江戸のポンコツ陰陽師、時空を越えて安倍晴明に会いに行くも・・・・・・予想外だらけで困ります

渋川宙

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第25話 不思議とは

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 考えることを放棄した時に不思議は現われる。
 保憲の指摘に、泰久の心はもやもやとしたままだった。
 じゃあ、自分の身に起こったことは考えるのを放棄した結果だろうか。
 確かに変わろうと思っても勉強する方法が解らず、過去に行く方法を探した自分は、何かを放棄していたのかもしれない。
 でも、それだけで時空は越えられない。
「ううん」
「どうした? さっきから唸って」
 安倍邸に戻って夕餉を食べている中、ずっと唸っている泰久に、さすがに晴明も無視できなくなっていた。そこで、嫌々ながらも訊いてみる。
「いや、その、俺はどうやってここに来て、どうやったら戻れるのかなって」
 泰久は困っているんですよと、益材と似ているという情けない顔になる。しかし、晴明の目が鋭くなるだけだった。
「ほ、本当ですよ」
 何だか怖くて、泰久は慌てて付け加える。
「それはもちろん悩んでいることだろうが、今のお前は他のことで悩んでいるように見えるぞ」
 晴明の指摘は正鵠を射ていて、泰久はぐうの音も出なかった。泰久は一度白湯をごくごくと飲んでから
「その、不思議って考えないから現われるのでしょうか?」
 と、正面から疑問をぶつけていた。
 それに晴明はどういうことだと、顔を顰めるしかない。どうにも脈略のない問いだ。
「いや、その、保憲様が」
 泰久も唐突すぎたかとそう付け加えると、晴明はなるほどねと、これだけで納得してくれた。さすがは師弟。互いの考えはよく解っているらしい。
 それは、凄く羨ましいな。泰久はじいっと晴明の顔を見た。すると、今度は何だと鬱陶しそうな顔をされる。うん、以心伝心にはほど遠かった。
「いや、あの、晴明様もそう思われますか。不思議は考えないせいだって」
 泰久は無理やりに話題を元に戻したが、晴明も同じように考えているのは間違いない。何と言っても、あははの辻の百鬼夜行すら起こせる人なのだから。
 しかし、晴明は僅かに考える素振りを見せると
「考えないせいというのは横暴な言い方だと思う。少なくとも、その目の前の現象について、何がどうなったのかを考え、調べたのかということだな。考えただけでは、やっぱり不思議だという結論になることを否定出来ない」
 と、自分の考えを披露してくれた。
「どうなったかを考え、調べる、ですか」
 確かに保憲の言い方よりもすんなりと理解しやすくなった。しかし、まだもやもやとしてしまう。
「そうだ。この間の中将の事案を例にすると、百鬼夜行が起こった時に、これは人間がやっていないとすぐに考えるのは、考えていないということだな。何がどうなったの部分が、すでに存在しないものに依拠しているというのは駄目だ」
 すると晴明がすぐにそう解説を始めてくれた。泰久はふむふむと頷き、今までの自分だなと反省する。怪異は当たり前のように存在し、それを取り除くことこそ陰陽師の本分だと思っていた。しかし、現実は怪異がないことを前提に動くのが陰陽師だった。
「では、自分が牛車に乗っていて、奇妙な笑い声に出会ったらどうなのか。まず、間違いなく人の声であることから、暗闇にも関わらず人が居るはずだと考えることが最初だな」
「そ、そうですね。怪異ではないことを前提に考えるのですから」
「そう、そういうことだ。見えないのは手元の灯りが足りないからだ。では、昼間にここに来たら解るだろうかと考え、ともかくそこを別の時間、周囲が確認できる状態で見てみることが必要になる」
「はあ」
「そこに松明の残りなど解りやすい物が残っていれば上々。そうでなくても、人か隠れることが可能だと解れば、少なくとも、人が居た可能性は否定出来なくなる」
「ははあ」
 この間見た現象を逆から考えるとそうなるのか。泰久は思わず手を打っていた。そして、晴明が言ったことは確かに考えて調べる行動だ。
「もちろん、この世の総ての現象を自分で説明することは難しい。しかし、少なくともそれがどうして起こるのかを考える姿勢がなければ、あっさりと騙されてしまうということだ。因果関係をしっかりと見通しているのか。これが肝要だということだな」
 晴明は気負いすぎても駄目だと忠告してくる。それに、泰久はそうですよねと少し気持ちが楽になった。
 不思議だ。晴明に相談するだけで、これだけすんなり理解出来るようになるなんて。
「やっぱり頼りになるご先祖様です」
 嬉しくなってそう言うと、晴明の顔が出会った当初のように、道ばたの馬糞を踏んづけてしまったかのような、嫌そうなものになっている。
「すみません」
「ふん。お前が時空を越えたという異常事態には俺もまだ説明が見つかっていない。のんびりしていないで、今言ったことを実践して考えろ」
 咄嗟に謝った泰久に対し、晴明はお前が一番の不思議なんだよと舌打ちするのだった。
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