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恋心というもの(有栖視点)
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遊紗に服を買ってからしばらく経って、俺は久々に仕事を1つ受けた。
世話になっている女性カメラマンからどうしても撮らせて欲しいという依頼があり、断る理由もなかったからだ。
彼女は俺より年上の、ハキハキした元気タイプの女性で、同時に恋多き女性でもあった。撮影が終わったあとはだいたい今現在の恋愛の話をしてくるので、俺はいつも話半分で聞いている。最初は真面目に聞いていたのだが、聞く度に相手が変わっているので段々おざなりになったのだ。
今日はファッション雑誌用の写真撮影らしく、何種類かの服を着て色んなポーズを取った。俺が知っている服ブランドではあるが、まだそれほど有名ではないブランドだ。いくつか遊紗に似合いそうなものがあり、あれいいな、これいいな、と彼が着たところを想像しながらやっていると、いつもより楽しく仕事が出来た。
彼女にも「今日はノッてるね!」と笑顔で言われた。
お世辞かもしれないが、褒められるのは悪い気分ではなかった。
そして撮影後は、今日も例外ではなくまた新しい彼氏の話を聞かされた。
「今度はどんな方なんですか?」
もう慣れきっているので俺から聞いてみる。すると、彼女は嬉しそうに話し始めた。
「もうね、すっごくいいひとなの! 笑顔が素敵で優しくて、それでいてわたしの話もずっと聞いてくれて。イケメンってわけじゃないんだけど、もう内面がドンピシャでねー」
「そうなんですか」
「そう! わたしが働いてるからって家事もたくさんやってくれて助かってるし、愚痴のひとつも言わなくて…………あ、もちろんわたしはもっと頼って欲しいなーなんて思うんだけど」
「なるほど」
「でね、もうとにかく寝顔が可愛いの! それ見る度にキュンとしちゃってさぁ、癒されるのよね~」
「キュン、ですか?」
「うん。有栖君は経験ない?」
「よく分かりません」
「なんかこう、心臓を鷲掴みにされるような感じなの! キュッて縮まるような。でも悪い意味じゃなくて……うーん、言葉にするのは難しいけど、とにかく心地がいい感覚なのよ」
「……………………」
「好きな相手には特にそういう感情を抱くものだと思うわ。わたしなんか彼が何してても可愛い~って思うし、いつも彼のことばっかり考えちゃって仕事が疎かになったり、何でもしてあげたいって思ったり。極めつけには誰にも渡したくないって思い始めるの」
「……………………」
「ちょっと、有栖君聞いてる?」
「…………え、あ、はい。聞いてます」
「もう、ぼーっとしちゃって。あ! そうそう、貴方ココ最近休んでたじゃない? どーお? 彼女の1人でも出来たのかしら? わたし達の間じゃ、そうなんじゃないかって専らの噂なの」
「…………ただの、休暇です」
「ほんと~?」
「はい」
「お姉さんには何でも相談していいんだからね!」
「あ、はい」
カメラマンと別れたあと、俺は生きた心地がしなかった。どうやって家まで帰ったかもはっきりと思い出せない。
彼女の言った言葉には、たくさんの心当たりがあった。俺が遊紗に抱いていた感情が、どういうものなのか分かってしまった。
俺は、遊紗のことが好きなのだ。おそらく、出会って間もない頃から。
腑に落ちると同時に、ざわざわと嫌な感覚が込み上げてきた。
渡すものかと、あいつに近付かせるものかと思った相手と、同じ感情を彼に向けていたなんて。
最悪だ。
結局俺は、いつまで経っても我が儘な自己中心的存在なんじゃないか。
彼を守りたいと思ったのも、あいつに取られたくなかったからなのかもしれないと思うと、自分で自分に嫌気が差した。
友達すらいなかったくらいだから、今まで恋なんてしたことがなかった。心のどこかではそうなんじゃないかと気付きつつも、気付かないふりをしていた。
それはきっと、自分の薄汚さに気付きたくなかったからだ。俺は「普通」だと、思い込みたかったからだ。あいつとは違う、と。
だけど、気付いてしまったからには、伝えなければいけない。拒絶されるとしても、黙ったまま傍に居続けるなんて、俺にはとても出来ない。
拒絶されたら立ち直れないかもしれないが、遊紗は頷いてくれると、どこかで根拠の無い自信が持ち上がった。
そう遠くないうちに、俺の気持ちを伝えよう。
例えダメでも、伝えない後悔より伝えた後悔を。
