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親愛なるあなたへ
2話 春1
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階段を一番上まで登っていく。
ドアを開けると、春の風が睦月の横を掠めていった。
「夏伊、ヒロ、おはよう。元気? 聞きたいことがあるんだけど」
屋上の床に座る。
「ブルータス、お前もか」
「ほんとに裏切りだよ」
ヒロが顔を歪めて言う。
「えっヒロ、どうしたの?」
「全然教えてくんないんだもん。オレが帰国を待ち侘びてることなんて、前から知ってるくせに」
「帰国?」
後ろでドアが音を立てて開いた。美麗の少女が屋上に現れる。
「わたしが整理しようか」
彼女が微笑み、ヒロは笑顔になり、夏伊の顔はめちゃくちゃに渋くなる。
睦月は夏伊に、この人物について聞きたかったので、願ったり叶ったりだ。
「夏伊の双子の姉の、香月夏弥です。ヒロの許嫁だよ。海外に住んでたけど、先日帰ってきました。これからよろしくね」
情報量が多い。
「…そうだったんだ。木之内睦月です。よろしく…」
夏伊とカヤを、何度も見る。
「…双子なんだ」
たしかに似ている。夏伊とカヤは、身長と栗色の髪の長さ位しか違いがない。
それでいうと、文化祭の時にメイド姿になった夏伊とそっくりだ。でも口に出すと場が凍りつきそうなので黙っておく。
「あれ、もしかして、むっちゃんにも何も言ってなかったの?」
ヒロが信じられないといった表情を浮かべる。
察したカヤが、あららと手で口を覆った。
「お姉ちゃんが帰ってくるの、楽しみに待ってくれてるのかと思ってたのにナー」
ちらりと夏伊を見る。
「姉ぶるのはやめろ、そんなに時間差はなかったはずだ」
出生時のことを言っているらしい。
「クラス分けの表見て驚いたんだけど。てっきり理系に行くと思ってたのに、夏伊が文系だなんて。算数、得意だったのにね」
『算数』の響きが懐かしく感じられたのか、ふふっと笑う。
「海外って、どこに行ってたの?」
睦月が聞く。
「インドネシアだよ」
「その話は終わり」
夏伊が無理矢理に話を断つ。
カヤが一瞬、物言いたげな顔をしたけれど、はーいと応じた。
今日は授業もなく、昼には屋上も閉鎖されるため、そのまま帰ることにした。
ヒロに合わせて駅まで行き、それから三人で帰る。一年の間は夏伊と二人で歩いていた道。
なんだか不思議だなと呟いたら、カヤに、夏伊とむっちゃんは仲良しなんだねと微笑まれた。
「まあ、ねえ」
睦月の歯切れの悪い返事に、夏伊がムッとする。
「まあねえって、何だよ」
「え、別に…」
「むっちゃん、夏伊っていつもこんなに機嫌が悪いの?」
「うーん、どうだろう。何が悪いものでも食べたのかな」
カヤがぱっと手を挙げる。
「わたしそれ知ってるよ! カンノムシでしょ」
「疳の虫は赤ちゃんが大泣きするやつだろ」
「そうなんだ。でも当たらずとも遠からず、って感じだね」
夏伊を見て笑う。
「お前は本当に失礼な奴だな」
離れている間にちょっとはいい性格になったかと思ったら、とぶつぶつ言う。
「そう言えば、カヤは何で海外に行ったの?」
日本に家がある上で小さい頃に留学するなんて、珍しい気がする。音楽か何かで? と聞く。
「父親の単身赴任に、ついて行ったんだよ」
「そうなんだ。夏伊と離れるの寂しかったんじゃない?」
「ふふ、そうだね」
そして夏伊の方を向く。
「もうしばらく、海外にいた方が良かったかな」
「…別に」
ぶっきらぼうに、夏伊が言った。
しばらくして、マンションの前で二人と別れた。
二人並んで帰っているのを見ていたら、何だかほっとした。
