書館にしかないと思って、学校のは利用してなかったよ」
 桜太は物理系の棚に移動して感動していた。そういえば優我がいつも持ってくる本もかなりの専門書だ。そんな本ばかり揃えるとは、この学校の教育方針が謎過ぎる。高校生と大学生を間違えているのではないか。
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