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第2章 出土遺骨
出土遺骨 2
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「随分と古い骨ね」
ハリスが持ってきた骨を見聞しながらミルカはどこで見つけたのか問う。こんな古い骨を見るのは久しぶりだった。
迷宮内で死んだ探索者の多くは死体運びが運んでくる。例外は彼らもいけないような場所で死んだときくらいだ。
「ああ、なんでも新入りが見つけたんだ。巣穴から堕ちて来たんだと。なあ、クリフ」
「あ、ああそうなんだ」
「なるほど……」
「で、どうにかなりそうか?」
蘇生できるのかどうか。見つけたからには蘇生してほしいというのが、すごくお人好しのハリスの考えであった。もし出来ないのならば、せめて丁寧に埋葬してやりたいとも思っている。
拡大鏡をかけていたミルカは、検分が終わったのでそれをローブのポケットの中に仕舞いこむ。といっても特に検分もなにもない。骨のみであるならば、それが誰であるかを調べることは容易ではない。
セーブ屋は探索者たちにとって神の如き力を持っているように思えても、同じ人であるのだから、出来ること出来ないことがあるのは自明である。
しかし、ミルカは幸いにも見覚えがあった。腕に残った傷跡。骨に達する刃傷の痕跡は、昔ミルカが治療してやったことがある女のものだ。
「そうね、一応、私が担当した子だわ」
表情は一切変わらないがミルカは、随分と遅かったじゃないと、内心と遺骨に向って笑みをつくる。
「それなら?」
「ええ、蘇生可能よ」
「それは良かった!」
ハリスはこれ見よがしに安堵する。すごくお人好しなのだ。その通り名がすごくお人好しなのだから、わかるだろう。
ミルカは変わらないわねと言いながら、奥の蘇生室へと遺骨を持っていく。大部分が欠けてはいるがそれでも問題はない。
一部分でも残っていて、それが誰だかわかっていればいいのだ。骨の古さと骨格、わずかに残った衣服と持ち物、傷跡からミルカは一人の該当人物を思い浮かべていた。
数十年前にこの第三迷宮アルズに入っていった女性冒険者だ。心配になるくらいに抜けていて、探索者という言葉が実に似合わない性格をしていたことを覚えている。
彼女の冒険の書の内容は、数十年経った今でもミルカは覚えていた。いつか戻ってきた時の為に。
「私が生きているうちで良かったわ」
冒険の書の内容は、書き記すことを赦されない。全て自らで覚えていなければならない。
だから、ミルカが死んでしまえばその内容は本人以外からは葬られる。そうなってしまえば、寿命以外での蘇生が出来なくなってしまう。
セーブ屋が長命種だけの職業である理由がそれだ。
「さて――」
準備が出来れば、冒険の書を一字一句間違えることなく術式陣へと書き入れていく。
生まれた時。
ミジェットの田舎の生まれで、誰よりもわんぱくだった。
出稼ぎで迷宮都市まで来て探索者になった。好きな人がいたけれど、そういうことよりも村の家族に仕送りをするために働いていた。
面白味は何もない人生であるとミルカは思ったことを思い出す。それでも楽しそうに迷宮について話すし、いろんなことについて話しかけてきたお節介な女だった。
多様な人物の人生を見て来たが、彼女はその中でも普通だった。特に英雄的な何かがあるわけでもなければ、優れた才能があるわけでもない。
彼女はただ、家族の為に迷宮都市にやってきた。
「お節介だったわね。こんな私にまでお節介をやいたわね。あなた」
いつも迷宮から帰ってきたら食事に誘ってくる。
休みの日はただにこにことセーブ屋にやってきてしゃべり倒していく。
「本当に、お節介だったわ」
ただ暇ではなかった。
