異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第一章 異世界召喚編

13 マナと王太子

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 真那がアルカードから視線を外して下を向くと、自然とクッキーを食べているメラメラが視界に入ってきた。お皿に沢山あったクッキーが無くなっていた。

「ぷふ~」
 メラメラは満足してお腹の上に両手を置くとマナの膝の上で眠り始めた。

「なんかすみません、この子一人で全部食べちゃって」
「本当にかわいい子だね、人形みたいだよ」

 メラメラが可愛いと言われるのは素直に嬉しくて、マナがアルカードに笑顔を返す。

「わたしがこの世界に来たのはメラメラと出会うためだったのかも、何だかそんな気がするんです」

「それじゃあ、僕がマナと出会うことが出来たのは、メラメラのおかげということになるね。感謝しなければいけないな」

 言葉の意味を深く考えるまでもなく、マナの胸は高鳴った。

「一緒に歩かないか? 城を案内しよう」
「えっ!? でも……」

 マナは他の二人が気になって見ると、
「あれ? い、いない……」

 いつの間にやらゼノビアとシャルの姿が消えていた。

♢♢♢

「いやあ、わたしら邪魔者でしたな」
「そうですわね」

 廊下を歩きながら、ゼノビアがシャルに素っ気なく答えた。二人の後ろにゼノビアの3人侍女がついてきている。二人ともマナとアルカードが良い雰囲気だったので、あえて声もかけずにお茶の席を離れていたのだった。

「もしかして、マナの事、邪魔とか思ってる?」
「いいえ、とんでもない!」

 ゼノビアは清々しいくらい、はっきりと否定した。

「わたしはお母様のように尊敬に値する騎士になりたいのです、王妃になってしまうと剣が握れなくなりますからね」

「よかった! じゃあさ、二人でマナのこと応援してあげようよ」
「それは出来ません」
「なんでよう!」

 シャルが頬を膨らませて迫ってくると、ゼノビアは足を止めて自分よりも頭一つ分背の低い娘を見下ろして言った。

「王妃は純粋な実力によってのみ選出されるべきです、特定の妃候補が有利になるように力添えするなど、あってはならぬこと」

「むう、それじゃあ、マナには勝ち目ないじゃん。わたしたちが抜けたとしても、残る相手は公爵令嬢と隣国のお姫様」

 でも、とシャルは膨れ面から得意げに笑んだ。

「マナは王子といい感じっぽいから、その点は有利だよね」
「こう言っては何ですが、王妃の選出にアルカード様の意志は無関係です」

「そんなぁ!? もしも王子とマナが好き合っていたとしても関係ないっていうの!?」

「その通りです。この国をより良く、国民をより豊かにする為の王妃選抜です。当事者の意志よりも人格と王妃としての資質が優先されるのは間違いありません」

「それじゃあ、無理ゲーだよぉ」
「マナにとって、王妃になる事が幸せだとは思えませんけど」

 そう言ってゼノビアが早足で歩きだし、シャルがそれを小走りで追いかけて、

「うわっ、とっ、と!」
 魔女の娘はドレスのスカートを踏んで転びそうになりながら、ゼノビアに追いついて言った。

「今のって、どういうこと?」
「先程のアルメリア様の言葉は度が過ぎていたとは思いますけど、賛同できる部分もあ
りました」

「なにそれ!? 全然分かんないんだけど!」
「分からなければそれまでです」
「なんだよ、もう!」

 シャルは立ち止まってまた頬を膨らませた。彼女はさっさと先へ歩いていくゼノビアの背中に声をぶつけた。

「わたしはマナのこと応援するからね!」
「勝手になさい、あなた一人が動いたところで大した影響はありませんから」

 シャルは悔しい気持ちが胸に突き上げてきて、離れていくゼノビアと侍女たちの姿を尻目に言った。

「むぅ、見てろよ!」

♢♢♢

 マナとアルカードは二人で裏庭を一通り歩いてから城の中へと入っていく。それからはアルカードが案内役となって、二人で各所見て回った。民が王族にお目通りする謁見の間や、豪奢な大浴場、城の尖塔に登っては二人で美しい湖の景色を眺めた。

