憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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伝わらない気持ち

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有栖に服を買ってもらったため、僕のクローゼットはかつてない賑わいを見せていた。
僕が着そうなものから余所行きっぽい服まで7着、上着も2着とズボンも2本買ってもらった。
こっそり値札を見ると1着で軽く5000円前後もして、合計ならいくら……? と若干血の気が引いた。この服1着でたくさんご飯が食べられる値段なので、今まで以上に大事に着なければ。

本当は自分で払うつもりだったのだけど、有栖に拒否されたので仕方なくもらっておくことにした。


有栖は今日久々の仕事に出かけたのだが、帰って来てから様子がおかしかった。
ずっと上の空で、顔色も良くない。仕事で疲れたのかと思ってそっとしておいたが、次の日になってもそれは続いた。

ソワソワと落ち着きがなく、僕に何か言いたそうなのに何も言い出さないまま自室に引っ込んでしまう。目も合わせてくれなかった。

仕事場で嫌なことがあったというよりは、僕に何かあるような感じだ。
やっぱり学費も服代も払わせているのがいけないのだろうか。有栖は貧乏な僕を気遣ってくれているだけで、本当は払いたくないのかもしれない。もしくはもう出ていって欲しいとか。
所詮は赤の他人なのだから、そう思うのも当たり前だ。

そう考えて、有栖にその話をしようと思ったのだが、部屋に行っても「1人にして欲しい」と言われて話せなかった。
冴木さんに原因を聞いても「分からない」と言われた。ずっと一緒にいる冴木さんでも分からないなら、僕はどうしようもない。

仕事場で何か言われたのだろうか。どこの誰かも分からない人を住まわせているなんて、とか、服も学費も払わせるなんておかしい、とか。
どれも有り得そうな話だ。
僕の話をしているかは分からないが、もししていたら傍から見れば完全に怪しいヤツだし。どこかのモデルとかならともかく、何の変哲もない僕なら尚更。



結局話もせず目も合わせないまま3日が過ぎた。冴木さんも怪訝そうだったけどどうすることも出来ない様子だった。

今日もこのまま終わるのだろうか、と思っていた時、有栖に、

「ちょっといいか。話したいことがある」

と呼ばれた。有栖が自室に入って行って、僕は大人しくついて行った。

「その、しばらく余所余所しくして悪い」

「うん、いいよ。理由は話してくれる?」

「ああ、今から話す」

有栖は目を瞑って深呼吸した。長く息を吐いて、静かに目を開く。

「遊紗、俺はどうやらお前のことが好きみたいだ」

「…………え?」

一瞬、彼が何を言っているのか理解出来なかった。スキ? 僕のことが? 好きってどの好き?

「え、好きって…………。その、恋愛的な意味で?」

「そうだ」

そうらしい。
僕の頭は軽くパニックを起こした。有栖って女性関係で云々って雑誌に書かれてなかったっけ。あれはガセネタっぽかったし信じてないけど、本当は女性じゃなくて男性が好きだったってこと?

「突然のことで混乱させてすまない。俺はおそらく初恋なんだ。正直、俺自身も混乱してる。……だけど、3日間考えて決心した。この気持ちに嘘偽りはない。無理にとは言わないが、もしお前がよければ、俺と付き合ってくれないか」

真っ直ぐに目を見つめられて、僕はゆっくりと冷静さを取り戻した。

そうか、有栖は本当に僕を好きになってくれたんだ。


正直に言うと嬉しかった。
有栖は雲の上の存在で、僕なんかとは何もかも違って。僕のことなんて眼中に入れないで虫けらみたいに扱ってもいいくらいなのに。
…………それなのに好いてくれる。

僕のちょっと変わった趣味を肯定してくれて、僕に色んな施しをしてくれて、本当に感謝している。御園とはまた違って、有栖は特別な存在だ。


…………だけど。だからこそ。

「ごめんね、有栖。気持ちは嬉しいんだけど、付き合うことは出来ないんだ」

彼には幸せになってもらいたい。

僕の断り文句に顔を青ざめさせて悲しそうな顔をして、自分に問題があるなら直すからと言ってくれる有栖に心を痛めながら、僕は理由を口にする。

「僕は、人を愛したことがないんだ」

だから、気持ちに答えられない。僕は、彼を恋愛的な意味で愛すことが出来ない。彼に愛情を返すことが出来ない。
彼に僕を一方的に愛させるなんて傲慢なこと、僕には出来ない。

だから僕から離れて、ちゃんと愛情を返すことが出来る人といた方が、ずっと幸せになれるのだ。

有栖に非なんて欠片もない。ただ、僕がダメなだけ。



人が人を愛する期間は4年間だと聞いたことがある。今は僕のことを好きになってくれたのだろうけど、4年過ぎたら冷めるだろう。だから、その4年間を僕なんかに費やすのは勿体ない。


…………だから、これでいいんだ。
有栖を傷つけるのは本意ではないけれど。
それで彼が幸せになるのなら。


――――――――――――†

(端書き)

やっと作品紹介の部分ですね。展開を急いでしまう癖があるので頑張って引き伸ばしたのですが、引き伸ばし過ぎましたかね。

余談ですが、作者は右手小指付け根の靭帯を痛めまして、全治10日だそうです。
手すりで強打しただけなのですが貧弱ですね 。次からはムキムキにしておこうと思います。
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