憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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完璧にも苦手なものがある Ⅰ

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有栖が教習所から帰ってきて、僕が冴木さんを起こさないようにシーっと唇の前に人差し指を立てると、彼もそっと部屋に入ってくる。
2人して悪戯している子供みたいに、冴木さんの様子を伺いながらそろそろと2階に向かう。
買ったゲームは僕の部屋に置いてあるし、テレビもあるので、ここでゲームをすることにした。

僕は僕のゲーム機を開けて、有栖にもゲームの箱を渡す。まるでクリスマスプレゼントを初めて貰った人のように、箱を物珍しそうに眺めている。
目がキラキラしているので興味はあるみたいだ。

「結構重いな」

中身を取り出して持ち上げてみて、彼はそう言った。携帯ゲーム機だけどテレビに接続も出来て、内容量もとても大きいゲーム機だから多少重いのは仕方ない。
インターネット設定とか基本的な設定は2人で説明書を覗きながらやって、一通りの設定が終わったらいよいよソフトを入れる。

最初は『ゼルラの伝説』を有栖のゲーム機でやることにして、そちらをテレビに繋ぐ。これは一人用のオープンワールド系RPGなので、とりあえず有栖に本体を持ってもらって、チュートリアルをやってもらう。
ストーリーは単純で、一人の勇者が魔王を倒しに行くという王道のものなのだが、今作は100年前既に国が滅びてしまい、瀕死の勇者を100年の眠りにつかせて回復させ、その勇者が目覚めたところから物語が始まる。100年の眠りで記憶もなくしてしまった勇者の記憶を取り戻しながら魔王討伐に挑むという、やり始めるとやりこんでしまうゲームだ。ちなみにかつての旅仲間は全員100年前に死んでいるという激重ストーリーでもあるが、これは有栖には内緒だ。言ってしまうと面白くないからね。

有栖はゲーム内の音声に従って操作をしているが、キャラの動きがものすごくぎこちない。初めてだしこんなものだろうけど。
本物の映像と見紛うほどグラフィックが綺麗で、主人公が草原を歩くとちゃんとさわさわと音が鳴る。

「これ、すごいな。ゲームっていうのはここまで凝ってるのか」

有栖が感嘆の声を上げる。僕も初めて見たとき驚いた。最初はドット絵だったものがここまで来るなんて。感無量だ。

主人公はまだ開始地点辺りでウロウロしている。原因は有栖にあって、彼は歩く操作と視点移動の操作を同時に出来ないのだ。歩いたり走ったりすると視点があらぬ方を見ているため行き先が見えないし、逆に視点を行き先に合わせると立ち止まってしまう。何でもさらっとこなしてしまうかに思われた彼がこんなところで手こずっているのは、正直少し面白かった。
これからもっと操作が増えて、その操作を駆使して敵と戦わなきゃいけないので、この調子では最初の雑魚敵にも勝てないだろう。操作に慣れるには時間がかかりそうだ。

次は『スポラトゥーン2』をやった。これは僕の本体でも出来るので、テレビではなく本体二台でやることにした。こちらにもチュートリアルがあって、僕が横で実践しながら一緒に操作する。『ゼルラ』とはまた違うボタンの操作なので、ちょっとやりづらそうだった。でも『ゼルラ』より簡単なので、さっきよりは上手かった。
こっちはストーリーモードと対戦モードが別れていて、別にストーリーをやらなくても知らない人と対戦ができる。
ストーリー的には『イカタウン』の電力をまかなっているデンキウナギがタコに捕まって困っているので、宿敵(?)のタコを倒してデンキウナギを取り返そう、というような感じだ。

ストーリーは一人でやる奴なので放っておいて、プライベートマッチというフレンド同士で出来る対戦で有栖と戦ってみた。

結論から言うと、激弱だった。
初めてなので当たり前と言えば当たり前なのだけど、なんかもうそんなレベルじゃない気がする。僕が倒さなくても、ステージから足を踏み外したり、水に落ちたりして勝手に死んでしまう。

有栖はどうも、二つの違う動作を同時にやるのが苦手らしかった。ピアノ弾くときに両手の指が同じ動きをしてしまうとか、踊りながら歌を歌うとどっちかが疎かになるとかみたいな。
なので、どこから敵が来るとか考えようとすると足が止まってしまうし、攻撃しに行く時は上手く考えられないのでただひたすら突撃してしまうという2パターンしかない。一応ボムを投げる機能があるのだが、そこまで考えようとすると本当に何も出来なくなってしまうようなので、とりあえずボムは操作に慣れてから使おうということになった。

有栖はアイドルでも売れたと思うのだけど、アイドルじゃなくモデルをやっている理由はここにあるのかもしれない。

ほんの少し他のプレーヤーとも対戦してみたけれど、有栖のキャラの挙動がたどたどしすぎて他のプレーヤーが手加減してくれたり、優しく見守ってくれたりしていてとても平和だった。煽る人も結構いるゲームだけど、生まれたての子鹿を煽る人はほぼいなかった。

有栖もそれなりに楽しんでくれているみたいで、敵を倒すととても嬉しそうに「倒した」と報告してくれた。

何だろう、全てのスペックにおいて僕より上の人に、僕が(ゲームとはいえ)何かを教えるのは不思議な気分だった。有栖にも苦手なものはやっぱりあるんだなあという感慨と、やはり努力の人でもあるんだなあという再確認が生まれた。
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