 夕方に差し掛かって傾いた陽射しを湖が受け止めて水面が輝いていた。その中に漂う船は、まるで宝石の中に埋もれているようにも見える。

「他に見たいところはあるかい?」

 景色に見惚れていたマナは振り向くと、アルカードと目が合ってすぐに下を向いた。目を合わせたり見つめられたりするのが、どうにも恥ずかしかった。

「あ、あの建物は何ですか?」

 マナは、さっきから目に付いていた城の近くに見える円筒状の建物を指した。

「あれは訓練場だよ、行ってみようか」

 マナとアルカードは先頭から長い階段を下りて訓練場に向かう。城と練習場を繋ぐ連絡路は屋根付きの石造りの通路で、その左右の開けた場所に様々な果樹が植えてあった。果実は小ぶりだが、桃やプラムがたわわに実っていた。

「うわぁ、きれい」

 マナが桃の木に見とれていると、アルカードがその手を引いて、果樹の下まで導いてくれる。そして彼は桃の実を一つ取ってマナに渡した。眠っているメラメラを抱いていたので、マナは右手でそれを受け取った。色付いている小ぶりな桃を間近で見ると、ため息が出た。

「かわいい」

 アルカードと共に過ごす一瞬一瞬には、この上ない幸福感があった。その時、

「くんくん」

 とメラメラが鼻を動かして目を開ける。そしてマナが持っている桃に顔を近づけて、大きな口を開けた。マナがはっとして桃を遠ざけた。

「駄目だよ、桃は皮ごとは食べられないんだから」
「あう~、それ、食べるぅ」

「これなら、そのままで食べられるよ」

 アルカードが近くの樹からスモモを取ってメラメラに与えた。小さな黒羽の少女は、スモモ一心不乱にかぶりついて、見る間に一つ食べてしまった。

「うわ、もう、べたべただよ」

 マナが果汁で汚れたメラメラの口や手をレースのハンカチで拭きとっていると、メラメラはもっと食べたがった。

「もう駄目だよ、きりがないんだから」
「はうぅ」

 フェアリーは契約者に逆らったりはしないが、メラメラは悲し気な表情にはまだ食べたいという意思が表れていた。

「後でマナの部屋に届けさせるよ」
「あっ、ありがとうございます」

 それから二人で並んで歩きだし、練習場に近づいてくると怒号が聞こえてきた。人が通るには大きすぎる出入り口に二人で立つと、騎士たちが稽古に励んでいた。

 中心にいるのは30代前半くらいの優男で、立て襟の制服とスラックスは上下ともに純白で、上着の方には金糸の刺繍が入っていた。更に右胸には銀糸が狼の横顔を模っている。長いブロンドを纏めて女のように背中に垂らしているが、整った顔立ちの中にある碧眼は鋭い。この男は周りにいる騎士たちとは明らかに雰囲気が違っていた。

 その背後にも騎士が控えていて、長いブロンドの男とは対照的に栗色の髪を短髪にしていて、筋肉質の体は一回り大きく、制服は色違いの青であった。

 練習場に入ってきたマナは、一人の騎士が叩き伏せられて倒れた瞬間を見た。

「次」

 優男を数十人の騎士たちが囲んでいて、一人の騎士が練習用の模造剣を振り上げて突っ込んでいく。

「づあああぁっ!!」

 優男は騎士たちの2倍の太さの剣を扱っていて、それを片手で操り、突っ込んできた相手の剣を軽くいなした。金属のかち合う響音と同時に、体ごと跳ね返された騎士が後ろに下がってたたらを踏む。何とか体制を整えて打ち込もうと振り上げた剣が弾き飛ばされ、その衝撃で騎士は尻もちをついた。

