神造のヨシツネ

ワナリ

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第11話:シズカゴゼン

Act-01 戦後処理

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「――――⁉︎」

 イチノタニの戦いの顛末を、ロクハラベースの司令室で聞いたみなもとのヨリトモは、その瞬間息ができなくなるほどの衝撃を受けた。

「な……なぜ、こんな事に……」

 報告官が去った後、そう言いながら崩れ落ちる彼女を支えたのは、ツクモ神マサコだった。

「私が……私が甘かったのか?」

 顔面蒼白のヨリトモに、

「あなたのせいじゃないわ。こんな結末……誰も予想できなかったわ」

 そう言って、マサコも思わず目を伏せる。

 敵軍平氏の実質的指導者、たいらのトモモリとの水面下での和睦交渉。

 平氏のプライド、源氏の欲望。そのそれぞれの問題を抱えながら、トモモリとヨリトモは惑星ヒノモトのため、懸命に同胞を欺き続けた。
 それは、タマモノマエ討伐のために必要な三種の神器の発動要件である、『源平和合』を成し遂げるためであった。

 暗礁に乗り上げつつあった交渉の中、それでもヨリトモは一縷の望みに賭け、事態の好転を待ち続けた。
 だが、それと正反対の結果をもたらしたのは――自身の妹だった。

 みなもとのウシワカ。姉である自分を盲目的に慕う『無垢なる狂犬』。
 これまでもその度重なる独断専行に、ヨリトモは頭を悩ませてきた。

 だがその圧倒的な戦闘能力、そして肉親の情に、ヨリトモは内心ウシワカを恐れつつも、ある意味その妹を『野放し』にしていたのも事実であった。

 今回のフクハラ出兵も、乗機シャナオウを失っていたウシワカが、一条ナガナリ邸で無為な日々を送っていると知り、それを幸いとした。

 ――討伐軍に加わらなければ大事は起こすまい。

 それはある意味、正解ではあったが最善ではなかった。
 統制下に置けない危険分子なら、ロクハラに拘束すべきだったのだ。

 だがヨリトモは、ウシワカを近くに置く事を避け――いやウシワカという存在から逃げ、その身柄を放置した。
 そして翼を得た妹は、姉の願いを見事にぶち壊した。

(すべてが裏目に出たか……)

 今回の和睦交渉に際し、ヨリトモは共に真相を知ったマサコ以外、誰にもその内実を明かさなかった。

 せめて腹心である梶原カゲトキと大江おおえのヒロモトには、話しておくべきだったとヨリトモは激しく後悔する。
 特にヒロモトは今回の遠征軍には加わらず、キョウトに残留し、ヤサカニの勾玉を依り代とする機甲武者シャナオウの修復に立ち会っていたのだから。

 ――神造兵器の機甲武者のデータが取れるまたとない機会。

 それは今後の源氏軍にも有益な情報となるという、機甲武者開発の責任者でもある彼女の申し出をヨリトモは了承した。

 だがまさかそのマークⅡが長距離飛行能力を得て、完成と同時にフクハラに出撃し、奇襲を仕掛けるなど誰が予想できただろうか。

 ――もしヒロモトが、真相を知っていれば止めてくれただろう。

 そんな事を思っても時は戻らない。それ以前にヨリトモがウシワカを拘束していれば、その動きを封じる事はできたのである。
 しかも傍らに浮くツクモ神マサコは、そんなヨリトモの希望的観測に警告を発してくれてもいた。

 ――それなのに自分は……なにが天下人だ。

 己の無力を責めるヨリトモ。
 気を許せば涙が出そうになる。今や源氏という軍閥の頂点どころか、ヒノモトの運命を背負う彼女だが、その正体はまだ二十歳を少し超えたばかりの、か弱き乙女であった。

