双子協奏曲

渋川宙

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最終話 事件後の双子は

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 その後は色々と騒ぎになった。まず天文台のメンバーに龍翔が紹介されただけでも騒ぎである。何と言っても急に天翔が二人になったのだ。驚くなというのが無理な話だ。
「なるほど。こうやって並ぶと本当にそっくりだ。黒子の位置も左右違うものの同じくらいの高さにあるし」
 すでに龍翔と天翔の入れ替わりを見抜いて知っていた将貴も、並んだ二人にそう感嘆を上げた。そして双子って離れていても似るものなのかと頻りに質問してくる。しかしそれに対して、龍翔も天翔も明確に答えられないのは、まだ双子として過ごす日が少ないせいだ。一般論を展開するより他はない。
「その、先ほどは失礼しました」
 と、これは葉月だった。恭輔が演技で逮捕された時に龍翔に掴みかかったことを謝ってくれたのだ。
「いえいえ。こちらも騙してましたので」
 それに対し、日頃は千佳から似たような扱いを受けている龍翔は丁寧に返すだけだ。その姿を見て天翔が思ったことは、兄も女性の尻に敷かれるタイプだなということだった。
 そして次に事件の真相がミーティングルームで恭輔から説明され、全員に何とも言えない気持ちが芽生えた。
「警察から、今回のことは薬物が絡む事案とあり、全員の尿検査を行いたいと言われた。あまり疑いたくはないが、まだ隠れてやっていた者がいるかもしれないからな」
 そして雅之からそう説明があり、これに対して何か言うものはいなかった。その後の検査で誰一人薬物反応が出なかったことは幸いと言うべきか。駆を含めたあの四人でのやり取りであったからこそ、事件は止められなかったのかもしれない。
 事件の捜査のために天文台はしばらく立ち入り禁止となったものの、研究への要望が多くすぐに再開となった。所長である雅之は責任を取って辞め、恭輔も慰留されたものの別の研究施設へと移って行った。天翔たちはそのままとなったが、事件のあった場所での研究は気が重かった。
 しかし一つ良いニュースがある。それは大雨の時に交際をカミングアウトした彰真と典佳が、天文台が捜査で使えない間に結婚したことだ。
「あれだ。吊り橋効果だよ」
 結婚したことを将貴に揶揄われた彰真は憮然とした顔でそう言っていたが、顔が真っ赤だった。どうやら公になったことでますますラブラブらしい。そのことが結婚への後押しとなったのは間違いなかった。
「で、兄さんところの問題はどうなったの」
 秋も深まった頃。東日本に就職活動へとやって来た天翔は、久しぶりに再会した龍翔にそう訊ねていた。東日本へとやって来たついでに龍翔の大学を訪れたのである。それは西日本から戻る前、龍翔がしまったと、智史のことを見捨ててきた経緯を喋っていったから気になった、というわけではなく、知行がどうしても会いたいと主張したせいで訪れていたのだ。場所は研究室である。
「どうもこうも。進展なしだな」
 あの日。助けになるはずの龍翔と悠大が西日本へと行ってしまったために知行に一任された智史は、千佳と仲良く喋るという目標は達成したものの、その後は何の進展もない状況で数か月を過ごしている。仲良く喋るという目的は達成したものの、その次のステップにどう進めばいいのか、今もハウツー本と格闘中だ。
その相手である千佳はというと、智史の手伝いのおかげで研究が進んだとほくほくだ。が、智史の好きだという気持ちに気づいた様子はない。
「双子ならば双子って、さっさと言ってくれればよかったじゃないですか。しかも一卵性双生児だなんて」
 それだけでなく、今もちゃっかり研究室にいて天翔をしげしげと観察している。黒子の位置以外に違いはないのかと、それに興味津々なのだ。
