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第1章 職業って偉大
第8話 騎士団長vs執事
しおりを挟む「……何者だ?見たところ、あいつらと同じ勇者みたいだが?」
「まあ、あいつらと一緒に来たのは認めるけど、俺は勇者じゃないぞ」
俺の言葉に首を傾げる騎士団長殿。隣にいる副騎士団長殿は背中に背負っていた大剣を抜いて構えている。
「お前が行け。こんな素人、お前で事足りるだろ」
「そうですね、っと」
副騎士団長は大剣を引いて、体勢を低くして構える。あれは一気に駆け寄って大剣の遠心力を使った斬り込みをしようとして来ているな。
俺は刀を引いて左手を広げ、同じく体勢を低くする。スピードにはスピードで。それに、こっちの刀の方が軽いのでスピードはこっちが上だ。
「疾っ!」
「はっ!」
副騎士団長がある程度駆け寄ったところで身を剣に振り回されているようにぶん回す。予想よりも早くぶん回して来た。それに、速度も速い。
俺は思いっきり飛び跳ね、速度が落ちて来た辺りで左手を地面に着け、そのまま空中で前転をするように跳ぶ。俺の真下を剣が通っていくのを目で見た後、そのまま副騎士団長の頭に左手を着地させ、また跳んで着地した。
「……何だ?今のは?曲芸師でも出来ないぞ?」
騎士団長が後ろに着地した俺を少し足を下げて見てきた。俺は騎士団長へと向きを変え、刀を片手で軽く構える。
「どうします?副騎士団長様はもう戦闘は無理かと」
「は?何を言ってーー」
副騎士団長は俺を睨みながら歩き出したが、顔面から倒れる。何が起きたか分からず、顔だけ上げて睨んでくる副騎士団長に種明かしをしたのは騎士団長だ。
「お前は気づかなかったかもしれないが、首筋と足首に2本ずつ針が刺さっているぞ。恐らく麻痺系統の毒でも塗られているのだろう」
騎士団長の言葉を聞いて、更に見てきた副騎士団長に軽く頭を下げる。真剣勝負もしてやりたいところだが、今はこの場の収拾が最優先なんでね。
「で、結局どうなされますか?私はもちろん、相手をさせてもらいますが、貴方にも面子というものがあると思いますので、無様に部下の皆さんに悪態をかきたくは無いのでは」
俺の挑発的な発言に、青筋を浮かべながら腰に下げた剣を抜きながらこっちに歩み寄ってくる騎士団長。
「良いのか?今なら取り消してやるぞ」
「執事に取り消しなんてものはありません」
俺は刀を、騎士団長は立派な剣を持って立ち合う。……風が吹き、騎士団長の髪が視界に僅かに入った瞬間、俺は刀を投げる。
「なっ!?」
驚きつつも、その刀を剣で逸らしている騎士団長へと走り込み、右手に武器作成で新たに刀を作る。
「はあっ!」
俺は刀を中段に振った。それを後ろへ軽く飛び退いて躱し、着地した瞬間に剣を突き立てて跳んで来たので、身を右へ倒し、左手で通り過ぎた騎士団長の右手首を掴んで引っ張り、逆手に持った刀を背中に突き刺そうとするが、着ている鎧によって阻まれてしまう。突き刺す事は出来なかったので左手に道具作成で副騎士団長に刺したものと同じ毒針を作り出して軽く刺した後に手を離す。
離れざまに剣を下から振り上げてきたが、それを後ろへ飛び退いて躱した。
「……チッ、貴様何者だ?この私の『瞬斬』と呼ばれる突きを躱して尚且つ、毒針まで……。いや、この鎧が無かったら私は死んでいたぞ」
片膝をつき、右手首に刺さった毒針を抜きながら苦痛そうな顔で睨んでくる騎士団長。苦痛そうな顔は痛みによるものではなく、この一瞬の攻防で自分が完全に負けた事による自責のものだろう。俺の武器があまり強くなくて命拾いし、尚且つ手首を斬るのでは無く、毒針で確実に次の手を封じられたという事に。
