空のない世界(裏)

石田氏

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《第2幕》8章 鼠

01

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 ここはアメリカ。キャプラとさくらの招待で山吹と真紀は、宇宙エレベーター完成式に参加していた。
 宇宙エレベーターは、カーボンナノチューブの発見等で、今までSF上の話が現実化するのではないかと期待されたのが20世紀末だった。しかし、それから宇宙エレベーター開発の進展に大きな情報はなく、あっという間に時だけが過ぎていった。あれはただのあの時の期待だけで終わり、宇宙エレベーターなんて存在事態皆忘れていたか、興味を示さなかった。それが、更に投資にひびき、資金不足で実現化するのが更に難しくなる結果となった。
 しかし、それも今日遂にこの地で宇宙エレベーターはながらく完成に至った。完成に至った理由は、maximumや色ありの少女対策兵器の資金が急に浮いてしまったことと、地球資源不足にどの企業も宇宙開発に興味を持つようになったからだ。
 宇宙エレベーターはロケットとは違い、莫大な費用を抑えることができる。地上から宇宙エレベーターを通して宇宙ステーションに直接行ければ、そこからスペースシャトルで宇宙を旅することすら可能になるだろう。宇宙を更に身近に感じる時代がくるのかもしれない。
 現在、宇宙エレベーターはアメリカのここだけだが、いずれはあちこちの場所で宇宙エレベーターの開発がおこなわれるだろう。そうなれば、先進国は宇宙エレベーターを通じ資源確保をおこなえ、ながい不況から景気回復のひざしができる。故に、この宇宙エレベーターは企業他に各国も投資をおこなってきた。それは日本も例外ではなく、この場に集まる人達は投資者である。故に、日本代表として首相のキャプラは参加者の対象で、その参加者の連れ添いとして真紀達はこの場に一緒に参加していた。
 しかし、各国のお偉いさんや、各企業のお偉いさんが集まる中、ただの一般人である真紀達にとってこの場所は、いずらい環境だった。
「ふきちゃん、招待された時は凄く喜んだけど、やっぱり参加しなければよかったね」
「何今更言ってるの。それより、エレベーターの中まで乗り物酔いして吐かないでよね」
「エレベーターじゃ、酔わないでしょ」
「普通のエレベーターと違うからね。気圧の変化もあるし」
「あっ、ゴメン。やっぱ吐くかも」
「意味無いかもしれないけど、酔い薬飲んできな」
「うん、分かった」
「でも、あんたの体質変わってるよね。酔い薬飲んでも乗り物酔いするなんて」
「まぁね」
「それより、さくらさんにひっついてるあの子誰だろうね?」
「さぁ?でもさっき、あの子さくらさんのことお姉ちゃんって言ってたよ」
「さくささんに妹さんなんていたの?」
「いや、そんなはずないんだけど」
そうこう話をしていると、長い演説は終わり遂に実際に投資者に宇宙エレベーターに乗ってもらう体験が順番におこなわれた。
 司会者に番号で呼ばれた人から順にエレベーターに乗り込んでいった。エレベーターの中は当然定員数が決められていて、真紀達は順番待ちにしばらく待った。
 最初に乗り込んだのは各企業のお偉いさんだった。順番は各国の首脳達だと思うかもしれないが、それだとどの国の首脳が先になるかと順番にも、かなりの問題になりかねなかった。従ってシビアに投資金額順となるのだ。その結果、各国の投資より上回った企業や、投資家達が先になった。日本は、特に先進国の中でも投資が遅れているため、かなり最後の順となる。
「そう言えば、今回のエレベーターは物資調達用に作られていて、車もエレベーターに入れるんでしたっけ?」
「よく知ってるね山吹さん」
「ニュースとかにも出てましたが、一様自分なりにも予習してきました。なにせ、こんな体験はできませんから」
それを聞いてさくらは感心する。その横で同じく感心する真紀。ツッコミをいれなければならないのかと、山吹はため息を漏らす。
「山吹さんの言ったとおり、貨物用エレベーター同様の作りだから可能だよ。基本的に人も送れるけど、あくまでも観光用じゃないから宇宙産業に使われるのが主になると思う。多分人がこんなに乗るのは今回だけじゃないのかな」
「それって、もったいなくありませんか?せっかく宇宙エレベーターが出来たのに、人が乗らないんじゃ、身近に思えた宇宙がまた遠ざかっていく感じで」
「勿論、観光用も今後は考えられるでしょう。でも、テロとかが心配なアメリカや、いずれ自国にも開発にのり出す先進国もセキリティー面で中々うまくいかないのが現状だね。それは日本も同じで、宇宙産業の開発により新たな資源確保が可能になれば、発展途上の国はあまりいい気はしない。実際にやっと先進国に追いついてこれた発展途上国が、また先進国に先を越されれば、途上国の平均賃金含め経済成長や貧困問題の解決は先送りされてしまう。今の時代のテロも更に多様化し、自国の為に先進国にテロ行為を仕掛ける事件が目立っている。そのこともあるんだろうね。今回の宇宙エレベーターは物資調達のみのになっている。投資も観光用目的の利益ではなく、宇宙産業の投資のみとされているから間違いはないけど、確かに国民は残念がるでしょうね。せっかく税金で支払われた投資なのに、観光用に使われないのは。それが逆に国民の不満にならなければと、アメリカ大統領は思ってるんじゃないのかな」
「でも、思ってるだけじゃ国民は理解をしめしてくれないんじゃありませんか」
「あはは、山吹さんは厳しいね。野党に山吹さんがいたらと思うとひんやりするね」
「いえ、私に政治は・・・」
「向いてると思うよ、政治家。どう、出馬してみない?」
「いえ、そんな。それに、私には夢がありまして」
「夢?」
「私、弁護士を目指してるんです」
「え!?」
それには真紀も驚きだった。
「凄いじゃないですか!」
「ふきちゃん、弁護士目指してたの?」
「うん」
「でも、山吹さんなら弁護士、なれると思います」
「本当ですか!」
「政治家も法律のことは多少理解しなくてはならないの。今度、お兄ちゃ……キャプラ首相に教わったらどう?」
「いえ、それはさすがに・・・・首相もお忙しいですし」
「そう?」
そうこう話しているうちに順番がきたのか、係員に呼ばれ一行は誘導され、エレベーターの中へと乗り込んだ。
「なんだかワクワクしますね」
「まさに宇宙へこれから飛びたつんですからね」
二人はワイワイして興奮状態だった。その頃、他二人はというと、キャプラは他の政治家やトップと聞きなれない言葉で話をしていた。そして、真紀は二人のワイワイしている隅で、口元に手を当て、顔色を悪くしていた。
「何でエレベーター乗った瞬間酔うのかな・・・・ただのエレベーターだよ、エレベーターでは酔わないよ普通。・・・自分、しっかりしろ」
と、ぶつぶつ独り言をしていた。
「では、行きます!皆さん、カウントダウン御一緒にお願いします」
係員の合図でカウントダウンが始まる。

