異世界召喚されていきなり妃候補とか言われたけど、他の妃候補がチートすぎてもう辞めたいです+妖精(おまけ)付き

蘇芳

文字の大きさ
60 / 86
第三章 森の薬師編

59 不吉な夢3

しおりを挟む
 帝国の兵団が、少女の手から全てを奪った。仲の良い友人も、気の良い隣人も、家も、畑も、何もかも全て。少女は理性を失い、故郷を蹂躙する破壊者共を憎い、殺したいと、心の底から噴出するどす黒い感情をどうする事も出来なかった。

「テスラ、戦って」

 少女が首から下げていたネックレスのカシミールサファイアが凄まじい輝きを放ち、それを目にした破壊者達の足が止まった。
 少女が抱いていた青いドレスのフェアリーの雰囲気が刹那的に変貌し、翅を広げて上昇する。先程まで怖がっていた小さな存在が、今は少女と同じ憎悪の表情と感情を持って浮かんでいた。
 青く透き通る翅に群青の炎が宿り、ゆらりと燃え上がる。テスラと呼ばれたフェアリーが両手を前にかざすと、そこから少女を覆い隠す程の大きさの漆黒の魔法陣が広がる。
 黒き兵団、帝国の破壊者達は、本能的な恐怖に襲われた。そして、逃げる間もなく兵団の約半数が、黒い魔法陣から噴出した群青色の炎のうねりに飲み込まれた。炎に触れた者は一瞬で灰になり、苦しむ間もなかった。巻き込まれずに間近で熱波を喰らった者が悲惨だった。火達磨になって転げまわる者、体の大部分が焼け爛れて苦しみもがく者、難を逃れた者共は阿鼻叫喚の地獄絵図に慄然とせざるを得なかった。生き残っていた村人たちまで呆然としていた。

「化け物……」

 一人の騎士が言った。

「化け物があぁーーーーーっ!!!」

 村人たちを殺戮し、狂気に駆られていた黒騎士たちが、少女とフェアリーに向かって殺到した。そこに巨大な群青の火球が落ちて、襲撃者たちは燃え尽きた。後に残された人の形をした灰が砂のように崩れていく。そこからは恐怖しかなかった。総崩れとなった騎士達は逃げ出すが、青きフェアリーに狙われた者は誰も逃れる事は出来なかった。空から人智を越える素早さで追い詰められ、一人ずつ焼き殺されていった。

 やがて、フェアリーに魔力を与え過ぎた少女は、淡い光を体から放出しながら、がくりと膝を付いた。胸が苦しくてたまらなかった。正気に戻った少女は辺りの惨状を見て涙を流した。

「ごめんね、テスラ、こんな酷い事させて……わたし、マスター失格だね……」

 少女に向かって、体を引きずりながら近づいてくる者があった。少女がその存在に気付いた時、半身焼け爛れた帝国騎士に見下ろされていた。

「この……化け物っ!!」

 騎士は最後の力を振り絞って剣を振り上げた。少女がそれを受け入れるように両手を広げた。

「フェアリーの犯した罪は、マスターの罪。斬って下さい」

「さらばだ、妖精使いよ」

 息も絶え絶えの騎士が、最後に凄まじい怒号を飛ばして剣を振り下ろした。刃が華奢な左肩から入り、右の脾腹ひばらまで斜めに切り裂いた。少女は仰向けに倒れ、騎士も斬った勢いのまま倒れて動かなくなった。
 少女の身体に通った焼かれる様な痛みが次第に鈍くなって、喉の奥から上がってきた鮮血が口から溢れた。薄れゆく意識の中で、少女は上空から降下してくるフェアリーの姿を見つめていた。