「私の剣では貴方の鎧を貫く事は叶わないと思っていました。それに、毒針は最も今の状況にピッタリだと思います。さあ、貴方の口から『戦いは一時中断、中で示談とする』とだけ言ってもらえればこの場は丸く収まりますので」
俺は怒りを奥底に隠して、頭を下げた。本当は殺すとまではいかなくても、二度と大きな態度は出来ない程度に痛めつけようと思ったが、お嬢様にバレた時を考えるとそんなリスクは負えない。
「わ、分かった。私から言おう。なので、解毒薬をくれないか?」
そういえば毒針で動けなかったな。俺は道具作成で毒針に塗った毒の解毒薬を作り出し、騎士団長さんのところへーー
「おっと、その手には乗りませんよ」
剣をあの体勢から振るおうとしていた騎士団長の喉元に小さなナイフを後ろから突きつける。
「……何故解った?」
「貴方より場数を踏んでいるとだけ言っておきます」
俺はナイフを首元から離し、騎士団長さんから離れた。騎士団長さんは無言で立ち上がり、剣をなおした後に国王の下へ行き、跪いた。
「申し訳ありません。私どもでは彼を殺すどころか全滅してしまうと思います」
「……仕方ない、あんな化け物だとは思わなんだ。彼の実力は本物だ。彼は勿論、彼の仲間もこの城に置く事にする」
ちょっと失礼な事が聞こえた気もしたが、何とか上手くいったようだ。………あ!そういえばお粥を片付けてねぇ!!こんな騒動がお粥をお嬢様が食べ終わって寝ついた頃に起きたから忘れてた!!
「では、私はこれで。お嬢様のところに戻らねばならないので」
俺は国王とお姫様、騎士団長にそれぞれ頭を下げた後に、呆気を取られて動かないクラスメイト達の間を抜けてお嬢様の部屋へと向かった………。
「……はぁ、はぁ」
やけに身体が重い。そろそろ解除しないといけないな。
俺はお嬢様の部屋へと入り、スキルを解除した。急に身体に疲労感が押し寄せ、視界が歪むが、何とか持ち直す。
スキル一覧
・限界突破 (執事たる者、限界を超えて諸事を全うせよ)
戦闘中にこっそり創ったスキルで、普段の俺では勝てる筈も無いあの騎士団長たちを倒すにはどうしても必要だった。
使ってから暫くは身体能力や魔力が急上昇するが、ある程度時間が経つと徐々に降下していき、最終的には普段より弱くなってしまうので、あそこから早く立ち去った。
「……どうしたの?」
どうやら今までに無い疲労感の所為で注意が疎かになっていたようで、お嬢様が起きている事にも、俺を見つめている事にも今まで気づかなかった。
「いえ、何にも問題はありません。ただ、お粥の器を下げるのを忘れていたのを思い出して急いで帰ってきた次第です」
俺は何も起こっていない事を示すために、まだ少し歪む視界の中でも部屋を歩き、部屋にあった小さなサイドテーブルに置いておいたお粥の器とお盆を回収しようとしたが、その近くにあった窓が開きっぱなしだという事を忘れていた。
無言で窓を閉めてお盆を持ち上げる。お嬢様があの騒動の時に寝ていた事に賭けて、俺は軽く一礼した後、部屋を出た。
「……はぁ、俺とした事が初歩的なミスを」
自分がしてしまったつまらないミスに頭が痛くなる。
お嬢様が起きる可能性はもちろん、風邪や音が入ってこないように窓を閉めてから着地するべきだったし、俺が弱っているところも見られたかもしれない。
『良いですか、執事とは常にお嬢様の事を考えてあらゆる不安や外敵を退け、お嬢様が快適に過ごせるように影ながら支える存在なのですよ』
紅葉さんの言葉が頭にフラッシュバックする。俺が常日頃から気をつけている事だ。そして、俺が目指している生き様でもある。
「まだまだ一流の執事にはなれていないという事かな」
俺はお盆を携え、調理室を目指した………。
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