「次」

 優男に向かって次々と騎士たちが撃ち込んでいくが、誰一人として相手にならなず、一人の例外もなく叩き潰されていた。

「すごい……」

 優男のあまりの強さにマナは見入ってしまった。

「カイナス、来い」
「ご指名とあらば」

 黒衣の騎士カイナス。先程、マナを迎えに来たゼノビアの兄である。彼は優男の前に出て模造剣を正眼に構えると、凄まじい怒号と共に、目にもとまらぬ速さで打ち込んだ。その瞬間の覇気で、マナの心臓が跳ねて体が震えた。

 優男は大剣を両手で持ってカイナスの一撃を受け止めていた。さらにカイナスの怒号が続き、目にも止まらぬ連撃が撃ち込まれる。相手は小回りの利かない大剣だが、白刃や柄を巧みに使って、必要最低限の動きで全てを受け止める。そして、一瞬の隙をついて一撃を打ち込んだ。今までの相手は彼の大剣に成す術もなく吹き飛ばされたが、カイナスは見事に受け止め、その瞬間の態勢のまま白砂の上を滑走しつつ後退した。そして彼は、止まった場所で片手を上げて降参の意を示した。

「今の一撃で手が痺れてしまいましたよ」
「見事だ、俺とまともにやりあえるのはお前だけだな」

 周囲の騎士たちがカイナスに称讃の拍手を送った。二人の戦いに見惚れたマナも、一緒になって手を叩いていた。その様子をアルカードが少し気にしていた。

「おや? そこにおわすのは妃候補のマナ様ではありませんか」

 カイナスは侯爵なので、馬鹿丁寧な言い回しは慇懃無礼とも思えるが、彼のユーモアが成もだ。カイナスと共に大剣使いの優男もマナに近づいた。

「君が異世界から来た妃候補か、話は聞いているよ。わたしは近衛騎士団団長のエリオだ、よろしく頼む」

「は、はい、よろしくお願いします、マナと申します」

 マナが頭を下げる。異世界から来た可愛らしい妃候補とフェアリーの組み合わせは強力で、多くの騎士たちが彼女らを呆けたように見つめていた。

「君たち、気持ちは分かるが、そんなにじろじろ見たら失礼だよ」

 カイナスが言うと騎士たちの殆どが同時に視線を泳がせた。

「可愛いフェアリーだね、マナは妖精使いなのか?」
 メラメラはエリオに頭を触られて、ご機嫌の笑顔を浮かべる。

「わたしには妖精使いがどういうものか良くわかりません。ただ、メラメラの事はとても大切に思っています」

「家族か」

「そう、ですね。この子とは今日会ったばかりだし、うまくは言えないんですけど、この出会いには意味があるって思えるんです」

「そうだろうな。君がこの世界に来た事にも意味があるし、これから経験する事にも意味がある」

 それからエリオは、アルカードに向かって笑みを浮かべた。
「お前がここに来るなんて珍しいな。どうだ、一つ稽古をつけてやろうか」

「いえ、結構です。わたしは剣術は得意ではありませんので……」

「勉学に励むのも良い事だが、学園では剣術の修練課程もある。今から訓練しておいた方がいいと思うがな」

「わたしは剣で身を立てるつもりはありません」
「そうか」

 エリオは感情を一切現さない真顔で言った。

「行こう、マナ」
「はい……」

 アルカードがエリオに背を向けた時、その表情が少し強張っていた。マナはアルカードが本当はこの場所に来たくなかったのではないかと心配になった。

「もう日が暮れてきたよ、部屋まで送ろう」

 アルカードがマナを促して、二人で並んで訓練場を後にする。仲睦まじくも見える二人の姿をエリオが見つめていた。

 夜にはマナの部屋に、籠に山盛りのスモモが届けられた。そして、その殆どがメラメラの口に入ったのだった。
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