 そんなヨリトモを、マサコが静かに抱きしめる。
 そして、天使争乱の百年後に生まれし齢九百のツクモ神は言った。

「やるべき事を……やりましょう」

「――――!」

 その瞬間、マサコの胸でヨリトモはその鼓動の中に、あるものを見た。

 それは剣――マサコが依り代とする源氏の神器『クサナギの剣』であった。

「私は……源氏」

 無意識にそう呟くと、ヨリトモは顔を上げマサコを見つめる。
 それに黙って頷くマサコ。

 源平和合の道は潰えた――だが、まだ道はある。源氏としてやるべき事が。
 ヨリトモの目が、新たな道に向かい光を取り戻した。

 
 その頃、クラマからロクハラに、大江おおえのヒロモトと共に帰還した伊勢サブローは、ウシワカの大勝を知りベース内を小躍りしながら駆けていた。

 この吉報をいち早く、ウシワカの義理の祖父である一条ナガナリにも教えてやろう。
 そう思った彼女は、共に帰還した常陸坊ひたちぼうカイソンを残し、単独でナガナリ邸へ向かうべく、勝手知ったるロクハラベースの裏ゲートを飛び出そうとしたその時、

「うわっ!」

 何かにぶつかると、声を上げながら尻もちをついた。

「アイタタタ……」

「す、すみません。大丈夫ですか」

 かけられた声に向かい、サブローが顔を上げるとそこには青年がいた。澄んだ瞳、やわらかな物腰、それでいて頼もしい体躯――素朴な顔立ちながら、その姿は見るからに美丈夫であった。

 それが自分を心配そうに見つめている事に、思わずサブローは頬を赤らめた。

「だ、だ、大丈夫さ!」

「すみません。今日、都に来たばかりで……。なにぶん東国の田舎者ゆえ、ロクハラベースを探して迷っておりました」

 ぶっきらぼうなサブローの照れ笑いにも、青年は折り目正しくそう言って謝罪を続ける。

 そんな青年に向かって、

「ロクハラベース? それならここだよ」

 と、サブローは自分が出てきたゲートを指差し、「ちょっと待ってて」と言うと、そのロックシステムにパスワードを入力していく。

 その扉が静かに開くと、「はい、どうぞ――裏口だけどね」とはにかむサブローを、青年が目を丸くして、じっと見つめた。

 その眼差しのまぶしさに、サブローは胸が熱くなる。

「ど、どうして? いったい君は――」

「アタシは、伊勢サブロー……盗賊さ。んじゃ、またねー」

 ようやく言葉を発した青年にそう言い残すと、サブローはそのボサボサの髪をかきながら、逃げる様にその場を後にした。

 少女の胸に芽生えた初めての感情――これもまた、戦乱の中における運命の出会いであった。

 
 そしてヨリトモに召喚された大江おおえのヒロモトは、真相を明かされるとその顔を真っ青にして、死して詫びると言いだした。

 ヒロモトが改修に関与したシャナオウ。飛行機能搭載と武装強化における資材は、すべて彼女の権限でロクハラからクラマまで運ばせていたのだ。

 それが想定外とはいえ――主君の戦略をぶち壊した事は、作戦参謀でもある彼女にとって、命をもって償うべき痛恨事だったのである。

 だがヨリトモは、そんなヒロモトの肩を抱き、

「これはすべて私の責任だ。お前になんの罪もない」

 と、逆にこれまでタマモノマエの件を隠していた事を詫びると、まだフクハラから帰還していない梶原カゲトキを待たずに、今後についての協議を始めた。

 その作戦目標は水上都市ヤシマ――フクハラを放棄した平氏が逃げ込んだ海上要塞であった。

 その話し合いの中で、

「キュウベイを実戦投入するのですか⁉︎」

 ヒロモトが驚いた声を上げた。

 キュウベイ――それは開発中の、源氏型機甲武者の試作機であった。

「ロールアウトは済んでいると聞いている」

「ですが、まだテストが不十分な状態でして――」

「使えるものは――すべて使う」

 ヒロモトの言葉を遮り、そう言い切ったヨリトモに、傍らのマサコは変化を感じた。

 すべて使う――それが意味するところは、平氏との総力戦。
 ヨリトモの思いは、もはや『源平和合』ではなく『源氏一統』へと変貌していたのであった。

「分かりました……」

 ヨリトモの気迫に押され、ヒロモトもそれを承諾する。

「ちょうどテストパイロットも、まもなく到着する予定です」

 それから少し後、「失礼いたします」という声と共に、司令室に一人の魔導武者が入ってきた。
 それは先刻、サブローと遭遇した素朴な顔立ちの青年。

「お呼びにより東国よりまかり越しました――那須なすのヨイチでございます」



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