70 / 97
第11話:シズカゴゼン
Act-02 皇女参戦
しおりを挟む――水上都市ヤシマ。
フクハラ南方の海に浮かぶこの海上要塞は、西方における平氏第二の都といっても過言ではなかった。
このヤシマベースで制海権を握り、フクハラベースで地上制圧を行う事で、平氏は西方の支配圏を確立してきた。
平氏がキョウトから都落ちしたのも、この鉄壁の二大拠点あっての事だったのである。
その状況が変化した。
ウシワカの奇襲で防衛能力が低下した、不利な状況での長期戦を避けた平トモモリの決断で、フクハラベースが放棄されたのである。
そして源氏軍の多くの者が、
――これで平氏を、海の孤島に追い詰めた。
と、まるで戦争が終わるかのごとく歓喜した。
だがその考えは甘かった。
敵地を得ればそこには駐屯軍が必要になる。
当然、源氏軍も不慣れな遠征地に軍を散開させ、その制圧を維持し続けなければならなかった。
そこに南海から平氏軍が、進出鬼没の奇襲を日夜仕掛けてきたのである。
元来、東方の平野を本拠地とする源氏は陸戦に特化しており、対する平氏は西方の陸海に蟠踞していたため、海戦にも精通していた。
ゆえに海側の制圧陣地に、ただ展開し続けるだけの源氏軍など、平氏にとっては格好の的であった。
ヤシマから進発する攻撃部隊は、時に艦砲射撃、時に水陸両用機甲武者カイトで、源氏軍をあざ笑うかの様に翻弄し続けた。
そのせいで一部の源氏将兵の中には、無断でキョウト帰還を目論む者まで出てくる始末であった。
まだ源平争乱は――終わってなどいなかったのである。
「よーし、今日も源氏を叩いてやったか!」
ヤシマベースの司令室に、平氏棟梁――平ムネモリの笑い声が響く。
艦船を持たない源氏軍に対し、ゲリラ的な奇襲を繰り返す平氏は、見た目上では連戦戦勝であった。
だが上陸戦の上、失地を回復できた訳でもない――いまだ戦況は平氏にとって苦しいのが現実であった。
なのにそれを弁えず目先の勝利に、この凡庸な貴族的棟梁は大笑する。
そこにいつもなら、
――何を呑気な!
という、副将トモモリの声が飛んでいたはずであった。
だが、そのトモモリはいない。
だから代わりに、
「ムネモリ殿。我らの使命はキョウトに、アントク様にお戻りいただく事ですぞ。その事、ゆめゆめお忘れなき様に!」
と、緩んだ顔のままでいる棟梁を叱咤したのは、その母である平トキコ――亡きキヨモリの妻、皇女アントクの外祖母であった。
先にも触れたがムネモリは、キヨモリとトキコの実子ではない。
整理すると、まず先代キヨモリはシラカワ帝が、キヨモリの義父タダモリの『姉』に産ませた子である。
それをシラカワ帝は、平氏嫡流タダモリの長子としてねじ込んだのである――三種の神器発動の要として。
だが長じて真相を知ったキヨモリは、義父の実子である『義理の弟』の子を、自身の長子と偽り――平氏の正統を旧に復してしまった。
それはまるでシラカワ帝への意趣返しであった。
この秘事について、トキコはキヨモリになんの異も唱えず、すべてを受け入れた。
もちろんタマモノマエや、三種の神器の件は明かされていない。
それでもトキコは夫を信じ、まだ赤子だったムネモリを自分の子として――平氏の後継者として今日まで育て上げたのであった。
今、不在の実子トモモリがヤシマに到着早々、ツクモ神トキタダを伴いイツクシマに向かうと言った時も、トキコは何も聞かずにそれを送り出した。
――きっとトモモリには平氏を思う深い考えがある。
亡き夫キヨモリの時と同じ様に、彼女はその子を信じたのである。
それだけにトモモリ不在の今、その代わりを務め平氏を支えんと、トキコは日々司令室においてムネモリを督戦していたのであった。
平氏諸将も賢夫人の誉れ高いトキコのそのカリスマ性に、今や絶対の信頼を寄せている。
「一時の勝利に気を緩めてはなりません。皆、よろしいですね」
「ははっ!」
トキコの言葉に一同の士気が高まる。こうなるといったい誰が棟梁なのかと、ムネモリはいたたまれくなり、司令室の居心地が悪かった。
だがムネモリの居心地の悪さには、もう一つ理由があった。
それはトキコの側にいつも寄り添っている、皇女アントクの存在であった。
タカクラ帝の後継者と目されながら、摂政シンゼイの策謀でゴシラカワに皇位をかすめとられ、都落ち、フクハラ陥落を経験した流転の皇女。
トキコを『お祖母様』と慕う彼女は、最近は司令室にまで顔を出すかと思えば、
「夜討ち朝駆けのタイミングを微妙にずらすのです。そうすれば源氏軍は、いつ我らの襲撃が来るか気が休まらず、疲労が深まります」
とか、
「戦線をさらに伸ばす事ができれば、それだけ敵の戦力は分散され、フクハラとキョウトへの同時攻撃も可能になるでしょう」
などと、どこで学んできたのか戦術戦略を口にする様になってきた。
そして今日に至っては、
「源氏軍もこのまま手をこまねいてはいないはず。艦船の調達が済めば、すぐにもここに攻めて参りましょう。皆、油断なきよう」
とまで言い出す始末である。
元々が聡明な皇女だっただけに、日に日に諸将もアントクの言葉に耳を傾ける様になっている。聞けば機甲武者の操縦も学んでいるというではないか。
(とんだお転婆娘になったものだ)
と、ムネモリは内心苦い顔をするが、アントクには明確な意志があった。
――来る。あの女は必ず来る。
それはイチノタニの空から、フクハラの都を炎に包み、愛しきシゲヒラを奪った魔導武者。
アントクは来たる迎撃戦――『ヤシマの戦い』を予感していたのである。
――源ウシワカ。お前だけは絶対に私の手で殺してやる!
皇女は涼やかな瞳に秘めた憎悪を燃やすと、それから東の空をじっと見つめた。
Act-02 皇女参戦 END
NEXT Act-03 if
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う
なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。
スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、
ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。
弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、
満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。
そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは――
拾ってきた野良の黒猫“クロ”。
だが命の灯が消えかけた夜、
その黒猫は正体を現す。
クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在――
しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。
力を失われ、語ることすら封じられたクロは、
復讐を果たすための契約者を探していた。
クロは瀕死のソラと契約し、
彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。
唯一のスキル《アイテムボックス》。
そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、
弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。
だがその裏で、
クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、
復讐の道を静かに歩み始めていた。
これは――
“最弱”と“最凶”が手を取り合い、
未来をやり直す物語
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる