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第6話 取り調べその1・瀬田悠花
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改めて翼を交えての取り調べとなり、今度は一人ずつ、ゆっくりと証言を取ることになった。ここでざっとメンバーと殺された奈良圭介について整理しておく。
殺されたのは小説同好会の現在の部長である奈良圭介。経済学部四年の二十一歳だ。部長のくせに幽霊部員であり、しかし飲み会には必ず出席する自由気ままな人物だった。人から好かれるタイプであり、何かと静かなメンバーしかいない同好会としては、彼が飲み会を開いてくれるのは有り難い部分があった。そうでなければ、定期的に飲もうという話にならない。それに部の存続に向けては積極的で、その飲み会の席に興味がある人を何人か連れて来てくれるのも、昴からすると助かる要素だった。
現在、正規に活動しているメンバーはここに集められた五人のうち、航平を除く四人だ。昴は説明の必要がないので割愛。他、友人の広瀬由基は同じく理学部物理学科の三年生。何かとさばさばしていて、小説はSFと推理小説が好きという奴だ。
同じく友人の河合一臣は経済学部三年生。こちらも推理小説を愛読している。というより、この部のメンバーは純文学ではなくそういう大衆小説が好きなのだ。ということで、昴が片想い中で文学部三年生の瀬田悠花も推理小説を愛読していた。もはや推理小説研究会でいいのではという状況である。
最後に前部長の大学院工学系研究科の服部航平だ。現在二十二歳。あまり積極的に活動しない圭介の代わりに、未だ何かと世話を焼いてくれているのが彼だった。小説は何でも読むタイプだ。
その中から、翼の身内である昴は最後となり、まずは唯一の女子である悠花からだった。
「文学部三年の、瀬田悠花です」
そう名乗って翼と麻央の前に座った悠花は、いわゆる文学少女のイメージそのままだった。長いストレートの髪に眼鏡。そしてちょっと陰のある雰囲気と、漫画から飛び出したかのようだった。
「どういうトリックを用いたとしても、彼女一人では無理だな」
そしていきなり、翼はそんなことを言う。しかし悠花は困ったような顔をしただけだった。
「そうですね。その場合、共犯者がいるということでしょうか」
そしてそんな質問までする。悠花はミステリーファンなのだ。こういうイレギュラーな探偵というポジションの人間が現れたことに、密かに興奮しているというのが、その文学少女のイメージとは違うところだった。
「被害者の身長と体重は」
「身長は百七十五センチ、体重は八十二キロだそうだ。相手がある程度酔っていたとしても、男でも一人では難しいとなるのではないか」
この場合、性別は関係あるのかというのが麻央の意見だ。その点に関し、翼もそうだなと頷く。
「仮にあの部室で気を失わせたとして、ぐるぐる巻きにするのはかなりの労力だろう。しかし、てこの原理を用いれば簡単に出来る気がする。シーソーの要領でやるんだ。その場合、やはり体重差のない男の方が簡単に行えることになる。酔っ払っていて無抵抗に近いのならば尚更な」
すでに何か思いついているらしく、翼はそう言った。それにふうんと、この場では問い詰めない。
「で、あの奈良という被害者について教えてほしいんだが」
翼の考えは一先ず横に置き、今は誰がどういう動機で犯行を行ったのか。ここを明らかにしていかなければならない。
「奈良先輩ですか。あまり話したことはないですが、お金持ちっていう印象はありますね。前に一度、とても高級なブランドの財布を持っているのを見たことがありますし、時計も高いものでしたよ。どうして小説同好会なんて入っているんだろう、と思ったことはあります」
これは意外な情報で、麻央はどうだと後ろに控えていた利晴に訊く。
「物盗りの可能性があるってことか。報告によると、財布も時計も見つかってない。しかしスマホもなかったな。縛られていたから、取り上げただけだと思っていたな」
しかし、それだけでは同好会の中に犯人がいないとは言い切れない。圭介が多額の金銭を所有していることを、メンバーならば知っていたはずだ。
「誰かと揉めている、という話はなかったか」
「さあ。奈良先輩は部長を引き受けていたものの、そこは書類上必要だからとしか考えていないようで、あまり部室に来ませんでしたから」
