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3.その頃王宮では
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リゼットとカミラが鏡越しに会話をしていた頃、王宮では一つの騒動が起こっていた。
「ジョルジュ!貴様は何て事をしてくれたのだ!!」
「ちっ父上!ちょっ止めて下さい痛い!痛いですよ!」
憤怒の形相凄まじく王太子である息子をこれでもかと殴りつける国王と、少しでも防御しようと身を縮める王太子ジョルジュ。
「私と王妃が外交で留守なのを良い事に、随分勝手をやってくれたな!貴様は留守番ひとつまともに出来んのか!!」
「父上!本当に痛いですよ!!」
怒りが収まらずまだ殴りつけようとする国王の腕にそっと自らの手を添えて制止したのは、王妃だった。
「陛下、お気持ちは分かりますがもうそれくらいになさって下さい。」
「は母上…」
これで助かる、やはり母は自分の味方なのだとジョルジュが思ったのも束の間、王妃は凍えるような冷たい声で言った。
「ジョルジュの唯一の取り柄である顔が悲惨な事になりますから…まあそれですら及第点なのですが」
「!!」
あんまりな言い方に絶句するジョルジュ、いつも優しく微笑みかけ自分を愛してくれていた母から向けられる軽蔑の眼差しに言葉が出ない。
「…そうだな、確かにこれでは埒が明かない少し冷静になろう。」
国王からの拳が飛んでくる事はなくなったが、少しも安心出来ない。
「ジョルジュ、貴様は王命の婚約を何だと思っているのだ?聖女との婚約を勝手に破棄しただけでは飽き足らず、彼女を聖女から解任するとは!どれだけ国益を損ねれば気が済むのだ?」
「本当に、しかも貴方リゼットに向かって怠惰聖女と罵倒したんですって?国の繁栄だけでなく国防の要になってくれていたあの子に対して…」
「なっ!あの女がそんな国を左右する重要なポジションに立てるわけないじゃないですか!俺の小さな要求すら聞けなかったのに」
その言葉が出た瞬間、王妃の周辺の温度が一気に氷点下になった錯覚がした。
「貴方の鼻が高くなろうが、目が切れ長になろうが及第点が平均点に変わる程度でしょう!何を考えて聖女の仕事のみならず、王太子妃教育でヘトヘトになっている彼女にそんな下らない要求をしているの!!」
及第点とか平均点とか言っている時点で取り柄も何もないのだが、他に褒めるところが無かったのであろう。
「それとこの王宮のゲストルームにいる娘は何なの?」
リゼットとの婚約破棄騒動の日から王宮に滞在させている、男爵令嬢マリーナについて王妃が言及する。
「マリーナは俺と真実の愛で結ばれた、新たなる聖女です!」
この王子は、実の母親に腐った生ゴミを見るような目で見られている事に気付いていないのか?
「馬鹿な子ほど可愛いとは言うけれど、限度と言うものがあるわ。頭の出来は悪いのに性欲だけは人一倍ある、貴方はチンパンジーなの?」
「!!」
「いえ、違うわね…あの動物は知能が高いもの、チンパンジーとジョルジュなんか比べるのも烏滸がましいわ」
「は、母上何を言って…」
顔面蒼白になる息子を気にも留めず、王妃は言葉を続ける。
「それと、あのマリーナと言っていた男爵令嬢本当に王太子妃が務まると思うの?少し会話をしてみたけれど九九も言えなさそうな娘よ?」
「なっ!マリーナをバカにしないで下さい!彼女だって九九くらい言えます!二桁の掛け算の筆算はちょっぴり苦手ですが」
王妃は物の例えで言ったのだが、どうやら想像以上の馬鹿だったようだ。国王はただただ頭を抱えている。
「今はまだリゼットの張った結界が機能していますが、それもいつまでもつか…本当にマリーナ男爵令嬢に次の聖女をやらせるのですね?」
「勿論ですよ母上!」
ジョルジュ王子は先程王妃に説明された、聖女の役割を理解しているのであろうか?
何故そこまで自信満々になれるのか?
