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第9話:修羅の道
Act-06 紫電一閃
しおりを挟む「ヒロモト、車を出して逃げる事はできる?」
差し迫った戦況に、これまでヨリトモのそばで沈黙を守っていた、源氏のツクモ神マサコが口を開いた。
「やれない事はないですが、木曽軍の歩兵がまだ散開しています。彼らが同じ様に玉砕特攻を目論んでいるのなら、迂闊には動けません……」
作戦参謀でもありながら、敵の戦力を侮り、散開攻撃に完全に釣られてしまったヒロモトが、申し訳なさそうに答える。
実際、木曽軍の散開戦術は機甲武者の各個爆散によって、ヨリトモ周辺の地形を移動し難いものにもしており、動けぬ源氏本軍は、半ば手詰まりの状況に追い込まれていた。
それを見定めると、
「なら――アタシの出番ね」
と、拳を握りながらマサコが身を乗り出す。
「マサコ?」
「分かってる。本来、神は人の争いに手出ししてはいけない。アタシはどっかの馬鹿ツクモたちと違って、ドンパチやるつもりはないわよ――」
心配そうに自分を見るヨリトモに、マサコは苦笑まじりにそう言ってから、
「でもね……アタシは源氏のツクモ神。その棟梁を守るためなら――八百万の神様も、アタシを応援してくれるわよ!」
と、次の瞬間――宙に浮いたままの姿勢から――矢の様に飛び出すと、至近距離に迫ったトモエに向け、高速で突っ込んでいった。
それを察知したトモエが、斬撃の勢いのまま反転する。
飛び込んでくるツクモ神は、拳の先端一点に魔法陣を展開し、その全開の威力で一打必殺を狙っている。
だがトモエも、この時を待っていた。
衛兵すべてを斬り伏せても、最後の関門としてマサコがいる事は承知しており、その直情径行からくる攻撃法も、大方の予想がついていた。
速さと威力――やはりこの手できたか、と思ったトモエは、片方のセイバーを前方の大地に向け鋭く投げる。
それが斜角で地に突き刺さると、魔導兵器であるため霊脈と反応し、まるで根を張った様に強く固定された。
次の瞬間、トモエは華麗に跳躍すると、そのセイバーの柄を足場として、さらに高く舞い上がると――その勢いのまま、なんと飛び込んでくるマサコの頭上を越えてしまった。
「――――⁉︎」
その恐るべき身体能力に、一同が目を見張り声を失う。
執念――夫の仇を討つという人間の願いは、神の眷属さえも乗り越えてみせた。
そして、ズドンという音と共に、目標を失ったマサコの拳が大地に突き刺さる――その時、トモエは残ったセイバーを両手に構え、大将車の指揮台にいるヨリトモに、大上段から斬りかからんとしていた。
「ヨリトモ様!」
そう叫び、身を呈して主君を守ろうとするヒロモトを、ヨリトモは後ろに押しのけると、
「いやあああーっ!」
という気合と共に、腰に佩く宝刀――源氏棟梁の証でもある『ヒゲキリ』の太刀を、鮮やかに引き抜いた。
刃と刃がぶつかる閃光――一同が目にしたものは、屈強な兵たちでさえその太刀筋に、手も足も出なかった、トモエの斬撃を弾き返すヨリトモの姿であった。
その細身の体のどこにそんな力があるのか――トモエだけでなく、その勇姿に味方である源氏将兵までもが驚いた。
魔導力の込もるセイバーに太刀を折られなかったのは、それが源氏の宝刀であるヒゲキリであった事も幸いしただろう。
だが、トモエの鋭い太刀筋を受けられたのは、それだけではない。
魔導適性のない己を諦める事なく、源氏棟梁としてヨリトモはこれまで――人間としてできるすべての鍛錬を、血のにじむ様な努力で積み重ねてきた。
すなわちヨリトモを救ったのは、彼女自身の実力であった。
――源ヨリトモ、侮りがたし!
トモエもその認識を改めながら体勢を立て直し、第二撃を放とうとする。その時――銃声と共に彼女の肩に衝撃が加わった。
そして彼女を襲った銃弾は、その次にはヨリトモの髪を掠めていった。
ヨリトモへの被弾を避けるべく、皆が銃を封印した中、平然とその禁を破った者は、
「トモエーっ!」
と、叫びながら駆け寄ってくる――それは、源氏棟梁の妹、源ウシワカであった。
Act-06 紫電一閃 END
NEXT Act-07 笑顔の代価
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