異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第二章 聖メディアーノ学園編

30 アルメリアの侍女

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 朝の八時を知らせる鐘が鳴ると、制服姿のマナが部屋から出てくる。それと一緒に出てきたユリカが、廊下で待っていたレクサスに言った。

「今日から、教室までマナ様をお見送りする事にしました」
「それはいいですね。校舎は帯剣が許されていないんで、俺は出入り口までしかお見送りできませんしな」

 今日はゼノビアから用事があって一緒に下校できないと連絡があったのだが、それがなくてもユリカはマナを教室まで送り届けるつもりだった。アルメリアとのくだんの事で、マナの身が心配になったのだ。

 ユリカとレクサスが話をしたところで、奥の部屋の扉が勢いよく開いて、ツインテールの金髪の少女が飛び出してきた。その服装から侍女と分る。

「シンシア、そんな開け方はしないで下さい、下品ですよ」

「ごめんなさい、アルメリア様! 張り切りすぎました! だって、わたしみたいな成り上がりの貴族が、公爵様の侍女になれたのですもの! お父様なんて、涙を流して喜んでいたんですよ!」

「シンシア、廊下ではもう少し声を抑えて」
「あ、ごめんなさい、お嬢様」

 マナ達は、この特異な組み合わせの少女たちを見つめていた。

「シンシア~」

 と声を上げたのはメラメラで、マナは心臓が飛び出しそうになり、冷たい汗を全身に感じた。

「え? だあれ?」

 シンシアは、マナに抱かれているメラメラの姿を見て、すごい勢いで駆け寄ってくる。マナは思わず一歩引いてしまった。

「かわいいっ!! これってフェアリーですか!? わたし初めて見ました!」
「シンシア!」

 アルメリアの大声を聞いて、マナは条件反射で硬直してしまう。呼ばれたシンシアの方は、申し訳なさそうにはしていたが、恐れてはいなかった。彼女はシャル以上に快活で奔放な少女であった。

「申し訳ありませんお嬢様、あんまり可愛いもので、つい」

 アルメリアは溜息を吐いてから、シンシアの隣まで歩いてきて言った。

「紹介します。今日からわたくしの侍女として働く、シンシアです」

 マナは、アルメリアから、いきなり侍女を紹介された事に驚きを隠せない。どうしてそんな事をするのか分からなかった。前にいたアルメリアの侍女は紹介などされなかったし、名前も知らなかったのだから。

「シンシア・コールベルです! よろしくお願いします、マナお嬢様!」
「え? どうして、わたしの名前を?」

「もちろんアルメリア様から聞いたからです。実はわたし今は男爵ですけど、ちょっと前まではマナ様と同じ平民だったんですよ。お父様が商人でお金をいっぱい稼いで貴族になったんですけど、周りの貴族たちはとても冷たくって……でもアルメリア様は、そんなわたしを侍女にしてくれたんです」

「シンシア、少し喋りすぎです」
「ごめんなさい、お嬢様」

 マナは、怒涛のように喋りまくるシンシアに圧倒されていた。

「シンシア、よろしくな~」

 マナの代わりを務めるように、メラメラが言った。

「よろしくね、フェアリーちゃん」

 シンシアがメラメラの小さな手を握ると、アルメリアが先を歩きはじめる。

「行きますよ」
「お嬢様、荷物をお持ちしますよ!」
「それは有難いのですが、声が大きいと先ほども言いましたよ」
「ごめんなさい、気を付けます」

 アルメリアに物怖じせずについていくシンシアを見てマナは思う。

 ――すごいなぁ。

 マナは、シンシアの十分の一でもいいから、心の強さが欲しいと思った。

♢♢♢

 今日は、何故かシャルが現れず、マナはユリカと登校する事になった。昇降口でレクサスと別れて二人きりになると、ゼノビアと一緒にいる時とは明らかに周囲の空気が違っていた。マナは女生徒からの敵意のある視線にさらされて、痛いくらいに感じる。ユリカが周囲を警戒している時に、マナは下を向いている事しか出来なかった。そして、マナは以前にも同じ経験をしていた。