その後のことは、その時考えればいい。
ああ、俺が遊紗と違う性別なら良かったのに。
世話になっている女性カメラマンからどうしても撮らせて欲しいという依頼があり、断る理由もなかったからだ。
彼女は俺より年上の、ハキハキした元気タイプの女性で、同時に恋多き女性でもあった。撮影が終わったあとはだいたい今現在の恋愛の話をしてくるので、俺はいつも話半分で聞いている。最初は真面目に聞いていたのだが、聞く度に相手が変わっているので段々おざなりになったのだ。
今日はファッション雑誌用の写真撮影らしく、何種類かの服を着て色んなポーズを取った。俺が知っている服ブランドではあるが、まだそれほど有名ではないブランドだ。いくつか遊紗に似合いそうなものがあり、あれいいな、これいいな、と彼が着たところを想像しながらやっていると、いつもより楽しく仕事が出来た。
彼女にも「今日はノッてるね!」と笑顔で言われた。
お世辞かもしれないが、褒められるのは悪い気分ではなかった。
そして撮影後は、今日も例外ではなくまた新しい彼氏の話を聞かされた。
「今度はどんな方なんですか?」
もう慣れきっているので俺から聞いてみる。すると、彼女は嬉しそうに話し始めた。
「もうね、すっごくいいひとなの! 笑顔が素敵で優しくて、それでいてわたしの話もずっと聞いてくれて。イケメンってわけじゃないんだけど、もう内面がドンピシャでねー」
「そうなんですか」
「そう! わたしが働いてるからって家事もたくさんやってくれて助かってるし、愚痴のひとつも言わなくて…………あ、もちろんわたしはもっと頼って欲しいなーなんて思うんだけど」
「なるほど」
「でね、もうとにかく寝顔が可愛いの! それ見る度にキュンとしちゃってさぁ、癒されるのよね~」
「キュン、ですか?」
「うん。有栖君は経験ない?」
「よく分かりません」
「なんかこう、心臓を鷲掴みにされるような感じなの! キュッて縮まるような。でも悪い意味じゃなくて……うーん、言葉にするのは難しいけど、とにかく心地がいい感覚なのよ」
「……………………」
「好きな相手には特にそういう感情を抱くものだと思うわ。わたしなんか彼が何してても可愛い~って思うし、いつも彼のことばっかり考えちゃって仕事が疎かになったり、何でもしてあげたいって思ったり。極めつけには誰にも渡したくないって思い始めるの」
「……………………」
「ちょっと、有栖君聞いてる?」
「…………え、あ、はい。聞いてます」
「もう、ぼーっとしちゃって。あ! そうそう、貴方ココ最近休んでたじゃない? どーお? 彼女の1人でも出来たのかしら? わたし達の間じゃ、そうなんじゃないかって専らの噂なの」
「…………ただの、休暇です」
「ほんと~?」
「はい」
「お姉さんには何でも相談していいんだからね!」
「あ、はい」
カメラマンと別れたあと、俺は生きた心地がしなかった。どうやって家まで帰ったかもはっきりと思い出せない。
彼女の言った言葉には、たくさんの心当たりがあった。俺が遊紗に抱いていた感情が、どういうものなのか分かってしまった。
俺は、遊紗のことが好きなのだ。おそらく、出会って間もない頃から。
腑に落ちると同時に、ざわざわと嫌な感覚が込み上げてきた。
渡すものかと、あいつに近付かせるものかと思った相手と、同じ感情を彼に向けていたなんて。
最悪だ。
結局俺は、いつまで経っても我が儘な自己中心的存在なんじゃないか。
彼を守りたいと思ったのも、あいつに取られたくなかったからなのかもしれないと思うと、自分で自分に嫌気が差した。
友達すらいなかったくらいだから、今まで恋なんてしたことがなかった。心のどこかではそうなんじゃないかと気付きつつも、気付かないふりをしていた。
それはきっと、自分の薄汚さに気付きたくなかったからだ。俺は「普通」だと、思い込みたかったからだ。あいつとは違う、と。
だけど、気付いてしまったからには、伝えなければいけない。拒絶されるとしても、黙ったまま傍に居続けるなんて、俺にはとても出来ない。
拒絶されたら立ち直れないかもしれないが、遊紗は頷いてくれると、どこかで根拠の無い自信が持ち上がった。
そう遠くないうちに、俺の気持ちを伝えよう。
例えダメでも、伝えない後悔より伝えた後悔を。
その後のことは、その時考えればいい。
ああ、俺が遊紗と違う性別なら良かったのに。
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