5…4…3…2…1…

0という数字を言ったのと同時に、グンッと上に引っ張られるように、エレベーターは最上位までもうスピードであがる。
「うっ、結構揺れますね」
「通常のエレベーターの速度より速いからね。せれでも、目的地まで少しはかかるよ」
「真紀ちゃんは大丈っ・・・・じゃないね」
山吹は、真紀が必死にこらえてるのがよく分かった。とにかく、この中で吐かないでいてくれることを願うしかなかった。
「そろそろ大気圏越えるよ」
頑丈なガラス性でできた窓から見えるその光景は、中々見ることのできないものだった。
「おおぉーー」
歓声が鳴り響く。
「真紀ちゃん、気をしっかり。もうすぐで着くよ」
山吹の言う通り、そこから短時間で目的地に到着した。

チンッ

到着した合図の音と共に、扉は開いた。
 ぞろぞろと降りる中、山吹達も一緒に降りる。
「ここ、無重力じゃないんですね。ちゃんと重力が感じられます」
「まぁね。ここの設備はどのフロアも同じようになってるの」
そう言いながらついた場所は展望フロアだった。そこから、宇宙の景色が一望できた。
「観光用目的じゃないのに展望フロアはあるんですね」
「あぁ、これは気晴らし用だよ。他にもここのどこかに娯楽フロアがあるはず。ずっと、宇宙にいた人へのケアとして、こういった施設もあるの」
「へぇ、勉強になります」
「ほら、ここからなら地球も見れるし」
そう言い、強化ガラスの先を指さした。
「本当だ。そっか、ここから故郷の地球をここで働く人は見るんですね」
さくらは頷く。
「なんか、暮らしている地球を外から見るなんて不思議な気分です」
「そうだね」
そう言いながら、暗闇と光る点々の不思議な世界を二人は色々と語り合っていた。と、その時ーー