「リゼットが引き継ぎ用のマニュアルを残してくれていますが、あの男爵令嬢字が読めるのかしら?」
王妃から出た言葉は今度は物の例えではなく、本心からのものだった。
「ジョルジュ!貴様は何て事をしてくれたのだ!!」
「ちっ父上!ちょっ止めて下さい痛い!痛いですよ!」
憤怒の形相凄まじく王太子である息子をこれでもかと殴りつける国王と、少しでも防御しようと身を縮める王太子ジョルジュ。
「私と王妃が外交で留守なのを良い事に、随分勝手をやってくれたな!貴様は留守番ひとつまともに出来んのか!!」
「父上!本当に痛いですよ!!」
怒りが収まらずまだ殴りつけようとする国王の腕にそっと自らの手を添えて制止したのは、王妃だった。
「陛下、お気持ちは分かりますがもうそれくらいになさって下さい。」
「は母上…」
これで助かる、やはり母は自分の味方なのだとジョルジュが思ったのも束の間、王妃は凍えるような冷たい声で言った。
「ジョルジュの唯一の取り柄である顔が悲惨な事になりますから…まあそれですら及第点なのですが」
「!!」
あんまりな言い方に絶句するジョルジュ、いつも優しく微笑みかけ自分を愛してくれていた母から向けられる軽蔑の眼差しに言葉が出ない。
「…そうだな、確かにこれでは埒が明かない少し冷静になろう。」
国王からの拳が飛んでくる事はなくなったが、少しも安心出来ない。
「ジョルジュ、貴様は王命の婚約を何だと思っているのだ?聖女との婚約を勝手に破棄しただけでは飽き足らず、彼女を聖女から解任するとは!どれだけ国益を損ねれば気が済むのだ?」
「本当に、しかも貴方リゼットに向かって怠惰聖女と罵倒したんですって?国の繁栄だけでなく国防の要になってくれていたあの子に対して…」
「なっ!あの女がそんな国を左右する重要なポジションに立てるわけないじゃないですか!俺の小さな要求すら聞けなかったのに」
その言葉が出た瞬間、王妃の周辺の温度が一気に氷点下になった錯覚がした。
「貴方の鼻が高くなろうが、目が切れ長になろうが及第点が平均点に変わる程度でしょう!何を考えて聖女の仕事のみならず、王太子妃教育でヘトヘトになっている彼女にそんな下らない要求をしているの!!」
及第点とか平均点とか言っている時点で取り柄も何もないのだが、他に褒めるところが無かったのであろう。
「それとこの王宮のゲストルームにいる娘は何なの?」
リゼットとの婚約破棄騒動の日から王宮に滞在させている、男爵令嬢マリーナについて王妃が言及する。
「マリーナは俺と真実の愛で結ばれた、新たなる聖女です!」
この王子は、実の母親に腐った生ゴミを見るような目で見られている事に気付いていないのか?
「馬鹿な子ほど可愛いとは言うけれど、限度と言うものがあるわ。頭の出来は悪いのに性欲だけは人一倍ある、貴方はチンパンジーなの?」
「!!」
「いえ、違うわね…あの動物は知能が高いもの、チンパンジーとジョルジュなんか比べるのも烏滸がましいわ」
「は、母上何を言って…」
顔面蒼白になる息子を気にも留めず、王妃は言葉を続ける。
「それと、あのマリーナと言っていた男爵令嬢本当に王太子妃が務まると思うの?少し会話をしてみたけれど九九も言えなさそうな娘よ?」
「なっ!マリーナをバカにしないで下さい!彼女だって九九くらい言えます!二桁の掛け算の筆算はちょっぴり苦手ですが」
王妃は物の例えで言ったのだが、どうやら想像以上の馬鹿だったようだ。国王はただただ頭を抱えている。
「今はまだリゼットの張った結界が機能していますが、それもいつまでもつか…本当にマリーナ男爵令嬢に次の聖女をやらせるのですね?」
「勿論ですよ母上!」
ジョルジュ王子は先程王妃に説明された、聖女の役割を理解しているのであろうか?
何故そこまで自信満々になれるのか?
「リゼットが引き継ぎ用のマニュアルを残してくれていますが、あの男爵令嬢字が読めるのかしら?」
王妃から出た言葉は今度は物の例えではなく、本心からのものだった。
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