 青きフェアリーが少女に可愛らしい顔を近づけて泣いていた。

「やだ、死なないで!!」

 ――ごめんね、テスラ。
  もう、声は出なかった。

「リリーシャぁーーーっ!!!」

 愛するフェアリーの悲愴な叫び、それが少女が最後に聞いた声だった。



 夜中に起き上がったマナは、まだ胸が痛むように思えて体を縮めた。

 ――夢なんかじゃない。

 これは記憶だ。マナは自分の中で押し殺してきた知覚を認めたくはなかった。でも、もうこれ以上、自分の中に閉じ込めて置く事はできなかった。あまりにも恐ろしく辛い記憶、どこの誰のものかも分からない記憶、マナにはとても受け止めきれない。
 マナの瞳から涙が滂沱ぼうだとして溢れ、体の震えも止まらなかった。隣で寝ていたニイナがすぐに気付いて起き上がった。

「どうした?」
「ニイナさん、わたし……人をたくさん、殺したかもしれない……」

 暗闇の中でニイナは瞠目した。

「何を言ってるんだお前は、そんな事があるわけないだろう。怖い夢でも見たんだな」
「違うの、あれは夢じゃない。怖いよ……ニイナさん」

 ニイナがマナの頭を抱き込んで、マナは母のように思える温かい胸の中で、時間をかけて少しずつ落ち着きを取り戻していった。



 ニイナは眠れなくなったマナに温かいミルクを出してくれた。メラメラはマナの頭の上に乗ったと思ったら、大きな欠伸をして眠り始める。

「お前の様子は普通じゃないぞ。夢じゃないとか言っていたが、だったら何を見たんだ?」
「……多分、誰かの記憶なんです。わたしの中に知らない記憶があるんです」

「知らない誰かの記憶か。だが、その記憶はお前と無関係ではないはずだ。この世界には人の心を研究する学問がある。前世の記憶を保持している人間がいる事は、良く知られている」

「やっぱり、そうなんでしょうか……」
「そう考えるのが論理的だな」
「わたしが、わたしとして生まれる前の記憶……」
「その記憶は、ずっと前からあったのか?」
「いえ、この世界に来てから急に現れたんです」
「もしかして、フェアスティアに因果のある記憶なのか? 内容を話せるか?」

 マナは時々言葉に迷いながら、ゆっくりと全てをつまびらかにしていった。話が進むごとにニイナの表情が曇っていき、最後には聞くに堪えないというように首を振った。

「可哀そうに……何でマナみたいに良い子に、そんな酷い記憶が宿るんだ」
「わたしどうしたら……」

「どうもしない。その記憶は、マナ・シーリングとして生きた15年かそこらの人生の外にあるものだ。今のお前とは関係ない、深く考えるな」

「でも、知らない記憶の中のフェアリーがメラメラと重なるんです。偶然とは思えなくて……」

「その記憶が前世のものと仮定すると、お前は妖精使いだったって事だな。そこには何らかの因果があるのかもしれない。だが、あくまでマナではない他の誰かの記憶だ。前世と今世を混同するなよ、もっと客観的に捉えるんだ」

「はい、頑張ってみます」
「それでいい。明日の仕事は大丈夫か? 休んだ方がいいんじゃないのか?」

 ニイナにそう言われた時には、マナはずいぶん過保護だなと思いながらも、母親に心配されてるみたいで嬉しかった。

「大丈夫です。とても辛い記憶ですけど、これも前に進めば変わるような気がするんです」
「よし、その意気だ。明日は早いし、すぐに寝るんだ。朝食はわたしが作ってやるからな」

 それを聞いたマナは、変に作り笑いを浮かべてしまった。

「い、いえ、大丈夫です。ちゃんと起きて、わたしが朝食作りますから」
「そんな、遠慮するな」
「本当に大丈夫ですから。実は、毎朝ご飯作るの楽しみなんです、料理が好きなんです」

 ちょっと苦しい文言だが、ニイナに朝食を作らせるわけにはいかなかった。マナは悪いとは思いながらも、朝食のせいでさらに気分が落ち込むのを回避したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!

966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」  最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。  この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。 錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件

fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。 実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。 追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。 そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。 これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。

処理中です...