春の洗礼を受けて僕は

さつま

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夏の魔物

3話 金曜日3

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 玄関のチャイムを押すと、睦月がぱっと顔を出した。
「ようこそー」
 急にすみませんと、睦月の母親に頭を下げる。
「いいんだよー。唐揚げはみんなで食べる方がおいしいもんね」
「麗さんの言う通りー」
 ヒロが茶々を入れたら、夏伊の顔が固まった。
「麗、さん…」
「あっ、麗っていうのはわたしの名前ね」
 夏伊は口ごもって、それから頷く。
「睦月にこんな楽しい友達がいたなんて、知らなかったよ。はいどうぞ」
 大皿に、片栗粉の混ざったタイプの唐揚げがどんと乗っかった。
「カリカリしてるやつだ~」
 睦月の目が輝いている。
 片栗粉のダマを作っておくのがポイントね、と麗が言った。
「いただきまーす」
 狭いダイニングテーブルに、家中の椅子をかき集めて男子三人女性一人が座って、ぎゅうぎゅうになりながら夕飯を食べる。
 成長著しいヒロがあまりにバクバク食べるので、網春巻も揚げ、まだいけるというので、鰹節をたっぷり乗せた焼きナスと牛丼も出された。
 夏伊と睦月も、焼きナスをつまむ。
「夏伊くん、フルネームを伺ってもいい?」
 はいと返事して、自己紹介が遅れましたと、謝罪と共に名乗る。
「あら、香月さんのおうちの?」
「母さん知ってるの?」
「もちろん。お家も有名だし、ここの辺りの大地主さんでもあるからね」
「恐縮です。それより麗さん、この辺りにお詳しいんですか?」
 千葉から越してきたと聞きましたがと聞かれて、麗がゆるりと笑う。
「うん、ここで育ったからね」
 指で下を指す。
「この土地に前に建ってた一軒家って、おばあちゃんの家なんだよ」
 このマンションは、亡くなった祖母の家と、祖母が経営していたアパートを取り壊した土地に建っている。
「そうだったのか」
 牛丼を平らげたヒロが首を突っ込む。
「なになになんの話?」
 その一軒家を夏伊が認識していたという話を共有して、それから学校のあれやこれやを麗に話した。
 気づけば夜の9時を回っている。お家の方のOKが出れば泊まっていっていいよ、との言葉に甘えて、夏伊もヒロも泊まることにした。
「うーんむっちゃん、もうちょっと長めのボトムない?」
「ないよ…」
 ムムムと言いながら、風呂上がりのヒロがソファベッドで寝落ちた。
 ちっさくて悪かったね、とぶつぶつ言いながら、睦月がバスルームに向かう。
「おいヒロ、もっと端に寄れよ」
「んんー、むにゃむにゃ…」
「ったく…」
 夏伊がため息をつくと、麗が笑った。
「夏伊くん、睦月と一緒にいてくれてありがとね」
 会ってみたかったから、今日は嬉しかったと麗が言う。
「睦月が? 俺の話をしたんですか?」
「うん、前に睦月のお見舞いに来てくれたでしょ。その話の折に、名前を聞いたの」
 それより前に、ハーブを持ってきてくれたのも夏伊くん? と聞かれ、隠す理由もないので、はいと答えた。
 ハーブね、壁に飾ってあるんだよ。と、睦月の部屋の扉を指さした。
 乾かして額装してあるの。なかなかいい出来だよ。
 でもこの話をしたことは、睦月には内緒ね、と笑った。
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