 マナを憎々し気に睨む者もいれば、嘲笑する者もいた。マナはそれに耐えながら、早く教室に入りたい一心で廊下を歩いていく。

「お待ちなさい」

 その声を聞いた時、マナはアルメリアかと思って立ち止まった。顔を上げると、見覚えのある三人組がマナの進路を塞ぐように立っていた。入学式の日にちょっかいを出してきた令嬢達であった。

「あの、何か……」
「平民のくせに、貴族のわたし達を無視して行くつもりですか? 無礼にも程があります」
「ご、ごめんなさい、おはようございます」

 マナが頭を下げると、メラメラが頬を膨らませる。

「ば~か、ぶ~す、あっちいけ!」
「何ですって!? その小さいのを黙らせなさい!」
「だ、だめだよ、メラメラ」

 マナに言われて、メラメラは一応は黙ったが、令嬢たちを睨むのは止めなかった。

 赤い制服の令嬢が嫌らしい笑みを浮かべ、高圧的に言った。

「さあ、道行く全ての人にご挨拶なさい。平民のあなたには、その義務があります」

 マナは戸惑うと同時に、唐突にアルメリアから言われていた現実を突きつけられて胸が苦しくなった。

「何をしているのです、そこの生徒にも、あの生徒にも、頭を下げなさい」

 そんな無茶な要求に、マナは無気力になって従おうとしていた。その時、後ろに控えていたユリカが、マナの前に立って言った。

「マナ様、従ってはなりません」
「あなたは何です? 侍女ごときが、出過ぎた真似を」
「何人であろうとも我が主を傷つける者を見過ごせません」
「わたくしが間違った事を言ったとでも?」

 かの令嬢は勝ち誇って、平民の侍女など歯牙にもかけないと言わんばかりの態度だった。それと対峙するユリカは、恐れもせずにはっきり言った。

「貴族としては正しい意見なのかもしれません。しかし人間としては間違っています、あなた様はただマナ様を苛めたいだけです」

「何ですって!!? このっ、平民に仕える侍女のくせに、このわたしに向かって!!」

 人間としては間違っている、この一言が令嬢を激怒させる。ユリカは涼しい顔で罵詈雑言ばりぞうごんを受け止めて言った。

「わたしはどのように言われてもかまいません、しかしマナ様に嫌がらせをするのはお止め下さい」
「まないきな事を! 名を名乗りなさい!」
「ユリカ・マールストンと申します」
「その名前、決して忘れませんわよ!」

 マナは何もできずに、ただユリカの後ろから見ている事しか出来なかった。その時、にわかに周囲がざわつきはじめる。廊下を行く生徒たちの注意が、相対する令嬢達とユリカから、別の人間に向いてゆく。

「君たち、何をしているんだ?」

 マナはその声を聞いて、深い安堵感を覚え、令嬢たちは彼の姿を見て少し慌てていた。

「何でもありませんわ、殿下、少しお話合いをしていただけですの。では、ごめんあそばせ」

 マナに絡んできた令嬢たちは、アルカードが現れるとさっさと逃げていった。

「今の人たちは?」
「入学式の日にマナ様にちょっかいを出してきた者たちです、どうという事はありません」

 ユリカの話を聞いたアルカードの表情が急に強張る。彼はマナに害をなす者に怒りを覚えていた。

「そうか彼女たちが……僕が何とかしようか?」
「殿下が出て行けば事が大きくなります。本当に殿下の力が必要な時は、こちらからお願いに伺います」
「うん、そうか」

 アルカードはマナに微笑みかけて言った。

「僕が付いているから心配しないで」
「ありがとうございます……アルカード様」

 マナの目に涙が浮かんでいた。苛めを受けた悲しい気持ちと、アルカードへの感謝の気持ちが入り混じっていた。

「今日はゼノビアもいないし、僕も午後には城に戻らなければならない。君の事は、シャルによく頼んでおくよ」

 そのシャルは、授業が始まる直前に教室に姿を現した。彼女は少しばかり寝過ごしてしまったのであった。
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