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第23話 要は心の有り様
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急遽忠行の手伝いをすることになったため、仕上げの依頼してきた姫への嫌がらせへのお役は御免となった泰久である。
「ゲテモノの中で笑わずに済む」
そう言ってほっとする泰久に、面白くないなあと保憲は苦笑い。とはいえ、さすがに他の仕事があるのにやれと言わないだけの分別はある。
「晴明、やれ」
しかし、しっかり弟子に振っていた。自分でやる気はさらさらないのが凄いところだ。で、代役を指名された晴明は嫌そうな顔をしたが、口では勝てないと引き受けている。
「それって結局、晴明様の手柄になるってことですね」
泰久が渋い顔をしている晴明にそう言ったら、思い切り頭を叩かれてしまった。まったく、子孫には容赦のない人だ。
こうしてようやく嫌がらせをするという奇妙な役目は終わったわけだが、泰久は陰陽師って本当に何なんだろうと悩んでしまう。
一方で学問を真面目にこなし、その裏ではあらゆることで暗躍している。それがあれこれ不安がっている殿上人のためとはいえ、何とももやっとする話だ。
そして、そういう裏で必死になってやっていた部分が伝承されず、さらに学問としても衰退した中で陰陽師をやっている自分は何なのだろうと悩んでしまう。
「難しいなあ」
そう思いながら、泰久は忠行とともに近衛中将の元へと向ったのだった。
「ちゃんと出来ているじゃないか」
「は、はい」
で、儀礼的なことは完璧にこなせる泰久は、この時代に来て初めて褒められていた。完璧な陰陽道の祭事。それが出来るというのは、忠行にとって嬉しいことだったらしい。気づいていないところもあったと、参考にされてしまったほどだ。
「でも、これは陰陽道の本質じゃないんですよね」
帰りの牛車の中、泰久は思わずそう訊ねてしまう。それに忠行は少し困った顔をしたが
「陰陽道とは物の道理を知るための学問だ。その中には当然、人々が心穏やかに過ごせるための力になることも含まれている。仏教だって学問でありながら、そういう側面を担っているだろ。それと同じだよ。だから、祭事であることを否定してしまうのは間違っているよ」
と、正面から諭していた。
「人々の心が穏やかに、ですか」
泰久はどういうことですかと忠行を見る。その忠行は優しく笑っていた。
「そう。念仏を唱えても何の解決にもならないけど、それを唱えることで心がすっきりする。それと同じで、障りがあったようだからお祓いをしてもらうというのも、何が悪かったのかを考えるきっかけとなるだろ。人の心はすぐに変わりやすく、また自分では捉えることが出来ないものだ。そういう儀式を行うことで見えるものもあるものだよ」
忠行はもっと視野を広げなさいと付け加えた。それに泰久は素直に頷いたものの、そうじゃないんだとすぐに首を横に振っていた。
「俺は、ここにやって来るまで何一つ考えずにやっていました。一体何故必要なのか。それされも儀礼の中に取り込まれていては、考えるきっかけにもなりません。やっぱり、ちゃんと勉強して、その本質を知らなきゃ駄目だって思います」
そう真っ直ぐに忠行を見て告げると、忠行は満足そうに頷いた。
「随分と成長したもんだ」
「そ、そうですか」
泰久は何も成長していないと思うけどなあと首を捻る。
「いや、ただ教えを請うだけだった君は今、何がどうなっているのか、何をどうすべきかを考えられるまでになっている。これは成長だよ。保憲も晴明も教え方は荒っぽいし雑かもしれないが、しっかり彼らから学ぶんだよ」
忠行はあの二人にもいい影響があるみたいだからねと、嬉しそうに笑った。
そう言って貰えると少し気持ちが楽になるのだが、泰久としてはまだ何一つ身についていない気がするのだった。
「暦注って、要するに吉凶を占うものですよね」
「そうだよ」
一連の仕事が片付いた翌日。泰久は保憲が作っている物を見学していて、ここにも心の安寧のためのものがあったと、不思議な気分になっていた。
暦が緻密な天体観測と計算から導かれることを知った後だと、これほど不思議なものはないなという気分になる。が、以前は真逆だったのだから、これもまた大きな変化だ。
暦注とは、要するにその日にどういうことがあるかが書かれた占いの書だ。今日は西側に出掛けてはならないだとか、何かをすればよいだとか、そういう事が細々と書かれているのである。
「保憲様はこれが必要ではないことを知っているわけですよね。でも、作るんですね」
忠行から諭された後だけに、これはどういう役目があるのだろうと興味を持ってしまう泰久だ。それに保憲はにやりと笑うと
「貴族の行動を制限できると思えば、これほど楽しいことはないよ」
と言ってのけた。
「せ、制限」
「そう。だって、どこに行ってはいけないか、何をやっているかが丸わかりだろ。それに反していたら、脅かし放題だしね」
「そ、その言い方はどうかと」
心の安寧が、一気に怪しいヤバいものに変化したぞ。泰久は顔を引き攣らせる。なるほど、晴明が陰謀好きと言うわけだ。
