異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第一章 異世界召喚編

11 辛いお茶会

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「さあ、お茶会を始めよう」

 アルカードが真那の手を引くと、アルメリアが眉を顰めた。真那の方は王子様と手と手が繋がって、自分でもはっきり分かるくらい顔が火照っていた。

 アルメリアが不興気な顔で二度手を叩くと、侍女たちがそそくさと動き始めて準備を整えていく。

 アルカードは真那を先に座らせから、その隣に自分も腰を下ろす。真那は、白いクロスのかかっている丸テーブルを挟んだ正面で、赤いドレスの令嬢が微笑していた。真那は挨拶しなければと思ったが、緊張してなかなか声が出てこなかった。

「あ、あ、あのっ」
「そんなに緊張する必要はありません。先ほども、お会いしているじゃありませんか」
「え……」

 真那は思わず令嬢を見つめて、ようやく気付いた。

「あっ、ゼノビア、様?」
「ゼノビアでかまいませんよ」

 今の彼女は、先ほどの女騎士としての彼女とは、あまりにもかけ離れていた。髪型を変え、装いを改にしただけで、気品あふれる貴族の令嬢となり、先ほどとはまるで別人だ。真那が気づかないのも無理もなかった。

 アルメリアがゼノビアの隣に、シャルはアルメリアから出来るだけ距離を取って真那にひっつくくらいに接近した。彼女はアルメリアをあからさまに嫌っていた。

 アルメリアは閉じた扇子を手に持って、侍女たちの動きを見ていた。ユリカの手際の良さが目立つ。逆に短い茶髪の侍女は何だかまごついていた。

 その間、シャルは溜息を呑み込んで考える。
 ――緩衝材の王妃様いないし、これってまずいよ、絶対バチバチになるって!

 この時、当の王妃は、城の二階の窓から中庭を見下ろして、分かったように一人で頷いていた。
「お茶会は若い人たちだけで楽しんでもらいましょう」

 侍女たちが、それぞれ主に手早くお茶を出していく。茶髪の侍女だけ少し動きが遅くて、彼女は震える手でアルメリアの前にお茶を置く。その時にティーカップとソーサーの間で音が鳴って、薄い琥珀の水面が波打って零れそうになった。そして波が落ち着いて零れずに済むと、彼女はほっと一息ついた。その瞬間、アルメリアが閉じた扇子でテーブルを打ち、侍女が震えた。

「こんな下品な音をたてたのは、あなただけですよ! お茶の用意も満足にできないのですか!」
「も、申し訳ありません! お嬢様!!」
「これで子爵家の令嬢というのですから驚きですわ」

 主にそう言われて侍女は涙ぐんだ。下級貴族が上級貴族の侍女として働くのはよくあることだった。主に教養を身に着ける事が目的だが、場合によっては下級貴族が上級貴族と繋がるきっかけにもなった。