カヤがいるなら良かった。夏伊はこれからは、ご飯を一人で食べなくていいんだ。
ドアを開けると、春の風が睦月の横を掠めていった。
「夏伊、ヒロ、おはよう。元気? 聞きたいことがあるんだけど」
屋上の床に座る。
「ブルータス、お前もか」
「ほんとに裏切りだよ」
ヒロが顔を歪めて言う。
「えっヒロ、どうしたの?」
「全然教えてくんないんだもん。オレが帰国を待ち侘びてることなんて、前から知ってるくせに」
「帰国?」
後ろでドアが音を立てて開いた。美麗の少女が屋上に現れる。
「わたしが整理しようか」
彼女が微笑み、ヒロは笑顔になり、夏伊の顔はめちゃくちゃに渋くなる。
睦月は夏伊に、この人物について聞きたかったので、願ったり叶ったりだ。
「夏伊の双子の姉の、香月夏弥です。ヒロの許嫁だよ。海外に住んでたけど、先日帰ってきました。これからよろしくね」
情報量が多い。
「…そうだったんだ。木之内睦月です。よろしく…」
夏伊とカヤを、何度も見る。
「…双子なんだ」
たしかに似ている。夏伊とカヤは、身長と栗色の髪の長さ位しか違いがない。
それでいうと、文化祭の時にメイド姿になった夏伊とそっくりだ。でも口に出すと場が凍りつきそうなので黙っておく。
「あれ、もしかして、むっちゃんにも何も言ってなかったの?」
ヒロが信じられないといった表情を浮かべる。
察したカヤが、あららと手で口を覆った。
「お姉ちゃんが帰ってくるの、楽しみに待ってくれてるのかと思ってたのにナー」
ちらりと夏伊を見る。
「姉ぶるのはやめろ、そんなに時間差はなかったはずだ」
出生時のことを言っているらしい。
「クラス分けの表見て驚いたんだけど。てっきり理系に行くと思ってたのに、夏伊が文系だなんて。算数、得意だったのにね」
『算数』の響きが懐かしく感じられたのか、ふふっと笑う。
「海外って、どこに行ってたの?」
睦月が聞く。
「インドネシアだよ」
「その話は終わり」
夏伊が無理矢理に話を断つ。
カヤが一瞬、物言いたげな顔をしたけれど、はーいと応じた。
今日は授業もなく、昼には屋上も閉鎖されるため、そのまま帰ることにした。
ヒロに合わせて駅まで行き、それから三人で帰る。一年の間は夏伊と二人で歩いていた道。
なんだか不思議だなと呟いたら、カヤに、夏伊とむっちゃんは仲良しなんだねと微笑まれた。
「まあ、ねえ」
睦月の歯切れの悪い返事に、夏伊がムッとする。
「まあねえって、何だよ」
「え、別に…」
「むっちゃん、夏伊っていつもこんなに機嫌が悪いの?」
「うーん、どうだろう。何が悪いものでも食べたのかな」
カヤがぱっと手を挙げる。
「わたしそれ知ってるよ! カンノムシでしょ」
「疳の虫は赤ちゃんが大泣きするやつだろ」
「そうなんだ。でも当たらずとも遠からず、って感じだね」
夏伊を見て笑う。
「お前は本当に失礼な奴だな」
離れている間にちょっとはいい性格になったかと思ったら、とぶつぶつ言う。
「そう言えば、カヤは何で海外に行ったの?」
日本に家がある上で小さい頃に留学するなんて、珍しい気がする。音楽か何かで? と聞く。
「父親の単身赴任に、ついて行ったんだよ」
「そうなんだ。夏伊と離れるの寂しかったんじゃない?」
「ふふ、そうだね」
そして夏伊の方を向く。
「もうしばらく、海外にいた方が良かったかな」
「…別に」
ぶっきらぼうに、夏伊が言った。
しばらくして、マンションの前で二人と別れた。
二人並んで帰っているのを見ていたら、何だかほっとした。
カヤがいるなら良かった。夏伊はこれからは、ご飯を一人で食べなくていいんだ。
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