ジリリリリリリリリリリリ

警報器が作動し、周りは一瞬何事かとざわめく。それでも、少し周りの様子はどこか落ち着いていた。
「何があったんですか?」
「多分、警報器の誤作動じゃないかな」
さくらはそう言った。皆がそう思っているらしい。理由を聞くと、首相や大統領、各官僚が集まる事態でトラブルは起きにくいとか。確かに、世界の官僚が集まる集会にこそテロを仕掛けるのはありそうな話である。しかし、ありそうな話はあり得る話ではないのだと。ありそうな話は、ドラマや映画だけで実際のセキリティー上、ここまでテロの手が乗り込むことは非現実的である。なにしろここは宇宙で、テロが宇宙まで追っかけて来たとは考えられない。
 次に設備トラブルの警報だが、これもセキリティー面でこの時だけは展望フロアしか使用されないことになっている。つまり、設備トラブルによる警報器作動要素はないことになる。つまり、結論として何も起きていない、警報器の誤差動と周りはあの一瞬で判断したのだ。
「ちょっとは安心した?」
「はい。確かに言われてみたらそうですよね。でも、じゃあ何でまだ警報器が鳴ってるんでしょうか」
そう。誤作動なら直ぐに対応し、警報器を止め、先程の警報は誤りであると係員によるアナウンスがおきているはずだ。しかし、それがない。そして、その疑問は言わずとも感染していった。
「どうして警報が鳴りやまない」
「係員、どうなってるんだ」
すると、とあるSPが自身の保護対象者、即ち大統領に耳打ちをする。
「なに!?」
大統領は先程まで見せなかった、険しい顔をつくる。
 恐らくどこからか手に入れた情報なのだろう。他のSPも次々に情報を得ていく。それを見た係員は最早情報規制が不可能になったと判断し、この事態の状況説明をする為、一人の男が皆の前に立つ。
「皆さん、ご存知の方もいらっしゃいますが、今鳴っている警報は誤作動ではありません。本来この場所、展望フロアまでトラブルの影響がないというのが当初の見解でした。しかしーー」
「まわりくどい!今の状況だけ話せ」
しびれをきかした官僚が声をあげた。代表する現責任者は面目なさそうな顔をした後、単刀直入に話した。
「今の状況はこの真下、つまり皆様が地上からエレベーターに乗られた場所がたった今、テロの襲撃にあいました」
周りはざわめく。男は更に話を進める。
「被害は甚大。警備についていた職員は撤退を余儀なくせざるおえなくなり、宇宙エレベーター地上ではテログループに事実上占拠されたかたちになります。
 ただ、宇宙エレベーターは頑丈なセキリティーによって、パスワードを知らなければエレベーターを動かすことは出来ません。その為、こちらまでテログループが迫ってくる心配はありません」
「何が心配ないだ。それは我々も同じだろう。このままでは地球に帰ることが出来ないということだろ」
「その点は時間の問題かと。既に軍に手配をしてもらっています。万が一に備え、あらかじめ近くに待機していた軍が出動している頃でしょう。しかし、皆様方に不安や恐怖を与えてしまったことに変わりはありません。お詫びを申し上げてもこのような失態が許されるとは思っておりません。しかし、アメリカを嫌いになってもらいたくありませんし、常にテロの脅威にさらされている危険な国だとも思わないで頂きたい。どうか、私の失態が招いたことだということだけでも、御承知願いたい。どうかこの事態をお許し下さい」
男は皆の前で深々土下座して、謝辞した。その後、アメリカ大統領自ら他国の首相や大統領に謝辞をおくる。
「アメリカを代表する大統領として、責任を持って皆様に被害が起きないことを保証する」
大統領も必死だった。これは外交問題になり得るからだ。アメリカ官僚も手分けして各国の関係見直しに向かう。
 しかし、どんな頑張ったところで今回のイメージは最悪となるのは間違いない。ただ、それがアメリカのイメージに直結させないことが、今できる最善だった。しかし、その努力は直ぐに消えた。
「おい、エレベーターが動いてるぞ!」
展望フロアにあるはずのエレベーターは下に、地上へと向かっていた。誰も乗っていないエレベーターが動いたということは、下の地上でエレベーターを操作したことになる。そして、その地上にいるのはテログループだった。この状況を意味することは、誰かが説明せずとも分かることだった。
「おい、セキリティーがどうのとか言っていたのは嘘なのか?まさか、テログループに占拠を許しただけではなく、セキリティーまで突破されたというのか。我々はこれにどれだけ投資したと思っているんだ。それが一瞬でテロの手にわたるほど安い投資だったとは思っていなかったのは私だけなのか」
最早、おさまらない事態で辺りがパニック状態となった。
「なんか大変なことに巻き込んじゃってゴメンね」
「さくらさん、謝らないで下さい。こっちは、こんな貴重な会に招待されただけでも文句言えないですよ」
「そう言ってくれるだけでも助かるよ」
「そんな、落ち込まないで下さいよ。なんとかなりますって。もしかすると、テログループを鎮圧したアメリカ軍がエレベーターを作動させたかもしれないじゃないですか」
「そうね、悪い方向に考えるのはやめるよ」
「そうですよ。こんな時こそ、楽しいこと考えるんですよ」
「あはは、それは今の状況的に無理かな。おかしな人だと思われたくないしね」
「そ、そうでした。こんな時に笑ってたりしたら変人扱いですよね」
「あはは、山吹さんは本当に面白いね。それより、真紀さんがいないけどどこいったのかしら?」
「あっ!本当だ」
やっと、真紀がいないことに気づいた山吹は辺りを見渡すが、姿は見えなかった。
「さすがにこんなパニック状態で探すのは大変かも」
「そうですね。本当、真紀ちゃんどこいったんだろ」




