兄貴は天然准教授様

渋川宙

文字の大きさ
11 / 39

第11話 背後に気を付けろ

しおりを挟む
 夜景の綺麗な場所。ここはデートにはうってつけの場所だ。そこで俺は、あることを告白すると決めていた。付き合って半年。この人しかいないと付き合っていたが、それは避けて通れない問題だった。俺は彼女を愛している。しかし、彼女はこの事実をどう思うだろうか。不安だ。
「すごく素敵ね」
 夜景に見惚れる彼女、ユミの横顔は美しい。この星で見た何よりも美しかった。しかしそれだけでなく、その心も素晴らしい。俺はここに来て良かったと、ユミに出会ったことでその思いは強くなった。
「俺、お前に言わなければならないことがある」
 夜景を楽しむそっとユミを抱き寄せ、俺は覚悟を決めて口を開いた。そのただならぬ気配に、ユミが息を飲むのが解る。その緊張が、俺の覚悟を少しだけ揺らした。しかし、これはどうしても伝えなければならないことだ。
「俺。実は――」



「どうせ宇宙人だったという展開だろ?」
「うおっ」
 急に耳元で聞こえた声に、昴は思い切り飛び上がった。今日はちゃんと部屋の鍵を掛けたはず。さらに今は夜中の三時だ。だというのに、部屋の中には何食わぬ顔で翼がいた。しかも大学にいる時と同じくワイシャツにジーンズ姿だ。
「ど、どうやって入ってきたんだ。しかもその恰好は?」
「そんなもの、鍵さえ持っていれば何の問題もない。それより」
「いや、大問題だよ」
 今、さらっと受け流してはいけない言葉があった。鍵さえ持っていれば。どうして持っているんだ、この兄貴は。鍵は自分と、何かあった時用に両親がどこかに仕舞ってある二本しかないはずだ。翼が合い鍵を持っているはずがない。
「いや、母さんがな。毎日のように何か夜中にごそごそやっているから見てくれ、と言って鍵をくれた。どうやら何か怪しいことをしている勘違いしているらしいが、小説を書いていると言っても納得しそうにないんでな。こうして見に来たというわけだ」
 小説のことを言わないでくれたのは有り難いが、だったら見に行った振りで良かったのではないか。相変わらず、完璧なくせに何かがずれている。翼はというわけだと、満足そうな顔をしている。誰かこの兄貴に注意できる人はいないのか。
「で、どうして今から出掛けるような感じなんだ?」
「ああ。今日はサテライト会議でな。早朝から大学に行く必要があるんだ。今は国際会議も現地に行かなくていいという、便利だが味気ない時代なんだよ。しかし時差はどうしようもない」
 そういうところはさすが准教授。ちゃんと仕事しているわけだ。しかし国際会議とはまた、一体何の会議なのやら。
「会議の内容は今後の宇宙論の展開についてだ。まあ、これは予備会議であり、実際の会議には現地に行かなければならないんだけどな」
 じゃあ、さっきの味気ない発言はどうなる。と、昴は相変わらず変な翼に頭が痛くなってきた。ひょっとして予備会議なのに参加しなければならないのが嫌なのか。それとも、予備会議から現地でやってくれれば、向こうにいる期間が長くなっていいということか。よく解らない。しかもせっかく書いていた小説も、またしても平凡の烙印を押されてしまった。異様に疲れる。
「行ってらっしゃい」
「ああ。それともう一つ」
 こっちが本当の用事だと、翼は今、思い出したらしい。今までのやり取りで使った体力を返してもらいたくなる。
「用事?」
 しかし翼が自分に用事とは何だろうか。年が離れているせいか、あまり翼は昴に用事を頼むことなどない。これは非常に珍しいことだった。
「この間、二宮先生の研究に興味があると言っていたのを思い出してな。今日の昼、彼の研究室を訪れることになっているんだ。よかったら一緒に来るか?」
「え、いいのか」
 意外過ぎる提案に、昴はすぐに何かあるなと疑った。すると案の定、翼がにやりと不気味な笑いを浮かべる。せっかくのイケメンも、この顔になると台無しである。しかしそれは同時に、この話は単なるお誘いではないことを示していた。
「な、なんだよ。四年になる前に顔見知りになる機会なんて少ないからな。ちょ、ちょっとくらいならば手伝うぞ」
 しかし興味の方が上回った。それに今から知り合いになっておけば、四年の時の研究室選択で有利に働くのではとの打算もある。だから、翼が企んでいる何かに協力するのもやぶさかではなかった。
「それは助かる。実は――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...