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第7話 取り調べその2・服部航平
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「工学研究科の服部航平です」
航平は横に准教授がいるという妙な空間に緊張してか、落ち着きのない様子だった。
「工学部出身ということか。小説同好会というわりに、半数は理系なんだな」
麻央の指摘に、それが問題でしてねと航平は頭を掻いた。実は圭介が部長になったいきさつはそこに関係しているのだという。
「というと、理系ばかりでは部長を担うには困るからか」
「そうです。自分でやってみて思ったんですが、工学部にしろ理学部にしろ、三年と四年の時期は忙しいんです。すると、新入生歓迎なんかに時間を割けない。俺の時に月岡君や広瀬君が入ってくれたのは嬉しかったんですけど、後々にそんな問題が出たんですよね。今、三年生しかいないことを考えると、この同好会がなくなる公算が高い。で、まあそういう諦めもあって、日頃あまり参加していない人でもいいかと、奈良君に請け負ってもらったんですよ」
似たような同好会もあるし、このメンバーが集まったのが奇跡のようなものですねと、航平は寂しそうに呟く。
「そうなると、今のメンバーを集めたのは一人の人ですか」
「ええ。すでに卒業されている先輩ですよ。その人が部長の時に今のメンバーが集まったんです。口が上手くて雑学王でね。まあ、そういう関係ですので、小説好きだけでなく、当初はもっと色んな人が入っていましたよ。それがいつの間にか、本当に小説を書くメンバーだけになり、暇つぶしに残っていた奈良君くらいかな。あまり活動らしい活動をしていなかったのも良くないのかもしれないですけど」
よくある話といえばよくある話だ。しかも大学の部活動は、スポーツ系ならばともかく、多くが遊びの延長でやっているところがある。継続性のない奴らが集まっても責められるものではなかった。つまり、この部活は消えゆく運命にあるということのようだ。
「どうだ」
「嘘は言っていないだろう。ただし、奈良君が残った理由には疑問があるな」
航平がうつむいている間に、二人はそう小声でやり取りする。暇潰しに残ったというのが、どうにも腑に落ちない理由だからだ。この部室はそれほど快適な空間ではない。金を持っていたのならば、それこそ他の遊び場で時間を潰すことだろう。それなのに残るメリットが圭介にあったのか。確実に何かを隠している。
ということは、彼は何か別の目的を持ってこのサークルに留まっていたはずだ。それも、圭介にとってメリットのあることでだ。多額の金を持っていたというのも、当人のことをよく知らないから断定できないが、大学生ということを考えると不自然だと思えた。
「隠れ蓑に使っていたってことか」
「だろうな」
二人がこそこそとやり取りしているのが見えたのだろう。航平は落ち着かないようにもじもじとする。そして手を頭の方へと持ち上げた。
「その手、どうしたんですか」
「えっ」
癖なのか、また頭を掻こうとした航平の手がふと気になり、翼が止めた。そしてぎゅっとその手を掴む。さらに自分の近くへと引き寄せた。その突飛な行動に誰もが驚いたものの、翼が掴んだその手はどういう訳か真っ赤だった。何かにかぶれたのか、それとも軽いやけどを負ったのか。
「ああ、これ。先日まだ冷めていない機械に触れてしまって」
「いや、違うね」
にやりと笑った翼の顔は、どう考えても凶悪そのものだった。
航平は横に准教授がいるという妙な空間に緊張してか、落ち着きのない様子だった。
「工学部出身ということか。小説同好会というわりに、半数は理系なんだな」
麻央の指摘に、それが問題でしてねと航平は頭を掻いた。実は圭介が部長になったいきさつはそこに関係しているのだという。
「というと、理系ばかりでは部長を担うには困るからか」
「そうです。自分でやってみて思ったんですが、工学部にしろ理学部にしろ、三年と四年の時期は忙しいんです。すると、新入生歓迎なんかに時間を割けない。俺の時に月岡君や広瀬君が入ってくれたのは嬉しかったんですけど、後々にそんな問題が出たんですよね。今、三年生しかいないことを考えると、この同好会がなくなる公算が高い。で、まあそういう諦めもあって、日頃あまり参加していない人でもいいかと、奈良君に請け負ってもらったんですよ」
似たような同好会もあるし、このメンバーが集まったのが奇跡のようなものですねと、航平は寂しそうに呟く。
「そうなると、今のメンバーを集めたのは一人の人ですか」
「ええ。すでに卒業されている先輩ですよ。その人が部長の時に今のメンバーが集まったんです。口が上手くて雑学王でね。まあ、そういう関係ですので、小説好きだけでなく、当初はもっと色んな人が入っていましたよ。それがいつの間にか、本当に小説を書くメンバーだけになり、暇つぶしに残っていた奈良君くらいかな。あまり活動らしい活動をしていなかったのも良くないのかもしれないですけど」
よくある話といえばよくある話だ。しかも大学の部活動は、スポーツ系ならばともかく、多くが遊びの延長でやっているところがある。継続性のない奴らが集まっても責められるものではなかった。つまり、この部活は消えゆく運命にあるということのようだ。
「どうだ」
「嘘は言っていないだろう。ただし、奈良君が残った理由には疑問があるな」
航平がうつむいている間に、二人はそう小声でやり取りする。暇潰しに残ったというのが、どうにも腑に落ちない理由だからだ。この部室はそれほど快適な空間ではない。金を持っていたのならば、それこそ他の遊び場で時間を潰すことだろう。それなのに残るメリットが圭介にあったのか。確実に何かを隠している。
ということは、彼は何か別の目的を持ってこのサークルに留まっていたはずだ。それも、圭介にとってメリットのあることでだ。多額の金を持っていたというのも、当人のことをよく知らないから断定できないが、大学生ということを考えると不自然だと思えた。
「隠れ蓑に使っていたってことか」
「だろうな」
二人がこそこそとやり取りしているのが見えたのだろう。航平は落ち着かないようにもじもじとする。そして手を頭の方へと持ち上げた。
「その手、どうしたんですか」
「えっ」
癖なのか、また頭を掻こうとした航平の手がふと気になり、翼が止めた。そしてぎゅっとその手を掴む。さらに自分の近くへと引き寄せた。その突飛な行動に誰もが驚いたものの、翼が掴んだその手はどういう訳か真っ赤だった。何かにかぶれたのか、それとも軽いやけどを負ったのか。
「ああ、これ。先日まだ冷めていない機械に触れてしまって」
「いや、違うね」
にやりと笑った翼の顔は、どう考えても凶悪そのものだった。
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