                                 +  +  +



 WCーーー

 真紀は宇宙にもトイレがあることに感謝し、便器に頭を下げ、そのまま色々吐き出す。
「♯★◆◆Ⅲ◎▽」
こんなに吐いていたら喉彦まで取れて、一緒に流されるんじゃないかと思うぐらい、気持ちよくなるまで吐き続けた。すると、

ジリリリリリリリリリリリ

鳴り響く警報に、真紀はゴクリと吐くのをとめる。
「な・・・なに?」
トイレの外からは、大人達のざわめき声が聞こえる。よく耳をたてて聞くと、テロがどうのという話し声が聞こえる。
 どうやらここは、襲撃されているらしい。・・・・ということが分かったので再び吐く姿勢をとる。と、その時

「きゃああぁぁぁーーー」

悲鳴。それに反応した真紀は正気を取り戻す。
「ふきちゃん!!」
直ぐ様、トイレを走り飛び出す。




                               +  +  +



「おい、このエレベーター今度は上に上がってないか」
その男が言う通り、エレベーターの扉の横にある電子板が、現在のエレベーターの所在を示す赤い点滅ランプが上へと向かっていた。
 エレベーターに階数はなく、地上かこの展望フロアを含む宇宙ステーションの行き来しか出来ない為、当然地上から上にあがっているのなら、次に着く場所は現在いる展望フロアとなる。そしてもし、そのエレベーターの中にテログループがいたとしたら、エレベーターの扉が開かれるのと同時に地獄の惨劇がおきることとなる。
「どうするんだよ」
「ねぇ、扉を開けさせない方法とかないの?」
「どういう意味だ」
「だから、扉が開かなきゃひとまず助かるわけじゃない。その後どうするか考えるとして、その前にまずは扉を壊すとかなんかして、とにかくこの中に入れなければいいんじゃないかしら」
すると、先程の現責任者が立ちあがった。
「マダム、そのようなことをしたら、私達はここに閉じ込められることになります」
「何よ、こんな状況に追い込まれた元凶が私に口だすってこと?いい、私はさっき言ったよね、このバカネズミ。そういうことは後で考えると。まずは助かってから脱出を考えるべきだと言ったのが分からないのかしら」
「マダム、落ち着いて下さい。エレベーターが故障すれば、完全に脱出は不可能です。本来は、エレベーター内に不信があれば、こちらから停止することは可能です。しかし、宇宙エレベーターのセキリティーを突破し、操作しているとなれば、こちらから止めても再び動き出すでしょう。
 このようなことになりながら申し上げにくいのですが、私なりの提案として無謀は重々承知のうえで言いますと、テログループをここで迎え撃つのはどうでしょうか」
「な、何を言っているのだ君」
「これは相手が予期せぬことだとは思いませんか?相手に不意討ちをつくならまさにそこしかないと思います。それに銃を持ったSPがいます。相手は地上の警備を乗り越えましたが、逃げ場のないエレベーターからのご登場なら、勝ち目はあると思います。それに、エレベーター内は頑丈ですから、銃撃戦になっても壊れる心配はありません。勿論私もSPの皆さんと一緒に戦います」
「君は正気なのか?」
「はい」
当然、反対意見も出たが、それ以上の策がないこと、そしてなにより、SP自身もその策に賛同した者が多かった点がきっかけで、迎え撃つこととなった。
 しかし、その時その場にいた全員は予期出来なかった。エレベーターの中にいるのがテログループでも、救助に来たアメリカ兵でも、人間でもないものが、その中にいたことを。
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