「本当に、おかえりなさい。ちゃんと戻って来たのは偉いわ。貴女それだけが取り柄だものね」
まったく顔の表情は変わっていないが、その声色はいつもよりも幾分も優しいものだった。
書き込んだ内容は一字一句間違いはない。全て書き終えて術式陣を完結させれば、あとは敷設された術式陣により蘇生が始まる。
地脈の力によって失われた肉体を取り戻させ、記述した魂の形のままに蘇生する。
ある学者は本当にそれは同一人物であるのかと言って、それを問題にしているらしいがミルカには関係のないことであった。
冒険の書はその人の人生だ。何を思い、どう思考し、何を経験したのか。
それが全て記述されている。それらすべてを一字一句間違えずに術式に記入したのであれば、それは紛れもなく同一人物だ。
ミルカはそう思っているし、探索者もそう思っている。
「ん……ん? うぇ、あ、あれ? 裸……あー、死んだのかー」
「おかえりなさい、アルル」
「あー、ミルカだ、おはよー」
「相変わらず能天気ね」
蘇生したばかりだというのに、ミルカの記憶の中にある通りに能天気ないつも通りの挨拶を告げてくるあたり、死んでも馬鹿は治らない。
「えへへーそうでもないよー。そんなに褒められると照れちゃうなぁ」
「褒めてないのだけれど……まあいいわ。いきなりで悪いのだけれど、貴女に言っておくことがあるわ」
「? なぁに?」
「貴女は死んだわ」
「うん、死んだみたいだね、覚えてないけど」
「それから数十年も経っているのよ」
「へー、数十年かー、え? えええええ!?」
飛び上がって驚くアルル。
それも当然だろう。彼女からすればこのセーブ屋でセーブしたのが最後の記憶だ。それで気が付けば数十年後となれば驚くのも当然のことである。
「具体的には五十年くらいね」
「五十年!? ミルカわっか!?」
おそらく変わらないね、凄い若い!? って言っているのだろう。相変わらず言葉が抜けているし、驚くところもズレていて抜けている。
「ええ、待ちくたびれたわ。おかえりなさい」
ずっと言いたかった言葉だった。
ハリスが持ってきた骨を見聞しながらミルカはどこで見つけたのか問う。こんな古い骨を見るのは久しぶりだった。
迷宮内で死んだ探索者の多くは死体運びが運んでくる。例外は彼らもいけないような場所で死んだときくらいだ。
「ああ、なんでも新入りが見つけたんだ。巣穴から堕ちて来たんだと。なあ、クリフ」
「あ、ああそうなんだ」
「なるほど……」
「で、どうにかなりそうか?」
蘇生できるのかどうか。見つけたからには蘇生してほしいというのが、すごくお人好しのハリスの考えであった。もし出来ないのならば、せめて丁寧に埋葬してやりたいとも思っている。
拡大鏡をかけていたミルカは、検分が終わったのでそれをローブのポケットの中に仕舞いこむ。といっても特に検分もなにもない。骨のみであるならば、それが誰であるかを調べることは容易ではない。
セーブ屋は探索者たちにとって神の如き力を持っているように思えても、同じ人であるのだから、出来ること出来ないことがあるのは自明である。
しかし、ミルカは幸いにも見覚えがあった。腕に残った傷跡。骨に達する刃傷の痕跡は、昔ミルカが治療してやったことがある女のものだ。
「そうね、一応、私が担当した子だわ」
表情は一切変わらないがミルカは、随分と遅かったじゃないと、内心と遺骨に向って笑みをつくる。
「それなら?」
「ええ、蘇生可能よ」
「それは良かった!」
ハリスはこれ見よがしに安堵する。すごくお人好しなのだ。その通り名がすごくお人好しなのだから、わかるだろう。
ミルカは変わらないわねと言いながら、奥の蘇生室へと遺骨を持っていく。大部分が欠けてはいるがそれでも問題はない。
一部分でも残っていて、それが誰だかわかっていればいいのだ。骨の古さと骨格、わずかに残った衣服と持ち物、傷跡からミルカは一人の該当人物を思い浮かべていた。