「だから事情が事情だからだって言っているだろ。俺だってあんな偶然の出会いがなければ今も天翔とは出会えていないだろうし」
 龍翔はそんな近くで観察するなよと、困惑している天翔の代わりに顔を手で押すことになる。学者というのは興味を持ったことをとことん追求しなければ気が済まないから困ったものだ。
「え。でも弟さん、天文学者なんですよね。じゃあ、教授は前から気づいてたんじゃないですか」
 その指摘に、呑気に三人のやり取りを見ていた知行はびくりと肩を震わせた。そして何事もなかったかのようにその場を立ち去ろうとする。
「先生。だからあの定期入れ、拾ってもすぐに知らせてくれなかったんですね」
 そうはさせるかと、その肩を掴んだ龍翔は笑顔で問う。あの定期入れ、知行が失くしたと気付いた月曜日にはすでに持っていたのは確実だ。どこも傷んでいなかったことが何よりの証拠だ。ということは、龍翔が騒ぎ出すまでは黙っておこうと画策していたことになる。
「それはさあ。色々とあるだろ。君が出席していないはずの学会で姿を見かけたとかいう話は聞くわけだしさ。学者の世界は狭いんだよ。むしろ一年前まで出会わなかったというのが奇跡に近いと思う。うん」
 肩を掴まれた知行は自分のせいではないぞと主張した。たしかに天翔のやっている天文学と龍翔のやっている宇宙論は似たような分野だ。しかしそうそう巡り会うことはない。最近でこそ学部や学科の垣根を超えた学会が多いが、まだ主流となっているわけではない。知行の言い方はちょっと横暴だ。
 そもそも、隣の研究室にいる智史と千佳を考えれば解りやすい。お互いに何を研究しているのか、こんな至近距離でも知らないのだ。学者の世界は確かに狭いが、奥まっていてよく解らない。
「まあ、出会ったからいいです」
 そんな風にじゃれる二人を見て、師弟関係すら自分とは随分と違うものだと天翔は思った。恭輔が真面目な性格だということもあるが、自分にはこんなフラットな関係は難しいだろう。やはり育った環境は大きいなと、天翔は羨ましくなる。
「これで二人が双子だということは広く知られることとなったわけだし、いいじゃないか。黙ったままでいるというのは心理的負担になるだろ。特に、次の職を探している弟君は困るはずだ。うん」
 知行は龍翔の手から逃れると勝手にそう締め括る。まあ、互いに気を使わなくていいし、確かに就職活動で龍翔のことを考えなくて済むようになった。
「天翔。ここの大学は受けないのか。たしか天文学の人員募集が出てなかったっけ」
 気を使わないならば同じ職場でも問題ないわけだと、龍翔は東日本に就活に来ているということは受けるよなと確認する。
「まあ、一応は。でもどうだろう。ここで求められる研究と俺の研究が合うかどうか。天文学も有名なことは解っているけどさ」
 しかし、天翔は乗り気ではないという煮え切らない返事だ。受けてはみるというだけでも良しとすべきか、もっと踏み込むべきか。
「ああ、やっぱりそうなんだ。俺の意見がどこまで採用されるか知らないけど、天文学の教授もよく知っているから言っておいてあげるよ」
「――」
 急にそう申し出る知行に、何だか裏口入学みたいだなと天翔も龍翔も思った。しかし使えるものは何でも使っておくべきだ。それに本人は影響ないなんて言っているが、学内でも有数の力を持っている。
「じゃあ、早速言っておいてください」
 が、そんな凄さを感じていないかのように龍翔は頼むのだった。ここで下手な情報を入れては天翔が畏まってしまうし、採用されても納得できなくなるだろう。
こうして龍翔の周囲は大した変化もなく、智史はまだまだ恋煩いをしているし、悠大は相変わらず朝方に龍翔の机で計算に励む日々だ。千佳は毎日のように龍翔の背中を叩く挨拶を止めない。その中に天翔の姿が加わるのは、もうすぐかもしれない。
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