異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

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第三章 森の薬師編

53 アルカードの決意

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 一方その頃、お城ではちょっとした騒ぎが起こっていた。

「止めるな! 僕はマナを迎えに行く!」
「いけません殿下!」

 馬に跨り、護衛も付けずに外に出ようとするアルカードと門番の兵が押し問答していた。

「ええい、僕の言う事が聞けないのか!」
「申し訳ありません。王妃様から、絶対にマナ様の所には行かせるなと」
「何故だ! 僕にはあの子が必要なんだ!」

「いい加減になさい!」

 侍女数人と一緒に王妃が外に出てきて叫んだ。

「何故ですか、母上!」
「マナは一番望んでいた生活を手に入れているはずです。貴方が出て行けば、それを壊してしまうのです。マナの事を本当に思っているのなら、そっとしておきなさい」

「しかし!」

 諦めきれないアルカードの視界に、もう一人の肉親が映った。長身の美丈夫がシェルリの脇を通って王太子に近づく。

「お前の言う事もわからぬではない」

「あなた!?」
「父上!」

 母と息子の声が重なった。

「わたしも昔はシェルリの事になると、周りが見えなくなったからな」

 それを聞いた王妃は恥じらって顔を赤らめる。その表情がたちまち驚愕に変わった。ロディスの騎士王エリオは、息子の腕を掴むと力ずくで馬から引きずり下ろしのだ。

「父上、何をするのですか!?」
「来い」

 エリオは息子を半ば引きずるようにして訓練場まで連れていった。そして片腕で息子を砂の上に放り投げる。背中から落ちたアルカードは、半身上げて父を見上げる。

「剣を取れ」

 エリオは大剣を担ぎ、アルカードの前には練習用の模造剣を投げた。

「僕は、剣術は……」
「七回だ。この数が意味するものが分かるか?」
「いえ、分かりません……」
「お前の母が暗殺者に狙われた回数だ、そのうち5人はわたしが斬った」

 そんな事実を全く知らないアルカードは、表情が能面のように固まっていた。

「平民を妃に向かえるというのは、こういう事だ。今のお前では、あの子を不幸にする」

 父の意図を汲み取ったアルカードは、剣を拾って立ち上がった。

「そうだ、向かってこい。わたしから一本取ることが出来たら、あの子を迎えに行くことを許してやろう」
「うああぁーーーっ!!!」

 剣など殆ど握った事はたかった。ただ我武者羅がむしゃらに、マナの事を思って向かって行った。

 一瞬、時が止まったような気がする。痛烈な衝撃があってアルカードの両手が麻痺して、弾き飛ばされた剣が訓練場の天井近くで鈍く輝いた。一撃の元に吹き飛ばされたアルカードが倒れると、一瞬遅れて落下してきた剣が白い砂上に突き刺さった。

 一撃というにもあっけなさ過ぎた。素人とは言え、エリオは軽く剣を振ってアルカードを吹き飛ばしてしまったのだ。

「…………」
 アルカードは感覚を失った両手を見つめて呆然としていた。

「これから戦場に行く。わたしが帰ってくるまでに鍛えておけ、もう一度だけ相手をしてやる」

 そう言い残してエリオは立ち去っていく。

 アルカードは悔しさのあまり砂を握りしめる。一人では、どうしていいのか分からなかった。師事を仰ぐにしても、ほとんどの騎士が戦場に出ていて、今いるのは城を警護するのに必要最低限の数だけだ。

 アルカードが途方に暮れていると、一人の騎士が訓練場に入ってくる。父が戻ったのかと思って顔を上げると、父よりも体格の良い男が人好きのする笑みを浮かべていた。

「レクサス……」
「ずいぶん酷くやられましたな、殿下」
「君は戦場に行っていたのではないのか?」
「陛下に野暮用を頼まれまして、戻ってきた次第でして」

 その時、一国の王太子が、恥も外聞も捨てて一騎士に頭を下げた。

「頼むレクサス! 僕に剣を教えてくれ!」
「殿下、お止め下さい。俺なんかに対して頭を下げるなど」

 レクサスは王子殿下の前に膝を付いて言った。

「元よりそのつもりですよ。ちゃっちゃと陛下から一本取って、あの子を迎えに行ってやって下さい」
「やる! 僕は必ず父上を倒す!!」

 大人しくて温厚なアルカードの闘争心が目覚めた。レクサスは王太子の姿に父王を重ねていた。

 ――陛下のご子息ならば類稀なる剣才を持っているはずだ。

♢♢♢

 マナ達は昼食を食べてゆっくり休んだ後に外に出ていった。
 庭に出たマナは籠を持たされていた。ニイナは出かける前に畑の薬草に水をやっている。

「このバスケットって、何に使うんですか?」
「これから薬草を摘みに行くんだよ。あと、木苺とかそういうのもついでに取ってな」
「うわぁ、楽しそうですね」
「楽しいぞ」

 メラメラを頭の上に乗せ、二人で籠を持って森に繰り出す。並んで歩きながらニイナが言った。

「うら若き乙女のマナちゃんは、薬師になりたいとか」
「はい、一応勉強とかもしていました」
「じゃあ、お姉さんが手取り足取り教えてあげよう」
「ありがとうございます!」

 しばらく歩いていくと、少し開けた場所に出る。ニイナはそこで二つの野草を取ってマナに見せた。

「こっちの葉っぱのギザギザがでかい方が、ノコバ草っていって傷薬の原料になるんだ。で、こっちのギザギザが小さいのがセンバ草っていう毒草だ。ちょっと似てるから間違えないようにしろ」
「はいっ!」
「薬草はこれだけ集めてくれればいい」
「あそこにある木苺も取っていいですか?」
「もちろんだ、たくさん取れ」

 マナは生き生きとしていた。先刻の辛い経験が消えるわけではないけれど、それを忘れていられるくらいに楽しかったし、ニイナという人と一緒にいると常に支えてもらっているように自分を強く保てた。

♢♢♢

 夕暮れ成す前に、マナ達は帰路についた。マナの籠には木苺がいっぱいに入っていて結構重かった。メラメラがマナの後ろから低空を飛んで、籠に手を突っ込んで木苺をつまみ食いしている。ニイナの籠には様々な種類の草花が入っていた。

「ニイナさんは色々集めたんですね」
「色んな薬の元になる薬草だ。おまえにも追々、教えてやる」
「ずっと気になってたんですけど、ニイナさんっておいくつなんです?」

 マナは何気なくそんな事を聞いてしまう。何となく気まずい空気が流れた後に、ニイナが笑顔を貼り付けて言った。

「マナは何歳に見える?」
「えっと、王妃様が30歳くらいって聞いたから、ニイナさんは33歳くらいでしょうか?」
「おしい! わたしは25歳だ!」
「へえ、思ってたよりもお若いですね」

 マナは普通に受け答えして、それから歩いていうちに少しずつ違和感が積もっていく。

「あれ? ニイナさんって、王妃様の師匠なんですよね?」
「そうだぞ」
「25歳だと王妃様より若いんですけど……」
「師匠が弟子より年上なんて、誰が決めたんだ!」

 ニイナが子供みたいにきかない顔で言うので、マナは吹き出しそうになる。ニイナはマナの目から見ると、王妃よりも年上にしか見えなかったが、あえてそれ以上は突っ込まなかった。
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