双子協奏曲

渋川宙

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第18話 第二の殺人発生

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「どこだ」
「こんな時に火事」
 三人は立ち上がると、まず煙が天文台室に入っていないかを確認した。ここが一番上なのだ。煙が上がるほどの火災ならばすぐに解る。
「臭いもしないですね」
 特に何かが燃えている感じもしないと天翔は鼻を動かす。異変を感じるほどの臭いはない。煙も上がってきていなかった。すると誰かが間違って押したのだろうか。
「ともかく下に降りよう。どこの警報器が押されたのか確認するのと、本当に火事がないのかを確認しないとな」
 こんな時に悪戯とは考え難いしと、彰真が先に階段を降り始めた。二人もそれに続く。
下の階ではどこで火災があったと騒ぎになっていた。特に学生たちは不安が先に立つのか大声で言い合っている。しかしそれはどれも意味のなさない言い合いで、火事の情報を正確に伝えるものはなかった。さらにその集団の横では、あの佐介が気持ちの折れそうになっている剛大を慰めている。二人の横では女子学生の浦川冬花と修士課程の守山芽衣が困惑の表情を浮かべていた。
「君たちはミーティングルームに戻っていなさい」
 そこに二階の確認を終えた葉月が走って来て、まだ落ち着きのある四人を廊下からミーティングルームへ誘導する。ということは、やはり火事ではないのだ。しかし表情は険しく、ただの誤作動ではないことを伝えている。
「一体何があったんだ?」
 天翔たちが駆け寄ると、葉月はちょっと待ってと口元に指を立てる。これは好ましくない事態のようだ。そして、混乱している学生たちには言えないということらしい。その間にも葉月は残りの学生をミーティングルームへと誘導した。
「ああ、ここに集まっていたか」
 そこに顔色を変えた恭輔が階段を駆け上がって走り寄ってきた。そしてまた殺人だと天翔に耳打ちする。
「えっ」
 連続殺人の可能性は考えていたが、全員が雨漏りの点検に動いているこのタイミングとは予想していなかった。もっと夜に、またこっそり起こるものだと思い込んでいた。なぜならばこの状況では犯人が特定されやすくなる。人間関係の見えない部分が理由ならば、そんなリスクを冒すとは思えなかった。
「一体誰が」
「こっちだ」
 葉月が学生や研究員をまとめてくれていると解り、恭輔はまだ事態を把握していない三人を連れて一階へと駆け出す。たしか一階の見回りは嫌そうな顔をしていた恵介と駆、それに実結と主馬に秀人で行われていたはずだ。この一階の調査人数が少ないのは、点検箇所が少ないためだ。
 一階は夜も近いということもあり、より薄暗く感じられた。廊下の電気も必要最低限しか点けていないためだ。それが、今は不吉な予感を掻き立てる。また予想外の誰かが殺されたのでは。そういう想像をしてしまうのだ。そうなると無差別殺人の様相を呈してくる。しかし何の意味があってここにいるメンバーを殺す必要があるというのか。天翔は答えのない問いを繰り返してしまう。
「こっちだ」
 現場にはすでに駆け付けた雅之が難しい顔をして腕を組んでいる。そこは天翔たちが午後に休憩したあの土産物店の近くの自販機コーナーだった。
その雅之の足元では腰が抜けてしまったのか、恵介が青い顔で床に座り込んでいた。その二人と少し距離を置いて駆と実結、それに主馬の姿がある。
「まさか」
 そう呟いたのが彰真だ。それはそうだろう。いないのは秀人。ということは、恵介の視線の先にある毛布を掛けられたものの正体が秀人ということになる。
「嘘だろ」
 ふらふらと近づこうとする彰真を、恭輔が着ていたTシャツの襟首を掴んで止める。このままでは現場を荒らしかねない。
「どうして。問題を起こしたからですか。それくらいしか思いつかないでしょ」
