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第9話 お嬢様の企み
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桐山製菓で売り出す新作のお菓子を口実に、桐山泰子は小島将人を呼び出すことに成功した。小島はひょいっと庭から入って来て、桐山のいる縁側までやって来る。それを手で制し、桐山はつっかけを履いて小島に近付くと、お菓子を渡しながら少し手伝ってほしいと頼む。
「はあ、青春ですねえ」
すると、小島は呆れたように笑うだけで、詳しい事情は訊ねてこなかった。どうやらすでに察しているらしい。まあ、それはそうだろう。桐山が積極的に声を掛ける理由なんて、深瀬嘉仁に関することしかない。
「桐山の家のために、私がお婿さんを迎えなきゃいけないことは、よく理解しています。でも、ちょっと会うのにも目くじらを立てられるのなんて、嫌なんです。深瀬さんと会うための方法を思いついただけなの」
おかげで桐山は言い訳するようにそう言ってしまう。それに小島は苦笑しただけで、特に何も言わなかった。それは桐山の家に遠慮してのことだろう。いつ誰が聞き耳を立てているか解らない。
「それで、何をするんですか」
だから、すぐに本題を訊ねてくる。それに、泰子はあれよと蔵を指さした。庭からも見える立派な蔵に、ある秘密があることを泰子は知っていたのだ。
「蔵、ですか」
しかし、その秘密を知らない小島は不可解だという顔をする。それはそうだろう。何かといがみ合っている深瀬との密会場所として、相応しい場所には思えない。それにどうやって蔵の中に深瀬を招き入れるのか。
「大丈夫よ。ちょっと来て」
その小島の反応で、秘密は桐山の家の外には漏れていないのだと知り、この計画が成功すると確認する。そして、協力者である小島に秘密を開示すべく、蔵へと誘った。小島はそれにますます苦笑いすると
「俺が悪い男だったらどうするんですか」
なんて言い出す。もちろん冗談だ。しかし、これから深瀬とここで実らぬ恋の想いを昇華させようとする桐山には聞き逃せないものだ。だから、桐山は僅かに振り向いて睨むと
「小島が村八分に遭ってもいいのかしら。最悪、追放よ」
そう脅しておく。
「怖い怖い。堂穴村で生きていくには、桐山も深瀬も敵に回せないですからねえ。二つの家はこの村の要であり、支配者だ」
それに対して小島はおどけたようすで返すだけだ。そのふざけた態度に、桐山は少しイライラしてしまう。普段は嫌で仕方がない、桐山家の娘という立場であるが、蔑ろにされるのは許せなかった。
「ええそうよ。だから、私の気持ちやこれから見せる秘密についても、誰かに漏らせば、どうなるか。解ってるんでしょうね」
「そんな執拗に脅さんでくださいよ。解ってますよ。先ほどは軽率な発言をしました。許してください」
「まったく」
へらへらと笑う、調子のいい小島に一抹の不安を覚えるが、他に協力してくれる男はいない。この計画にはどうしても男手が必要なのだ。それは深瀬を呼び出す以外にも必要なのである。
やがて蔵へと到着すると、桐山は一度周囲を見渡し、誰もいないことを確認する。すでに夕暮れ、ここにやって来る家人はいないだろう。
「一体蔵に何があるんですか」
「秘密の通路よ」
「へっ」
小島の間抜けな顔に、桐山はようやく笑顔を見せていた。
「はあ、青春ですねえ」
すると、小島は呆れたように笑うだけで、詳しい事情は訊ねてこなかった。どうやらすでに察しているらしい。まあ、それはそうだろう。桐山が積極的に声を掛ける理由なんて、深瀬嘉仁に関することしかない。
「桐山の家のために、私がお婿さんを迎えなきゃいけないことは、よく理解しています。でも、ちょっと会うのにも目くじらを立てられるのなんて、嫌なんです。深瀬さんと会うための方法を思いついただけなの」
おかげで桐山は言い訳するようにそう言ってしまう。それに小島は苦笑しただけで、特に何も言わなかった。それは桐山の家に遠慮してのことだろう。いつ誰が聞き耳を立てているか解らない。
「それで、何をするんですか」
だから、すぐに本題を訊ねてくる。それに、泰子はあれよと蔵を指さした。庭からも見える立派な蔵に、ある秘密があることを泰子は知っていたのだ。
「蔵、ですか」
しかし、その秘密を知らない小島は不可解だという顔をする。それはそうだろう。何かといがみ合っている深瀬との密会場所として、相応しい場所には思えない。それにどうやって蔵の中に深瀬を招き入れるのか。
「大丈夫よ。ちょっと来て」
その小島の反応で、秘密は桐山の家の外には漏れていないのだと知り、この計画が成功すると確認する。そして、協力者である小島に秘密を開示すべく、蔵へと誘った。小島はそれにますます苦笑いすると
「俺が悪い男だったらどうするんですか」
なんて言い出す。もちろん冗談だ。しかし、これから深瀬とここで実らぬ恋の想いを昇華させようとする桐山には聞き逃せないものだ。だから、桐山は僅かに振り向いて睨むと
「小島が村八分に遭ってもいいのかしら。最悪、追放よ」
そう脅しておく。
「怖い怖い。堂穴村で生きていくには、桐山も深瀬も敵に回せないですからねえ。二つの家はこの村の要であり、支配者だ」
それに対して小島はおどけたようすで返すだけだ。そのふざけた態度に、桐山は少しイライラしてしまう。普段は嫌で仕方がない、桐山家の娘という立場であるが、蔑ろにされるのは許せなかった。
「ええそうよ。だから、私の気持ちやこれから見せる秘密についても、誰かに漏らせば、どうなるか。解ってるんでしょうね」
「そんな執拗に脅さんでくださいよ。解ってますよ。先ほどは軽率な発言をしました。許してください」
「まったく」
へらへらと笑う、調子のいい小島に一抹の不安を覚えるが、他に協力してくれる男はいない。この計画にはどうしても男手が必要なのだ。それは深瀬を呼び出す以外にも必要なのである。
やがて蔵へと到着すると、桐山は一度周囲を見渡し、誰もいないことを確認する。すでに夕暮れ、ここにやって来る家人はいないだろう。
「一体蔵に何があるんですか」
「秘密の通路よ」
「へっ」
小島の間抜けな顔に、桐山はようやく笑顔を見せていた。
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