神造のヨシツネ

ワナリ

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第11話:シズカゴゼン

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 ウシワカがフクハラベースを落とし、平氏が海上要塞ヤシマベースに退去してから約半月。

 西方の戦線はまたも膠着状態に陥っていた。
 それはある意味、ヨリトモがもっとも避けたかった状況ともいえた。

 元々、海戦力を持たない源氏は陸戦で平氏に圧力をかける事で、自軍に有利な停戦条件を引き出し、戦争を終わらせようとした――少なくとも棟梁のヨリトモはそう考えていた。

 だが、ウシワカによる奇襲と、恩賞目当ての源氏将兵のために、局地戦の勝利と引きかえに平氏をホームグラウンドである海に逃がしてしまった。
 戦略上、それは痛恨事であった。

 平時であれば、そのまま平氏が海で干上がるのを待つという持久戦法も考えられたが、今はそういう訳にもいかない。
 タマモノマエの復活まで時間がないのである。

 源平和合を捨て、源氏一統を目指すとしても、時間との勝負である今、長期戦は避けたい。
 一応、最後の望みを託し、捕虜とした平《たいらの》たいらのシゲヒラの身と、皇女アントク及びヤタの鏡の交換を持ちかけもしたが、平氏から拒絶された。

 たいらのトモモリに送った密書も、もう返事はこなかった。これはトモモリがイクツシマに出かけ不在だったという事情もあったが、どちらにしても、ヨリトモは腹をくくらねばならなくなった。

 ――速攻でヤシマを落とし、平氏を屈服させ、アントクの身柄を奪取する。

 それには艦船が必要だった。

 平氏は戦艦、空母合わせ約百隻といわれる、その海軍力をヤシマに集中させている。
 対して今、源氏がかき集めた戦艦は十隻にも満たない。機甲武者を運搬する空母に至っては一隻もないのが現状であった。

 打開の方法はあった――それは、まだ日和見を決め込んでいる西方諸勢力を自軍に取り込む事である。

 その彼らが持つ艦船を接収すれば、即席とはいえ海戦も可能であった。
 それには恩賞の約束と共に、確実に平氏に勝てるという証が必要になる。

 だが現状、源氏が制圧した西方の地は平氏の海からの攻撃に青色吐息の状態であり、そういった諸勢力は平氏の復権もあるのではと、ますます日和見の度を深めていた。

(私に従えと、ゴシラカワ帝に勅命を出してもらうか)

 ――窮余の一策。

 そうヨリトモが思い至った時――急遽ゴシラカワから参内せよとの、命がくだった。



 そしてヘイアン宮、控えの間――
 そこに二人の人間と、二人のツクモ神がいた。

 一組は、召喚されたみなもとのヨリトモとツクモ神マサコ。
 もう一組は、みなもとのウシワカとツクモ神ベンケイであった。

 なんの意図をもって、ゴシラカワが彼女たちを同時に招いたかは不明だが、そこには微妙な空気が流れていた。

 ウシワカはイチノタニの戦い後、シャナオウと共にロクハラベースに滞在していた。
 それは、彼女を放置する過ちを繰り返すまいとする、ヨリトモの指示であったが――姉妹の関係には、これまでにない変化が起こっていた。

 フクハラ遠征軍の帰還後、総大将を務めた梶原カゲトキの労をねぎらい、大江おおえのヒロモトと同じく彼にもタマモノマエの真相を明かした後、ヨリトモはウシワカを呼び出すと、

 ――よくやった。

 そう言ったのだ――絞り出す様な声と、精一杯の『作り笑顔』で。

 ヨリトモのやり口はこれまでとは一変していた。内心では憎悪さえしている戦犯に、追従にも似た『腹芸』を使ってみせたのだ。
 それは、処理能力を超える事態に無表情で様子見をするという、これまでの受け身の姿勢とは異質の対応であった。

 イチノタニの戦いの戦果で、一部ではウシワカを英雄視する者も出ている。今後の短期決戦における士気高揚という意味でも、こうなれば利用できるものは使いつくすという、したたかな計算もそこにはあった。

 だがそれでもウシワカは、そんな姉の言葉を喜んだ。

 ――お姉ちゃんが、やっと私を褒めてくれた。

 その時の妹の無邪気な顔が、ヨリトモは今も忘れられない。

 罪悪感と共にこみ上げる感情。

 ――もっと早くこうしていれば、もしかしたら。

 歴史に『もしも』はない。ヨリトモは妹への感情を必死に振り払った。
 だから今も、自分に忠犬の様に熱い眼差しを向けてくる妹から逃げたかった。

 その時、

みなもとのヨリトモ、ツクモ神マサコ。参られませい――」

 と、伝奏から声がかかった。

 マサコが睨みを利かせてくれていたおかげで、会話は起こらなかったが、思いのほか早い呼び出しにヨリトモはホッとした。
 加えて謁見はウシワカとは別々である事にも安堵した。勅命の発動を奏請するという、極めて政治的な案件も今回はあったからだ。

 いざ皇帝のもとに出向かん。

 と、ヨリトモは足を踏み出すと――なぜか無意識に妹の顔を見てしまった。

 その時、ヨリトモは思い出す。このウシワカという妹と初めて会った時の無垢な瞳を。
 共に源氏の宝刀をかざし合った時の、弾ける様な笑顔を。

 今、自分を見つめるその顔は、あの時とまったく変わっていない。
 それに気付いたヨリトモの胸に再び、『もしも』の感情が湧き上がる。

 ――なぜ今……だがもう私は決めたのだ!

 ヨリトモは無表情を装い、妹への最後の憐憫を断ち切ると、源氏の棟梁として振り向かず前に歩き出す。

 そしてその背中にかける、

「お姉ちゃん」

 という声にならないウシワカの思いが、なぜかヨリトモには聞こえた気がした。



Act-03  if END

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