それで悠花の取り調べは終わった。そして次はOBながらよく顔を出すという服部航平から話を聞くことになった。同じ三年生である第一発見者の三人より、何か事情を知っているのではという思惑からだ。
殺されたのは小説同好会の現在の部長である奈良圭介。経済学部四年の二十一歳だ。部長のくせに幽霊部員であり、しかし飲み会には必ず出席する自由気ままな人物だった。人から好かれるタイプであり、何かと静かなメンバーしかいない同好会としては、彼が飲み会を開いてくれるのは有り難い部分があった。そうでなければ、定期的に飲もうという話にならない。それに部の存続に向けては積極的で、その飲み会の席に興味がある人を何人か連れて来てくれるのも、昴からすると助かる要素だった。
現在、正規に活動しているメンバーはここに集められた五人のうち、航平を除く四人だ。昴は説明の必要がないので割愛。他、友人の広瀬由基は同じく理学部物理学科の三年生。何かとさばさばしていて、小説はSFと推理小説が好きという奴だ。
同じく友人の河合一臣は経済学部三年生。こちらも推理小説を愛読している。というより、この部のメンバーは純文学ではなくそういう大衆小説が好きなのだ。ということで、昴が片想い中で文学部三年生の瀬田悠花も推理小説を愛読していた。もはや推理小説研究会でいいのではという状況である。
最後に前部長の大学院工学系研究科の服部航平だ。現在二十二歳。あまり積極的に活動しない圭介の代わりに、未だ何かと世話を焼いてくれているのが彼だった。小説は何でも読むタイプだ。
その中から、翼の身内である昴は最後となり、まずは唯一の女子である悠花からだった。
「文学部三年の、瀬田悠花です」
そう名乗って翼と麻央の前に座った悠花は、いわゆる文学少女のイメージそのままだった。長いストレートの髪に眼鏡。そしてちょっと陰のある雰囲気と、漫画から飛び出したかのようだった。
「どういうトリックを用いたとしても、彼女一人では無理だな」
そしていきなり、翼はそんなことを言う。しかし悠花は困ったような顔をしただけだった。
「そうですね。その場合、共犯者がいるということでしょうか」
そしてそんな質問までする。悠花はミステリーファンなのだ。こういうイレギュラーな探偵というポジションの人間が現れたことに、密かに興奮しているというのが、その文学少女のイメージとは違うところだった。
「被害者の身長と体重は」
「身長は百七十五センチ、体重は八十二キロだそうだ。相手がある程度酔っていたとしても、男でも一人では難しいとなるのではないか」
この場合、性別は関係あるのかというのが麻央の意見だ。その点に関し、翼もそうだなと頷く。
「仮にあの部室で気を失わせたとして、ぐるぐる巻きにするのはかなりの労力だろう。しかし、てこの原理を用いれば簡単に出来る気がする。シーソーの要領でやるんだ。その場合、やはり体重差のない男の方が簡単に行えることになる。酔っ払っていて無抵抗に近いのならば尚更な」
すでに何か思いついているらしく、翼はそう言った。それにふうんと、この場では問い詰めない。
「で、あの奈良という被害者について教えてほしいんだが」
翼の考えは一先ず横に置き、今は誰がどういう動機で犯行を行ったのか。ここを明らかにしていかなければならない。
「奈良先輩ですか。あまり話したことはないですが、お金持ちっていう印象はありますね。前に一度、とても高級なブランドの財布を持っているのを見たことがありますし、時計も高いものでしたよ。どうして小説同好会なんて入っているんだろう、と思ったことはあります」
これは意外な情報で、麻央はどうだと後ろに控えていた利晴に訊く。
「物盗りの可能性があるってことか。報告によると、財布も時計も見つかってない。しかしスマホもなかったな。縛られていたから、取り上げただけだと思っていたな」
しかし、それだけでは同好会の中に犯人がいないとは言い切れない。圭介が多額の金銭を所有していることを、メンバーならば知っていたはずだ。
「誰かと揉めている、という話はなかったか」
「さあ。奈良先輩は部長を引き受けていたものの、そこは書類上必要だからとしか考えていないようで、あまり部室に来ませんでしたから」
それで悠花の取り調べは終わった。そして次はOBながらよく顔を出すという服部航平から話を聞くことになった。同じ三年生である第一発見者の三人より、何か事情を知っているのではという思惑からだ。
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