 自分と同じ研究室のメンバーが殺されたのにと、彰真は止めた恭輔に掴みかかる。それを見て、やはり彰真もギリギリの状態で頑張っていたのだとその場にいた誰もが不安になる。
「大丈夫だ」
 横で唇を噛んで不安に耐える将貴に、天翔はそう声を掛けた。今、取り乱していないのは自分だけというのは皮肉だか、誰かが冷静でいないと場が乱れる。それに、この事件は突発的な印象を受けた。それは先ほども考えていた通り、容疑者が絞り込まれるということにある。つまり一階にいたメンバー、恵介に駆、そして主馬に実結だ。
「お前がやったのか」
 しかし、その冷静さを別の解釈をする奴がいた。先ほどまで茫然自失だった恵介だ。犯人を見つけたと、その顔には鬼気迫るものがあった。
「お、おい」
 恭輔は今度は恵介を止めることになる。天翔に掴みかかろうとしたので、その間に割って入ったのだ。
「だって、こいつさっきからおかしいでしょ。この状況で何とも思わないなんて、犯人以外に考えられない。それにどうして大丈夫なんて言えるんだ。それこそ犯人にしか解らないことだろ。単に大丈夫なんて口に出来るとすれば、それは血も涙もないかだ」
 恭輔が間に入ったことで、より恵介の感情が乱れてしまったらしい。この際だとばかりに悪口が漏れる。それは恵介もまた必死に感情を押し殺していたのだと示すものだ。
そして、そんな天翔も冷静ではいられないくらいに感情が乱れていた。身近にいた人が立て続けに死んで、誰が冷静にいられるか。本当は悔しいから真相を知りたいのだ。任期付きであっても、このメンバーの一人だと認めてもらいたい。今まで抑え込んでいた感情が爆発しそうになる。どうして、幼い頃から感じていた疎外感をここでも味合わなければならないのか。そんな思いが勝手に渦巻いていく。
「血も涙もありませんよ。それだけです」
 しかしそれを認めることは出来ないと腹に力を入れて天翔はそう言い放った。だが、それは売り言葉に買い言葉と取れる発言だ。
「おいおい」
「二人とも止めなさい」
 あまりに冷たく喧嘩腰の一言に、恵介を雅之が、天翔を将貴が羽交い絞めにして引き剥がすことになる。このままでは殴り合いの喧嘩に発展しかねない。一先ず一定の距離を取らせることが必要だ。
「失礼します」
 さすがに日頃太鼓持ちをやっているだけに、雅之が介入してきたことは恵介をすぐに冷静にさせた。しかしこの場には留まっていられないと、顔を真っ赤にして足早に二階へと去って行ってしまう。それを止めるものは、誰もいなかった。しばらく時間が必要なのだ。こういう時にはそっとしておくに限る。
「お前も意外と喧嘩っ早いな」
 抑え込むことになった将貴は、天翔がもう怒っていないと解るとほっと溜め息を吐く。
「別に喧嘩しようと思ったわけじゃ」
 天翔はそんなつもりで言ったのではないと、思わず口を尖らせる。自分の感情のコントロールに失敗するような振る舞いをするなんて、人生で初めてのことだ。後先考えない言葉が出てきたことに自分でも驚いてしまう。
「そういう子供っぽいところがあるとはねえ」
 将貴はこれは面白いと笑ってから掴んでいた腕を解放した。真面目で冷静なことだけが取り柄かと思えば、心の中ではそれを必死に保っていただけだと知ってしまった。そんな子供っぽさに、将貴は今まで以上に天翔と仲良くなれそうな気がした。大学時代から仲良くしていたが、今まではどこか距離を感じていたのだ。
「いちいち煩いな。お二人とも、すみませんでした」
 天翔は自分のやったことが恥ずかしくなり、さっさと将貴を無視して雅之と恭輔に謝っていた。今は自分のことで手を煩わせている場合ではない。
「いや、構わんよ。あれは坂井君が悪い」
 雅之は気にするなと頷いた。それは恵介を特別視していないことの表れでもある。周囲が恵介の行動を不快と感じる理由に、この雅之の取り合わなさがあるのは明確だった。一体どうしてそんな無駄な努力をしているんだ。周囲はそういうネガティブな目で見てしまっている。
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