婚約者のいる殿方を横取りした令嬢の末路

マドレーナReturns

　私はここで何をしているのだろう？

「やあ、マドレーナ嬢、３日と２時間１４分ぶりだね！」

　このチャラチャラしたナンパ男『ティアゴ・ユング公爵令息』と私は４ヶ月前に婚約をした。

　婚約をした時は私は人生の絶頂だった、しかしその３ヶ月後…つまりは今から１ヶ月前、今度は人生のドン底に叩き落とされる事になるなんて…

　私の運命の人は『ティアゴ様』ではなく『アリスティア様』と言う名前だった。

　私に纏わりつき腰をなでまわすティアゴ公爵令息に文句を言うが、どうして私が照れているだなんて思うのよ？
　セクハラ行為をやめろと言っているのよ！

「今日はモーリア伯爵がユング公爵邸ここまで送ってくれたんだね？」

　お父様に引っ張られなければ来なかった、本当は来たくなかったと素っ気ない態度をとっているのに何で嬉しそうな顔をするの？
　ダメだわ話が通じない、リリー様は３ヶ月もこの宇宙人の婚約者をしていたなんて素直に尊敬をする。

　この男と婚約したと判明してから勉強なんて気分になれなくて、成績は右肩下がりで先日も補習をするはめになったわ。

　当時は銀髪の青年だと思っていたティアゴ様とリリー様が婚約したと噂で聞いた時も勉強どころではなかったが、担任教師から留年を匂わせる事は言われなかった。
　これは私もいよいよ進級が危ういようね。

　ティアゴ様は先生が脅しているだけだとおかしな慰めの言葉をかけるけれど、あの教師の哀れむような顔を見ていないからそんな事が言えるのよ…

　もういいわよ、どうせ卒業したところでこの男との結婚が待っているだけだし、いっその事留年してしまえばこの婚約は流れるかも知れない。

「…私は留年したい」

　いけない、思わず口から本音が漏れ出していたわ。
　そう考えていた矢先目の前のチャラチャラ男は私にとんでもない事を告げてきた。

　何ですって！成績がどれだけ悪かろうがとりあえず卒業だけはさせる？
　卒業後に鬼のような量の課題と補習と追試が待つだけで、今まで卒業出来なかった人はいない？

　現にこの男は授業をサボって街で女の子をナンパしたり、試験中に居眠りをして白紙の答案を提出し、主要科目５教科の単位を落としたけれど卒業証書をもらえたですって！？

　自分の婚約者の馬鹿さ加減に言葉が出ない。『今は君一筋だよ、もうナンパなんてしないから安心して』じゃないわよ！私が問題視しているのはそこではないわ！

　ダメだわ留年して婚約を流すと言う退路を断たれてしまった、どうしよう、これは詰んだ…。

　絶望する私をよそに目の前の男は結婚後のプランを話し始める。
　内容はほとんど頭に入ってこないけれど、何やらすぐに子どもが生まれてしまうと２人きりの期間が短くなってしまうとか。

　そうよ！何で気が付かなかったの、子どもが生まれたら子育てで忙しくなってこの男と２人きりになる機会は激減するわ！

「ティアゴ様、私子どもは沢山欲しいですわ！出来れば結婚後年数を空けずに、子育てで２人きりの時間を忘れる程に！」

　目の前の男は私の勢いに目を丸くしながらもその事に同意をした。

　なんだ解決策はあるじゃない。大丈夫ちゃらんぽらんな男の血は混ざっていても私の子、ちゃんと愛する自信はあるわ。


　子どもは授かり物なのですぐに出来る保証もないのだが、やはりそこはマドレーナだ。
　運良くすぐに授かったとしても、ユング公爵がおバカ２人だけに子育ては任せられないと、腕の良いナニーと家庭教師に目星をつけている。

　子育てが忙しくて２人きりの時間が取れないと言う事態にはならないのだ。

　そしてこの時マドレーナは正常な判断が出来ない状態だった。
　数時間後モーリア伯爵邸で『仏門がー』とか『俗世を捨てる』などと叫ぶマドレーナの姿があったとかなかったとか。

※一応学園の卒業生の名誉のために説明しておくと、ティアゴが特殊だっただけです。高位貴族の子どもが多く通う名門校なので決して学園の程度が低いわけではありません。