数十年前にこの第三迷宮アルズに入っていった女性冒険者だ。心配になるくらいに抜けていて、探索者という言葉が実に似合わない性格をしていたことを覚えている。
彼女の冒険の書の内容は、数十年経った今でもミルカは覚えていた。いつか戻ってきた時の為に。
「私が生きているうちで良かったわ」
冒険の書の内容は、書き記すことを赦されない。全て自らで覚えていなければならない。
だから、ミルカが死んでしまえばその内容は本人以外からは葬られる。そうなってしまえば、寿命以外での蘇生が出来なくなってしまう。
セーブ屋が長命種だけの職業である理由がそれだ。
「さて――」
準備が出来れば、冒険の書を一字一句間違えることなく術式陣へと書き入れていく。
生まれた時。
ミジェットの田舎の生まれで、誰よりもわんぱくだった。
出稼ぎで迷宮都市まで来て探索者になった。好きな人がいたけれど、そういうことよりも村の家族に仕送りをするために働いていた。
面白味は何もない人生であるとミルカは思ったことを思い出す。それでも楽しそうに迷宮について話すし、いろんなことについて話しかけてきたお節介な女だった。
多様な人物の人生を見て来たが、彼女はその中でも普通だった。特に英雄的な何かがあるわけでもなければ、優れた才能があるわけでもない。
彼女はただ、家族の為に迷宮都市にやってきた。
「お節介だったわね。こんな私にまでお節介をやいたわね。あなた」
いつも迷宮から帰ってきたら食事に誘ってくる。
休みの日はただにこにことセーブ屋にやってきてしゃべり倒していく。
「本当に、お節介だったわ」
ただ暇ではなかった。
「本当に、おかえりなさい。ちゃんと戻って来たのは偉いわ。貴女それだけが取り柄だものね」
まったく顔の表情は変わっていないが、その声色はいつもよりも幾分も優しいものだった。
書き込んだ内容は一字一句間違いはない。全て書き終えて術式陣を完結させれば、あとは敷設された術式陣により蘇生が始まる。
地脈の力によって失われた肉体を取り戻させ、記述した魂の形のままに蘇生する。
ある学者は本当にそれは同一人物であるのかと言って、それを問題にしているらしいがミルカには関係のないことであった。
冒険の書はその人の人生だ。何を思い、どう思考し、何を経験したのか。
それが全て記述されている。それらすべてを一字一句間違えずに術式に記入したのであれば、それは紛れもなく同一人物だ。
ミルカはそう思っているし、探索者もそう思っている。
「ん……ん? うぇ、あ、あれ? 裸……あー、死んだのかー」
「おかえりなさい、アルル」
「あー、ミルカだ、おはよー」
「相変わらず能天気ね」
蘇生したばかりだというのに、ミルカの記憶の中にある通りに能天気ないつも通りの挨拶を告げてくるあたり、死んでも馬鹿は治らない。
「えへへーそうでもないよー。そんなに褒められると照れちゃうなぁ」
「褒めてないのだけれど……まあいいわ。いきなりで悪いのだけれど、貴女に言っておくことがあるわ」
「? なぁに?」
「貴女は死んだわ」
「うん、死んだみたいだね、覚えてないけど」
「それから数十年も経っているのよ」
「へー、数十年かー、え? えええええ!?」
飛び上がって驚くアルル。
それも当然だろう。彼女からすればこのセーブ屋でセーブしたのが最後の記憶だ。それで気が付けば数十年後となれば驚くのも当然のことである。
「具体的には五十年くらいね」
「五十年!? ミルカわっか!?」
おそらく変わらないね、凄い若い!? って言っているのだろう。相変わらず言葉が抜けているし、驚くところもズレていて抜けている。
「ええ、待ちくたびれたわ。おかえりなさい」
ずっと言いたかった言葉だった。
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