「でも実際、これを理由に不思議なことを起こすと、疑わずに信じてくれるから楽だよね。こっちは計算結果を当てはめているだけだというのにねえ」
保憲は知らないって怖いよねと苦笑している。
「ゲテモノの中で笑わずに済む」
そう言ってほっとする泰久に、面白くないなあと保憲は苦笑い。とはいえ、さすがに他の仕事があるのにやれと言わないだけの分別はある。
「晴明、やれ」
しかし、しっかり弟子に振っていた。自分でやる気はさらさらないのが凄いところだ。で、代役を指名された晴明は嫌そうな顔をしたが、口では勝てないと引き受けている。
「それって結局、晴明様の手柄になるってことですね」
泰久が渋い顔をしている晴明にそう言ったら、思い切り頭を叩かれてしまった。まったく、子孫には容赦のない人だ。
こうしてようやく嫌がらせをするという奇妙な役目は終わったわけだが、泰久は陰陽師って本当に何なんだろうと悩んでしまう。
一方で学問を真面目にこなし、その裏ではあらゆることで暗躍している。それがあれこれ不安がっている殿上人のためとはいえ、何とももやっとする話だ。
そして、そういう裏で必死になってやっていた部分が伝承されず、さらに学問としても衰退した中で陰陽師をやっている自分は何なのだろうと悩んでしまう。
「難しいなあ」
そう思いながら、泰久は忠行とともに近衛中将の元へと向ったのだった。
「ちゃんと出来ているじゃないか」
「は、はい」
で、儀礼的なことは完璧にこなせる泰久は、この時代に来て初めて褒められていた。完璧な陰陽道の祭事。それが出来るというのは、忠行にとって嬉しいことだったらしい。気づいていないところもあったと、参考にされてしまったほどだ。
「でも、これは陰陽道の本質じゃないんですよね」
帰りの牛車の中、泰久は思わずそう訊ねてしまう。それに忠行は少し困った顔をしたが
「陰陽道とは物の道理を知るための学問だ。その中には当然、人々が心穏やかに過ごせるための力になることも含まれている。仏教だって学問でありながら、そういう側面を担っているだろ。それと同じだよ。だから、祭事であることを否定してしまうのは間違っているよ」
と、正面から諭していた。
「人々の心が穏やかに、ですか」
泰久はどういうことですかと忠行を見る。その忠行は優しく笑っていた。
「そう。念仏を唱えても何の解決にもならないけど、それを唱えることで心がすっきりする。それと同じで、障りがあったようだからお祓いをしてもらうというのも、何が悪かったのかを考えるきっかけとなるだろ。人の心はすぐに変わりやすく、また自分では捉えることが出来ないものだ。そういう儀式を行うことで見えるものもあるものだよ」
忠行はもっと視野を広げなさいと付け加えた。それに泰久は素直に頷いたものの、そうじゃないんだとすぐに首を横に振っていた。
「俺は、ここにやって来るまで何一つ考えずにやっていました。一体何故必要なのか。それされも儀礼の中に取り込まれていては、考えるきっかけにもなりません。やっぱり、ちゃんと勉強して、その本質を知らなきゃ駄目だって思います」
そう真っ直ぐに忠行を見て告げると、忠行は満足そうに頷いた。
「随分と成長したもんだ」
「そ、そうですか」
泰久は何も成長していないと思うけどなあと首を捻る。
「いや、ただ教えを請うだけだった君は今、何がどうなっているのか、何をどうすべきかを考えられるまでになっている。これは成長だよ。保憲も晴明も教え方は荒っぽいし雑かもしれないが、しっかり彼らから学ぶんだよ」
忠行はあの二人にもいい影響があるみたいだからねと、嬉しそうに笑った。
そう言って貰えると少し気持ちが楽になるのだが、泰久としてはまだ何一つ身についていない気がするのだった。
「暦注って、要するに吉凶を占うものですよね」
「そうだよ」
一連の仕事が片付いた翌日。泰久は保憲が作っている物を見学していて、ここにも心の安寧のためのものがあったと、不思議な気分になっていた。
暦が緻密な天体観測と計算から導かれることを知った後だと、これほど不思議なものはないなという気分になる。が、以前は真逆だったのだから、これもまた大きな変化だ。
暦注とは、要するにその日にどういうことがあるかが書かれた占いの書だ。今日は西側に出掛けてはならないだとか、何かをすればよいだとか、そういう事が細々と書かれているのである。
「保憲様はこれが必要ではないことを知っているわけですよね。でも、作るんですね」
忠行から諭された後だけに、これはどういう役目があるのだろうと興味を持ってしまう泰久だ。それに保憲はにやりと笑うと
「貴族の行動を制限できると思えば、これほど楽しいことはないよ」
と言ってのけた。
「せ、制限」
「そう。だって、どこに行ってはいけないか、何をやっているかが丸わかりだろ。それに反していたら、脅かし放題だしね」
「そ、その言い方はどうかと」
心の安寧が、一気に怪しいヤバいものに変化したぞ。泰久は顔を引き攣らせる。なるほど、晴明が陰謀好きと言うわけだ。
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保憲は知らないって怖いよねと苦笑している。
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