 真那は叱られる侍女に自分に通ずるものを感じて、とても気の毒になる。

「もういいです、下がりなさい」

 アルメリアの侍女が頭を垂れて下がった。空気がかなり重くなってしまった。

「さあ、冷めないうちに頂きましょう」
 ゼノビアが気さくに言うと、場の雰囲気が柔らかくなった。

 他の者に倣って真那もお茶を口に含むと、良い香りが口いっぱいに広がっていく。

「おいしい」
「でしょ~、シャル特製のハーブティーだよ」

「シャルが作ったお茶なの!?」
「そうさ! なかなか大したもんでしょ!」

 二人で会話していると真那に抱かれているメラメラが、一生懸命テーブルの中央にある茶菓子のクッキーに向かって手を伸ばしていた。

「あれ、食べる~」
「はいはい」

 真那がクッキーを一枚とってメラメラに渡すと、シャルもクッキーに手を伸ばして両手に一枚ずつ持って食べ始めた。

「やっぱり、お城のお菓子は美味しいね!」
「両手で持つなんて、なんて卑しい……」

 嫌な顔をするアルメリアの前でシャルは平然とクッキーを食べていた。

「わたし平民だもん。礼儀作法なんて気にしないよ」
「こんな田舎娘が妃候補だなんて、なんて嘆かわしい……」

 それを聞いた真那の動きが止まって、ゆっくりとした動作で隣のシャルを見つめる。シャルは真那と目が合うと苦笑いを浮かべた。

「あはは、わたしも一応、妃候補なんだよね。まあ、王妃になんてなる気ないけどさ」

 アルメリアは真那の反応を見ると、扇子を広げて、それで口元を隠してから口角を上げて言った。

「あなたは何も知らないで、ここに来たようですね。ここには五人の妃候補のうち四人が集まっているのですわ」

 真那はショックのあまり呆然としてしまった。他の妃候補と競うとは聞いていたが、まさかその相手のほとんどがここにいて、その中に美しさと勇ましさに驚嘆を禁じえぬゼノビアに、先ほど友達になったばかりのシャルまでもが入っている。この世界で最初の友達のシャルと競うなんて嫌だし、ゼノビアのように雲の上の存在に思える女性と競うなんて考えたくもなかった。

 不安と衝撃に圧し潰されそうな真那に、アルメリアはさらに過酷な現実を突きつけた。

「シャル・ヴゥルストは平民とは言え、希少な魔法使いで、さらに大魔女メイルーダ・ヴゥルストの娘です。性格はどうあれ、魔法の才能は申し分なく、熟練の魔法使いでなければ不可能と言われていた召喚魔術をその若さで成功させて、あなたのこの世界に導いたのです」

「成功ではありません、失敗です。マナはお城に召喚される予定でしたのに、町中に放置されたのですよ」

「この人を異世界から無傷で召喚したのですから、ほぼ成功と言えますわ」

 アルメリアはゼノビアの言葉の途中から被せて言った。そして彼女は、ゼノビアに反論させないよう間髪入れず続ける。

「ゼノビア様は、古来よりロディスを守護してきた、名門ヴァーミリオン家の侯爵令嬢です。文武両道、というのは貴族のご令嬢としてはどうかと思いますが、才色兼備な方なのは間違いありませんわ」

 そして、とアルメリアは扇子を閉じてテーブルの上に置いた。
「わたくし、アルメリア・ミク・ロディスは王家の血縁者であり、殿下とは幼少より面識があります」

「け、血縁?」

 そんな声を漏らす真那を、アルメリアは呆れたというようにため息を吐き、侮蔑的な目で見つめた。

「姓が殿下と同じロディスなのです、その程度は察してもらいたいものです」

 真那の視線は白いテーブルクロスに落ちる。もう誰の顔も見たくなかった。自分がこの場にそぐわない人間だと痛烈に感じる。彼女に抱かれているメラメラにもそれが通じて、一緒に元気を無くしていた。

 そんな真那に、アルメリアはさらに追い打ちをかけるように言った。
「わたくし、薬学に興味があって、薬学院を卒業してメディカの称号も頂きましてよ」

 真那はよく意味がわからず、助けを求めるように隣のシャルを見る。するとシャルは、犯罪者が認めたくない罪を供述するような気持になって喋りはじめた。

「あー、薬学院っていうのは薬師になる為の勉強をする学校で、でもって薬師には9段階のランクがあるんだよ。メディカは上から3番目で、控え目に言ってもすごい」

 真那はすっかり意気消沈してしまい、視線は再びテーブルの上に戻った。その背後では、ユリカが居た堪れない気持ちで立っていた。

 アルメリアの瑞々しい唇が歪んで、妖艶な笑みを浮かべる。今度は扇子で隠さずに、真那にわざと見せつけた。

「あなたは、この三人に比肩するような何かをお持ちなのですか?」
「……ないです」

「良く聞こえません。もっと、はっきりとおっしゃって下さい」
「わたしには、何もありません……」

「アルメリア様、もういい加減になさいませ」

 ゼノビアが口を挟むと、アルメリアが思わぬ形相で睨んできて、男勝りの令嬢騎士を怯ませる。

「黙ってください! 今、とても大切な話をしているのです!」

 大きくはないが、凛と胸に響く力のある声だった。真那は顔を上げてアルメリアの姿を見た。そして彼女と目が合うと怖くなった。ただ、不思議な事に嫌な気持ちにはならなかった。

 アルメリアは、はっきりと言った。
「あなたは妃候補に相応しくありません。悪いことは言いません、今この場で辞退なさい」

 そうだ、その通りだ、彼女の言う事は正しい。真那は正直にそう思った。それに、この世界で普通の女の子として暮らしたいというのが真那の本音でもある。だから言ってしまおうと思った。しかし、王太子と目が合った瞬間に、喉まで来ていた言葉が出なくなる。そして彼の真剣な眼差しに当てられると胸の辺りが熱くなった。
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